17 変わらない心
メロディたちが拘束されている間に式典は問題なく終了し、各国からの賓客も帰国の途についた。一連のできごとについてもちろん聴取はされたが、詳しいことは王宮の外で、主に王都騎士団によって調べられた。ほとんどの時間ただ閉じ込められているばかりで、暇を持て余したメロディが室内で筋力トレーニングをして女官を呆れさせたり、やはり暇を持て余したフェビアンが手近なヴィンセントで遊んで怒らせ、うるさいと看守に注意されたり、その看守が好みだったためエチエンヌが誘惑しようとしてさらに怒らせたり、それならばとヴィンセントに矛先を変えて迫り、自身の性癖に自信を持てなくなったヴィンセントが本気で泣き出したりと、おおむね普段どおりの時間をすごしているうちに釈放された。
「頼むから、もう二度と来ないでくれ」
快く送り出してくれた看守に別れの挨拶をして、彼らは数日ぶりに外へ出た。
王宮に無断侵入したことと、生け垣を破壊したことについては、事情を考慮しておとがめなしになったらしい。薔薇屋敷に帰ったメロディたちは、いつもどおりの穏やかな毎日に戻っていた。
ひとり、ナサニエルが疲れたようすだったのは、事後処理に奔走してくれたからだ。先に情報を寄越さなかったことや、死体を山ほど残していったことで、キンバリーからさんざんに文句と嫌味も聞かされたらしい。副長の地味な活躍のおかげで早期に釈放されたことを知り、メロディたちは感謝をこめて彼にお礼をすることにした。何がいいだろうと相談して好物の雉肉料理を進呈することになり、それなら雉を狩ってこなければと弓を取り出すメロディに、カムデンの街中に雉はいないとフェビアンが言い、いるところに心当たりがあるとエチエンヌが案内したのは新しくできたばかりの動物園だ。街の人には見慣れない生き物を展示している場所で、これを狩っていいのだろうかと相談していたら通報されてしまった。駆けつけた騎士はメロディたちの顔を見て、何も聞かずに本部へ連行した。そこでたっぷりキンバリーに叱られて、迎えにきたナサニエルがふたたび頭を下げるという顛末になってしまった。
あとで聞いた話によると、街には肉屋というものがあり、自分で狩ってこなくてもそこで入手できるらしい。フェビアンとエチエンヌは当然知っていたはずで、からかわれたと気づいたメロディが憤慨するものの、意地悪な仲間たちはとうに逃走済みだ。
そんな、にぎやかながら平和な毎日だったが、事件の全てが解決したわけではなく、まだ謎や問題も残っていた。
暗殺計画を企てた人物については、完全に不明なままだった。ギルバートは父の取引相手についてあまり知らされておらず、有力な証言は得られなかった。もう一人、情報を持っていたはずのグレアム・ガーティンは、シーグローヴ河の河口付近で浮いているところを発見された。近くから顎傷の側近も見つかった。逃亡しようとして頼った「友人」とやらに殺されたのかもしれない。それが暗殺計画の黒幕だったのかどうかも、すべて闇の中だ。
「どうも、終わったという晴れやかな気分にはなれないね」
サロンの長椅子でくつろぎつつ、セシルが息をついた。
「いったい何者が仕組んだのかわからないかぎり、これで終わりとは安心できないね」
「はい」
ナサニエルも難しい顔でうなずく。キンバリーはさらなる情報を求めているようだが、解明は難しいだろう。
グレアムは、黒幕らしい人物が外国人だと言っていた。今、イーズデイルの女王を狙う理由を持つ国はどこだろうか。
「疑い出せばきりがないね。ラグランジュやキルステンとだって、対立している部分はある。だからって女王陛下の暗殺まで考えるかどうかは、さすがに疑問だけど……」
フェビアンが首をかしげる。現在のイーズデイルは、近隣諸国との紛争もなく、平和な外交を続けている。国家間にもめごとが尽きないのは世の常だが、戦争や暗殺などといったきなくさい話になるほどの事態は起きていないはずだ。
