本の世界~1-3~
4話目になります。宜しくお願いします。
カヤの家での一騒動から一夜が明けた。
あの後、騒ぎを聞きつけた近所の人達が駆けつけてきて、事情を聴いて色々と助けてくれた。
どうやらカヤの父親は近所でも大分厄介な人間だったらしく、その場だけを見たら俺がカヤの父親をボコボコにした状況だったが、それを咎める人はいなかった。
カヤの父親は、気絶したままそのまま家で寝かされる形になり、俺とカヤは近所の人に連れられて御厚意に甘えて一晩泊めてもらうこととなった。
そして、翌朝、俺は今カヤを待っている所である。
今、カヤは父親と話をしている。俺も付いていこうかと言ったが断られた。
何でも、ここから先は一人で頑張りたいんだと。まぁ、そういう根性は嫌いではないので、こうして俺はカヤを待っていた。
「丈さん!」
「おぅ、終わったのか。どうだった?」
「はい、お父さんと色々と話をして、私と別々に暮らすことになりました」
「そうか。どこか行く当てはあるのか?」
「いつも色々と助けて頂いていた教会に行こうと思います。以前も一度そういった話をもらったことがあるので。」
なるほど、そういやカヤが色々とぶちまけた時に教会から食べ物をもらっていたと言っていたな。
この世界の教会がどういった場所かはわからんが、前にも話があったんならまぁ大丈夫だろ。
「丈さん、本当にありがとうございました。こうしてお父さんと離れて暮らすことができるのも丈さんのお蔭です」
「気にするな。俺は少し助けただけだ」
「あの、丈さんはこれからどうするんですか?」
うん、待ってる間俺もそれをずっと考えていた。俺、どうなるんだろうか。この世界の住人じゃねーしなぁ。どこかで暮らすにも、なんの当てもないし。俺も教会の世話になろうかな。
そんなことを考えると俺の足元が淡く光り始めた。
「丈さん!?あ、足が消えて!?」
「おっと、そういうことか」
足が消えていくのは不気味だが、たぶん元の世界に戻るんだろう。
何となくだが、そんな予感があった。
「すまんな、俺この世界の人間じゃねーんだよ。だから、元の世界に戻るわ」
「え、そんな!?まだ、何のお礼も出来ていないのにっ!」
「いいよ、そんなもん」
話をしながらも、光はどんどん上に上がっていき、俺の胸元にまで来た。残り1分もないか。
「じゃあな、カヤ。頑張って生きてけよ」
カヤは泣きながら、いやいやをするように首を振る。
「ぐすっ、嫌です、丈さんとこのままお別れなんて…」
「心配するな。別に捨てやしねぇから、まぁたまには開けて読むよ」
「…よくわかんないです、ひっく」
「はは、だろうな。まぁ、そんな顔するな。っと、もう限界かな。カヤ、元気でな」
「っ!…はい、丈さんもお元気で!」
そうして、俺は光に包まれた。
真っ白な世界から、徐々に視界が戻る。
何かに倒れかかるようにもたれていることに気づき、顔を上げるとそれは本棚であった。
立ち上がり、頭を軽く振る。夢でも見ていたのか、俺は?寝起きの気怠さはないが、どう考えても夢だと思えるような内容であった。
「なんちゅー夢を見てんだ、俺は。」
頭を押さえながら辺りを見渡す。見慣れた俺の部屋と…立っているカヤがいた。
「「…」」
「何でてめぇがここに居るんだよ!?」
「丈さん!?さっき光に包まれて、その後…。それよりここどこですか!?」
「なんでだよ、夢じゃねーのかよ!おかしいだろ、さっき別れてそれで終わりじゃねーのかよ!!」
どう考えてもあれでお別れでさよならの状況だったじゃねーか!てか夢じゃなかったのかよ!
夢じゃなかったとして、俺の持ってる例の「マッチ売りの少女」の本はどうなってやがる!?
慌てて本棚に駆け寄り、本を探す。幸い、すぐに見つかった。おそらくそれであろうというものが。
「…真っ白になってるじゃねーか」
手に持つ本はどのページをめくっても真っ白な、まるでメモ帳のような有様であった。
「…戻れよ。」
「え?」
俺はカヤの頭に、真っ白な本を押し付けた。
「おら、元の世界に戻りやがれ!」
「痛い痛い、あぅ、頭に押し付けないでくださいー!」
しばらくカヤに本を押し付けるが、戻ることもなく、体力を消費するだけに終わった。
「はぁ、はぁ、ちくしょう、どうやっても戻らねぇじゃねーか」
「あぅぅ、痛かったです」
若干涙目でこちらを睨むカヤだが、そんなことはどうでもいい。
「どうするんだよ、これ。何も解決策思い浮かばねーぞ」
「あの、ここは丈さんの世界なんですか?」
「あん?」
「いえ、丈さんが消える間際に、元の世界に戻るって言ってたので」
そういやそんなことも言ってたか。ちくしょう、時間にしたらついさっきの出来事なのにはるか昔のことのように思えやがる。
「あの、元の世界に戻る方法がわかるまで、恩返しさせてもらえないですか?」
「恩返し?」
「はい、その丈さんに助けてもらってまだ何も返せてないので。あの、御飯とか作ります、掃除とか家事は全部やるので、だからその…」
「だからなんだよ?」
「そ、傍に置いてもらえないでしょうか!?」
「いらん、邪魔だ」
「はぅあ!?」
なんで俺が面倒見なきゃなんねーんだよ。そんな邪魔くさいことやってられるか。
カヤはカヤで「うぅ、勇気を振り絞ったのに」だのなんだのブツブツと呟いている。
しかし、俺を説得するのを諦めたのか、ふらふらと立ち上がって俺を見て言った。
「わかりました、出て行きます」
「出て行くのはいいけどどうすんだ?」
「…マッチ売ります」
「はぁ!?」
「マッチ売ってなんとか生活していきます」
どうしよう、なんか色々と本末転倒な状況になっている気がする。このままいくと俺あのクソ野郎と同じ立場になるんじゃないだろうか。
「あぁ、ちくしょう!わかったよ、ここに住めよ!!」
「いいんですか!?」
「このままお前追い出したら罪悪感に押しつぶされそうだからな、仕方なくだ仕方なく!」
「えへへ、ありがとうございます。一生懸命頑張ります」
「ちくしょう、何でこうなったんだ!」
それもこれもこの指輪だ。くそ、まだ取れねぇ!
指輪を外そうと悪戦苦闘する俺とそれをぽやぽやとした表情で見つめるカヤ。
こうして、俺はカヤと暮らすことになった。
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