一日目・夜
その日の夜は、田畑が何も言わずに部屋へ引きこもってしまったので、皆それぞれに冷蔵庫の中にある物を出して来て、好き勝手に食事をした。
一番信用していたらしい部下を亡くしたことで、そのショックも大変なものなのだろう。
それでも、要は黙々と自分のノートに書かれた投票先を見て、食事をしていた。
博正が、気になって声を掛けた。
「要?お前根詰めるなよ。明日だってあるんだ、いちいち気にしてたら務まらないぞ。そもそもお前だけじゃあ、誰かを吊ることなんて出来ないんだからさ。あれを決めたのは、村人みんなだ。」
要は、顔を上げた。
「分かってるよ。あの五人に決めたのは、オレだけどね。それより、見て、博正さん。」
博正は、要の前へと座った。
「うん?投票先か。」
要は、頷いた。
「そう。これを見るだけでも、とてもよく関係性が見えるよ。」
1彰→13裕則
2賢治→16文香
3圭一→15真澄
4真司→13裕則
5留美子→15真澄
6倫子→13裕則
7雅江→13裕則
8博正→13裕則
9芽衣→5留美子
10昭弘→15真澄
11亜希子→5留美子
13裕則→5留美子
14要→13裕則
15真澄→5留美子
16文香→5留美子
17真紀→13裕則
18啓太→15真澄
19田畑→5留美子
要のノートには、わざわざ名前が書かれてあった。博正は、頷いた。
「スタッフの奴らは、自分の仲間には入れてないな。当然と言ったら当然なのかもしれないが、留美子さんが人外じゃなかったら大変だ。あいつら、みんな仲間以外にしか入れないから。」
要は、頷いた。
「危なかった。これから、指定にも気を付けないといけないと思ったよ。でも、明日もしも裕則さんが人狼だと霊能者が判定したら、この考えは変わるだろうけどね。」
食後のコーヒーを手にした、彰が寄って来て言った。
「あいつが人狼だったら、他にもいろいろわかるさ。」と、彰は博正の横へと座った。「こうして見ると、裕則に入れてない人の中で占ってない奴らが絞られる。この中から順に占って行けば、人狼は分かる。」
要は、顔を上げて頷いた。
「そうですね。でも、身内切りはしてないでしょうか。」
彰は、要のノートを見てうーんと唸った。
「事故でそうなった可能性はあるな。初日から人狼を吊られたら人狼陣営にとって不利この上ないから、ここで身内切りはしたくないはずなんだ。ここで一票入れておいて後で自分が生き残る材料にしようとした人狼が、もしかしたら混じってるかもしれないが、決定票だからとどめを刺してしまったということになるな。見ろ、二番目に多い得票数の留美子さんは、6票入ってる。裕則が7票だから、その一票で裕則は吊られなかっただろう。」と、フッと肩の力を抜いた。「ま、あくまで裕則が人狼だったらの話だ。村人だったら、面倒なことになるかもしれんな。今後、あのスタッフ達の一団は、絶対自分達の中から吊らないだろうからだ。黒を打つのも、二人掛かりで打ってやっと吊れるとか面倒なことになるような気がする。狼があの中に居たら、そこからは絶対噛まないだろうしな。最終的にはみんな噛まなきゃならんのに、狼も酷なことをと思うがね。」
要は、じっと考えた。確かに、彰の言う通りなのだ。もしも裕則が人狼でなかったら、あのスタッフ達は、絶対に自分達の仲間をこれ以上吊らせないだろう。そうなると、狼も心得ているからそこから噛まない。今はスタッフよりそうでない人数の方が多いから、こうして吊ることも出来たが、今後数が減って来ると、こちらの意見が通らなくなって来る可能性がある。
要は、顔を上げた。
「…明日からは、スタッフを重点的に占うようにしましょう。確定白が居れば、こちらも安心していられるから。あの中の黒は、今のうちに消して置かないと。」
彰は、頷いた。
