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三日目・夕方

要は、部屋へ帰って考え込んでいた。

彰は、圭一の投票先を指していた。確かに、圭一は初日真澄に入れ、そして昨日も真澄に入れている。だが、いくら占い師でも占っていない人に関しては、分からないのだから有り得ることだった。どうして彰は自分が噛まれないと判断したんだろう。今日、そう思ったと言っていた。今日、彰を占わずに文香を占ったからか。あれだけ、彰を占いたがっていたのに、誰も信じないと言っていた圭一が彰を信じて文香を占った。結果黒。

彰の思考の筋が分からない。狼が、彰を真占いだと思うなら、噛みたいと思っているはずなのに。彰は圭一を疑っているんだろう。それなのに、どうして彰が噛まれないんだ。どういうことだ…。

要は、頭を抱えた。どうしてわからないんだろう。彰には見えている。それとも、彰は人狼なのか。それとも、狂信者なのか。


結局、答えも出ないまま、夜の投票時間は来た。

入って行くと、シャッターが閉まって行くところだった。先に来ていた真司と博正が、もう座っていて軽く要に手を上げて挨拶する。彰がやって来て、席に着く。

そうやって、みんなが席に着いた時、真紀が言った。

「あの…文香さんが来てない。」

要は、モニターを見た。時間は、あと二分。

「誰か知らないか?」

みんな首を振る。

「朝のあれから、顔を見てないわ。」

亜希子が、ためらいがちに言った。要は、急いで腕輪を出して、そこから16と入れて、通信した。

呼び出し状態になっているが、応答する様子はなかった。

「…呼びに行くか?」

要は、モニターを見た。残り、30秒。

「時間がない。このまま、投票しよう。」

その言葉のすぐ後に、モニターから声が流れた。

「投票してください。」

要は、ここに居ない文香の番号を入れた。みんなが、今日は冷静に腕輪に向かっている。

「投票を受け付けました。」

あちこちから同じ声が聴こえる。そして、パッとモニターには大きく16の文字が出た。

「№16を追放します。」

照明も落ちて、いつもの状態だった。ガシャンという音がして、空の椅子は消えて行ったのだろう。また照明が着いた時には、そこには何も残っていなかった。

いつもなら、そこで次の日の説明が入るのだが、しばらくモニターが沈黙した後、パッとまた、今度は5分のカウントダウンが始まった。

「№16は、ルール違反で既に追放済みです。更に5分の延長をします。本日の投票先を入れてください。」

要は、目を丸くした。

「そんな…ここからまた誰か吊れっていうのか!」

声は、機械的に同じことを繰り返した。

「№16は、ルール違反で既に追放済みです。5分以内に次の投票先を入力してください。」

彰が、険しい顔で要を見た。

「入れるしかない。」

要は、ストンとまた椅子へ座った。今日は、文香で他は明日考えるんだと思っていた。今、この数分間で考えないといけないのか。

狼の票に負けるわけには行かない。

要は、言った。

「もう、こうなったら仕方がない。みんな、自分が怪しいと思うところへ入れてくれ。吊られてもそれを遺言として必ず読み取って勝つから。それぞれ、自分の意思で投票して欲しい。」

皆の顔が、不安そうに歪んだ。彰は、さっさと投票している。真司と博正も、そう悩むこともなく投票を終えた。要は、昼間に散々考えたことを思い出した。

誰を怪しんだらいい。

要は、思い切って投票した。みんなも、これ以上にないほど真剣な顔で投票している。

「投票が完了しました。」

モニターが言った。そして、そこには数字と矢印が並んで現れた。

1→6

2→5

3→5

4→6

5→6

6→5

8→5

9→11

10→17

11→17

14→6

17→5

18→11

19→11

画面に、大きく「5」と表示された。留美子が、叫んだ。

「そんな!おかしいわよ、どうして私なのよ!」

留美子が、立ち上がって急いで椅子から離れようとした。すると、パッと照明が落ちた。その暗がりの中で、ガシャンという音と共に女声が無表情な声で言う。

「№5が追放されます。」

「ああああああ!!」

留美子の、声が聴こえる。

だがそれは、これまでの追放の時とは違う、かなり速い速度で遠ざかっているようだった。ドス、という嫌な音と共に、また何かが閉じるような金属音がして、照明がパッと着いた。亜希子が、怯え切った顔で椅子に座っていた。

