本の世界~1-1~
2話目になります。宜しくお願いします。
気が付くと雪が吹雪いていた。
「さっむ!どこだここ!?」
さっきまで俺は自分の部屋にいて、本を掴もうとしたら吸い込まれて…吹雪く中、辺りを見回すとそこはヨーロッパにあるような町並。ほんとどこだよ、ここ!?
如何せん、着ていたのが冬服とはいえそこまでの防寒機能はない。ましてや裸足であり、地面は雪に覆われている。こんなとこにいたら霜焼けどころではなく凍傷まっしぐらである。
ガタガタ震える身体と視界の悪い世界。それでも少しでも状況を把握しなければ、と思って周囲を見渡すと目に留まる、通りの片隅にあるゴミ箱…の前にある2つの重なった箱。ちょうど足より少し大きいくらいの箱。
無いよりマシだと箱に両足を突っ込む。一先ずこれで足の冷たさは何とかはなるものの、何でこんなひもじい思いをしなくちゃいけねーんだ、ちくしょう。
ここがどこだかわからんし、俺がどういう状況かもわからんし、腹が立つし、このイライラをとりあえず目の前のゴミ箱にぶつけてやろうと蹴り上げようとしたら、後ろから声がかかった。
「あ、あの、マッチ入りませんか?」
声に振り向くと13、4歳であろうか、小柄でフードを被った子供が、おずおずという形容詞が似合いそうな形でこっちに声をかけていた。
声からして少女であろうか?フードを深く被っており、顔はよく見えないが、少なくとも周りに人がいないこの状況では、俺に声をかけてきたのあろう。
「なんだてめぇ?」
「ひっ、ご、ごめんなさい」
苛立っていた俺の声に少女はビクつき、手に抱えたバスケットから何かを取り出そうとしていた手を引っ込めて胸に両手を抱え込むようにして縮こまる。
「あの、その、寒そうだったのでマッチいるかなと思ってそれで…」
「まぁ、寒いのは事実だが。なんだ、マッチを売ってんのか?」
「は、はい。ごめんなさい」
「いや、謝られてもな」
こんな吹雪いてる中、マッチを売るなんざまるでマッチ売りの少女じゃねーか。…マッチ売りの少女?
…少し考えろ、俺。今何でこんなところに俺はいる?
ぶかぶかの指輪を嵌めたら、急に指にぴったり嵌って、その後…本棚、ではなく本が光った。何の本だ?あの場所は確か最下段、ガキの頃の本を仕舞っていた場所。
何があった?確か…童話やその辺りの本がそのままそこに。
いやいや、んな馬鹿な。確かに本に吸い込まれそうになったのは覚えてる。無茶苦茶だがはっきりと覚えている。
指が本にめり込んだのはよく覚えている。
だが、それからどうなったのかはわからん。
気づいたらこの摩訶不思議な世界だ。それで目の間にはマッチを売る少女。
まるで物語の「マッチ売りの少女」じゃねーか。てことはこの女の子はこれから…。いや、何を考えてるんだ俺は。そんなふざけたことがあってたまるか。
俺が心の中で自問自答しながら悩んでいるのをどう解釈したのかはわからんが、目の前の少女は俺が興味がないと思ったらしく、言い訳のように慌ただしく声を続けた。
「きゅ、急に声をかけてごめんなさい。あの、風邪とか引かないように早く家に戻ったほうがいいと思いますよ…、今日は大晦日ですし。あの、その、ごめんなさい」
そういって、後ろを向いて俺から離れようとする。
「ちょっと待て……いくらだ?」
「え?」
「だからその…マッチいくらだ?」
「あ、あのマッチ買ってくださるんですか?」
何を言ってるんだ、俺は。咄嗟に呼び止めるにしても別の方法があるだろ。
何でだ、まさかさっき思い浮かんだ荒唐無稽な…本の世界「マッチ売りの少女」の世界に俺が飛び込んだとでも?
