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薔薇の騎士団  作者: 桃 春花
第一話 亡き王女のための舞曲
12/60

12

 食事の後、ルイスは思う存分セシルを独占し、他の者はいつものように屋敷内での自由行動となった。

 フェビアンとエチエンヌは寝直すと言っていた。ナサニエルはリチャードと話をしている。

 メロディはドナを始めとする女中たちのたっての願いで、またドレスに袖を通すことになった。もっとも今回は普段着用の楽な服にした。あのいまわしきコルセットもつけていない。

 ほとんど開かれることもなく放っておかれた荷物の数々を、女中たちははしゃぎながら検分している。みんなまだ若い娘だ。華やかな衣装や飾りが目に楽しくてしかたないらしい。

 好きなように見ていていいと言い置いて、メロディは部屋を出た。

 一階へ降りて庭園へ向かう。途中、サロンからルイスの楽しそうな声が聞こえてきた。

 庭師と挨拶をし、薔薇の中の小径を歩く。

 シャノン邸の薔薇は、優しい中間色のものが多い。全体を見渡せば、甘やかな風景だ。いかにも女性が好みそうな雰囲気である。きっとエルシー姫の趣味で造られたのだろう。

 一口に薔薇といっても、花の形も大きさも、葉の色や枝の伸び方もそれぞれに違う。爪ほどの小さな花をこぼれんばかりに咲かせているものもあれば、まっすぐに伸びた枝の先に、拳より大きな花を一つきり咲かせるものもある。

 石造りのアーチの傍に咲く、中型の花がメロディの目を引いた。

 白に近いピンクの花弁が、縁の辺りだけ濃い色になっていて、フリルのように波打っている。とても可愛らしい花だった。

 少し切って帰りたいくらいだったが、残念なことに枝という枝に、鋭い刺がびっしりと生えていた。

 刺のつき方も品種によってさまざまだが、この株はひときわ刺が多い。花首の辺りまで刺に覆われている。これでは切り花にはできない。庭で楽しむしかない。

 メロディはアーチにもたれて花を眺めた。

 考えることがいろいろ多すぎて、頭が飽和気味だった。

 一人でいると、どうしても昨夜のこと思い出してしまう。初めて経験した襲撃は、時間が経つほどに苦い記憶になっていった。

 ドナがドレスを勧めたのは、気落ちしているメロディを気づかってくれたのかもしれなかった。気分転換になるようにと。髪も可愛らしい形に結んでくれた。その気遣いには感謝しているが、あまり気は晴れない。

 長い間、メロディはそこで考え込んでいた。

 よほどぼんやりしていたのだろう。近づいてくる足音に気づいて顔を上げた時には、もうすぐ傍にセシルが立っていた。

「着替えたのか。可愛いね」

 ルイスもジンもいない。彼一人だった。

「殿下はどうなさったんですか?」

「お迎えが来たのでね、帰り支度をされているよ」

 では自分も見送りに行くべきだろうか。屋敷の方へ目を向けようとしたら、セシルの手が伸びてきて頬に触れた。

「……セシル様?」

 彼に目を戻す。暖かい指先が、そっと顔の輪郭を撫でた。

「人を斬ったのは、初めてだった?」

「――――」

 昨夜から胸につかえていたことをずばり指摘されて、メロディは一瞬言葉に詰まった。

 ややあって、はいと答える。セシルはわかっていた顔で頷いた。

「眠れなかったようだね。目が赤いよ」

「……申し訳ありません。お役に立つどころか、とんだ足手まといで」

 メロディは頭を下げた。いつかの自分の言葉が恥ずかしい。未熟は承知しているつもりだったが、それでもこんなに役立たずだとは思わなかった。

 ただ動揺して、防戦に徹するばかりだった。己の身を守るのに精一杯で、それすらも仲間の助けがないと危なかった。

 あげく、人を殺したという事実にますます動揺し、身動きすらできなくなって。

 あの時セシルが助けてくれなかったら、メロディは命を落としていただろう。

 思い出すほどに、情けなさに苛まれる。

「女の子にそう言われても、こちらとしては妙な気分なんだが……まあ、君の気持ちはわからないでもない。でも初めてだったんだから、しかたないだろう。君はよくやったと思うよ」

