5 詰められない距離
夕食のあとエチエンヌとフェビアンをお供に出かけていったメロディが、獲物とともに帰城したのは深夜だった。
寝ずに待っていたセシルは、ジンから三人が戻ったと聞かされて部屋を出た。予想以上に遅かったので軽く叱っておくべきかと考えながら階段へ向かえば、階下がやけに騒がしかった。
「ああ、これは雌だね。肉が柔らかくて美味いですよ」
「すぐにばらして血抜きしなきゃなんないけど、ちょいと骨が折れそうだねえ」
夫婦で来ている料理人の声もする。階段の上からのぞき込むと、彼らの前に横たわる大きな生き物が見えた。
「ジン、あれは何だ?」
「……申し訳ございません、わたくしも存じません」
シュルクでは見たことのない獣だったので、セシルにもジンにもその正体はわからなかった。とりあえず熊でないことだけはわかるが。
「あ、セシル様! ただいま帰りました!」
彼らに気付いたメロディが元気よく声を張り上げた。
「おかえり。時間が時間だ、騒がないようにね」
もう就寝している者もいるので、まず注意しておく。メロディはあわてて口を押さえた。
「ずいぶん遅かったね。もう少し早く帰ると思っていたから、心配したよ」
「ごめんなさい、なかなか出てこなくて」
「出てこなかったというのは、それが?」
「はい」
セシルが階段へ向かうと、ちょうどナサニエルもやってきた。年長組三人は下へおり、問題の獲物のもとへ歩いた。
近くで見れば実に大きい。犬よりはるかに大きく、胴回りも立派だった。ずんぐりとした身体に濃い色の短い毛が密集している。足には二つに分かれた蹄が、口の両脇には小さな牙があった。突き出た鼻が豚に似ている。頭から血が流れており、他に外傷は見当たらないのでそれが致命傷だろう。
「一発で仕留めたか」
ナサニエルが感心する。
「おー、すごかったぜ」
疲れた顔のエチエンヌが答えた。
「うんざりするほど待って、ようやく出てきたと思ったのに動くなって言われて、じっと気配を殺してこいつがいい場所に来るまで待ったんだ。筋肉お嬢が弓を構えてからもずいぶん時間をかけて、やっと射たと思ったらそれで終わりだ。見たらもうこいつが倒れてた。さんざん待ったのに何もしないうちにあっさり終わってやんの」
「僕らは最初から荷物持ち要員ですね。仕留めるには矢の一本で足りたけど、そのあとが大変でしたよ」
フェビアンもぐったりしたようすで苦笑した。
たしかに、自分よりも重い獣をメロディ一人では運べないだろう。だから二人とも連れて行ったのかとセシルたちは納得した。
「待ち時間と帰る苦労ばかりが大変で、本番はあっという間に終わっちゃったねえ」
「狩りはそんなものだよ。足跡や糞を見つけて巣の場所や行動範囲を調べたり、前準備の方が重要なんだよ」
「ああ、たしなみじゃなく実用的な狩りの心得ね……」
セシルは笑ってフェビアンの肩を叩いてやり、メロディに尋ねた。
「それで、これはなんと言う獣なのかね?」
メロディだけでなく、その場の全員が驚いた顔をした。どうやらセシルとジン以外にはお馴染みの生き物らしい。
「セシル様、ご存じないんですか?」
「シュルクでは見かけなかったからね」
「なるほど、そうかもしれませんね」
ナサニエルがうなずいて教えてくれた。
「これは猪です。豚の仲間で、滋養があり美味なのですが」
「ああ、これが……」
名前は知っていたし食べたこともある。しかし原型を見たのは初めてだ。こういう生き物だったのかと、セシルとジンはなんとなく猪を見つめた。
「昼間に会ったおばあさんがね、毎晩猪に畑を荒らされるって困ってたんです。猪は気に入った水浴び場や餌場に何度も現れるから、その近くで張り込めば割と簡単に獲れるんです」
「……ほう」
さすが野生動物の生態に詳しい。簡単かどうかは、意見の分かれるところだろうが。
