二日目・朝
要は、夜中まで起きていたが、外から物音が聴こえることは一切なかった。
なかなか寝付けなくて、ベッドの上でノートを見つめていたのだが、いつの間にか寝てしまったらしい。
朝、カチリと鍵が開く音で、ハッと目が覚めた。
ガバッと起き上がった要は、そのままのジャージ姿で慌てて廊下へと走り出た。すると、何人かが出て来て同じように回りを見ている。要は、目に着いた真司へと駆け寄って行った。
「真司さん!あの、襲撃は?」
真司は、首を振った。
「わからない。まだ出て来てないのは何人だ。」
いつの間にか、わらわらと回りに人が集まって来ている。彰が、出て来て叫んだ。
「多すぎるんだよ、点呼を取るぞ!番号!1!」
「2。」
賢治の声が言う。
「3!」
圭一が起き抜けのぼさぼさの髪のまま向こうから叫ぶ。
「4。」
真司が横で言った。
そうやって順々に、12と13、20が抜けた状態で番号を読み上げた後、彰が言った。
「…誰も欠けてないな。」
博正が、ホッとしたように脇で言った。
「襲撃に失敗したんだな。」」と、伸びをした。「あーあ、とにかくオレは着替えて来る。ホッとしたら気が抜けたよ。じゃあな。」
みんな、その声につられてぞろぞろと部屋へと戻って行こうとする。要は、急いで言った。
「あの!食堂で8時から夜行動の報告会合しますから、それまでに食事を済ませて来てください!」
みんな、頷いたり手を振ったりして分かったと合図して、部屋へと戻って行く。要は、息をついた。襲撃は失敗した…人狼は、誰を襲撃したんだろう。彰さんか?オレか?それとも、狐を噛んだのか?
食事を済ませておけと言ったのに、博正はまだ出て来たばかりで手にペットボトルのコーヒーと、菓子パンを持ってソファに座っていた。どうやら眠気に弱いらしく、まだ眠そうだ。確かに、二日連続でこんな中で過ごしているのだから、よく眠れなくてもおかしくはない。他にも、だるそうにしている人達が多かった。
そんな中、いつ寝ているんだろうと言うほどすっきりとした顔の彰が言った。
「じゃあ占い結果だろう。私は、昨日言われた二人から、芽衣ちゃんを占った。芽衣ちゃんは、人狼ではない。白だ。」
要は、頷いて、今日は自分でメモりながら言った。
「じゃあ、圭一さんはどうでしょうか。」
圭一は、幾分やつれた様子だったが、しっかりした声で言った。
「オレは啓太くんを占った。結構発言が無いし人外だったら怖いと思ったんだ。でも結果は白だった。」
要はそれをメモしながら頷いた。
「次、雅江さんは。」
雅江は、言った。
「私は、昨日おかしい発言でみんなに注目された、昭弘さんを占いました。」要がノートから顔を上げると、雅江は言った。「昭弘さんは、白でした。」
要は、頷いた。
「はい。」そして、記入を終えて、顔を上げた。「霊能者、どうぞ。自分が霊能者だと言う人は、一斉に結果を白か黒で言ってください。行きますよ、せーのっ。」
「「黒。」」
二人の声が聴こえた。男女だ。二人共、同じことを言っている。
昨日出ていた、賢治がキョロキョロと声の出所を探した。
「今の誰だ?」
すると、まるでジャージに溺れるような形で座っていた小さな芽衣が、そっと手を上げた。
「あの、私です。私、霊能者…。昨日、部屋のモニターに、結果が出て来ました。13番は、人狼です、と。」
賢治が、何度も頷いた。
「そうだ!」と、賢治は要を見た。仲間を見つけて嬉しいのか、目がキラキラしている。「そうなんだよ、結果はそうやって出て来るんだ。昨日、全く同じものをオレは見た。だから、彼女は真霊能者だ。」
それを聞いた田畑が、驚愕の顔で芽衣を見ている。隣りに座っている、真紀が言った。
「芽衣ちゃん、本当に…?あの、裕則さんが、狼だったの?」
芽衣は、頷いた。
「そうなの。裕則さんは、私にも優しかったし、普通に笑っていたから、人狼だなんて思わなかった。でも、裕則さんは狼だったの…昨日、モニターに大きく出たから、間違いないわ。」
要は、ホッとしたような顔をした。
「仮に役欠けがあって一人が人外だとしても、どちらも同じ結果を出しているということは、裕則さんは黒確定です。だから、裕則さんは人狼だった。村人を吊らずに済んだ…良かったです。」
要が、心底ほっとしたような顔をする。彰が、それを見てから言った。
「言った通り、カード配布はランダムだったじゃないか。元がいい子だとかそんなことは関係ない。すぐ隣に座っている人が、人狼や狐の可能性があるんだ。昨日は襲撃に失敗していたが、それでも人狼がどんな風に襲撃するのか分からない以上、安穏とこれまでの付き合いに甘んじて村人などに投票していたら、自分の命が無くなるぞ。特に田畑、君が人情に厚いのは知ってるが、ここではそれは通用しない。人狼だって必死だ。勝たなければどうなるのか分からないんだからな。生き残りたいなら、仲良しごっこはやめて、自分の頭で考えて生き残る方法を考えろ。」
