本の世界~1-2~
3話目になります。宜しくお願いします。
カヤの家に向かう道中、カヤの父親の話を聞く。
曰く、今の父親はカヤの母親の再婚相手らしく、血は繋がっていないとのこと。
曰く、母親が昨年他界し、その後酒に溺れて仕事もしていないとのこと。
曰く、日ごろカヤに当たり散らし、時には暴力も振るうということ。
「なんというか、今時ドラマにも出てこねぇような奴だな、おい」
「ドラマ?」
「あぁ、いや、こっちの話だ」
やはり俺が居た世界と違うせいか、こうした所で話にズレが生じてしまう、ていうか、そもそも俺は元の世界に戻れんだろーか。
「なぁ、カヤは今の生活で満足しているのか?」
俺はカヤに問いかける。勢いでカヤの父親に会おうとしているが、カヤが今の生活を変えたくないと思っている可能性もある。
話を聞く限り、無茶苦茶な状況で辛く、辞めたいと思えるような状況だがそれはあくまで俺の意見である。
よくわからんが…共依存だっけか、自分が必要とされている状況を自分も必要としていてそれが壊されたくないと思っている可能性もある。そうなると、俺がやろうとしていることはいらんお節介になってしまう。そのためにも、確認しておく必要があった。
カヤは俺の質問に、しばし考えるも下を向きながら答えた。
「私なんか、別にどうなってもいいんです。優しかったお祖母ちゃんも死んじゃって、お母さんも死んじゃって、お父さんも私のことを邪魔なものとしか見ていないんです。だから、満足するとかそういったことを考えることでもないんです」
「…そうか」
「はい。…あの、お兄さんはどうしてあそこにいたんですか?」
「丈」
「え?」
「俺の名前だ。点野 丈」
「あ、はい、わかりました。丈さんですね」
「さん付けは別に…いや、まぁいいや。」
普段から周囲には丈と呼び捨てにされることが多いため、むず痒くもあるがまぁ年下なら別にいいだろう。そういや
「カヤは何歳なんだ?」
「私ですか?16歳ですよ。丈さんは?」
「はぁ!?お前一つしか変わんねーの!?」
「え、丈さん15歳なんですか?」
「ふざけんなよてめぇ!何で俺がてめぇより年下なんだよ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
どの面下げて俺を年下だと思いやがるんだこいつは。自分こそガキみたいなちんちくりんじゃねーか!
「俺は17歳だバカ野郎」
「うぅ、一つしか変わらないのに怖いです…」
「てめぇがガキ過ぎるんだよ」
「酷いです…」
そんな茶番紛いのことをしているうちにカヤの家に到着した。
「ここです」
カヤに連れられて着いた場所は、お世辞にも綺麗とは言えないボロ家であった。まぁ、援○みたいなことを子供にさせるような家である以上、ある程度予想出来たことではあるが。
「ここにカヤの父親がいるんだな?」
「は、はい。そうなんですけど、あの、お父さんはその」
「なんだ?」
「たぶんお酒を飲んでて、今行くとたぶん…」
そう言って言葉を濁すカヤは…身体を震わせていた。
俺よりも年下の女の子がこんなに震えるとか、例え義理とはいえ自分の父親に対して震えるとか、そんな倫理観とかは別にして、ただ単純に…俺は無性に腹が立った。
そして俺はドアを蹴破った。
激しい音とともに、ドアが倒れていく。
「よぉ、邪魔するぜ」
「な、なんだお前は!?」
床の下、机には空瓶が転がっている。そして右手には中身が半分ほど入った酒瓶、左手には口を付けようとしたコップを握っている赤ら顔の男が一人。その男は目を見開いてこっちを見ている。
「てめぇがカヤの父親か?」
「なんだてめぇ、ズカズカと人の家に土足で…土足?」
男が俺の足元を見て、疑問形で語尾が終わる。そりゃそうだろう、俺はまだ靴代わりの箱を履いたままだ。
「俺の足に着いてはノーコメントで頼む」
「ちょっ、丈さん!いきなり何をしてるんですかっ!」
「あぁ、わりぃな。そういやカヤの家でもあるのか。後で直しとくわ」
「いや、そういう意味じゃなくてですね…」
「…カヤ、そいつは誰だ」
「ひっ、お父さん、違うんです!丈さんはそのっ、あのっ」
怯えながら俺を庇おうとするカヤを俺は手で制する。
男を睨みながら、俺はもう一度同じ問いを投げかける。
「てめぇがカヤの父親か?」
「だったらなんだ?」
手に持っていたコップと瓶を叩きつけるように机に置いて、椅子からカヤの父親が立ち上がる。
おいおい、中々のデカさじゃねーか。2m近くはあるか。
「とりあえずだ、2つ程言いに来た、いや3つか」
「…」
無言ながらも威圧をこちらに投げつけるが、構わず俺は続ける。
「まず、カヤに今後近づくな。てめぇみたいな奴に父親を名乗る資格は無い。んで、カヤを他の人に預けろ。親戚連中でもどこでもいい、何かしらあるだろ」
「…言いたいことはそれだけかクソガキ?」
「まだ二つだバカめ。最後に、てめぇはさっさと改心して酒止めて働け」
こちらが笑ってしまうくらいに頬が引き攣っているおっさんは今にも俺に掴み掛ろうとするが、それを無理やり我慢したかのような顔で、俺の後ろにいるカヤに向かって大声を上げる。
「…カヤ!!目の前のガキはこんなふざけたことを言ってるがそれはお前の本心か!?」
「ひぅっ、あ、あ、わ、私は…」
突然自分に話を振られて、言葉に詰まるカヤ。