国単位の陰謀ではなく、個人の企てだろうか。それはそれで、誰がそんな大それたことをと疑問に思う。
話に加わらず考え込むようすだったエチエンヌが、ここでようやく口を開いた。
「はっきりしたことは言えねえが……ちゃんと聞き取れなかったし、あの時は気にもしてなかったからよ……ただ、聞こえた声の調子が、なんとなくシュルク語っぽかったように思う」
全員の視線が集中する。たしかかと問われ、彼は首を振った。
「だから、はっきり断言はできねえって。今思い出すと、そんな気がするって程度だ」
その場にいたわけではなく、言葉の内容までは聞き取れなかった。思い違いの可能性もある。
だが……。
どこの国が計画するよりも、いちばんありえそうな話だった。こうなると女王を狙ったのか、そのそばにいるセシルを狙ったのかもわからない。両方かもしれない。もしメロディたちが止めなかったら、女王と王太子がともに毒に倒れ、王位はまだ幼い王女が継ぐことになっただろう。セシルが攻めてくることを恐れるハサリム王は、そうやってイーズデイルの力を削ごうとしたのかもしれない。
「……すべてが推測だ。決め付けるのは危険だよ」
セシルが首を振った。異母兄をかばうのではなく、他の可能性を見落とすべきでないという警告だ。うなずき、メロディもその意見を受け入れた。
あまりことを荒立ててはかえって国内が混乱する。暗殺計画の首謀者についてはひそかな調査が続けられ、表向きにはヘニング男爵家が密輸の罪で取りつぶしになって終わった。領地や財産の大半を没収され、カムデンに住み続けることもできなくなったギルバートたちだが、一族郎党が反逆の罪で処刑されるよりはよほどましだろう。親類をたよって遠い地へ移り、肩身の狭い暮らしをすることになるだろうが、そこまでメロディたちも関与していられない。自業自得とあきらめてもらうしかない。
そうしてまた何日か経った頃、薔薇屋敷にちょっとした荷物が届いた。
仕立屋から届いた大量の衣装に、メロディは目を丸くした。
「なに、これ?」
女中たちがにこにことサロンに運び込んできたのは、各自の体型に合わせて作られた、色や素材は同じ服だった。落ちついた深い真紅の上着に、白いズボンと黒のブーツ。上着の背中には、シャノン公爵家の紋章にある聖杯を、つる薔薇と剣が守る図案が刺繍されている。
よく見ると、そっくり同じ意匠に見えても少しずつ違いがあった。セシルのものは上着の丈が長く、飾り紐などで装飾が多めにほどこされている。エチエンヌの上着には小柄を収めておける細長いポケットがたくさんついていた。そしてメロディのものは、基本的な構造は他のみんなと同じながら、女性らしさを感じさせる形になっていた。上着の裾がちょっと広がり、ごく短いスカートのようになっていたり、袖口に控えめなフリルがついていたりする。
それぞれにふさわしく、また特技を活かせるようにと考慮して作られた服だ。
「制服ですか?」
フェビアンに問われ、セシルはうなずいた。
「公式な場に出る時には、こうしたものも必要だろう? まあ私は頼んだだけで、準備はほとんどドナたちにまかせていたのだが、いい出来だね」
ほめられてドナが誇らしげに微笑んだ。
「仮縫いをしようにもみなさまお屋敷に戻ってこられなかったため、お衣装をお借りして、仕立屋に参考にしてもらいましたの。なので、試着していただけませんか? 問題がありそうでしたら、すぐに手直しいたします」
その場で全員着替えることになり、当然メロディだけは部屋を移した。新しい服は身体にぴったりで、動いてみても特に問題なさそうだ。わざわざ女性的な形にせずとも、他のみんなと同じでよかったのにと思ったが、鏡に映った自分の姿はなかなか悪くない気がした。スカートのようといっても本当のスカートではないし、動きを妨げるものでもない。袖口のフリルも短いので邪魔にはならない。昔は男物にもフリルやレースが多用されていたので、その名残を残した少し古風な衣装にも見えた。
