再び本の世界へ
6話目になります。宜しくお願いします。
「で、どういうことなの丈君!」
食事も終わり、食後のお茶まできっちり飲んでから流は俺に問い詰めてきた。
「…この子はカヤ」
「カ、カヤです!よろしくお願いします!」
「あ、木田 流です。よろしくお願いします・・・ってそうじゃなくてこの子誰よ!?どこで拾ったの!?」
そんな犬猫じゃあるまいし。しかも拾わねーよ、そもそも犯罪じゃねーか。
「…今から話す内容は荒唐無稽だが信じてくれるか?」
「な、何よ、どんな内容なのよ?」
「まず、この指輪なんだがな」
「あ、それ!それも聞きたかったの!なんで急に指輪なんか付けたの丈君?」
「まぁ、一から話すとだな」
俺は昨日あったことを流に説明した。
「とまぁ、こんな感じで今に至るわけだ」
我ながら説明していて嫌になってきた。誰が一体こんなふざけた話を信じるのか。
流は下を向いて、表情はわからない。カヤは黙って、不安げな目でこちらを見ている。
「まぁ、信じられないとは思うがな。一応昨日あったことはこれで全てだ」
「丈君」
「ん、何だ?」
「大丈夫、私が付いてるから。絶対に見捨てないから。だから病院行こ。周りには丈君の頭がやられたなんか言わないから」
…プチッと頭の奥で何かが切れた音がした。
「…そうだな、一緒に病院に行こうか。外科病院にな!」
俺は流のこめかみを全力で握りしめた。俗に言うアイアンクローだ。
「みぎゃあぁぁあぁぁーーー!!」
「はっはっは、まだまだー」
「ギブギブ!や、やめてぇぇー!!」
「じょ、丈さん!?だ、ダメです!流さん死んじゃいます!!」
「大丈夫だよ、声上げてる間は死んじゃいない」
「な、何か出るっ!頭から何か出るうぅーー!!」
「じょ、丈さーん!?」
流にきっちりとお仕置きをした後、俺らは会話を再開した。
「うぅ、ほんとに死ぬかと思った…」
「お前がふざけたことを言うからだ」
「で、でも丈君の言った話のほうがよっぽどふざけてるよ!そんな話信じられる訳ないじゃん!」
「それはまぁ…そうだろうな」
「大体、その話が本当なんだったら教科書とかにも潜り込むわけじゃん。でも学校でそんなことなかったし」
それは俺も気になっていた。学校でもおそるおそる教科書に触ったが問題はなかった。
流を撒きがてら昼休みに図書室に行ってみたが、そこでも本の世界に入るということはなかった。
全ての本に潜り込むわけではないらしい。もちろんそうなったら日常生活に支障を来すどころの騒ぎではないが。
やはり、あの本が光る現象が関わっているのだろうか。
そんなことを考えていると、流は今度はカヤに矛先を向けた。
「ねぇ、カヤちゃん」
「は、はい、なんでしょう?」
「ほんとに本から出てきたの?どっかから連れて来られたんじゃないの?」
こちらを睨みながら流はそう問いかける。まだ俺が拾った説を諦めていないらしい。
どんだけ信用無いんだよ、俺は。
「あの、本から出てきたのかどうかはわからないんですけど、気付いたら丈さんの部屋に居たのは確かです」
「ふーん、ねぇ、その本って今どこにあるの?」
「えっと、まだ丈さんの部屋にあるのではないかと」
カヤの台詞を聞いて直感でやばいと思い、流を羽交い絞めにして拘束しようとしたが、残念ながら奴の行動のほうが一歩早かった。
居間から出て2階に駆け足で向かう流。おそらく目的地は俺の部屋だろう。
「こら、待ちやがれ!」
「やだ、待たない!」
「駄々っ子かてめぇは!」
何があるというわけでもないが、さすがに勝手に部屋を漁られるのは嫌だ。
部屋に入ると流は本棚の前で、片っ端から本を開いていた。いくつかの本が床に落ちている。
「おい馬鹿やめろ!」
「どの本なの、丈君?」
「机の上に置いてあるやつだよ、てか勝手に漁るな!」
「あ、この本か…てか真っ白じゃん」
「さっきも言っただろうが…」
俺は呆れながらも、流が落とした本を拾い上げる。
そこにカヤも部屋に入ってきた。
「大丈夫ですか?二人ともすごい勢いで駆け上がっていくから吃驚しました」
「文句はそこの馬鹿に言ってくれ」
流を睨みながら本を拾おうとすると、不意に床が抜けた。
慌てて手を見ると、床が抜けたのではなく、腕が本にめり込んでいた。光っている本に。
「な!?くそっ、マジかよ!」
俺は慌てて手を抜こうとするが、むしろ本に引っ張られる。
さらに慌てて、何かを掴もうと左手を振り回し、手に触れたものを掴んだ。
掴んだものを見ると、驚いたカヤの顔があった。掴んでいたのはカヤの手。
咄嗟に離そうとしたが、既に体全体が本に吸い込まれつつあり、カヤもそのまま引きずられるように本に吸い込まれた。
2人を吸い込み、最後に一際輝くように光った後、本は輝きを失った。
「……うそ」
ただ一人残された流は、呆然と2人が吸い込まれた本を眺めていた。
こうして俺とカヤは本の世界に再び入り込んだ。
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