華々しい高校デビュー
私は16歳になりました。中学生から高校生になりました。桜が舞い、新しい制服に身を包み緊張しながら登校する…普通の高校生ならそうなるんだけど私はそうではない。
「何でこうなったのかな…」
私ははぁと深くため息をついた。今私は妖怪討伐養成機関『妖滅』に向かうためモノレールに乗っている。
「なんで妖怪なんているのよぉ」
私がいるこの大和という国には妖怪が出る。妖怪は人間の血を好み襲ってくる。その対策とし妖怪討伐の為の機関が存在する。名前は妖怪討伐機関『和』。妖滅を卒業した人はここに配属される。私は好き好んで妖滅に入学した訳ではない。大和の人たちは15歳になると素質検査を受ける。この検査で素質ありと判断を受けると、強制的に妖滅に入学させられる。
「もう15歳のときの検査で素質ありなんて出るから…」
私はまた深く溜め息をついた。周りを見渡すと私と同じ制服を着ている人がチラホラといた。私の思いを理解してくれる人がいるだろう。そんな人となら友達になれる気がする。
モノレールに乗り始めてから一時間程で目的の駅についた。モノレールは始めのうちは混んでいたが今は同じ制服の人しか残っていない。
「はぁ~やっとついたよぉ」
車両から降りて背伸びをした。固まっていた身体が開放されて気持ちいい。
「学校の場所は…周りの人についていけばいいかな」
そんな訳で歩き始めた。
学校に着くと数十人の集まりが出来ていた。
「はいはぁ~い、新入生はこっちに集まってくださいね」
その集まりの前に一人の女性が立っていた。恐らく、この学校の教師だろう。私もその声の方に移動した。
「そろそろ時間ですね、遅れてる人は知りません。じゃあ、付いてきてくださいね」
どうやら時間ギリギリだったらしい。私は集団に付いていくように校内を進んでいった。校内は至って普通だった。あくまで校内はなので、教室の中が普通なのかは分からない。
「はぐれないようにねぇ」
その声についていくと講堂のような所に着いた。
「適当に座っておいてくださいね」
皆は言われたように適当に座り始めた。私も近くにあった席に腰を下ろした。
「今年はなかなか人数多いですね、よかったよかった」
皆が席に着いた頃、ステージに一人の女性が現れた。その女性は黒髪ロングで身長はそんなに大きくはなかった。
「素質がある皆さん初めまして。私は妖滅の校長の天竺摩耶です。これから、三年間宜しくお願いします」
そういうと天竺校長はペコリと頭を下げた。
「そして、申し訳ないです」
頭を下げたまま謝罪の言葉を口にした。
「素質があるということだけで強制的に入学させられ、これからの人生が決まってしまった。本当に申し訳ないです。最近、妖怪を倒す素質がある人が少なくなってきています。そのため、素質がある人には強制的にこの学園に入学するということになってしまいました。ですから、最低でも君たちにはこの妖滅での学園生活を少しでも楽しんで貰えるよう心掛けていきたいと思います。それでも、少しは訓練してもらうことになると思います。本当によろしくお願いします」
もう一度深く頭を下げた。
「これで私の話は終わりにします。あとのことはよろしくお願いします」
隣に立っていた教師が頷いた。そして、天竺校長はもう一度頭を下げてステージから下がった。
「じゃあ、皆さん行きましょうか」
あの後、皆は教師に従い講堂を後にした。『これから皆が使うことになる教室に案内します』ということで教室に移動した。教室は至って普通で代わり映えしなかった。少しがっかり。
「適当に座っちゃってください」
その指示に従い、皆適当に席に座り始めた。私も手短な場所にあった席に腰を下ろした。全員が席に着いたことを確かめると話し始めた。