なにより、セシルに部下と認めてもらえたことが、女である自分を忌避する気持ちから解放してくれている。可愛い衣装でいいんじゃないかと、素直に思えた。
サロンに戻れば、男たちも真紅の制服に着替え終わっていた。少し照れくさそうな顔や、とまどう顔が見える。自分にも用意されていたジンが、無表情ながらいいのだろうかと遠慮しているのがわかった。とてもよく似合うと、彼に言ってあげる。
フェビアンはわざわざ言及するまでもなくスマートに着こなしているし、意外にナサニエルにもよく似合っていた。赤といっても落ちついた色なので、大人の彼にも違和感がない。それはセシルも同様で、一目で長とわかるいでたちに風格がただよっていた。
惚れ惚れと見回した目が、最後に赤毛の少年に向かう。
着慣れないかっちりとした服に、エチエンヌは落ちつかない顔だった。寸法を調べていた女中が問題はないとたしかめたが、浮かない顔のままだ。
「どこか具合が悪いでしょうか?」
「いや、別に。首が窮屈なのと、この季節に詰め襟長袖は暑苦しいが」
「礼装ですから、ご辛抱くださいませ」
苦笑して女中が彼から離れる。きれいな顔だちの少年が華やかな礼装に身を包んでいると、本当に王子様みたいだ。口さえ開かず大人しくしていれば、誰もがそう思うだろう。
「ありがとうございます、セシル様。ドナたちもありがとう」
メロディはうれしかった。制服を注文するようセシルが指示したのは、事件が起きる前だろう。その頃から彼はちゃんとメロディを部下と認め、ここにあることを受け入れてくれていたのだ。いくつか気持ちのすれ違いはあったけれども、けっして拒絶されていたわけではなかった。
それを知り、ますます彼のことが好きになる。
セシルはだまって微笑む。フェビアンもナサニエルも、はっきりと表情には出さなくてもジンも、満足しているのがわかる。
ただ一人、エチエンヌだけは違った。
「……オレを数に入れていいのかよ」
ぽつりとこぼした言葉は、誰に向けてのものだろう。みんなに注目されながら、彼は誰とも目を合わせず言った。
「オレはこんな格好して、騎士様面できる人間じゃねえぜ。きたねえ流民の生まれの、人殺しだ」
「エチ」
口を開きかけたメロディを、セシルが制した。はじめて自身のことを語るエチエンヌを、彼らはだまって見つめた。
「オレが生まれたのは、旅の芸人一座だった。売り物は芸だけじゃねえ。男も女も、売れるやつは身も売った。オレはお袋が取った客の誰かの種でできたガキだ。お袋はオレが七つの頃に死んで、そのすぐあとにオレも客を取るようになった。役に立たねえガキを食わしてくれるほど、優しい一座じゃなかったのさ」
エチエンヌは窓際へ歩き、テラスの前で外を眺める。
「それだけならまだ可愛いもんだ。あの一座の本当の商売は、裏の稼業の方だった。盗み、押し込み、騙り――金で殺しを引き受けることも珍しくなかった。セシルと出会ったのは、『仕事』でだよ。殺しの依頼を親方がどっかから受けてきたんだ。まあ、今ならシュルクの差し金だったんだろうってわかるけどな。旅の途中のセシルとジンを殺すために、一座の男全員が駆り出された。オレも出た。結果は全滅、オレ以外みんな返り討ちにあって、今頃は地獄ってとこにいるのかね」
散らかった室内を片付けていた女中たちも、動きを止めて聞き入っていた。
ふり返らないまま、エチエンヌは乾いた笑い声を立てる。