「どうなんだ!まさか本当にそんなくだらないことを思っている訳じゃあるまいな!!」
「わ、私は…」
「誰のお蔭でここに住めてると思っているんだ、あぁ!?何もせずに飯だけ食べて、自分で金を稼げる方法を教えてやったら、訳の分からん男を連れてきて自分を他の人に預けろだぁ!?え、それは本心なのか?どうなんだ!?」
怒鳴りながらもにやにやと笑いながら、目では俺を牽制しながらもカヤに向かってまるで劇の台詞にような言い回しで怒鳴る。それでいつものように片が付くとでも思っているかのように。
カヤの様子を見ると、完全に萎縮していた。手を胸元に当て、父親と俺をおろおろと見ている。この様子を見る限り、普段から怒鳴られ続けて自分の意見を全く言えない環境が続いていたのだろう。そしてこのままいけば今回もそうなるであろうと十分に予想が着いた。
だから俺はこう言った。
「どうなんだ、カヤ。お前の父親はああ言っているが、カヤ自身はどうなんだ?」
「え?わ、私は」
「好きに言えばいい。別に否定してもいいぞ。俺が勝手に始めたことだしな。ただ…カヤが思ってることをそのまま言えばいい。カヤが言ったことに対しては、俺が全力で守ってやる」
カヤは黙ったまま俺と父親を交互に見て、下を向く。
俺とカヤのやり取りを見て、イライラしたようにカヤの父親は怒鳴る。
「黙ってないで何とか言え!早くこの勘違い野郎を家から叩きだして、お前はさっさと街に戻れ!!」
「…ぃゃ」
「あ?」
「…嫌です!私は戻りません!!」
カヤの大声に面食らったかのように父親はたじろぐ。が、カヤの大きな声はまだ続く。
「大体何もしてないのはそっちじゃないですかいつもいつもお酒ばっかり飲んで誰が掃除していると思ってるんですかご飯の用意していると思ってるんですかそれにそのご飯の材料だって私が教会からもらってきたものじゃないですかあとイビキうるさいんですよ全然寝れないんですよいい加減にしてください!!!」
顔を真っ赤にして、全力で叫ぶカヤ。積もり積もったものが爆発したのだろうか、俺が思っていた以上の内容を叫んでいた。
「あー、その、カヤ。その辺でいいぞ」
「はぁ、はぁ、…あれ、わ、私」
「十分だ。十分過ぎて親父さんのダメージが中々なことになってる」
カヤの父親は、まさかカヤからそんなことを言われるとは思ってなかったのであろう、白目を向いていた。
「はぅあ!?ち、違うんです、あの、その、つい」
「気にすんな。で、だ。これがカヤの本心らしいが、どうする?まだ足りねぇか?」
俺はそう問いかける。
カヤの父親は、下を向いて全身を震わせている。
白目から回復したところまでは確認できたが、その後のこの感じ。まぁ、予想通りになりそうっちゃなりそうか。
「丈さん、に、逃げてください!たぶんこのままだと大変なことになります!」
「大丈夫だ、もともと俺から始めたんだ。それに言っただろ?」
「え?」
「カヤが言ったことに対しては、俺が全力で守ってやるって。中々上等な啖呵だったじゃねーか。よく言ったな」
そういって俺はカヤの頭を撫でる。大体自分こそ今更震えてやがるくせに俺の心配するなんざ、どんだけお人好しなんだ、こいつは。
「茶番はもういい、叩きだしてやる。舐めんなよ、ガキが」
復活したカヤの父親が、手に酒瓶を取って握りしめる。
カヤを遠ざけるように背に庇い、俺はカヤの父親に向き直って拳を構える。
「うるせぇよ、二次元野郎が調子に乗んな。三次元の俺を舐めんじゃねーぞ。」
「ごちゃごちゃ訳のわからんこと言ってんじゃねぇっ!」
右手に持った瓶を振りかざして俺の頭に叩きつけようとする。
それが振り下ろされる前に、俺は屈みながら飛び込み、左手で肘を抑えて動きを止める。
目を見開くカヤの父親を確認し、そのまま、屈んでいた膝をバネのように伸ばし、右手をアッパーをするように顎に叩きこむ。そのまま吹き飛びそうになるが、止めとばかりに右足を軸に若干浮き上がった左のあばら目がけて左足を叩きこむ。
「がっ!?がっはぁぁーー!!」
蹴られた勢いそのまま、カヤの父親は壁にぶち当たり、壁を壊してそのまま外に転がっていく。
「え、あれ?今、え?」
「やべ、やり過ぎたかな。まぁ、死んでねぇだろ。だから言っただろうが、三次元舐めんなって」
外に放り出されたまま、戻ってないことを見ると気絶してるってところか。確認するまでもないだろ。
それに、そんなことよりも俺はカヤに言わなければいけないことがある。
やってしまったものは仕方ない。やってしまったのなら男として責任を取らなければいけない。
俺はカヤに近づいて、両肩を掴んだ。
「え?丈さん?」
「カヤ、俺はカヤに言わなければいけないことがある」
「は、はいっ!な、何でしょうか!?」
顔を赤くしながら、俺をじっと見つめるカヤ。
そんなカヤに顔を近づけて…そのまま頭を下げて俺は言った。
「すまん、ドアだけじゃなくて壁まで壊しちまった。あんまり経験無いけど頑張って直すから」
「…え?」
俺とカヤの間に一筋の冷たい風が流れた気がしたが、まぁ、さっきぶち抜いた穴から入ってきた風だろ。
そうして、俺とカヤによる「マッチ売りの少女」の物語は終わった。
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