「騎士様、もう少しお力をお貸しいただけますかね。こいつを厨房まで運びたいんですが」
料理人の親父が言った。
「もしかして今からさばくの? もう夜中だよ」
フェビアンに聞かれて仕方なさそうに笑う。
「冬ならいいけど、この時期じゃ置いとけませんから」
彼も奥さんもすでに寝間着姿だ。明日の仕込みにそなえて早く寝ていたのを叩き起こされてきたのだった。これから解体作業というのは気の毒な話だ。
「ごめんね、運ぶのだけお願い。あとはわたしが責任もってさばいておくから」
なんでもなさそうにメロディが言ったので、また人々は驚いた。
「さばくって、ハニー、君一人じゃ無理だろう」
「なんで? できるよ、慣れてるもん」
「このでかぶつを、本当に一人でやれるってのか」
「まあちょっと大仕事になるけど、無理ってほどでもないよ。子供の頃よくダン兄様と山へ遊びに行ってね、時々獲って帰ってたの。うちでは獲った本人がさばくものって決まりだから、さばき方も教えられてる。だいじょうぶ、ちゃんとできるから」
料理人たちは口を開けて絶句しているし、セシルたちも気分的には似たようなものだ。いったいアラディン卿は娘をどう育てたかったのだろう。普通に女らしく育てるつもりだったと言う割に、やっていることがおかしすぎる。
「オークウッドじゃ子供が猪獲ってくるんだねえ……そりゃ鹿くらい楽勝なわけだ。エチ、運ぶよ」
「おー……」
もうつっこむ気力もなく、フェビアンとエチエンヌは猪を運んでいく。料理人夫婦が我に返り、あわててあとを追いかけていった。
「まあ、これで畑の主は喜ぶだろう。領内の問題がひとつ解決したわけだ。ジン、料理人たちに明日はゆっくり寝ていていいと言ってきてくれ。朝食はお前が作ってくれるかね? 簡単なものでいいから」
「かしこまりました」
メロディはああ言ったが、使用人たちがそれじゃよろしくとまかせて寝られるわけがない。寝不足覚悟で解体作業を引き受けるだろう。見越したセシルの命を受けて、ジンも厨房へ向かった。
はたしてそのとおり、メロディたちは早々に厨房から追い出された。夏でよかったと冷めた風呂で汗を流し、それぞれの寝室へ引き取る。夜風を入れようと窓を開けたフェビアンは、隣の部屋のバルコニーに立つ人影に気付いた。
「あれ、起きちゃった? うるさくしすぎたかな」
寝間着にレースのショールを羽織った姿で、ダイアナが出ていた。昼間はきちんと結っている黒髪が、細い肩から背へと流れていた。
「……寝つけなくて、ずっと目は覚めてたの。そうしたら声が聞こえてきたから、帰ってきたんだと思って」
全開にしていたシャツの前を閉めて、フェビアンはバルコニーの端に寄った。同じように端に立つダイアナと、話をするのにちょうどいい距離になるが、別々のバルコニーに立つふたりが寄り添い合うことはできない。短いけれどけっして縮められない距離がふたりの間にはあった。
「狩りは成功したの?」
「ああ、きっと明日のディナーは猪料理だよ。ハニーの一矢で見事に仕留めたんだ。僕が彼女に勝てるのは、きっと剣術だけだな。馬術じゃ完全に負けてるし、弓も相当の腕前だよ」
「まあ」
ほころんだ顔が、すぐに笑みを失う。ダイアナは暗い庭へ顔を向けた。常に気品を失うことなく気丈にふるまう彼女が、今はひどくはかなげに見えた。
「……本当に、ギルがあんなことにならなければよかったのにね」
手すりにもたれ、フェビアンは夜空を見上げた。
「立て直しが上手くいった時点で、おかしな商売からは足を洗っておけばよかったんだ。そうすりゃ暗殺計画に利用されることもなく、男爵も殺されずに済んだだろう。容姿はいまいちだし、性格もまあ好青年とは言えないけど、少なくとも彼なら君を生涯大切にしてくれただろう。ジェラルドはなあ……思い込みが激しくて我の強いところが、ちょっとねえ」
「…………」
ダイアナの手がそっと握り込まれる。
