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薔薇の騎士団  作者: 桃 春花
第二話 威風堂々
33/60

13 思いがけない同行者

 華やかな宮廷と貴族たちの邸宅しか知らなかったメロディに、初めて見たカムデンの別の顔は、予想以上の驚きを与えた。

 少し強い風が吹いたら飛んでいってしまいそうな屋根や、崩れた場所がそのままにされている壁。窓硝子はどこかしら割れたりひびが入っていたりする。

 そんなあばら家がひしめき合い、石畳もない道はどこも汚く、街全体に異臭がただよっている。道行く人々の表情は暗く、警戒心に満ちた鋭い目つきか、さもなくばおびえた目をしていた。

 オークウッドにも石畳なんてほとんどなかったが、ここよりずっときれいで明るかった。ごみが掃除もされず散らかっているのも理解できない。道の端で黒っぽく澱んでいるのは、水たまりではなく汚物だろうか。治安だの何だのを別にしても、こんなところにドレスでは来られないと実感した。長い裾で歩いていたら、あっという間に悲惨なことになる。

 一度実家のタウンハウスに寄って着替えたメロディは、フェビアンとエチエンヌ、そして案内役のボリスとともにロス街へやってきた。変装していった方がいいのではと一応提案してみたのだが、それにはフェビアンが首をひねった。

「服装だけ変えても、多分意味ないよ。きみも僕も、下層の貧民には到底見えないだろうからね。知らないかもしれないけど、彼らは過酷な生活をしているから、単に汚れているとか襤褸(ぼろ)を着ているだけでなく、身体そのものが傷んでいるんだよ。こんななめらかな肌や、手入れされた髪なんかしていない」

 メロディの巻き毛を軽くもてあそび、仕方なさそうに笑う。

「いかにも裕福そうな人間がわざと身なりを変えてやってきたら、よけいに警戒されるだろう。普段どおりで行くしかないね。ま、きみとエチは顔を出してるとからまれそうだから、マントでも被っておけば」

 それだとよけいにあやしくなるではないか。冬ならばともかく、この時季に頭からマントをかぶるなんて不審者以外の何ものでもない。

 そう思ったメロディだったが、エチエンヌとボリスはフェビアンに賛成し、結局フェビアンの言うとおりにしてここまでやってきた。

 一目で騎士とわかるフェビアンが、従者には見えない労働者とあやしいマントの二人を連れて歩けば、嫌でも人目を引く。だが予想に反して、いきなりからまれたり逃げられるということはなかった。

 行き合う人々はうさんくさそうな目を向けてくるが、それだけだ。事前にさんざん脅されていたため、外部の人間が入り込んだと知られるやたちまち住人たちから攻撃されるのかと思っていたが、そんなわけではなかった。

「いや、基本的には普通に住宅街だからね。単に貧しくてここしか住める場所がないって人間が大多数だよ。そういう人たちは厄介ごとに関わらないようにしている。一部のおっかない人たちも、ただ通りがかっただけなら手出しはしてこないよ。基本的にはね」

 歩きながら説明してくれるフェビアンがやけにくわしい気がして、自然メロディの視線は胡乱になる。んふふ、と彼は笑ってごまかした。

「こいつが他の優等生たちみてえに、貧民街に一度も踏み込んだことがねえと思うか?」

 エチエンヌに言われ、だよねとうなずいた。

 おそらく士官学校時代、寮を抜け出してはこういう場所で悪い遊びをしていたのだろう。

 そのおかげか、もの慣れた足取りで進む彼は意外なほど周囲の雰囲気になじんでいる。メロディとエチエンヌのマントも、ここでは特におかしなものではなかった。すねに傷を持つ者が多いせいか、似たような格好の人間がよくいるのだ。暑いだろうにと、メロディもマントの中で汗をぬぐった。