「あいつらにふさわしい死に方だったぜ。さんざん殺してきたんだ、最後にゃてめえの番が回ってくるのが当然だよな。オレも一緒に死ぬはずだったのに、何を考えたのかセシルの気まぐれで生かされて、ここへ連れてこられた。毎日うまいもんを好きなだけ食わしてくれて、新しい服や馬鹿みてえに柔らかい寝床をくれて、読み書きまで教えられて……けど、別の人間になれるわけじゃねえ。どんなにうわべを取り繕ったって、オレがしてきたことが消えるわけじゃねえ。オレは血と泥にまみれた、きたねえ人殺しなんだよ」
周りと自分は違うと、常に一歩離れ壁を作っていたエチエンヌの思いを知らされる。陰惨な暮らしを知らない明るい人々の中で、彼はずっと孤独であり、不安だったのだろう。彼の罪を知れば、誰もが嫌悪や恐怖を見せて拒絶すると考え、離れていなければならなかった。親しくなり心を許した相手から拒絶されることが怖くて、誰にも近付くことができなかったのだ。
でも、無駄じゃないのかと思う。
そうは言ってもエチエンヌが気の優しい、世話焼きな少年であることなど、とうにみんな知っている。皮肉や憎まれ口を言いつつも、目の前の人をつい手助けしてしまう彼を、薔薇屋敷の住人たちも、下町で出会った人たちも、みんな好いている。
見回せば、女中たちの顔に忌まわしげな表情はなかった。困惑してはいるようだが、エチエンヌを拒絶する雰囲気はない。
メロディはセシルを見た。青い瞳が気づき、そっと微笑みを返してくれる。メロディも微笑んだ。心配はいらない。ただこのおびえる少年に、どうすれば伝わるかというだけだ。
「エチは、どうしたいの」
メロディの問いに肩が小さく震え、少しだけエチエンヌがふり返った。
「いいとか悪いとかじゃなく、エチ自身は何を望んでいるのかを教えて。ここから出て行きたい? わたしたちと別れたい? 一緒にいるのは、嫌?」
菫色の瞳が、ひどく頼りなげに揺れる。いつもふてぶてしい態度の彼が、母親の手をさがす子供のように見えた。
「わたしはこれからも、エチと一緒にいたいよ。言ったでしょ、友達だって。エチだってわたしたちのこと、好きでしょ」
「……なに言ってる」
ぶっきらぼうな反応に、メロディは胸を張って威張る。
「嘘ついたって無駄だよ、知ってるもん。好きじゃなきゃ、そんなに気にしないでしょ。嫌われたってそれがどうしたって、いつものように白けてるだけじゃない」
「…………」
言葉に詰まり、反論できずにいる彼に、誰かが小さく吹き出した。ナサニエルがそっと顔をそらし、笑いをこらえている。フェビアンはあからさまににやにやしている。珍しくジンの口元にも、小さく笑みが浮かんでいた。
拒絶されることを恐れるのは、受け入れてほしいと願うからだ。彼もまた、ここでの暮らしを愛している。それをメロディは確信している。
「生まれた場所がそんな環境で、他に生きるすべがなくて、どうしようもなかった。好きで罪を犯していたわけじゃない――そう考えても、エチは開き直れなかったんだね。そんな生い立ちなのにちゃんと人らしい気持ちをなくさずにいられたエチは、立派だと思うよ。罪はけして消せない、それも事実だけど……未来のなにもかもを、否定してしまう必要はないんじゃないかな」
エチエンヌに歩み寄り、いつかのように手を取る。一生懸命剣の訓練をしていたのは、未来を求めたからだろう。壁を作り身を引く一方で、入っていくすべを彼も求めていたはずだ。
ただそれを、ありのままに認めればいいのだと思う。
「そっ、そうですよ!」
後ろから声があがった。
女中たちの中でいちばん年下の、エミリーが拳を作って懸命に訴える。
「む、昔悪いことをしたのなら、これからはいいことをたくさんすればいいじゃないですかっ。蜘蛛を外へ追い出すとかっ」
「……それ、いいことかよ」
思わずつっこんだのは、エチエンヌだけではないだろう。多分全員が同じことを思っている。
「だってわたし、蜘蛛が大っ嫌いなんですもの! フェビアン様は笑いながら逃げてしまわれるし!」
「ごめん、僕虫だけはだめでね」