「熱に浮かされてる今はいいけど、飽きた時に君をどう扱うかが不安だね。そしてそうなった時、コヴィントン家の立場が弱いというのもまずい。理不尽を強いられる羽目になりかねない」
「…………」
細い眉が震え、唇を強くかむ。爆発しそうな感情を、ダイアナは必死にこらえる。
「伯爵夫人という地位を手に入れるためだと開き直れるなら、それもひとつの選択だ。けど、君はそんなふうには考えられないだろうね」
「……もともと、望んでなんかいなかったわ」
震える声でダイアナは言い返した。
「どうしてあの方がわたしを望んでこられたのかもわからない。特別親しくした覚えもないのに、いつの間にかわたしとあの方の結婚がもう決まったかのような口ぶりで話されていて……両親も驚いていたわ。でも伯爵家とのご縁だもの、大喜びして、別荘にわたしだけ送り出すよう言われてもあっさり従ったの。用事があるからあとから行くなんて言っていたけれど、裏でジェラルド様からの指示があったことなんて知っているわ。わたし……わたしは、両親に売られたのよ……っ」
こらえきれない嗚咽が夜風に混じる。フェビアンは空に顔を向けたままで、彼女の泣き顔を見なかった。
「そこまで言うものじゃないさ。ご両親はご両親なりに、君の幸福を願ってらしたんだよ。たぶん、うちのせいもあるんだろう。君にもっと立派な縁談を用意してやりたかったんだろうね。ジェラルドからの申し入れは願ってもない話だったわけだ……まあ、当の婿殿は思惑が下種っぽくていただけないが」
求婚するだけなら若い令嬢を一人で寄越せとは言わないだろう。そういう話には親が同席するものだ。ダイアナをおびき寄せてどうするつもりだったのか、向こうの魂胆など知れている。
結婚せざるを得ない状態にされてしまえば、いまひとつ反応の悪かったダイアナもおとなしく従うと考えたのだろう。ダイアナが売られたと感じたのも無理はない。彼女の両親もそういう可能性にはもちろん気付いていただろうが、いずれ結婚するのだから早いか遅いかの違いだと飲み込んだのだろう。
女性にとってはむごい話だが、さほど珍しくもない。ままあることだ。
嗚咽はすぐにおさまった。必死に感情を抑えて涙を拭いた娘に、フェビアンはようやく目を向ける。どうすればいいのか途方に暮れていても、助けてほしいと言えない幼なじみに、彼は苦笑した。
「この縁談をぶちこわすだけなら、多分難しくはない。君が望むなら力を貸してあげるよ。でも次にいい縁談が来るとは限らないし、ジェラルドが腹立ちまぎれに君のことを悪く言いふらすかもしれない。そういう覚悟はできる? ご両親にも、ちゃんと説明をしなければいけないよ」
「……フェビアン」
手を伸ばせばぎりぎり届く。目の端に残っていた涙を、フェビアンの指が優しくぬぐった。
「気が強くて意地っ張りで甘え下手なお嬢さん。助けてって言ってごらん? 可愛い妹のためなら、ジェラルドを殴ってくるぐらいしてあげるよ」
「…………」
妹、と言われた瞬間、ダイアナの瞳に浮かびかけていた輝きが消えた。切なく伏せられた目は、しかし次に開かれた時、冷静な力を取り戻していた。
「お願いするわ、協力して。わたし、どうしてもジェラルド様とは結婚できない。両親をがっかりさせてしまうことになるけど、あの方は嫌。一緒にいるのが苦痛でしかないの」
「仰せのままに、レディ」
おどけた表情でフェビアンは大げさに礼をする。ようやくダイアナがくすりと笑った。それは苦いものを隠した笑みだった。
「どうせ向こうもあれきりで引き下がりはしないだろう。今頃次の手を考えているだろうね。こちらもさっそく動かないと」
「どうする気なの」
「ふふん、それはあとのお楽しみ」
笑いながらフェビアンは手すりから離れ、部屋に向かった。
「もうおやすみ。夜更かしは美容の敵だよ。美人でいれば、きっとそのうちいい縁にめぐり会える」