 街の中ではましな部類の、五階建ての建物をボリスがそっと指さした。

「あそこに転がり込んでるようだ」

 あれかと呑気に眺めたのはメロディだけで、フェビアンとエチエンヌは顔をしかめた。

「おい待て、あそこって」

「僕の記憶に間違いがなければ、ガーティン一味のアジトだよね」

 ガーティン一味? と首をひねり、事前に聞かされたことを思い出す。この街を根城とするギャング団の、特に大きい勢力だ。

「やつはどうやら、もともとガーティンの手下だったらしいんだ」

 声をひそめてボリスは言う。

「お貴族様の使用人にしちゃ、なんか雰囲気がおかしかったからな。やけに目つきの鋭い、ごつい男でよ。顎に傷跡もあった。多分裏の稼業のために、ガーティン側から借りるか送り込まれるかしてたんじゃねえのかね」

「……ということは、問題の下男を押さえなくても、事件の真相を知っている人間が他にもいるってことだよね?」

「まあそうなんだけど」

 メロディの言葉にうなずきつつ、フェビアンは困った顔で前髪をかきあげた。

「教えてくださいって行って素直に答えてくれるわけがないしなあ。殴り込みをかけて力ずくで聞き出すしかないけど、一味の戦闘員が全員集まってきたらさすがにこの三人だけじゃ手に余るよねえ」

「無理? どのくらいいるの?」

「正確な数は知らねえが、百は下らねえぞ。荒事専門の連中に限定してもな」

 メロディは考え込んだ。一人あたり三十人以上。いくら本職の兵士でないとはいえ、それなりに腕の立つ連中だろう。厳しい数だ。

 実家に立ち寄った時に加勢を頼めたらよかったのだが、ついていないことに両親も兄も不在だった。配下の騎士たちも彼らに同行していたため、屋敷に残っていたのは使用人だけだったのだ。

「手下が全員あそこに常駐してるわけじゃないけど、何かあればすぐ集まってくるのは間違いない。騒ぎになれば、無事にこの街を出られる保証はないね」

「こっそりもぐり込むことは……」

「どうやって。無理に決まってんだろうが」

「んー、僕らではできないねえ。彼にそこまで危険なことを頼むわけにはいかないし」

 目を向けられたボリスは、真っ青な顔で首を振った。

「むむむ無理無理っ、殺されるっ」

 あやしまれないよう一旦引き返し、建物からかなり離れた場所で相談する。フェビアンがため息まじりに言った。

「やっぱり王都騎士団に頼んで、手勢を出してもらうしかないねえ」

「んなことすりゃ、連中はたちまち逃げ出して行方をくらませんぞ。騎士さんたちが到着する頃にはもぬけの殻だ」

「でも他に方法はないよ。なんとか気付かれないよう、こっそり接近包囲する方法を……ん?」

 途中で言葉を切り、フェビアンがよそを向く。彼の注意を引いた人声に、メロディも気付いた。

 少し離れた場所で、数人の男がもめている。もめるというか、一人が三人がかりで襲われているようだ。

 白昼堂々の強盗である。メロディは驚くより呆れてしまった。なるほど、聞いたとおりの治安の悪さだ。

「おやあ?」

 なぜかフェビアンが、面白そうににやりと笑った。何も言わず歩き出し、騒ぎの方へ向かう。気負いのない足取りで近付いてきた若者に強盗たちが気づき、凶悪な目つきで振り返った。

 助けるべきだとはメロディも思っていたが、フェビアンの行動に何か意味がありそうなのでだまって見守る。あの程度ならば手助けは必要ないだろうと判断した。それは正しく、見ている前でフェビアンはあっさり三人組を痛めつけ、撃退した。

 逃げていくのを追うこともなく、道に尻餅をついた男に手を差し出す。

「大丈夫かい、ギル。怪我はない?」

 メロディはエチエンヌと顔を見合わせた。被害者と知り合いなのか。急ぎ、彼らのそばへ走る。

 助けられた男はフェビアンと同年代の若者だった。小太りの身体に目立たない質素な服を着ているが、上流の人間なのは見て明らかだ。メロディの目にもそうとわかるのだから、いいカモだと狙われたのも当然だった。来る前に変装が無駄だと言われたことが、よく理解できた。