「それがいいな。今夜は、今日の指定の二人のうち一人でいいか?」
要は、頷いた。
「はい。動かしたら、呪殺が出た時ややこしい事になる。」
博正が、ため息をついた。
「人狼やってるのに別のもんとも戦わなきゃならないなんてな。ま、人狼ってのは信頼を勝ち取るゲームでもあるし。彰が真占いなら、せいぜい頑張ってもらうしかない。」
彰は、ふふんと笑った。
「私としては呪殺したい。だが狐がわからん。完全潜伏してるだろう。」
要は、そうだ、と彰を見た。
「そう言えば彰さん、対抗はどう見てますか?」
彰は、椅子の背にそっくり返って言った。
「圭一は真か狂信者だが、恐らく真だろうな。私は雅江の方を疑っている。出方が不自然だ。わざわざ対抗占いの夫と話してから出るってどういう考え方をしたらそうなるのか見当もつかない。今日指定されていなかったら、恐らく占っただろうな。」
要が、驚いたような顔をした。
「え、占い師同士の相互占いですか?」
彰は、苦笑した。
「あくまで私目線だ。圭一は白が出ていて生きているから狼も狐もない。だが雅江が分からない。白が出たら真か狂信者だが、私の中では狂信者寄り、死んだらラッキー、黒なら人狼だからな。占われたくない狐が占いに出たって話も無いわけじゃない。」
要は、ハッとした。
「そういえば…雅江さんが出たのって、圭一さんに信用してないって言われた後でしたよね。信用されてないってことは、身内だし真っ先に占われる可能性もあるわけで、何回かは逃れても、遅かれ早かれ絶対占われる位置だし…。」
要の頭に、真紀の声が蘇って来た。
『カード見た後、左側を見たの。』
もしかして、人狼か狐…?
博正が、肩をすくめた。
「明日から、忙しくなりそうだな。狐は厄介だから、占い師に頑張ってもらわないとよ。」
要は、頷きながらもまだ考えていた。雅江さんは、もし占い師でなかったら、なんだろう。狐だろうか。人狼だろうか。だがしかし、今目の前に居る彰さんだって、もしかしたら人狼か狐陣営かもしれないのに。
頭の中はいろんな考えが渦巻いて、今夜は眠れそうになかった。
9時を過ぎて、いつも通り真紀から通信があるかと思ったら、別の番号から通信があった。要は、その番号に覚えがあった。
「もしもし?」
要が出ると、相手は言った。
『今夜は誰を守ったらいいと思う?』
狩人だ。要は、言った。
「本当は自分で決めて欲しいんですけど、オレとしては、彰さんか圭一さんですね。霊能はまだ一人居ると思う…まあ役欠けもあり得るんですけど、でもあんなことがあったから、噛むことはないと思うんです。でも、彰さんはあんな風に強く出ているし、噛まれないとも限らない。」
相手は、フーンと言った。
『自分と守ってくれとは?』
要は、首を振った。
「オレは、替えが利くから。共有は二人居るんです。占い師は二人居るとは言っても、役欠けを考えたら絶対に残って欲しい役職なんで。」
相手は少し考えた後、言った。
『じゃあ、彰さんを守る。』
要は、頷いた。
「よろしくお願いします。」
通信は、切れた。要がため息をついて考えていると、また腕輪が鳴った。今度こそと思って腕輪を見ると、また別の番号だった。
「もしもし?」
相手は、言った。
『通話中だったな。それで、どこを守る?』
要は、ため息をついた。
「出来たら自分で決めて欲しいんです。でも、そうだな、オレを守ってもらっていいでしょうか。占いは狐対策で噛まれないだろうし、今日は共有が危ないでしょうから。」
相手の声は、答えた。
『分かった。』
そうして、通信は切れた。要は、じっと切れた腕輪を見つめた。これで、オレを噛むことはないはずだ。でも、オレの勘が外れていたら…明日は、どうなるんだろう。
要は、自分から真紀に通信した。明日、どちらの狩人がどちらを守ったのか、知らせておくために。