助けの手を差し伸べ、優しくなぐさめながらも、最後の距離は詰めないままフェビアンは離れていった。閉じられる窓を見つめていたダイアナは、ひとつため息をこぼして室内へ戻る。やがてどちらの部屋も明かりが消え、窓の外には夜風だけがひそやかに流れていた。
――と、いうわけでもなく。
「気っ障な野郎だぜ本当に。聞いてて背中がかゆくなっちまった」
「人前では知らん顔をしていたが、ダイアナ嬢のことをよく見て理解していたようだな。さすがは幼なじみということか」
「どうして知らん顔するんでしょうね? もっと素直に助けてあげればいいのに。フェンって時々すごく意地悪なんだから。ダイアナ様が可哀相」
「ふむ……彼女から言ってくるのを待っていたというところかな。フェビアン君にも思うところがあるのだろう」
フェビアンの部屋の隣からこそこそと交わす声がする。窓に張り付いてバルコニーの会話に聞き耳を立てていた騎士たちは、団長以下全員がそろっていた。ちなみにここはエチエンヌの部屋である。
「思うところって何ですか?」
メロディはセシルを見上げる。それを自分に聞かれても、とセシルは困って髪をかき上げた。
「さあ……頼まれもしないのに乗り出して、勝手に縁談をぶちこわすわけにはいかないとか、そんなところかな。ジェラルド君にはあまりいい印象を持てないが、悪事を働いているわけでもないしね。ダイアナ嬢に夢中なだけの、情熱的な若者……と、言えなくもないし」
ぷうとメロディは頬をふくらませた。
「そんなの、おかしいです。どう見てもダイアナ様は嫌がっていらしたのに。立場上はっきり断りたくても断れないでいるって、すぐにわかったじゃないですか。幼なじみなら、頼まれなくたって助けるものでしょう」
「いや、そう簡単な話でもないだろう。人の将来に関わるのだし、不用意に手出しはできないよ」
セシルは困ってナサニエルに目を向ける。視線で助けを求められた副長は、少女にどう説明したものかとやはり困った。
「……もしかしたら、ダイアナ嬢は迷っているのかもしれないと、考えたのではないかな」
自身でも首をひねりつつ言う。
「いまひとつ乗り気にはなれないが、悪い話でもないと決めあぐねているのなら、他人が余計な口出しをしてはいかんしな」
「貴族ってのはしちめんどくせーな。好きか嫌いかだけじゃだめなのかよ」
「それだけで決められれば、簡単でいいんだけれどね」
エチエンヌらしい言葉にセシルは苦笑する。家同士の利害がからむ貴族の縁談では、当人の気持ちなど二の次にされるものだ。
「ダイアナ様は、やっぱりフェンがお好きなんだと思うんですけど……」
彼女の視線が常にフェビアンに向いていることは、メロディにもわかっていた。彼女の恋を応援したく思うと同時に、相手があのフェビアンではどうだろうと悩みもする。仲間としてはこのうえなく頼りになる男だが、恋人、さらに結婚相手としては、どうしても自信を持っておすすめできないものがあった。
「フェンの方はどうなんでしょうね。彼女のことを、ただの友達か妹としか見ていないんでしょうか。それとも、少しは特別な気持ちがあるんでしょうか。副長はどう思われます?」
「え!?」
いきなり指名されてナサニエルは面食らった。
「な、なぜ私に聞く」
「この中でいちばん、世間一般の感覚に近い方だと思いますので」
相手の性別にこだわらないエチエンヌに、年上の熟女が好みなセシル。彼らの恋愛観はあまり参考にならないだろう。
「い、いや、そう言われても……」
暑さのせいではない汗がナサニエルの額に浮いた。暗くなけれは頬の赤らみもはっきり知られていただろう。
「副長には許嫁がいらっしゃるんですよね? お相手とはどういう経緯で? やはり家同士が決めた縁組ですか?」
「そ、そそそ、それは……っ」
止めるべきか否か、他の三人は迷った。ナサニエルが可哀相ではあるが、正直そこは興味がある。
