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死闘?いえいえ、一方的です

「死ネ!死ネ死ネ死ネェー!」


 悪鬼ゴブリンリーダーが奇声を上げ、短剣を振り回しながら突っ込んでくる。その行動はまさに奇行。先ほどまで冷静だった悪鬼ゴブリンだとは思えず一同は唖然とした。味方であるはずの他の悪鬼ゴブリンもあまりの豹変ぶりにその場で固まってしまったのか、ただ俺たちに襲い掛かろうとしている悪鬼ゴブリンリーダー格を見ている形になった。

 しかし、奇行とはいえそれはあまりにも良いタイミングでの奇襲。先ほどまで話していた相手がいきなり襲い掛かってくる事などこの場にいる全員は体験したことがないのだろう。相手の悪鬼ゴブリン軍団をはじめ、ガラベルでさえも一瞬動きが止まった。


「魔王様っ!!」


 致命的に遅い覚醒。それでもガラベルは俺と悪鬼ゴブリンリーダー格との間に割って入ろうとした。

 ・・・が、あまりにも遅すぎた。すでに悪鬼ゴブリンは俺の眼前、短剣の届く範囲にまで迫ってきていた。


「死ネ!!」


 短剣が喉元めがけて振り下ろされる。───が、

 

パァン!!

 

と快音が鳴り響いた。・・・勿論、俺は死んでない。ただ───首の無い悪鬼ゴブリンリーダー格の遺体がそこら辺に転がっていた。


「「───ッ!?」」


 周囲から息を飲む音が聞こえてくる。その視線の先には右腕を鮮血に染め、ただ平然と立っている俺を捉えていることだろう。

 ・・・さて、何故このような事になったのか詳しく説明すると、悪鬼ゴブリンの短剣は確かに俺の喉元へ振り下ろされた。ただ、今の俺は放たれた矢を寸前で避けられるほどに動体視力や身体能力、その他諸々が強化されているんだ。短剣の動きを捉えることなど容易だ。

 上半身を後ろにそらして短剣の切っ先を避け、右腕で悪鬼ゴブリンを弾き飛ばした・・・はずだったんだが、予想以上に俺の身体能力は強化されているらしい。悪鬼ゴブリンの顔面にクリーンヒットした俺の右腕(結果的に裏拳)は何の抵抗もなく悪鬼ゴブリンの頭部を粉砕した。

 これが快音の正体だ。

 そして殴った時の勢いで頭部をなくした体は右側の茂みにぶっ飛び、今の状態に至ると。

 ・・・正直言って一番俺が驚いている。しかし、存在能力クラススキル【魔王の威光】のせいなのかそれが表に出せない。心境的には「は?ちょっえぇぇぇぇぇぇ!?」といった感じなのだが今の俺を傍から見るとただ冷静に、もしくは冷徹に悪鬼ゴブリンの無残な死体を見ているのだろう。・・・想像しただけで確かに魔王っぽいのだが、これ(【魔王の威光】のこと)ホントに要らない能力スキルだな!!


「ま、魔王様。お怪我はありませんか!?」


 大分遅れてガラベルが俺の元に駆け寄ってきた。・・・ガラベル君よ。俺の心配をしてくれるのは嬉しいんだが、どうしてそんなに目をキラキラさせているんだい?というかもう少し俺を守る方にも注力してくれないか?


「まぁまぁ、彼に守ってもらわなくても君自身でなんとかできるでしょ。それにしても彼、すっごい目を輝かせてるね。ふふ、これぐらい最上位存在だったら普通なのに。」


 背後のアマナの声が若干、弾んでいるように聞こえる。・・・そういうお前もさっき驚いていたよな?


「・・・」


 あ、否定はしないんだね。


「ゼ、全員武器ヲ持テ!!」


 などと下らないお喋りをしている間に敵は冷静さを取り戻し、再度陣形を組む。指揮を執っているのは先程、リーダー格に咎められていた悪鬼ゴブリンだ。

 周囲の悪鬼ゴブリンたちも慌てて武器を構えるが・・・心なしか震えているように窺える。悪鬼ゴブリンリーダーの姿が頭から離れないのだろう。


「キ、貴様ラ!無駄ナ抵抗ハヨセ!!我々ハ素直ニ付イテキテクレレバソレデイイ!」


 などと真っ先に矢を放った張本人が抜かしてきた。見ていて情けないぐらいにビビりまくっているのがわかる。


「・・・貴様ら、あまり調子に乗るなよ?」


 隣からワントーン低い声でガラベルがポツリと言った。その瞬間、洞窟前で感じた悪寒が蘇った。ただし今回は自分にではなく相手にだが。


「・・・魔王様に対しての数々の無礼。その身をもって償わせてやろう!!」


 ガラベルがそう言い放つと、より一層背筋に寒気が・・・いや、ちょっと待て。普通に寒いぞ!?寒いなんてもんじゃない、もう凍えてしまいそうなほどだ。気温が低下している?一体なぜ?