 なぐさめの言葉にも、素直に喜べない。うつむくメロディに、セシルは困った声で言った。

「いや本当にね、ほとんどかばう必要もなく自力で対処してくれる女性なんて、普通いないんだが。初めてであれだけ戦えたのはお世辞抜きに上出来だよ。相手もけっこうな手練だったのに」

「…………」

「こう言っても、君にはあまりうれしくないか。それとも、力不足で悩んでいるのではなく、怖いのかな」

「え……」

 メロディは顔を上げた。

 見上げたセシルの笑顔が、どこかいつもと違って見えた。

「誰だって、初めて人を殺した時には平静ではいられないものだ。まして女の子の君に、そこを乗り越えろなんて無理を言う気はないよ」

「……いえ」

 無理じゃない。無理だなんて言いたくない。

 たしかにまだあの感触は手に残っている。思い出すたびに身震いが走るけれど。

 でも負けたくないと思う。自分はそんなに弱くないつもりだ。身を守るために戦ったのだから、その結果を受け入れる覚悟くらいある。

 口を開くメロディに先んじて、セシルは言葉を継いだ。

「私の傍にいれば、ああしたことはいくらでも起こりうる。これまで、頭では理解しても実感などなかっただろう。それを、ようやく思い知ったというところかな」

「…………」

 言い返そうとして、言葉が出てこなかった。

 違う、とは言えない。たしかにその通りだ。わかったつもりでいても、自分は何もわかっていなかった。それはいざ戦いの場に立って、初めて気づけることだった。

 荒々しい殺気も、ねばつく血臭も、想像だけでは理解し得ない。じっさいに体験してこそわかるものだ。今も襲撃者たちの息づかいが耳元に聞こえる気がして、ぞっとなる。こんな気持ち、戦う前には知らなかったことだ。

 怖くないなんて、言えなかった。言ってしまえば嘘になる。

 ただこの気持ちに負けたくはないと思う。強くなりたい。それをどうすれば伝えられるのか、言葉をさがして口ごもるメロディに、セシルは言った。

「メロディ君、やはり父君の元へお帰り。その方がいい」

「セシル様」

「君が私に付き合って怖い思いをする必要なんて、どこにもないんだ。結婚だって急がなくていい。むしろ早すぎるくらいだろう。伯爵家の娘として、これからいくらでもいい縁があるはずだ。君にふさわしい、平穏な暮らしを保証してくれる男と結婚すればいい。何も好きこのんで、こんな厄介な男を選ぶ必要はないだろう」

 優しい声でセシルは言う。メロディを思いやって言ってくれているのだろう言葉が、理解できるのにひどく辛かった。

 なぜこんなに胸が痛むのかはわからない。でも、嫌だった。そんなふうに言われたくなかった。

「で、でも、父は、セシル様を選んで」

「結婚するのは父君じゃない、君だよ。君が選んだ相手と結ばれるべきだ」

「それは――でも」

 どう言えばいいのだろう。そもそも、抵抗する意味があるのか。自分が望んだ縁談ではなかった。セシルだって乗り気ではなかった。父の意向とはいえ、最終的には自分で決めていいと言われている。そして正直なところ、結婚したいなんて気持ちはまったくなかった。破談になったって、ちっともかまわないはずなのに。

 なのに――どうして、頷くことができないのだろう。

「い、嫌です」

「メロディ君?」

「嫌です。そんな簡単に、逃げ帰りたくありません」

 セシルははっきりとため息をついた。

「意地で決めることじゃないだろう。そもそも、女の子の君がそんな意地を張る必要もない」

「女の子女の子って言わないでください!」

 メロディはセシルの胸元につかみかかった。

「たしかに女です! だからなんですか! そんなの、どうでもいい。負けたくないんです。怖くたって、どうしたって、負けたくないんです。もっと強くなります。なってみせます。絶対強くなりますから!」