女中たちの白いまなざしに、頼りにならない男が肩をすくめる。
「エチエンヌ様の美容法は、とても参考になりますわ。肌の色を白くする方法を、たしかご存じでしたよね?」
そばかすを気にしているジュリアが言う。
「これから日焼けの気になる季節ですから、教えていただきたいのですけど」
「あ、それわたしも聞きたい……」
思わずメロディも同意した。
「旦那様は浮世離れしてらっしゃいますし、お嬢様は箱入りですし、フェビアン様は調子がよすぎてちょっと不安なことも多々あります。ジンさんは……いろいろ、不思議な方ですし、いちばんまともそうに見えて実はナサニエル様も、専門外のことにはかなり世間知らずでいらっしゃいますからね。エチエンヌ様の存在は、この顔ぶれを引き締めるいいスパイスになっているんですよ。つっこみ役が抜けてしまうと、収拾がつかなくなりますわ」
遠慮のないことを言うのはドナだ。ずばずば言われて、男たちは苦笑するしかない。
止めていた手をふたたび動かして、女中たちは仕事を再開した。てきぱきと部屋を片付けながら、口だけ動かす。
「もしかしたらいつか、このお屋敷が襲撃される可能性もあるんでしょう? そうなったらわたしたち女中は悲鳴を上げることしかできません。一人でも多く、強い方がいてくださらないと」
「そうですよ。あてにしてるんですから、その時にはしっかり守ってくださいましね」
「それにせっかくお衣装をあつらえたのに、無駄にしないでくださいまし。エチエンヌ様のものが、いちばん手がかかってるんですよ。お使いになる武器を考えて、仕立屋にものすごく不審がられながら、頑張って説明したんですから」
エチエンヌも、その隣に並ぶメロディも、呆気に取られるほど彼女たちの立ち直りは早かった。セシルたちにしても意外の念を禁じ得ない。この場でもっとも順応力があるのは女中たちだった。
懸命に働いて日々の糧を得る人々は、とても現実的でたくましいのだということを、彼らは学ぶことになる。
フェビアンがいつもの調子で明るくしめくくった。
「言いたいこと全部女の子たちが言ってくれたから、もういいや。そっちも他に言うことない? じゃ、これで終わりということで」
「終わりって……いいのかよ」
「男がいつまでもぐじぐじ言ってない。女の子なら付き合うけど、いくら美人でも男にサービスする気はないよ」
とまどうエチエンヌをそっけなくあしらい、彼は話を変えた。
「でもさ、なんで仮縫いなしで仕上げちゃったの? 僕らが帰ってくるまで待てばよかったじゃないか」
問われたドナが、少し困った顔をした。
「そのとおりなんですけど、それだと間に合わないかもしれなかったので……」
「間に合うって、何に?」
聞いていてメロディは首をかしげた。式典はもう終わったし、そもそも薔薇の騎士に出番はなかった。他に礼装が必要な、何があるのだろう。
どうやら知っているらしいセシルとナサニエルが、意味ありげな視線を交わした。空気を読んで女中たちは口を閉ざす。一同を見回し、何か気付いたらしいフェビアンがにんまり笑った。それへわざとらしく、セシルが黙れとしぐさで命じる。
「なんですか?」
メロディが訊ねても答えてくれる人はいなかった。女中たちは追及されないうちに、そそくさと部屋を出ていってしまう。フェビアンはにやにやするばかりだ。セシルとナサニエルも似たような態度だった。
「んだよ、気持ち悪ぃな」
わかっていないのはメロディとエチエンヌだけで、むくれる少年少女をセシルがなだめる。
「すぐにわかるよ。そう、明日になればね」
「あした?」
メロディとエチエンヌは顔を見合わせる。その後はもう何を聞いても答えてもらえず、すっかりすねてしまったメロディの機嫌をとろうとセシルが頑張る場面があったりもしたが、結局種明かしはされず翌日へと持ち越されたのだった。