二日目・朝2
圭一は、自分の考察を書きとめてあるのか、黒い手帳を手に、立っていた。その圭一の後ろには、雅江も遠慮がちに立っている。彰は、頷いた。
「ああ、座ったらいい。それで、圭一は明日、誰を占いたいと思ってる。」
圭一は、言われるままに側の椅子を引き寄せて座った。
「オレは、占い師同士を相互に占うべきだと思っている。」
雅江が、驚いたような顔をする。彰は、意外だ、という風に片眉を上げた。
「…だったら、私はもう君を占ってるから雅江さんを占うことになるぞ。必然的に雅江さんは君を、君は私になるがそれでもいいのか。まあ私は雅江さんを占うつもりだったから構わないがね。」
圭一は、頷いた。
「構わない。君と雅江の真贋を、早く付けたいんだ。どっちを信じていいのか分からないじゃないか。見ていると、君は占い師なのにとても積極的だ。オレは目立つと狼に狙われると思って発言を控えてるのに、君はガンガン怪しいと思う所を攻めて行く。吊られても噛まれてもいい狂信者かとも思ったが、村のために捨て身で動いているようにも見える。個人的に雅江は信じたいが、どう見ても君か雅江が真だとしたら、君が真占い師だとオレの頭は言ってるんだ。それでも、狐だって狼を吊りたいだろう。だから、狐の可能性も追ってる。だったら、占ったらいいだけだと思ったんだ。」
彰は、面白そうに圭一を見た。
「ふーん…今の話を聞くところによると、君は真占い師の視点だな。もっとも、それが計算ずくならお手上げだが、君はそこまで頭の回転は速くないし度胸もない。」圭一は、ムッとしたような顔をした。彰は、笑った。「褒めたのだ。平凡でもそれなりに見て考えているんだなと思ってな。」
圭一は、むきになって彰に身を乗り出した。
「オレだって!お前達みたいに頭は切れないかもしれないが、一生懸命この事態を何とかしなきゃと考えてるんだ!平凡でも、やる時はやるんだぞ!」
彰は、真面目な顔をして頷いた。
「ああ、私も学んだよ。」と、立ったままだったのを側のソファに腰掛けた。「ところで要、君は昨日、狼は誰を噛んだと思ってる?」
要は、急に話を振られて、ハッと我に返ってノートを見た。
「彰さんかオレか、狐の誰かでしょう。」
「それは状況を見てだろう。君が狼なら、誰を噛んだ?」
彰が言うのに、要はじっと考えた。もし狼なら、誰を噛んだだろう。霊能者は昨日の彰とのゴタゴタで噛むとややこしい。だからと言って、共有と占い師には護衛が入っている可能性がある。真占い師は誰か、まだ分からないとしたら、誰を噛む?
「…彰さんのことは、噛もうと思いません。発言が強いしあれだけ村っぽく目立つと、護衛が入る可能性がある。圭一さんが真っぽいと思うから噛みたいけど、こっちにも護衛が入るかもしれない。でも占われたら面倒だし、占い指定されてたりしたらその占い師を噛みたいと思うかな。」
彰は、頷いた。
「私もそう思う。占い指定されていたら、次の日黒出しされる可能性が高いから、チャンスに賭けて噛んでみるかとね。だが、確実に守られていそうだったら、縄を増やすリスクを負いたくないから、私なら真占い師の真目を下げる行動をする。明らかに守られてい無さそうな占い師を噛む。」
要は、ぽんと膝を叩いた。
「そうか!占い師の誰かが噛まれたら、狼からは真がわかったから噛んだって事になって、残りの占い師の真目が下がるんだ!」
彰は、頷いた。
「そういう事だ。もちろん私の推測で、私ならそうすると思っただけだ。どうしても占い師を噛みたかったってことは、昨日の占い指定の中に狼が居たんじゃないかとも思っている。だが、問題は噛まれたのはどの占い師だったかってことだ。」
圭一が、困惑した顔をした。
「それは…彰だろう。オレには護衛が入っていなかった。今日は犠牲が無かったんだから。」
言ってから、ハッとして圭一は雅江を見た。それを見て、彰が頷いた。
「雅江さんだよ。私なら噛む。一番護衛されてなさそうな位置、噛めば他の占い師の真贋がはっきりしなくなる位置。村を混乱させられる。私は護衛位置を聞いた時から、そう思っていた。間違っていたら申し訳ないが、私の中では君は狐だよ、雅江さん。」