 くってかかるメロディに、セシルはかすかに眉を寄せた。

「あのね、今は結婚について話しているんだが」

「わかってます!」

「わかってないだろう。君は、結婚のこともわかっていないね」

 もう一度、少し長く息を吐いたセシルは、不意に身をかがめてきた。

 メロディの頬に手を添えて、顔を近づけてくる。

 驚いて反射的に身を引いたが、彼は止まってくれなかった。そのままどんどん差を詰めてくる。メロディはさらに後ずさった。背中がアーチにぶつかった。

 大きな身体がのしかかってくる。アーチに押しつけられて、これ以上さがれない。

 わけがわからなかった。突然彼はどうしたのだろう。うろたえるメロディを青い瞳が見つめながら、わずかな隙間もなくそうと近づいてくる。長い髪が頬に触れた。

 唇に、吐息がかかった。

「――いやっ!」

 気がつけば、メロディは懸命に顔をそむけ、両手でセシルを押しのけていた。

 彼は逆らわなかった。

 のしかかっていた身体が離れていく。元通りに背を伸ばし、セシルは淡い苦笑でメロディを見下ろした。

「それが、君の気持ちだよ。今度はわかったかな」

「…………」

 メロディはへたり込みそうになる身体をアーチで支えた。

「言っては悪いが、やはり君は子供だ。男と付き合うのがどういうことなのか、少しも理解していない。結婚したらこんなものではすまないんだよ? 好きでもなんでもない相手と、触れ合うことに耐えられるかい? 君はまず、ちゃんと恋をするべきだね。誰かを好きになることから始めるべきだ」

「…………」

 メロディはこみ上げてくる涙をこらえた。たまらずに口を開く。

「ひ、ひどいです」

 言った瞬間、後悔した。

「そうだね、ごめん」

 理不尽な抗議を、セシルは許してくれる。謝る必要などないのに、譲ってくれる。

 本当は、何もわかっていなかった自分が悪いのに。

 セシルはただ、教えてくれただけなのに。

 いたたまれない思いで足元を見つめる。動けないメロディの前で、セシルも黙って立ち尽くしていた。

 気まずくなったふたりに、別の足音が近づいてきた。

 セシルが先に振り返る。ファラーが来ていた。

「……お取り込み中でしたかな?」

 尋常でない雰囲気に気づいた彼は、軽く眉を上げた。セシルは即座にいつもの態度に戻り、笑顔で応じた。

「そうだね。無粋だよ、ファラー殿」

 さりげなく立ち位置を変えて、涙ぐんでいるメロディを彼の視線からかばってくれる。情けない思いを噛みしめながら、メロディは急いで目元をこすった。

「それは失礼いたしました。ふむ、閣下は年上の女性がお好みかと思っておりましたが、意外に範囲が広かったのですな」

「この子は特別でね。これだけ可愛いと、ほだされる」

「なるほど。これはあてられてしまいましたな」

 ファラーは笑い声を上げた。

「殿下をお待たせしているね。戻ろうか」

 メロディの涙がおさまったことを察して、セシルが足を踏み出す。

 その前に、ファラーが立ちふさがった。

 彼は笑いをおさめ、ひどく真剣な顔をしていた。

「閣下――いえ、殿下」

「私はもう王子ではないよ」

「いいえ。あなたは王になるべきお方です」

 強い口調に、メロディは驚いてファラーを見た。

「なぜそう思い込むのかな。君は私のことなど、ろくに知らないだろうに」

「この一年、拝見してまいりました。あなたがとても優れたお人柄であることは、承知しております」

「それは、気をつけてお行儀よくしていたからね。さすがに今の立場で悪さをするわけにはいかない」

「はぐらかさないでください。また襲われたというではありませんか。それも今度は、一部隊ほどもいたと……よくぞご無事で済んだものです」

 温和な紳士だったはずの騎士団長は、怖いくらいに厳しい顔をしていた。

「あなたは、いつまでこんな状況に甘んじておられるのですか。何度も命を狙われて、どこまでも追いかけられて。なぜそれを、我慢し続けるのです。あなたからすべてを奪っておきながら、なおも執拗に手を伸ばしてくるハサリムを、なぜ許せるのです。許さねばならないのです!?」

 次第に激しくなる声に、メロディは息を呑んだ。

 どうして彼がこんなことを言ってくるのだろうと思う一方で、言い分は納得もできる。たしかに、セシルは少しくらい怒ってもいい立場だ。もちろん何も感じていないはずなどないだろうけれど、内心をまったく見せずに淡々としている彼には、メロディだって不可解さを覚える。