「さて、これから三年間この教室で多くのことを学ぶことになりますが、先にこのクラスの担任を担当する私の自己紹介をしたいと思います。私の名前は射守矢 美樹で、年齢は24です。私も皆と同じく素質ありと判断されこの学園に入学しました。本来ならば『和』の配属になる予定だったのですがちょっと怪我をしてしまいここの教師になりました。簡単ですが私の自己紹介はこれで以上です。何か質問ある人はいませんか?」
『彼氏はいますか?』、野次のような感じでテンプレな質問が飛んだ。
「勿論、いませんよ。テンプレにはテンプレで返すのが基本ですよね」
曖昧な回答をしてニコニコと笑っていた。
「他には何かありますか?大丈夫ですか?」
どうやらもう質問はないらしく誰からも質問はなかった。私自身も特に質問はなかった。
「私だけ自己紹介するのはフェアではないので皆さんにも自己紹介してもらいます。では、一番右の席のあなたからどうぞ」
一番右に座っていた女子はビクッとした。そして、ゆっくりと立ち上がった。その子は小さかった。見た目判断だが150cm位だろうか?因みに、私は163です。
「は、はい。私は御母衣 舞です。身長が小さいせいでよく幼く思われますが、皆さんと同い歳です。これから、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると拍手が起こった。
「さぁ、次の人どうぞ」
彼女に続くように皆自己紹介していった。私の番までそんなに時間はかからなかった。
「私の名前は一宮 雅です」
クラスの皆がざわざわし始めた。まぁ、仕方ないことだろう。
「皆も一度は聞いたことがあるかも知れませんが、一宮 彼方は私の母です。」
再びざわざわし始めた。一宮 彼方・・・母は妖怪討伐において一種の伝説を残したのだ。母は200匹にもおける妖怪の大群を傷一つ無く一人で倒したのだ。まぁ、家ではごく普通の母親なので伝説の人物って感じは全くしないのだが。
「私自身はごく普通ですので、遠慮せずどんどん話しかけて下さい」
そう言って頭を下げ、席に着いた。すでに教室のざわめきは無くなっていた。そして、自己紹介は次の人に移っていた。
自己紹介はなんの問題も無く終了した。
「はい、自己紹介ありがとうございます。これから三年間よろしくお願いしますね。では、次のことに移りますね。今から君達には妖怪と戦っていく為の武器渡します」
そう言って、射守矢先生は一人一人の席を回りビー玉のようなものを渡していった。
「今渡したものは妖力を固形にしたものになります。それが君達の武器になります。しかし、このままでは武器になることはありません。ですので、それを口の中に入れ噛み砕いてください」
私の自己紹介の時以上のざわめき起きた。そりゃそうだ。こんなもん噛んだら歯がまずいことになる。
「大丈夫ですよ、皆さんが考えているようなことにはなりませんよ。唾液に反応してちゃんと柔らかくなります。さぁ、どうぞッ」
皆恐々している。
「さぁッ」
煽るように射守矢先生は追い立てる。勇気を持って、私は口に放り込み噛んだ。
「お」
私の歯は無事だった。先生の言っていたように柔らかくなっていて簡単に噛み砕けた。周りを見ると皆も口に入れたらしく驚くような顔をしていた。
「ね、大丈夫だったでしょ?、じゃあ、早速ですが武器を具現化してみましょう。皆さん、片腕を前に出してください。そして、心の中で武器を求めてください。こんな具合に」
先生は右腕を前に出すと、その手に刀が現れた。クラスの皆からは驚きの声が上がった。
「さぁ、やってみてください」
皆腕を前に出し、武器を具現化させていった。剣、刀、薙刀・・・色々と具現化させていった。私も皆と同じように具現化させようとした。しかし、武器が具現化されることは無かった。
「なんにも出ないなぁ」