「今…なんだか変な音がしなかった?」

誰かが答えるより先に、モニターが言った。

「№5は追放されました。」そして、前とは違うことを言った。「皆様にご注意を。投票時椅子から立ち上がられますと大変に危険です。投票が完了し、追放が終了するまでは、椅子から離れないようにお願い致します。それでは、また明日の投票時にお会いしましょう。」

そして、ブツ、と声は途切れた。真紀が、顔を青ざめさせて言った。

「それって…もしかして、留美子さんに何かあったってこと…?」

「何かあるもクソも、ここから連れ去れるんだからどうなってんのかわからないじゃないか。」博正が吐き捨てるように言った。「だが、余計な傷を負わないためにも、勝手なことはしない方がいいようだ。」

皆、これ以上はないほど暗い表情をしていた。投票先が出ている…。要は、もはや事務的にそれを書き記しながら、ハッとした。

そうだ、文香…。

「文香さんは?」

真司が、それを聞いて口の端を歪めて言った。

「ルール違反ってことは、最初の二人と同じ状態じゃないのか。恐らく部屋で、死んでるんだと思うぞ。」

「確認しなきゃ。」要は、立ち上がって博正にノートを渡した。「ごめん、書いておいてくれる?」

博正は、頷いた。

「ああ。お前、無理するな。何も共有だからって全部自分でする必要はないんだ。文香だってわかっててやったと思うぞ。ここでみんなに投票されて吊るし上げられるのに、耐えられなかったんだろうよ。」

要は、頷いた。

「分かってる。でも、ちゃんと見ておかないと。」

「ついて行こう。」

彰が、立ち上がった。すると、それにつられて啓太も、真司も立ち上がってついて行く。

そうして、三人は16の部屋へと向かった。


そこは、他のどの部屋とも、変わらない場所だった。

文香は、ベッドの上で仰向けに倒れ、目を開いて天井を見上げている状態だった。

しかし、その瞳がもはや何も映していないのは、誰の目にも明らかだった。彰が、その首に手をやって脈を確かめ、ため息をついた。

「覚悟の上だったか。というか、ここで横になっていたら急に死んだって感じだな。」

啓太が、それを見て横からシーツを巻き付けて見えなくしながら、言った。

「死んだことすら気付いてないんじゃないか。オレはこんなのは嫌だ。今日の留美子はもっと最悪だ。あんな風に、恐怖に駆られて真っ暗な中自分がどうなってるのか分からないなんて、嫌じゃないか。自分が死ぬ瞬間ぐらい、どうなって、何のために死ぬのか知ってから死にたい。こんな、死んだことすらわからないなんて…。」

彰は、片方の眉を上げて啓太を振り返った。

「…恐怖の瞬間が目の前に迫って来て、それに殺されるのを感じながら死にたいのか?例えば、人狼の襲撃を受けたりしたら?」

啓太は、彰を見た。

「抗いたい。自分は生きたいんだ、なのにお前らはオレを殺すんだって思い知らせて死にたい。それに、勝てるかもしれないだろう。ゲームの中なら有無を言わさず死ぬ決まりだろうが、これはガチなんだ。オレは人狼が来たら、徹底的に戦うよ。ま、まだ人狼の襲撃ってのが、どんなものなのか分からないんだがな。」

彰は、考え込むような顔をした。要は、啓太を手伝って文香をシーツでくるみ、彰も共に、その部屋を後にした。文香は、やはり人狼だったのだろう。だからこそ、反論も出来ずに吊られるしかなく、弁明も出来ずに部屋へと籠った。だが、そのせいで犠牲が一人増えた。これで、今夜一人減ったとして縄は5。自分が明日生きているのかもわからない。

要は、急いで食堂へと引き返した。やっぱり、今まで伏せていたこともノートに書いておかなければ。あのノートには、人目に触れることもあるだろうと、狩人のことなど書かずに部屋のメモに書いてあるだけだ。このままでは、自分が死んで真紀に大きな負担になる。信頼できる人を見極めて、その人に全てを託すことを考えなければいけない。

要はそう決意していた。

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