「フェ、フェビアン!? なぜここに」

「それはこちらのせりふだよ。こんなところできみに会うとは思わなかったな」

 強引に腕を引いて立ち上がらせる。ズボンについた土をはらうことも忘れ、男はおどおどとメロディたちを見回した。

「どうしたんだい、ギル。そんな格好で、供も連れずにひとりでこんなとこまでやってくるなんて」

「……ねえフェン、どなたなの?」

 そっと訊ねるメロディに、陽気な笑顔が振り返る。

「ヘニング男爵家の嫡男ギルバート――いや、もう跡目を継いで新男爵となられたのかな?」

「ええっ?」

 驚いたのはメロディだけではない。渦中の家の人間が現れたことに、エチエンヌとボリスも目を丸くしていた。

「察するところ、お父上の亡くなったいきさつについて、ガーティン一味のもとへ訊ねに行くところかな?」

「なっ、なんで……っ」

「知ってるのかって? 僕の仲間が現場に居合わせたって話さなかったっけ? 彼がそうだよ。おかげで疑いをかけられて、潔白を証明するためにこちらも調べに来たところさ」

 ギルバートの目がエチエンヌへ向けられる。エチエンヌは被っていたフードを引き下ろした。

「……ああ、あのおっさんによく似てるな。てめえの親父を殺したかもしれねえ連中のもとへ行こうなんざ、貴族の若様にしちゃ度胸があるじゃねえか。信じらんねえくらい馬鹿でもあるけどよ」

「だよねえ。下手すりゃシーグローヴ河に浮かぶはめになるよ。まあそれ以前に、たどりつくことすらできないところだったけど」

「ここまでやって来れたのが奇跡だよな。賭けてもいいぜ、あんた帰りも絶対襲われる。命が惜しけりゃすぐに有り金全部差し出せよ。もっともそれでやりすごしても、また次襲われたらおしまいだがな。渡すものがなきゃ()られるか、よくて半殺しだ」

「…………」

 代わる代わる脅されて、ギルバートは蒼白な顔にだらだらと汗を流す。見ていたメロディがちょっと気の毒に感じ始めた時、彼は必死の形相でフェビアンにすがりついた。

「たっ、頼むフェビアン! 助けてくれ!」

 メロディたちにはわからなかったことだが、長年敵視していた相手にこの言葉である。彼がどうしようもなく切羽詰まっていることは明白で、フェビアンは内心ほくそ笑んだ。

 表面上だけは優しく、ギルバートの肩を叩いてなだめる。

「まあ落ちついて。幼なじみをこんな状況で放り出したりは、もちろんしないよ。でも事情くらいは聞かせてほしいな」

「助けてくれ! このままではうちはおしまいだ! 追放や財産没収くらいじゃ済まない、一族郎党が処刑されてしまう! いや、それどころか、国家の危機だ!」

「……物騒だね」

 密輸はそこまで厳しく処罰されただろうか。メロディは首をひねった。扱う品によって、たとえば麻薬などを売買すれば、処刑もあり得る。だが一族郎党にまで累がおよぶなど、反逆罪くらいでしかないことだ。

 興奮し出したギルバートを連れて、道の端へ移動する。彼が混乱気味に話したのは、通常では手に入れられない品を入手するため、男爵がガーティン一味と取引をしたのがはじまりだという。

「こちらは(つて)を得るため、やつらは官憲の目をごまかすため、互いに利用し合う関係だった。それだけだと思っていたのに、やつらが最近取り締まりが厳しく麻薬の取引がやりにくいからって、こともあろうに女王陛下の暗殺を計画したんだ!」

「そいつは大胆な」

 緊迫感のない声でフェビアンが相槌を打つ。いくら街で恐れられるギャング団とはいえ、女王の暗殺までは力が及ばないだろう。近衛騎士団が守る王宮に、どうやって手を出す? そんなことができるわけないと、メロディも思った。

