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数の暴力が強い、それは昔の話。

密林に入って1時間と少し、俺たちは道なき道をただひたすら歩いていた。草木をかき分けガラベルの後をついて行っている訳なんだが俺たちは───少なくとも俺は一つ困った問題を抱えていた。

 ・・・・・・・何一つ変化がない。

 景色が変わらないのはいい。密林なんだ。景色が変わっていないように見えるのは仕方がないと言える。むしろ当然だ。

 ただ俺が問題視しているのはそこじゃない。俺が問題視しているのはもっと違う、そろそろやってくるであろうこの状況だ。


「・・・申し訳ありません。本来であれば魔王様にこのような所を歩かせるなど。」


 ・・・数分に一回、多少の誤差はあれど定期的にこの言葉を繰り返すガラベル。

 ・・・そう、これだ。この流れだ。この流れを何十回と繰り返しているんだ。こんなのが1時間と少しだぞ!?他のことなんてどうだってよく思えるほどに苦痛だわ!

 唯一の砦だったアマナもこの状況に呆れて俺の頭の上で眠ってしまっている。・・・コイツ、俺の頭をなんだと思っているんだ?

 そんな訳で俺はすごく困っているわけだ。だからと言ってどうこうっていう訳じゃないんだが何ていうのか・・・俺にはこの気まずい雰囲気はとても耐えられそうにない。勿論、ガラベルも本気で悪いと思っているのだろうし俺に気を使ってくれている訳なんだからこっちも悪い気はしない。しかし、ここまで重い雰囲気のまま進み続けているとやはり気が滅入ってくる。そのせいでまた雰囲気が悪くなる。・・・負のスパイラルだ。

 そんな状況を打開すべく、さっきから頭の上で惰眠を貪っているコイツ(アマナ)に念じかけてはいるんだが一向に起きてくれる気配が───


「・・・んぁ?」


 ・・・起きたぁぁぁぁぁ!?


「え?急にどうしたの?」


 おまっ、何勝手に人の頭の上で寝てんだ!?この状況で俺を一人にしないでくれるか!?


「もぅ~、寝起きなんだからそんなに騒がないでよ。というよりいいの?」


 何が!?


「ボクたち、囲まれてるよ?」


 そうアマナが言うが早いか、俺にめがけて何かが飛来してきた。

 俺はそれを反射的に半身ずらして回避するとそれは俺の背後にあった樹木に深々と突き刺さった。飛来してきた物の正体は───矢だ。


「っな!?」


 突然のことに驚くガラベル。しかし、それ以上に内心驚いているのは俺だ

 よくあれを回避できたと思う。普通なら今、矢が刺さっているのは俺の頭蓋骨であってもおかしくないほどだ。突然の・・・しかもあのタイミングでの強襲。生半可な身体能力、動体視力ではほぼ間違いなく矢がその身を貫くだろう。・・・魔王に転生して身体能力やその他諸々、強化されたのか?


