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ー獣妖人と僕ー  作者: ひとみ
第1章・北闇の国編・手がかり
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003・柚姫視点

◆◆◆◆◆


風呂から出て着替えた僕達は、タモンのもとに足を運んでいた。


隣には俯きながら歩く鷸亀(イツキ)の姿があるが、それは周りの視線から逃れるためだろう。


『(それにしても…)』


一部の人間だけでなく、こんなにも大勢から嫌われているなんて変だ。


『何もしていないなら前を見て堂々と歩け…』


小さく首を横に振るのは、身に覚えがあるからなのかそれともただ怖いからなのか。


そんな事を考えていると、目の前に長い石段が見えてきた。


この上に目的地があるらしいが、建物が見えないのは平屋だからだろう。


鳥居をくぐって石段をのぼると、開きっぱなしの門が姿を現す。


「すごいね、汗一つ流さないなんて…」


『鍛えられているからな。お前の方こそ平気そうじゃないか』


「ここには毎日来ているから、もう慣れちゃった」


ということは、こいつにとってタモンは敵ではない。


だが、助けてくれるわけでもない。


そのおかしな関係に疑問を抱きながら、挨拶もなしに勝手に入りこんだ。


長い廊下を歩けば、その必要はないとわかったが。


『二級・一級歩兵隊、上等歩兵隊、伝令隊に医療隊、精鋭部隊か…。さすが、隊を束ねているだけあるな…』


廊下に沿っていくつもある部屋はそれぞれの部隊の待機室として使っているらしく、最後の部屋には部隊長室とある。


『これが昨日話してくれた闇影隊?』


「そうだよ。1年間育成学校に通ったあと、卒業できたら試験を受けるんだ。それに合格してやっと二級・一級歩兵隊になれるんだって」


その2つをまとめて「下級歩兵隊」と呼ぶらしい。


『その他の部隊はまた別ということか…』


「上等歩兵隊と伝令隊と医療隊は、下級歩兵隊で実績を出さないと試験を受けられなくて、精鋭部隊は…」


タイミングよく開いた引き戸のせいで会話が途切れてしまったが、そこから出てきたのは全身黒一色の服に身をつつまれた男。


面をしていて、顔はわからない。


『…あれが精鋭部隊の奴か?』


「うん…」


どう見ても危ない仕事をしている奴だ。


そして、一番奥にある部屋の前で立ち止まった鷸亀(イツキ)は扉を目の前にして小さく息を吐いた。


「ここがタモン様の部屋だよ…」


扉の上には不撓不屈(フトウフクツ)の文字がある。


『(どんな困難や苦労に対してもひるまず、心がくじけないこと…)』


闇影隊の座右の銘ってところだろう。


扉を開くと、中には先客がいたらしく睨まれてしまった。


執務室として使っているようで、そこには「玄帝(ゲンテイ)」の刺繍がされた羽織りを着た男が窓の外を眺めながら立っている。


『お前がタモンか?』


振り向いた奴の顔は、想像していたよりも若かった。


黒くて短い髪に赤い瞳。


体格がよく、身長も高め。


赤い瞳も印象的ではあるが、それよりも額にある黒の丸い2つの点が気になる。


ちょうど眉の上らへんだ。


「貴様っ…、タモン様に向かってその口の利き方はなんだ!!子どもだからといって許されないぞ!!」


そう言いながらも、視線は鷸亀(イツキ)に向けられている。


『尊うべき者も従うべき者も自分で決める。大事な話があるから席を外してくれるか?』


「ーーっ、どこ国の者か知らないが、ここで叩き斬ってやる!!」


『…耳が悪いようだな。席を外してくれと頼んだんだ。この阿呆…』


刀に手をそえた先客は(サヤ)を握り引き抜こうとした。


だが、タモンが止めに入り渋々部屋から出ていく。


『(あいつが着ていた服…、あの男達も着ていたな…)』


鳶職人のような、そうでないような。


雰囲気は似ているけど、でも確かに違う変わった服だ。


僕の後ろに隠れている鷸亀(イツキ)は小刻みに震えていた。


『(今日見たことは他言するな、か…。ってことは…)』


あの日の夜、無理矢理引き戸が開かれ家の中に入ってきた男達は暴力を繰り返し、さらには口に動物の死骸を突っ込んだ。


その後、外に逃げだした鷸亀(イツキ)だったが相手は大人。


捕まってしまい、また暴力を受けた。


僕が来たのは、その真っ最中だったんだと思う。


あの服は鷸亀(イツキ)にとって恐怖そのものだろう。


でなければ、こんなに震えたりしないはずだ。


「……んで、何か用があるんじゃねぇのか?」


『すまない、考え事をしていた。話をする前に頼みがある』


「なんだ?」


『屋根裏にいる者をどこか他所にやってくれ。あまり聞かれたくないんだ』


「よく気づいたな…」


片手を上げ「散」と口にしたタモンは、いまだに隠れている鷸亀(イツキ)を気にしながらも話を続ける。


「…お前、この国の者じゃないな。それにニオイも気配もないときた…。幽霊と話している気分だ」


『よく気づいたな』


なんて嫌味ったらしく言ったものの、正直驚いた。


誰にも指摘されたことのない、生まれながらに持つ僕の特徴のうちの2つ。


ニオイと気配がないことに気づかれてしまった。


『(あいつ以来だな…)』


どこかに行ったっきりまだ戻ってきていないたった一人の友達は、最初に僕の特徴に気づいた者で、他に気づく者はいないとばかり思っていたが。


『…僕は何者でもなければこの国の者でもない…が、そんな事はどうだっていい。話とは、鷸亀(イツキ)のことだ』


「言ってみろ」


『単刀直入に聞く。「化け物」とはなんだ??』


椅子から立ち上がったタモンは、痛いほどの殺気をぶつけてきた。


この様子だと、やはり何か知っているみたいだ。


しかし、口を開かないのは鷸亀(イツキ)の前では話せないということ。


『…先に言っておくが、僕には「生」への執着心がない。その殺気は無意味だ…。黙らせたいのなら、殺すんだな』


「そうさせてもらう…」


「イヤだ!!柚姫(ユズキ)がいなくなったら…またっ…」


殴られちゃう。


その声はとても小さかった。

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