 だがギルバートは激しく首を振った。

「成功か失敗かはどうでもいいんだ。やつらは大きな騒ぎを起こしたいだけだ。官憲の目をそちらへ向けて、取り締まりが緩むのを狙ったんだ」

「でも暗殺といってもねえ。どうやって」

 明日から三日間、記念式典の行事がある。厳密に言えば今夜の前夜祭からだ。国賓や高位貴族を招いた夜会が王宮で開かれるが、そこへもぐり込むことは不可能だろう。狙うなら明日からの本番だ。三日間の式典行事に女王のパレードも予定されており、その時に襲撃するのがいちばん考えられる。だがもちろんそういった可能性を考慮して、厳重な警備がつく。ほぼ確実に失敗するだろうし、騒ぎもその場限りのことで終わりそうだった。

 震えながらギルバートは答えた。

「……式典で出される食材や酒を、父が手配したんだ。もちろんそっちは正規のルートで。どうやってか、ガーティンはその中に毒を仕込んだらしい」

 フェビアンの顔が引き締まる。メロディも顔色を変えて踏み出した。

「どれに!?」

「それがわからないから焦ってるんだ!」

 相手が少女だとか、そんなことに気付く余裕もなくギルバートは言い返した。

「今朝になってガーティンから連絡が来たんだ。これ以上捜査をさせるな、でないとお前も身の破滅だって。その時初めて、なぜ父が殺されたのかがわかった。取引でもめたんじゃない、きっと父も暗殺計画のことを知って、ガーティンに詰め寄ったんだ。やつらはこのまま黙って知らん顔をしていろと言うが、そんなことできるわけがない! 父の手配したものに毒が入っていたら、うちが調べられないわけないじゃないか! それに王家に手を出すなんて恐ろしいことを知らん顔できるか!? なんとかして止めないと、みんな破滅だ!」

「ああ、うん、わかった。きみの女王陛下への忠誠心は本物だと理解したよ」

 泡を吹きそうなギルバートの背中を、フェビアンは叩いた。あくどい商売でのしあがりはしても、国家転覆をたくらむほどの悪人ではないのだ。イーズデイル貴族として王族の暗殺に本能的なおそれを抱いている。今だけは、彼を揶揄する気は起きなかった。

「これは、ぐずぐずしている余裕はないね。多少無茶でも殴り込みをかけるしかないか」

 息を吐いて言うと、エチエンヌが眉をひそめた。

「力ずくってとこには反対しねえが、最初だけはこっそりやった方がいいぞ。入り込む時から騒いでたら、街中から手下が集まってくる。やるのは中へ入ってからだ」

「ギルバート様」

 メロディはギルバートの手を取った。

「おひとりで乗り込もうとなさった勇気に敬意を表します。そこでもうひとつ、頑張っていただけませんか?」

「え……?」

「わたしたちを、あなたの護衛ということにして、一緒に連れて行ってください。ガーティン一味があやしまないよう、うまくごまかしてください。わたしたちだけでは騒ぎを起こさず入り込むことができないんです。協力してくださったら、男爵やあなたは暗殺計画になど加担せず、利用されただけなのだと証言します。わたしの父はエイヴォリー伯爵、お仕えしている主はシャノン公爵です。発言力も、女王陛下からのご信頼もあります。きっとあなたのお力になれますから」

 せわしなくまばたきして、ギルバートはメロディを見つめる。恐慌状態の彼にはもう、疑う余裕もない。本当に助けてくれるかと、差し伸べられた手にすがりついた。

「でき得る限り尽力します」

 無責任な約束をするわけにはいかないので少々ずるい返事になってしまったが、言葉どおりのことはするつもりだ。密輸など他にも罪状がある以上、ヘニング家が処罰されることはまぬがれないが、反逆者扱いまでされるのはさすがに気の毒だ。このようすを見ていれば、彼らにそんな気がなかったことは明らかだ。せめて処刑は回避できるよう父やセシルや、場合によっては王太子にも頼み込んでみるつもりだった。

