プロローグ
「なんでお前まで来るんだよ。聞いてない。」
20代になったばかりだろうか。若い男が、日本人離れしたキリリと引き締まった顔の年齢がよくわからない男に向かって言った。相手は、どう笑っても冷たく見えるその顔を明るく見せて、微笑んだ。
「君達ばかりずるいじゃないか。私にだってちょっとしたクルーズを楽しむ権利はある。まあ、楽しみは他にあるがね。」
まだ10代に見える女が、青い顔をして言った。
「でも…あの子達まで巻き込むなんて、聞いていないわ!どうして、こんなことを…。」
その男は、ふふんと笑った。どうやら、茶目っ気を見せたつもりらしいが、あざ笑ったようにしか見えなかった。
「恨むなら、この懸賞に応募した彼らを恨むんだな。名前を見た時驚いたよ…どこまでも、君を追い詰めたいようじゃないか。おもしろい趣向だと真っ先に当選通知を送ったよ。心配しなくても、死にゃあしないさ。彼らに怖い想いをさせたくないのなら、さっさと終わらせるんだな。簡単なことだ。」
女は、唇を噛みしめた。こちらに居た、20代半ばぐらいの男が言った。
「もういいだろう。さっさと始めて、帰りたいんだ。そう何度もこんなことをさせられちゃあオレ達だって考えがある。」
初老の男は、肩をすくめた。
「考え?ヒトに戻るのは捨てたのか。まあそれでもいいがね。君達が案じている、美沙があのまま獣になってもいいのならな。」
男は、ぐっと黙った。先に話した、若い男もその男を睨みつけて歯ぎしりをする。
そんなことには気づかないように、その男は楽し気に、まるで歌うように言った。
「さあ宴の始まりだ。我々だって彼らに混じって誰が誰だが分からない中で命を懸けて戦うなんて、何と心が躍ることか…本物の人狼が偽物の人狼に噛まれるかもしれないとは。久しぶりの楽しみを、君達と共に存分に味わおうじゃないか。」
そうして、辺りに倒れる人達に混じって、その四人もあちこちに散らばって床へと横になり、目を閉じたのだった。