とある日の夜のこと。
~~ある夜のこと~~
あの日はいつもより星が綺麗に輝いていた。新月ということもあってか、普段空なんか見ない俺でも今日の星は一段と綺麗だと思えた。
幼少の頃から親父にありとあらゆる武道を習わされ、ひたすらに勉強してやっとの思いで公務員試験に合格し念願だった警察官になれたのだが…人間、目標を達成すると次はどこに向かえばいいのか分からなくなるものだ。
デスクに張りつき書類の山を処理して、クレームがあれば対応するだけの毎日に日がたつにつれて自分は何をしているのか分からなくなっていった。だからだろうか?あの日だけは会社の屋上で星空に魅入ってしまった。
俺はこの仕事をやっていて良かったと思える日が来るんだろうか。なんてことを若造のくせに生意気にも考えていたんだが、ふと我に返るとそんなことを考えている自分が妙に恥ずかしくなってその場を去ろうとした。すると地上から聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
その人物の名は藤井 美沙《ふじい みさ》といい、俺と同じ同僚の女性社員だ。
綺麗というよりも可愛いといった表現が似合う女性で、社内でもかなり人気なのだがある出来事を境に俺によく話し掛けて来るようになった。
その代わりに、彼女が俺に話し掛けて来るたびに俺が皆の嫉妬の対象になってきたんだが…おっと話を戻そうか。
とにかく彼女が地上から声を掛けてきた。
軽く手を振ってみると、彼女は満面の笑みで大きく手を振り返してくれた。そして一言。「今から飲みに行かないー!」と夜中で周りに人が居ないからって大声で言うもんだからつい可笑しくなってしまって、笑いを堪えながら大きく頷くと彼女がガッツポーズをしているのが見えた。
子供っぽい人だなぁなんて思いつつ、今度こそこの場を立ち去ろうとした瞬間、身体に違和感を覚えた。
まるで心と身体が分離しているような…もしくは身体自身が動くことを否定しているかのような感覚。そのため振り返ることすらままならない。
それでも身体を動かそうと渾身の力を込めてみると不意に片足が動いた。…いや、あれは動いたんじゃない。何かに足を持ち上げられたんだ。とても不可解な力に。
不意に持ち上げられるという突然の動作に身体はバランスを崩し、屋上の安全措置として設置されてある手摺を易々と乗り越え、地上へと落下していった。
何が起きているのか分からないまま地上へと吸い込まれていく。
さっきまで自分がいた所がどんどんと遠ざかっていくにつれて、あぁ俺は死ぬんだとやけに冷静になっていった。
こんな時に冷静になるなるてどうかしてると俺でも思う。でも、あの時だけは死ぬという現実をすんなりと受け入れることができた。そして
………俺の身体は地面を跳ねた。
激痛が身体を襲う。落ちた時に頭を打たなかったようで、良いことかどうか知らないが即死は免れた。代わりに、全身の骨は砕け、その砕けた骨が臓器に突き刺さった。
酷い痛みだ。こんなことなら即死した方が良かったかもしれない。そんなことを考えていると俺の元へ彼女が駆け寄ってきた。
「何で!?どうして!?」と俺に問いかけてくる。いや、落ちたくて落ちた訳じゃ無いんだけど、っとそう思っているとハッとした。
彼女が泣いていたんだ。俺の為に涙を流してくれていた。俺なんかの為に心を痛めてくれていた。
その事実が嬉しくて…でも悲しくて。生まれて初めて全力で生きたいと思った。しかし、そんな思いとは裏腹に身体からは力が抜けていった。だからせめてもと、彼女の涙を拭うことにした。
最早手を握ることすらできないが気持ちだけで腕を持ち上げ、彼女の頬にそっと触れ、そのまま指で涙を拭う。
その涙はとても暖かくて、何かとても安心できた。…何かってことはないか。彼女が生きてるってことに安心したんだな。
それを理解したとたん、急に力が抜けた。腕を持ち上げる気力さえも残っていない。彼女に触れていた手もするりと地面に落ちる。
とうとう死んでしまうのか。そう思っていると頬に暖かい雫が落ちてきた。彼女が大粒の涙を流していたんだ。
何か言っている様だが、理解することができない。
…おいおい、そんなに泣いたら拭いきれないだろ。その思考を最後に、俺の意識は闇に呑まれていった。
少しばかり重い話でした。自分で書いててなんですけど、絶対に落下死だけはしたくないなと思いました。…だって怖いじゃないですか。
それはそうと、書いてて困ったことが一つ見つかりました。自分の表現力が無いのもそうなんですけど、方言かどうか分からないですね。標準語だと思っていても違ってしまう所が有るかもしれませんので、もしあったら教えて頂ければ嬉しいです。
では!