 そう思っていると周りに変化が訪れた。密林に・・・雪!?ブリザード顔負けの猛吹雪があたり一面を白く包み込んでゆく。

 どうなっているんだ!?その疑問を解消すべくガラベルの方を向くと───いない!?


「ギャァッ!!」


 すると突然、前方にいた悪鬼ゴブリンの内一体が喉元から血を吹き出しながら倒れた。その顔には驚愕の表情で満ち満ちていた。


「ギャガッ!!」


 すると今度は後方から叫び声が聞こえた。視線を移すと同じように息絶えた悪鬼ゴブリンが。

 同じように一体、また一体とあらゆる方向から数を減らされていく悪鬼ゴブリンたち。・・・何が起こっているんだ?

 よく眼を凝らしてみると動く影を確認できた。・・・ガラベルだ。視界が悪いといっても今の俺がしっかりと捉えられないなんてどれだけ高速で動いているんだ!?

 ・・・それよりも、なんだこの吹雪は?


「なるほど、この雪は彼が魔法で生み出した物だね。雪ってことは深蒼色の魔法かぁ。」


 アマナは一人納得したようでやけに感心していた。

 ・・・これが魔法?てか深蒼色ってなんだ?


「あぁもぅ、めんどくさいな!こんな事ならやっぱり洞窟の中で話とけばよかった!!」


 そう言わずに教えてくれよ。


「・・・深蒼色っていうのはガラベルの持ってる魔力の色のことだよ。」


 ・・・色?


「魔力にも人それぞれ色があるんだよ。そうだね、分かりやすく例えるなら顔・・・みたいなものかな?人はそれぞれ似ていることはあってもまったく違う顔だよね。それと同じで魔力も人それぞれ違うんだよ。

 基本的には赤、青、緑、黄、土、がほとんどなんだけど、稀に紫色の魔力の人もいればガラベルみたいに深蒼・・・つまり濃い青色の魔力の人もいるんだ。」


 ふ~ん、でもどうして雪なんだ?


「魔力の色は魔法の属性を現すんだよ。赤だったら炎、青だったら水みたいにね。深蒼は氷の属性みたい。」


 え、じゃあ一つの属性の魔法しか使えないのか!?


「そうだよ。」


 ・・・そうか。


「何でそんなに残念そうなの?」


 ・・・いや、ちょっと期待してたんだがもう割り切った。気にしなくていい。

 それよりなんでガラベルは雪を降らせる魔法しか使わないんだ?もっとこうバーンとかドッカーンとしたの使えばいいのに?


「何いってるの?魔法でそんな訳のわからないことできないでしょ?」


 え?


「それよりもほら、そろそろ決着がつきそうだよ。」


 アマナの解説を聞いているうちに悪鬼ゴブリンの数はすでに5体程度しか残っていなかった。気付かないうちに吹雪も止んでおり、悪鬼ゴブリンの前には左右にナイフを持ったガラベルが立っていた。5体は身を寄せ合ってガタガタと震えていた。その震えは先程までの猛吹雪からくる震えではないことは、現状からみてすぐに分かるだろう。

 

・・・あまりにも哀れすぎるな。

 

 ・・・・・・アマナ、俺の魔力の色とやらはわかるか?


「え?どうしたの急に?」


 いや、やりたいことと試したいことが同時にできた。早く教えてくれ。


「え・・・あ、うん。・・・・・・え、嘘!?」


 どうした?


「絶対ありえないんだけど三色の魔力を持ってるよ・・・君。」


 ほぉ、それは嬉しい情報だな。そんなことよりも早く教えてくれ!