私の気持ちが足りないのかな?まぁ、私自身そんな戦いたくないしその気持ちに応えてくれてるって可能性も。
具現化出来ていないことに先生が気が付いて近づいてきた。
「一宮さん、どうかしました?」
「武器が具現化されないんですが」
「あら、珍しい」
先生はニヤッとした。
「いずれ分かると思いますよ」
それだけ言って教卓の方へ戻って行った。
いずれ分かる・・・?どういう意味なのかイマイチわからないなぁ。
「はい、皆さんそれぞれ武器の具現化出来たみたいですね。これから三年間その武器を使って妖怪を倒していきますので大切に取り扱ってくださいね。あとその武器は心の中で念じれば消えますので」
どうやら念じれば本当に消えるみたいで武器を具現化させた人は武器を消していた。まぁ、私は具現化出来てなかったのでする必要はないけどね。
「皆さん出来ましたね、良かったです。でも、武器を手に入れたからといって妖怪に出会っても戦わないでちゃんと逃げてくださいね、危ないので」
妖怪は初心者が取り扱えるものではないということはもう皆分かっているようで、無言で頷いていた。
「では、皆分かってくれたようなので今日は終わりになります、お疲れ様でした」
今私は帰るため駅に向かって歩いている。妖滅に通う人の大半は家から通うのが困難な人が多いので寮に入る。私は家からここまで30分位で来れるので寮に入るまでもないのだ。因みに、通う為の費用等は学校持ちである。
「皆、寮なんだなぁ」
駅への道のりにはちらほらとしか妖滅生は居なかった。寮が多いとは知って居たけれどここまでとは驚きだった。
そんなことを思いながら歩いていると目の前に見覚えのある幼い少女が歩いていた。
「御母衣さん?」
「はい!?」
急に話しかけられ驚いたらしくビクッとした。そして、ゆっくりと振り向いた。
「えと・・・一宮 雅さんですよね」
「うん、そうだよ。ごめんね、急に話しかけて」
「ううん、大丈夫です。どうしたんですか?」
「特に深い理由は無いんだけど、電車帰りの同じクラスメートがいたのでつい」
私は頭を掻きながら苦笑いをした。
「私もあまりにも人が少なかったので驚きました。心細かったので話しかけてもらってよかったです」
そう言ってニコッと微笑んだ。可愛い・・・。
「一緒に帰りませんか?」
「喜んで!」
こんな可愛い子に言われて断る人は居ないと思う。もし、居たら・・・ね。
「じゃあ行こうか、御母衣さん」
「うん。あっ、私の名前は舞って呼んでください」
「うん、わかったよ。じゃあ舞ちゃん、私のことは雅って呼んでね」
「分かった。これからよろしくね、雅さん」
高校生活で不安視していた人間関係もひとまず大丈夫そう。
と、思っていた時だった。
ゴゴゴゴゴ・・・・
突然周辺に地響きが起きた。
「雅さん、これって・・・」
「うん、妖怪だね」
妖怪が現れる時、その周辺には地響きが発生する。妖怪は妖魔の世界とこちらの世界の壁をこじ開けて現れる。その影響で周辺には地響きが発生するのだ。
「近いね・・・」
「そうだね」
妖怪が世界の壁をこじ開けた場所の近くは地響きが強くなる。今私たちが居る所は非常に大きい。つまり、妖怪はここの近くに現れたということになる。
「舞ちゃん、早くここから離・・・」
私は舞ちゃんのほうを見た。どこから現れたのか舞ちゃんの後ろには鬼が現れていた。
「舞ちゃん!後ろ!」
「え・・・?」
後ろを振り向いたときには鬼の拳は舞を捕らえていた。
「キャアアアァアアァァァァァア」
叫び声と共に舞は吹っ飛ばされた。
私は急いで舞ちゃんの方へ駆け寄った。
「舞ちゃん!」
舞は息をしていた。しかし、右腕が明らかに曲がってはいけない方向に曲がっていた。
私は母からいざという時の為に教わっていた応急措置をし安全な場所まで舞ちゃんを移動させた。