「ま、まあ私の場合も家同士で決めた話だったが……」
ふうん、とメロディはあいまいにうなずく。
「でもまめに文通なさってますよね。十日と空けずにお手紙が届いていますし」
「うっ……ま、まあ……」
「許嫁の方とは仲良くしてらっしゃいます?」
「それは……当然……」
夜目にもわかるほどナサニエルの顔色が変わってきた。期待を込めて見つめてくる視線に耐えかねて、彼は情けなくも白旗を振った。
「すまん、私はそういう話は不得手なのだ! 婚約するまで女性と付き合った経験は一度もなかった。告白したこともされたこともない。とても参考にはなれんので、他をあたってくれ!」
三十路男の告白にがっかりとした顔になったメロディは、そのまま視線をセシルへ移した。ぎくりと身構えたセシルを束の間見つめ、無言で目をそらす。はなから無駄とあきらめきった表情に、なぜか傷つく公爵(二十五歳)だった。そしてそんな彼のそばで、そもそも数にも入れてもらえなかったジンもひそかにショックを受けていた。
「他人の意見を聞いてもしょうがねえだろ。本当のところは当人にしかわからねえんだからよ」
頭をかきながら、意外にもまともなことを言ったのはエチエンヌだ。それにセシルがうなずいた。
「そうだね。それこそ他人が横から口出ししてはいけない問題だ、そっとしておくべきだろう」
「えー……でも」
「互いに想う気持ちがあるなら自然にまとまるだろうし、そうでなければ残念な結果であってもいたしかたない。どちらも大人なんだから、自分たちで解決すべき問題だよ」
「ええ、おっしゃるとおりで」
明るい声が割って入って、メロディたちはぎくりと口をつぐんだ。おそるおそる振り返れば、いつの間に扉が開かれたのか、フェビアンがもたれて立っている。いつもどおりの陽気な笑顔がなぜか怖かった。
「いやあ、優しい仲間を持って幸せですねえ。そんなに僕らのことを心配してくれて、みんなで覗き見盗み聞きまでしていたとは」
「あ、あはは……」
引きつった笑い声を立てながら、メロディはセシルの背中に隠れる。どうしてだろう、いつもと一緒の笑顔なのに、なにかが違う。怖かった。
「それだけ気にかけてくれるということは、協力を期待してもいいんですよね? 縁談ぶちこわし作戦、手伝ってもらえますよね?」
断ることを許さない強引な口調に、セシルはひとつ息をついてうなずいた。
「ああ、もうここまで来たら最後まで付き合うよ」
「ありがとうございます。あと団長の幅広い交友関係をいかして、ダイアナの後援もよろしくお願いしますね」
「フェアクロフ夫人に頼めば縁談くらいさがしてくださるだろうが、彼女の気持ちを尊重するべきではないかね? すぐに別の相手を紹介されても、簡単には喜べないだろう」
「それはあとでもいいですよ。今お願いしたいのは、今後社交界で肩身の狭い思いをしなくてすむようにです。プラウズ家を叩きつぶせればそんな心配しなくてもいいんですけど、さすがに今回は犯罪がらみってわけでもないですからね。別方向から押さえられないか、なんとかやってみますけど、対策は多い方がいいですから」
何をするつもりなのだろうとメロディは驚き、隣のエチエンヌと顔を見合わせた。
「……わかった。どのみち、プラウズ家とは関わらずにはいられないところだ。全面的に協力するよ」
「ありがとうございます。頼りにしていますよ、ご主人様」
笑い混じりの息を吐いて、セシルは入ってきたフェビアンと軽く手を打ち合わせる。彼の背中からメロディは飛び出した。
「なんでもお手伝いする! だからはっきり答えて、フェンはダイアナ様をどう思ってるの?」
直球な質問に男性陣が頭を抱える。フェビアンは余裕の笑みを崩さなかった。
「君には十年早いよ、おちびさん」
ぽんぽんと頭を叩かれて、メロディがむくれたのは言うまでもない。