雅江は、首を振った。
「勝手な推測です!私は狐なんかじゃない。あなたが狐なんじゃないんですか。だから、占われたくないからそんなことを言ってはぐらかそうとして!」
彰は、首を振った。
「別に占われてもいいですよ。真目が高い圭一さんでも、君でも占ってくれたらいい。私は溶けない。本当は今夜私が君を占って、呪殺を出したかったが圭一に譲ってもいい。私は別の狐を探す。」
圭一は、険しい顔をした。要が、息をついた。
「…あくまで、これはオレや彰さんが人狼だった場合考えるだろうことで、確実じゃありません。やっぱり彰さんを噛んだのかもしれないし、グレーから狩人狙いで噛んだのが、たまたま狐だった可能性もありますから。でも、可能性は追ってます。」
圭一は、頷いた。
「では、やっぱり占い師を相互占いさせて欲しい。彰に雅江を、オレは彰を占う。そうしたら、雅江の主張と彰の主張がどっちが正しかったのか明日の朝分かる。彰が狐ならオレは絶対に溶かせるし、雅江が狐なら溶けて彰は真占いだと主張することが出来るだろう。」
雅江は、圭一に抗議した。
「あなたは、この傲慢な人が言うことを信じるっていうの?!そんなことをしても、占いの無駄じゃないの!一刻も早くグレーを無くして黒をあぶり出さなきゃならないのに!」
圭一は、冷たく雅江を見た。
「言っただろう、オレはお前も疑ってると。指定占いさせられていたから、占えなかっただけだ。本当なら、昨日にでも占っていた。これで溶けなかったら、オレがもう一度占って、それから信じるさ。」
雅江は、ブルブルと震えた。そして、立ち上がって叫んだ。
「あなたはいつもそうよ!一緒に暮らしてるのに、何も信じてない!お金だって何に使っただの、外出したらどこへ行っていただの、納得するまで説明しろ説明しろって!私が馬鹿だったわ、あなたなんかとやり直せるはずも話し合えるはずもないのよ!」
そう言い捨てると、雅江はそこを飛び出して行った。こちらの話に加わっていなかった者達も、びっくりしたようにこちらを見ている。
彰が、さして興味も無さげに言った。
「…良いのか?追っても誰も責めないと思うが。」
圭一は、少しショックを受けたように顔を歪めていたが、首を振った。
「いい。元々うまく行っていなかったんだ。今回のことも、あいつが話があるとか言うから来ただけで。結局、こんなことになってしまった。オレは誰も信じられない。それを変えることも出来ないし、変えようとも思わない。それで、傷つかずに済む。」
要は、黙った。真司も、博正も茶々を入れることもなく、ただ黙って聞いている。
彰が、どうでもいいというように言った。
「回りは傷だらけだがな。だがそれが分かっても、譲れないものがある。そういう生き方を決めたなら、いいんじゃないか?」
彰は、そう言ってカップを手に立ち上がった。
「ではな。私は自分の意見は言ったぞ。後は要が決めることだ。」
彰は、そこを離れて行った。
要は、じっと考えた。共有者が透ける。グレーを吊る他に、やることといったら恐らく昨日の投票先を洗うことだ。
ふと見ると、圭一が一生懸命何かを手にある黒い手帳に書いていた。みんなボールペンを使ったりするものだが、圭一は鉛筆を使っている。要は、好奇心から言った。
「圭一さんは、ペンじゃなくて鉛筆を使うんですね。」
圭一は、ハッとしたように顔を上げると、軽く笑った。
「ああ。ペンは、水に浸かったりしたら流れて滲んだり消えてしまうだろう。だから、大切なことはこうして鉛筆で書いておくんだ。どうしても残したいなら、後からペンでどこかへ書き写したらいいしね。」
要は、感心した。水に浸かる事態なんか、そんなに頻繁に起こることでもない。それでも、圭一はこうしてそんなことにも備えてるのだ。
「さて、じゃあオレもちょっと、今のことを合わせて考えて来ます。共有の相方にも相談しないと。情報も共有しておかないと、オレが居なくなったらマズいからね。」
要はそういうと、真紀に今話し合ったことを話すために部屋へと戻って行った。