「お怪我はありませんか、魔王様!?」


 そう心配するガラベルに首だけコクリと頷いて返答をし、周りを見渡す。

 すると、ぞくぞくと俺たちを中心に囲うように襲撃者たちがその姿を現した。小さな体に大きな鼻。濃い緑色の肌に小さな角が額の上部ににょきっと生えている子鬼たちだ。


「オイ、マダ射ルナト言ッタダロウ?」

「スマナイ、手ガスベッタ。」


 子鬼たちのリーダーらしき鬼が、矢を射ったであろう別の子鬼を咎めている。


「相手は見たところ30体ってところだね。まだ後ろに隠れてるよ。」


 そういってアマナは前と同じようにサポートしやすい位置に移動する。次の子鬼たちの奇襲に備えてだろう。

 パッと見、子鬼たちの装備はかなり良質な物のようだ。やけに頑丈そうな防具に各々がそれぞれの武器を手に陣形をとっている。この人数差でだ。


「それはこっちが上位存在だからね。相手もそれなりに警戒はしてるんだよ。でもまだこの程度じゃ足りないぐらいだけど。」


 アマナは鼻で笑った。・・・俺たちどんだけ強い設定なんだよ。


「オイ、ソコノオマエ。」


 するといきなりリーダー格の子鬼がガラベルに指をさして喋りだした。


「我々ハ、オマエニ用ガアル。オトナシク付イテコイ」


 無駄に片言な喋り方でそう言った。ガラベルに用?一体どういう何の用だ?まぁ、いきなり弓を射るような用だ。そんな良好的なものじゃないんだろう。


「私に用?ふざけるな!貴様たちは誰にその矢を放ったか分かっているのか!たかだか悪鬼ゴブリン風情が!」


 当の本人はかなり本気で怒り心頭のご様子。懐から大振りのナイフを二本とりだし、左右に逆手に構える。臨戦態勢だ。


「ソウカ、ソッチガソノツモリナラ手足ヲ捥イデイクシカナイナ。」


  リーダー格の悪鬼ゴブリンが手をあげると隠れていた他の悪鬼ゴブリンたちも一斉に武器を構える。

 この場全体がピリピリとした緊張感に包まれる。すぐにでも戦闘が始まってしまいそうな勢いだ。俺はあわててガラベルを手で制す。


「魔王様!?」


 驚いた顔でこちらを見る。


「待て、少々こいつ等に聞きたいことがある。」


 相変わらずな威圧的な言葉。しかしそれもガラベルには効果があったようだ。渋々ながらも武器を収めてくれた。


「ナンダ、オマエハ?」


 今度は不機嫌そうに悪鬼が発言する。それもそうだろう。目的がガラベルなんだ。まったく眼中にない俺に戦闘を止められれば気も悪くなるだろう。だが、さっきも言ったようにこいつ等には聞きたいことがある。ここは我慢してもらおう。


「今から戦闘を始める前に貴様らにいくつか聞きたいことがある。それに答えてもらおう。」


 あまりに自分勝手な物言いにさらに機嫌を悪くする悪鬼ゴブリン


「ソノ質問ニ答エテ、コッチニ何カ得スルコトガアルノカ?」


 至極当然の返答。だが俺が求めているのはそんなことじゃない。

 じっとリーダー格の目を見る。言葉ではなく目で語る。「どうでもいいから答えろ!」っと。

 そうすることしばし、俺の最も要らない能力スキル【魔王の威光】が功を奏したのか、リーダー格が口を開いた。


「・・・イイダロウ。3ツマデナラ答エテヤロウ。」


 3つ。それが悪鬼ゴブリンたちの妥協できる範囲なのだろう。

 ともかく、3つまで質問可能というわけだ。なら初めの質問。


「1つ目。貴様らはどうやって俺たちに気づかれずに近づいた?」


 そう、アマナ以外の俺とガラベルはこいつ等の接近に気付けなかった。俺だけならいざしらず、離れたところから俺たちの場所を突き止めたガラベルがこいつ等に気付けないはずがないんだ。


「ナンダ、ソンナコトカ。ソンナモノコノ魔王様カライタダイタ防具の特性トヤラのオカゲダ。」


「なるほど、【魔力隠蔽】【気配消去】の特性か。」


 ガラベルは一人納得した様子。え?また新しい単語がでてきたぞ?


「特性っていうのは一流の職人が作った武具に付加されるいわば武具版の能力スキルのことだよ。能力と違って誰もが簡単に力を持つことができるのが特徴だね。ただ特性がついてる武具は希少でそんな簡単に手にすることが出来ないんだけど。

 ていうか、やっぱりこんな時に説明するぐらいなら洞窟の中で説明しておいたほうが良かったんじゃ・・・。」


 なるほど、さすがアマナ。よく分かりやすい解説で。

 まぁ最後のほうの愚痴は置いておいて、俺たちに接近したのはその武具の特性のお陰ということだな。なるほど、特性ね。今後は気を付けなきゃならない代物かもしれない。

 

「それでは二つ目。今、魔王といったな?ガラベルを狙う理由も魔王に頼まれたからか?」


「ソウダ。魔王様直々ニ我々ハ任務ヲ授カッタ。コノ任務ヲ達成スレバ魔王軍直属ノ部隊ニ入レルト約束シテクダサッタ。ソウスレバ我々の生活ハ安泰ダ。モゥヒモジイ生活ハコリゴリダ。」


 今度は饒舌に話してくれた。魔王軍直属の部隊というのがよほど輝いて見えるのだろう。聞いてもいないことをよくもまぁこれだけ話してくれるものだ。

 ちらりとガラベルをみると怒っているような、悲しいようなそんな複雑な表情を浮かべている。友人が自分の敬愛する王の軍を勝手に使っているのだ。そうなってしまうのも仕方ないかもしれない。

 

「サァ、最後の質問ダ。」


 にやけ面を隠しきれていないリーダー格。およそその任務とやらが成功した後のことでも考えて笑みが止まらないんだろう。だが・・・


「最後の一つだ。貴様ら、その任務とやらに必要事項か何か言われなかったか?」


「ン?オオ、ソウダ。ソノ銀髪の男ヲ連レテ来ルニアタッテモシ隣ニダレカイタラソイツカラ先ニシトメロト言ワレテイタ。」

 

 ・・・そうか、こいつ等。


「ツマリ、オマエノコトダ。死ネ!」


 そう言うと、リーダー格の悪鬼ゴブリンは腰にぶら下げてあった短剣を抜いて俺に襲い掛かってきた。


 さてさて、いよいよ次の話で戦闘が!!・・・繰り広げられるかもしれません。

 今回、悪鬼ゴブリン君たちが登場しました。2対約30体の圧倒的数の差の前でどんだけ主人公たちは冷静なんでしょうね(笑)さて次回にちょっぴり期待していただけたら幸いです。あ、ですがあまり期待されてもその期待に応えられないかもしれません。許してください。

では!

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