少なくとも今どんな状況かもわからんまま俺は一体何をしようとしてるんだ。
でも万が一、万が一にだ。ここが本の、物語の世界として、そしたらこの少女はどうなる?このままマッチが売れずに自分で火をつけてそれで…。
「いや、まぁ、寒いのは事実だしそこらにある木材か紙を燃やしたら少しは暖かくなるだろ」
「はぁ、それはまぁそうですけど。本当に良いんですか?」
「いいよ、マッチ一箱くれよ。いくらだ?」
マッチ一箱の相場はわからんが、コンビニで100円ライターが売られる時代だ。この世界がそれに当てはまるかどうかどうかわからんが少なくともポケットにある小金で足りるだろう。
ゲーセンで負けて散財したがそれくらいの金はまだ残ってたはずだ。といっても借りた金だが。
ポケットから小銭を取り出そうとする俺に少女はマッチの値段を言う。
「あ、ありがとうございます。2万円になります」
「舐めてんのかてめぇ」
金を探すためにポケットに突っ込んでいた右手をそのまま、少女の胸倉を掴む行動に切り替える。
「ひ、ひぃぃ!?」
「マッチ一箱2万円だぁ!?ふざけんなよぶち殺すぞ!」
胸倉を引っ張るに合わせて、少女のフードが落ちる。それに合わせて金色の糸、いや少女の髪が
零れ落ちる。よくよく見るとかなり整った顔立ちをしている。ショートカットの髪型に、潤んだ瞳。少なくとも美少女というには問題ない顔をしている。
しかし、その顔は今は恐怖に引き攣り、半泣きになっていた。そしてキレた俺にはそんなものは一切関係が無かった。
「こちとら訳わからん世界にいきなり引っ張り込まれて苛立ってんだよ!!思い当るところがあるから少し温情かけてやったらその金額はふざけてんのか、おぉ!?」
「ご、ごめんなさい!よくわからないけどごめんなさい!その、お父さんがお前なら2万なら買ってくれる奴がいるから2万でいけって言われたからそれで。ごめんなさい!」
…何言ってんのこの子。
2万ならいけるってそれって…あれじゃね。
「お前意味わかって言ってんのか?」
「…?いえ、とりあえずそう言えって言われてそれで。声かけたのはお兄さんが初めてなんで…。やっぱり2万円って高いですよね。私もマッチで2万円って高すぎると思ってたんです…」
「…その提案をした奴は他に何か言ってたか?」
「?…お父さんは2万円出してくれる人がいたらついて行って2時間ぐらい一緒に遊んで来いって。マッチを2万で買ってくれてしかも遊んでくれるってそんな神様みたいな人いないですよね、あはは」
はい、アウトー!まさかと思ったらやっぱり援○じゃねーか!買うやついたら神様どころかそれは悪魔だよ馬鹿野郎!つーか、娘にそんなこというとかクソ野郎じゃねーか。
しかも意味わかってなくてこの子マッチ売ってんじゃん。遊ぶの意味めっちゃ純粋に捉えてるじゃん。え、何、マッチ売りの少女ってそんな話だっけ?
あれじゃねーの、寒くてマッチに火を付けたら色んな妄想が浮かんで最終的に死ぬやつじゃねーの?このままいったら全然童話になんねーじゃん!18禁だよ!幼い子供達に見せらんねーよ!
頭を抱えて悩み始める俺を見てどう思ったのか、少女は
「あの、お兄さんに声を掛けたのは本当に寒そうだったのでそれで…。あの、マッチ1箱置いときますね。あ、もちろんお金はいらないです。マッチまだまだたくさんあるんで。…それに正直2万円なんか売れるはずないんで。あの、本当に風邪とか引かないように気をつけてくださいね?」
そういって、少女は俺の傍にマッチを一箱置いて離れていった。
俺はそれを見て…どうすればいいんだ、俺は。声を掛ける?助ける?どうやって?
今いる世界は俺が居た世界とは違う。元の世界なら学校なり警察なりどこにでもいってそれでなんとかなる。でもこの世界にそんなものがあるのだろうか。
いやあったとしてどうやってそれを言う?俺自身正体不明の人物なのに、下手したら俺が警察に捕まる羽目になる。それに仮に助けれたとしてその後はどうする?
そんなことが頭の中をぐるぐる回りながら、少女を見つめる。
少女は寒そうに身を縮めながらも、声を掛けるべく次の人を探す。そして、…見つける。
「あ、あのマッチ入りませんか?」
「ウヒッ!?マ、マッチ!?い、いくらだい?」
「あの、その、2万円になります」
「買った、買ったよー!僕が買うよ!」
「ほ、ほんとですか?いいんですか?」
「い、いいとも。ぐひ、じゃ、じゃあ僕の家に行こうかっ!」
「え、本当に遊んでもくれるんですか?」
「あ、遊ぶとも。遊びますともー!いっぱいいっぱい遊ぶよー!!」
「あ、ありがとうございます。私初めてで、その、よろしくお願いします」
「は、初めてーっ!?ぶふぅっ!、ふぅ、ふぅ、宝じゃ、宝物が目の前に!!」
「え、えと、鼻からすごい血が噴き出てますけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です、はい。で、では、い、行きましょうか。ささ、僕の後ろに」
「は、はい。行きましょうか」
「うぉりゃぁぁぁーーー!!」
掛け声と共に、脂ぎった禿げ頭に飛び蹴りをかます。
「ぽぎゃぁぁーーーっ!!」
「え、えぇぇぇ!?!?」
おー、我ながら綺麗に決まったじゃねーか。
派手に吹き飛んだおっさんは壁にぶち当たり、ピクピクとしている。おそらく失神しているのだろう。
そんなおっさんを横目に、何が起きたかわからず戸惑っている少女に向かい合う。
「おい、てめぇ名前は?」
「え?」
「名前だ名前。まさか無いのか?」
「え、あ、カヤです」
「カヤか。おいカヤ、家に案内しろ」
「え?家ですか?」
「あぁ、正確に言うとカヤの父親がいる場所だ」
「えと、どうするんですか?」
「あぁ!?いいから案内しろや!」
「ひぃぃ!?わ、わかりました」
面倒なことは嫌いだ。俺に得が無いことはしたくない。時間の無駄だ。
…だが、目の前の困っている人を無視して生きていくのはもっと面倒だ。
もともと考えるのは苦手だ。行き当たりばったりだが、思った通りに動くのが一番楽だ。
そう自分に言い訳するようにしながら、俺はカヤとともに父親がいる場所へ向かった。
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