元の世界に戻って
5話目になります。宜しくお願いします。
あの、不思議な体験から次の日、俺は学校に向かっていた。
カヤと暮らすことを決めたはいいが、これからどうするべきか。
幸い部屋は余っていたので、カヤにはそこを使ってもらうことにした。まぁ、そこでも色々と一波乱あったのだが。
内容はというとこんな感じだ。
「とりあえず飯でも食べるか、さすがに腹減ったし」
「あ、私が作ります!」
「いいよ、疲れてんだろ。といっても俺も疲れてるしカップラーメンで我慢しろよ」
「かっぷらーめん?」
「あぁ、知らんのか。まぁ、すぐできるからちょっと待ってろ」
俺は台所に向かい、カップラーメンを作って戻ってきた。
部屋に入ると、俺が出た時と同じ姿勢のまま固まっているカヤ。緊張するのはわかるがもう少しくつろいでもいいんじゃないだろうか。
まぁ、今更言っても始まらないので、カヤの前にカップラーメンを置く。箸が使えるかわからなかったので、フォークと一緒に。
目の前に置かれたものの意味が分からず、ぱちくりとカップラーメンを見て動かないカヤ。
「こうやって食べるんだよ、熱いから気を付けろ。」
といって、俺が麺を啜るのを見て、おっかなびっくりとした様子で見よう見まねで麺を啜るカヤ。
「…!?!?」
一口食べて固まった後、そのまま勢いよく食べ始めた。見ていて気持ちのいい食べ方に俺も苦笑いしながら、食べるのを再開した。…問題はここからだった。
俺が半分ほど食べたあたりであろうか、食べ終わったであろうカヤが下を向いて肩を震わせていた。泣くほど美味かったのか、と少々引きながら声を掛けたがどうやら違ったみたいである。
「…ご、ごめんなさい、全部食べちゃいました」
「いやいいよ別に!?大丈夫か?口に合わなかったか?」
「い、いえ、こんな美味しいのは生まれて初めて食べました。こ、こんな居候の私に…こんな高いものを…ごめんなさいっ、気が付いたら全部無くなってて…」
どうしよう、近所のスーパーの特売品でまとめ買いした物なんて言えねぇ。
全然高くねーよ、むしろ下から数えたほうが早い部類だよ。
このあと、カヤに事情を説明して納得させて、終わったころには俺のラーメンはすっかり伸びてしまっていた。
寝るときは寝るときで一悶着あった。
「だ、ダメです!こ、こんな暖かそうなお布団なんかじゃ寝れません!というより使えません!」
「我儘言うな、これしかねーんだからさっさと寝ろ。」
「布団なんかいらないです!そのまま床で寝ます!」
「それ布団が一つしかない時の台詞じゃねーか!余ってるから使えばいいって言ってんだろ」
「せめて藁とかないですか?」
「バカかお前!?だから何で布団使わねーんだよ、なんでどんどん自分を追い込んでいくんだよ!」
「だ、だってこんな綺麗なお布団、汚しちゃったらどうしようかと。」
「なにお前、その年でまだおねしょでもすんの?」
「し、しません!!物の例えです!!」
「いいからさっさと寝ろ、俺は疲れてんだから手を煩わせるな。」
顔を真っ赤にしながらも、カヤはようやく布団に潜り込んだ。入ったら入ったで暖かいです!だの柔らかいです!だのひとしきり叫んだ後、すぐに寝息を立て始めた。なんという迷惑な奴だ。
どうしよう、思い出しただけで頭が痛くなってきた。
これからどうしよう。カヤの生活用品とかも買わないといけないし、着替えとかどうしたらいいんだ。
そんなこんなで頭を抱える俺に、後ろから声を掛ける人がいた。
「やほー、朝から何頭を抱えてるのさー」
朝っぱらから元気溌剌、幼馴染の木田 流がそこにいた。
「おはよう、流。朝から元気だな」
「もっちろん、朝は活力の源だよー」
よくわからない理論を建前に、朝から嫌になるくらい元気な奴だ。
「どしたのー?丈君が悩んでる顔なんて珍しいじゃん」
「俺かて悩む時くらいある」
特にこう、厄介な問題を抱えている時にお前を見た時とかな。
「ふーん、よく分かんないけど。あっ、今日御飯作りに行くね!前に作ったストックもうないでしょ?」
「…来るな」
「え、ダメだよ。丈君一人だとカップラーメンばっかじゃん」