 三人でかわるがわるギルバートを励まし、乗り込む算段をする。横で聞いているだけだったボリスが、自分はどうしたらいいのかと訊ねた。

「きみは急いでこのことを、王都騎士団の本部に知らせに行ってくれ。できれば団長のキンバリー殿に直接話せるといいんだけど」

 フェビアンが懐をさぐりながら答える。

「俺がこんな話したところで、まともに相手されねえよ。悪戯か頭がイカれてると思われるだけだ。団長なんて、そんなお偉いさんに会えるわけねえだろ」

「僕らの使いだと言って……ハニー、きみ何か身元証明にできそうなもの持ってない? 彼に預けたいんだけど」

「ええ? うーん……ないなあ」

 メロディも自分の服をさぐる。出てくるのはハンカチと非常食と緊急連絡用の狼煙玉くらいだ。

「相変わらずその手の準備は抜かりないんだね。このハンカチ、だめにしてしまってもいい?」

「いいけど、どうするの」

「ギル、携帯用のペンは? きみはいつも小切手を持ち歩いていただろう」

 聞かれて、あわててギルバートが服に手を突っ込む。取り出されたペンで、フェビアンはハンカチに署名した。

「きみも書いて」

 ペンを渡されて、メロディも署名する。ついでにキンバリーに宛てて、この人物を信用してほしいと書き添えた。

 王都騎士団には問題児としてすっかり知られている名前だから、効力はあるだろう。

 フェビアンはハンカチをボリスに預け、金貨も一枚渡した。

「辻馬車を拾ってとにかく大急ぎで行ってくれ。残った分は帰りの足代と、晩飯代にでもすればいいよ」

「お、おうっ」

 金貨なら馬車を全速力で走らせてもお釣りの方がはるかに多い。ボリスは張り切って引き受け、駆け出した。その背中を見送り、メロディたちは先程の建物をめざす。

「ギル、処刑回避のためだ、頑張ってくれよ。うまくいくかどうかは、きみの根性にかかってるんだからな」

 不安そうなギルバートを励ましつつ戻ってくる。一歩中へ踏み込んだとたん、人相の悪い男たちに出迎えられた。

「なんだ? てめえら」

「何か用かよ」

 びくりと立ち止まるギルバートの背中を、後ろからフェビアンが押す。ここは彼に頑張ってもらわなければならない。前へ押し出されて、何度も唾を飲み込みながらギルバートは口を開いた。

「グ、グレアムに会いに来た。ヘニングと言えばわかるはずだ。取り次げ」

「おや、坊ちゃん」

 男たちの背後から、さらに一人姿を現す。顎に傷跡のある、ごつい男だ。これが例の下男か。

「どうなすったんです? 今朝ちゃんと、お屋敷の方へ知らせをやったでしょうが」

「その件で話をしに来たんだ! さっさとグレアムに取り次げ!」

「やれやれ、困ったお人だね。こんなとこに出入りしてるのを誰かに見られちゃ、まずいでしょうに」

 顎傷の男はギルバートの背後に並ぶメロディたちを見る。出迎えの三下など問題にならない、隙のない目だ。

「その連中は?」

「私の護衛だ。と、当然だろう、ここまでひとりで来いと言うのか」

「別に呼んじゃいませんがね」

 鼻を鳴らしつつも、男は顎をしゃくり、ギルバートに奥へ進むよううながした。

 あちこちからいやな視線を浴びながら、メロディたちは階段を上がる。通された部屋にいたギャング団のボスは、意外なほど若かった。

 若いといっても三十にはなっているだろうが、中年以上を想像していたメロディは驚いて男を見つめる。長めの髪の間から見える目が、爬虫類を思わせた。あからさまな威嚇はないが、何を考えているのかうかがえない冷たく不気味な印象だ。

「こいつはようこそ、若様。今さら何のご用かね」

 椅子に座ったまま不遜な笑みを浮かべて、ボスが声をかけてくる。

 背後で扉が閉じられた。


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