田畑は、もはやガックリと下を向いている。さっきまで、裕則を吊ったみんなを避けて横を向いていた田畑が、今は打ちのめされて完全に沈み込んでしまっていた。
要は、それから目を反らして手元のノートへと視線を落とした。
「それから、昨日の護衛位置を言います。狩人1は彰さんを、狩人2はオレを守っていました。なので、昨日の襲撃はこの二人のうちの一人か、もしくは狐噛みかと思われます。」
彰は、要を見た。
「狩人は、二人COしてるのか。」
要は、頷いた。
「どちらが真かはまだわかりません。このまま伏せておきますが、噛み先などを見て疑いが強まった場合は皆さんに公表して吊の提案をしたいと思います。ただ、今はこのまま公表しません。護衛先を知らせるだけです。」
皆が顔を見合わせる。誰が狩人なのかと思っているのかもしれないが、今はそれを公表するわけには行かなかった。
そして、要は手元の紙を見下ろした。昨日、真紀と話したこと。今日雅江が真紀を占わずに昭弘を占ったら、真紀はグレーの中に残される。思った通り、雅江は真紀ではなく昭弘を占った。もうグレーも狭くなるので、その中から指定で吊って、残った人を占う形にするのがいいと話し合ったのだが、そうなると真紀は、吊り対象になるのだ。
だから、もう共有COした方がいいのかと言ったのだが、真紀は吊り対象になることを選んだ。このメンツなら、吊られない、頑張って残ってみせると真紀は言うが、要は、心が重かった。最後まで、冷や冷やしなければならないのは、正直もうカンベンして欲しかったのだ。
だからと言って、真紀だけを避けたらまるわかりになる。要はやっぱりもう一度話し合おうと、吊り指定のことは後に残して置くことにした。
「ご報告は、以上です。後は、皆さんの心の余裕があったらまた集まってもいいし、そうでなかったら、各々で話し合って、夕方の5時の議論に備えてください。何かご相談あれば、腕輪に通信してくれても、直接話してくれても構いません。では、また。」
皆が、思い思いの方向へと話ながら歩いて行く。要は、そのままそこに座って、じっと考えていた。ふと見ると、沈み込んでいる田畑に、亜希子と文香が話しかけている。田畑は軽く手を上げてそれに応え、またソファに沈み込んだ。あちらも、考えることがあるのだろう。誰が人狼か分からない、一番人狼であってほしくなかった人が人狼だったのだから、まだ立ち直るまで時間は掛かりそうだ。
真司が、寄って来て言った。
「襲撃は失敗していたが、狼にはさっきの情報でそれが護衛成功か狐噛みか分かったはずだぞ。護衛成功だとしたら、彰か。」
要は、頷いた。
「オレもそう思った。オレのことを噛むと思って、狩人はオレを守ると考えるだろう。だから、占いはノーガードと見て彰さんを噛んだんじゃないかって。でも、彰さんは守られた。でも…そうなると、もう一方の狩人が破綻だからな。当の狩人2の方は、全く慌てた様子はなかったし、恐らく狐噛みかな。狼が狐を一匹把握したなら、吊誘導してくれたらいいんだけど。難しいか。」
真司は、首を傾げた。
「グレーを噛んだならあるかもしれないが、役職の中に居たんだとしたらそれは難しいだろうな。いずれにしても、気をつけて見ておくがね。」
博正が、最後のパンを飲み込んでこちらへ身を乗り出した。
「吊対象はどうするんだ。グレーはまだ残ってるだろう。早いとこ呪殺を出すなり黒を出すなりしてもらわないと、吊縄は増えたがどうにもならない。占い師の見極めがまだ残ってるしな。」
要は、頷いて博正を見た。
「もう一人の共有者と話し合って、残ったグレーを吊り対象にしてその中から、吊られなかった人を占うことにしようとしたんだけど…」
「それだと共有者が透ける。」彰が、向こうからコーヒーを手に歩いて来て言った。「そろそろ限界だろう。私が見ているに、まだ共有者は占われていないように思う。」
要は、彰を見た。彰からは、そんなことまで分かるのか。
「…はい。彰さん、早く呪殺を出してください。オレの指定が悪いのかもしれないけど、あなたが味方ならどんなに心強いか。」
彰は、苦笑した。
「まあ私視点では味方なんだが、言うのは簡単だからな。じゃあ今回は私に今回の占い先を指定させてくれないか。もちろん、自分の占う分だけでいい。」
要は頷きながら、彰を見上げた。
「グレーの中からですか。」
彰は、首を傾げた。
「どうだかな。確かにグレーはなくした方がいいが、もう狐か狼を引いておかないと占い師の真が見極められないだろう。今、君が言った通りだ。今朝の犠牲者無しで縄は増えて8縄、人外は狂信者を覗いて5人。黒を出して吊って霊能者に見極めさせるにも、あいつらが生きてる間でないといけないしな。狼は、占い師を二人とも生かしてはおかないぞ。そろそろ限界が来てるから、噛んで来るはずだ。もしかしたら、昨日噛んでるかもしれないと思ってるぐらいだ。」
そこに、脇から声が聴こえた。
「オレも、話に入れてくれないか。」
そこに立っていたのは、圭一だった。