あながち間違いでもないから強くは言い返せないのが腹立つが、今はまずい。
「いいよ、別に。流も自分のこととかあるだろ。俺は気にしなくていいから」
「ダメだって、叔母さんに丈君のことお願いされてるんだから」
「大丈夫だって。自分のことくらい自分で何とかするから」
「…怪しい。なんか怪しいよ丈君。いつもだったらぶっきらぼうによろしく頼むとか言ってくるのに」
普段アホな癖になんでこういうところだけ突っ掛って来やがる。
だが、今はカヤがいるから不味い。見られたら何を言われるかわからんし、事情を説明しようにも何ていえば良いかわからん。
「とにかく今日は来なくていい。行くぞ、遅れる」
「あ、待ってよ丈君」
とにかく朝は逃げ切ったが、これから毎日そうする訳にもいかない。どうするか。いっそ正直に言うか。…いや、無理だな。
放課後、流に何か言われる前に教室を出てさっさと家に帰る。
流は俺を追いかけようとしてきたが、幸いなことに友人に捕まり、こちらをチラチラと見ながらも諦めたように友達との会話に入っていった。
「ただいまーっと」
いつもの通り、家に帰っていつものように口にするが、今日は久方ぶりに返事があった。
「おかえりなさい、丈さん」
「…ああ、そういやそうか」
返事があったことに吃驚したが、落ち着いて考えればカヤがずっと家にいたから返事があるのも当然か。
「特に何もなかったか?」
「はい、丈さんに教えてもらったてれびという物に夢中になっていたらあっという間でした。あのてれびっていうもの、凄いですね。どうなってるんですか?」
「説明すんのも面倒だから自分で考えろ」
「…丈さん、こっちの世界でも変わらないんですね」
何を言ってるのかわからんが、俺は俺だ。
部屋に鞄を置いて着替えようと2階に上がろうとしたら、良い匂いが俺の鼻をくすぐった。
匂いに釣られるように居間に行くと、テーブルの上にいくつかの料理があった。
「カヤ、これは?」
「あ、ごめんなさい。夕方だったので晩御飯の用意をしようかと。その、勝手にレイゾウコの中身使っちゃいました」
伏し目がちに、まるで悪いことをして怒られる子どものような姿でこちらを見るカヤ。
「いや、好きに使ってくれとは言っていたしな。ありがとう、カヤ」
ぱぁぁ、っとまるで花が咲いたかのような笑顔になるカヤ。なんというか百面相みたいで面白い。
「せっかく作ってくれたんだし、温かいうちに食べようか。カヤは腹減ってるか?」
「はい、ペコペコです!」
そうか、と少し笑いながら着替えようと部屋に戻ろうとしたら玄関が開いた。
「丈君、御飯作りに来たよー!」
買い物袋を高々と掲げて、満面の笑みでそこに流がいた。
流は、カヤを見て、俺を見て、もう一度カヤを見て固まった。
高々と挙げた腕が徐々に下がり、満面の笑みから無表情に変わっていった。百面相はさっき見たばっかりだったが、こちらは全然面白くなかった。というより非常に不気味だと思った。
「…その子誰?」
「………従姉妹」
「絶対嘘じゃん!金髪とか完全海外の人じゃん!私そんな話聞いたことないよ!ていうか本当に誰よ!朝から変な感じで嫌な予感してたら見事的中だよ!」
「…とりあえず上がれよ。そこで叫ばれると近所迷惑だ」
「うぅ、全部聞かせてもらうんだからね」
若干涙目でこちらを睨む流。おろおろと見比べるカヤ。…とりあえず着替えさせてくれ。
着替えを終わり、3人で食卓を囲む。
「ていうか、何で御飯用意してんのよ!御飯作るの私の役目だし!しかも美味しいし!なにこれすっごい美味しい!悔しい!」
「えぇ!?ご、ごめんなさい、勝手に用意してしまって!ありがとうございます!…あれ、どう言えば良いんですか、これ!?」
「…2人とも静かに食え」
「丈君!食べ終わったら話聞かせてもらうからね!うわぁーん、美味しいよー!おかわりー!」
「は、はぃぃ!!」
なんという食事風景だろうか。
どうやってここから逃げようかと考えながら、俺はカヤの作ってくれた料理を味わった。
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