「え、え~と。赤、青、緑だね。」


 赤、青、緑ね。了解、ありがとう。

 ・・・さて、じゃあやるとしますか。


「ガラベル、こっちへ来い。」


 そう俺が発言するとガラベルは「っは!」と言って、悪鬼ゴブリンのことは放って俺の元まで駆け寄って跪いた。・・・いや、別に跪く必要はないんだけど。

 今にも殺されそうだった悪鬼ゴブリンたちは安堵の表情を浮かべている。


悪鬼ゴブリンたちよ、貴様等の境遇には同情しよう。」


 悪鬼ゴブリンたちが顔を上げる。俺の言葉を聞いて逃がしてもらえると思ったのだろう。───だが


「だが、それとこれとは話が別だ。」


 俺はそういって悪鬼ゴブリンたちめがけて手をかざした。こいつ等には悪いがすこし俺の実験台になってもらおう。まずは試したいことからだ。

 かざした手に集中する。吸って、止めて、一気に吐く。そして俺の魔力、赤、青、緑だったか?今回は赤の魔力のかざした手に集めるイメージをする。

 魔力といっても所詮は俺の体の一部だ。使えないなんてことはないはずだ!

 そう自分に言い聞かせただただイメージを続行する。すると手に何とも言えない不思議な力のようなものが集まっていく感じがした。・・・よしこれなら!

 そして集まった力を手のひらの前で渦巻かせる。勿論、これもイメージ。

 すると魔力が目視できるほどに渦巻いて集まり、かざした手の前に炎の球が出来上がっていた。轟々とうねりをあげている。

 ちらりと悪鬼ゴブリンたちを見る。するとビクンっと肩を跳ね上がらせ恐怖で顔がくしゃくしゃになっていった。勿論そんな悪鬼ゴブリンたちに俺は


───容赦なく炎の球を放った。


 かなりの熱量をもった炎の球はうねりをあげたまま向かっていく。あまりの恐怖で動けないのだろうか?悪鬼ゴブリンたちはただ向かってくる炎の球を見ているだけだった。

 そして着弾。

 炎の球は火柱をあげ、その周囲のものを焼け焦がしていった。そしてその後に残ったものは灰になった木々と───無傷の悪鬼ゴブリンたち。

 それもそのはず、俺が悪鬼ゴブリンたちに被害が出ないよう細心の注意を払いながら足元に炎の球を放ったのだ。一番前にいたやつの靴の先が焼けて灰になっているようだがまあ生きているんだから問題ないだろう。


「即刻、この場から立ち去れ!!」


 俺がそう一喝すると5体の悪鬼ゴブリンたちは我先にと逃げ去って行った。


「な、何今の!?」


 驚きを隠せないアマナ。

炎の球のことか?そうだな、そのままの通り【火炎球ファイアボール】とでもいっておこうか。


「そういうことじゃなくて!!・・・今の魔法なの?」


 そうだけど・・・俺の世界ではこういうの本とかゲームとかでは当たり前なんだが。


「・・・君、規格外すぎるよ。」


 そういうとヘタリと俺の頭に乗っかるアマナ。・・・腰が抜けたのか?そんな大層な物でもないというのに。


「魔王様!!」


 すると今度はガラベルが嬉々として話しかけてくる。


「魔王様の能力スキルを見させていただき私、感服いたしました。今後とも魔王様の手となり足となれるよう精進いたします!!」


 いや、能力スキルじゃないんだけど。・・・まぁいいか。


「ところで先ほどの悪鬼ゴブリン共は逃がしてよろしかったのですか?」


 ガラベルは心底不思議そうにそう聞いてきた。

 ・・・まぁ、あいつらも生活がかかってやったことだし仲間も何人も殺されてるからな。多少の同情はしてやってもいいだろう。それに同情する余地は他にもあるんだが・・・それはまあ追々ガラベルにも伝えてやるか。


「いい、放っておけ。」


 そういうとガラベルはただ「っは!」と言ってまた跪いた。・・・もぅ諦めます。

 

「それでは、魔王様。少々一悶着ありましたが、我々の村に向かいましょう。」


 そして、ホントに色々あったが俺とガラベルは村に向かってまた歩き出した。


魔法を使ってくれました!!この世界では魔法はただ魔力を流すだけのものらしく、主人公のようなしっかりとした魔法は使わない模様。実際ガラベルは能力と勘違いしてますし。

 今後の主人公の魔法には色々な奴らが驚いてくれるでしょう!!主人公のイメージ力に期待です!

では!

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