「救急車を呼ぶ暇は・・・なさそうだね」
後ろを振り返るとさっきまでは居なかった子鬼が増えていた。
「いずれ和の人達が来てくれる・・・それまで何とかしないと」
必ず地響きが発生した場所には和がくる。しかし、到着するのに時間がかかる。妖滅が近いので和が来るまでに誰か来てくれると思うが、それまでは舞ちゃんを守り抜かなければならない。
「さぁ、がんばらないと」
出ないと分かっているが武器を具現化させようとする。しかし、武器は具現化されない。
「もう、なんなの!?」
私がわなわなしている間に子鬼の一匹が襲いかかってきた。
「うわっ、きた!」
逃げたいがこの場所を退くと鬼が舞ちゃんの方へ行ってしまう。しかし、私には皆のような武器はないし・・・どうすれば。
考える時間が欲しいが子鬼はそれを与えてくれないらしい。キエェェエエェという声と共に鬼は飛び掛ってきた。
「もう!来ないで」
私は手に持っていたバッグで鬼を殴った。すると、鬼は驚くことにもの凄い勢いで吹っ飛ばされた。
「へ?」
驚いた。まさかあんなに吹っ飛ぶとは思わなかった。ごく普通の女子高生の攻撃であんなに吹き飛ぶとは思えない。
「このバッグは普通のバッグだし・・・たまたま?」
もう一匹子鬼が飛び掛ってきた。また、私はバッグで子鬼を殴った。すると、さっきと同じように鬼は吹っ飛ばされた。
今のでなんとなく理解することができた・・・しかし、これは・・・女子らしくない。私は考えを確かめるためバッグを手放した。
「確かめてみようかな」
私は舞ちゃんの周りに鬼が居ないことを確かめ、鬼の方へ歩き始めた。子鬼がまた数匹襲いかかってきた。私はその鬼に拳を振り下ろした。すると、さっきとは異なり鬼は吹き飛ばされることなくその場で砕け散った。
「うえ、返り血・・・でも、私の考えは正しかったみたいだなぁ・・・やだなぁ、女の子らしくない」
この後も何匹か子鬼は襲い掛かってきた。その度、鬼を蹴散らした。
「私の武器って・・・私自身なのね」
私は子鬼達の相手をしながら溜め息を付いた。
「私の戦い方が分かってもこの状況は・・・まずいよね」
何匹か子鬼達は倒したけど、あのデカイ鬼と子鬼相手に私一人で相手出来るとは思えない。
どうしようと考えていると突然回りに居た子鬼達が消え去った。
「え!?あ!?和!?」
思ったよりも早く和が到着してくれたらしい。
「一宮さん、大丈夫!?」
和と一緒に妖滅の先生達も着いたらしい。射守矢先生は心配そうに駆け寄ってきた。
「怪我は無い?」
「私は大丈夫ですが、舞ちゃんが」
先生は私の後ろに寝そべっている舞ちゃんに気がついた。
「御母衣さん!?」
急いで駆け寄って行き、他の教師人を集め舞ちゃんを搬送していった。射守矢先生は搬送されたのを確認すると私の元へ戻ってきた。
「御母衣さんの応急処置ありがとうね。色々とお母さんから教えてもらったみたいね」
「そうですね、覚えておくと便利だからって色々と教え込まれました」
そういうと、先生は苦笑いをした。
「そういえば、あなたの武器が何か分かったみたいね」
「私自身が武器みたいですね」
なんか女子らしくないですねと苦笑いをすると、そうでもないかもよと先生が話し始めた。
「あなたのお母さんも同じ肉体を武器として戦うタイプだったけれど、とても華麗でしたよ」
いつも家で家事をしている普通の母親しか知らないので華麗と言われても想像が付かない。
「本当ですか?」
「本当ですよ、自信をもってください」
私は苦笑いをした。やはり想像つかない。
「そういえば、鬼の返り血が凄いですから一旦学校に戻ってシャワー浴びましょうか」
改めて身体を見ると返り血がもの凄いことになっていた。
「そうします」
私は先生と一緒に学校の方へ戻っていった。