 とはいえ、ファラーは近衛騎士団長だ。彼が仕え、守るべきなのは、イーズデイルの王家だ。

 その血脈に連なるとはいえ、セシルは臣下にすぎない。近衛騎士が守るべき対象には含まれない。

 個人的にセシルに好意を持っているにしても、ファラーの態度は、いささか己の分を外しているように思えた。

「許す許さないの話じゃないんだよ。前にも言ったろう、下手な気を起こせば、戦争になりかねない」

「戦えばよいと、私も申し上げました」

 常の温和な態度をかなぐり捨てて、ファラーは鬼気せまる顔で言う。あっさり戦争を肯定する彼に、メロディはまた驚いた。

「戦えばよいのです。シュルクのやり方は目に余る。あなたが報復を宣言しても、非難はされません。そして賛同者はいくらでも集められます」

 メロディの存在など忘れ去ってしまったようだ。ファラーは開戦をそそのかすような恐ろしいことを平然と言う。人に聞かれてはいけない話だとも思っていないようだ。

「今は現状を受け入れるしかないとあきらめている連中も、あなたが戦う決意をなされば態度を変えるでしょう。このような言い方は失礼ですが、あなたがシュルク王になられることで、イーズデイルは得をする。もともとそれを期待していた連中です。まだ望みがあるとわかれば、喜んで力を貸そうとするでしょう。議会が開戦の意に傾けば、陛下とて反対はされますまい。イーズデイルの軍はけっして弱くない。シュルクと全面戦争になったとて、勝てる見込みは十分にあります」

「ずいぶん、希望的観測に偏った見込みだ。シュルクの軍だって強いよ。特に海軍は強い。あの国と戦うとなったら海戦が中心になるだろう。私はそう楽観的な見方はできない。それにね、どちらが勝つにしても、犠牲は出るんだ。かならず」

 セシルは強引にファラーを押し退けて、その横を通り抜けた。

「私はイーズデイルの兵士にも、シュルクの兵士にも、犠牲になってほしくなどない。それこそなぜ、彼らが犠牲にならねばならない? たかだか私一人のために」

 背を向けたままの言葉に、メロディははっと胸を衝かれた。

 なげやりとも取れる言葉。そこに、深い想いが込められていると感じた。

「……このまま、襲われては防いでをただ繰り返して行かれると? しかし常に防げるという考えも、楽観的ではありませんかな」

 ファラーにはわからなかったのだろうか。去ろうとするセシルに、なおも言い募る。

「いつか、あなたは凶刃に倒れるかもしれない。いや、その前に、あなたの周りの者が倒れる。あの忠実な従者は、己の身を楯にしてでもあなたを守ろうとするでしょう。他の者もです。これまでは防げた。だが次には犠牲が出るかもしれない。次をやり過ごしても、その次は――また愛する者たちを殺されても、あなたは我慢し続けるのですかな」

「…………」

 セシルの足が止まった。

 メロディは息を詰めてふたりを見守る。

 けれど結局、振り返ることもなく、セシルはふたたび歩き出すと黙って立ち去ってしまった。

 ファラーもそれ以上は追わなかった。

 ただため息をつく。苛立ちと憤りに満ちたため息だった。

 それからようやく彼は、メロディの存在を思い出したかのように振り返った。

「……あの方は、優しすぎる。なんでも自分が我慢すればよいというものではないでしょうに。今の状況であの優しさはむしろ罪悪だと、どうすればわかっていただけるのでしょうな」

 なかば独り言だろう。返事を期待されているとは思わなかったが、メロディは慎重に口を開いた。

「戦争になれば、どちらの国にも犠牲者が出ます。セシル様にとっては、シュルク人も同胞です。袂を分かつことになったとはいえ、今でもその思いはあるはずです。同胞同士での殺し合いなんて、耐えられないのでしょう」

 どちらの兵士にも死んでほしくないというさっきの言葉こそが、セシルの本音ではないかと思う。

 兄とは敵対していても、すべてのシュルク人を敵とは思えないだろう。生まれ育った故国の人々を敵に回して、さあ殺せと命じる気になど、なれるわけがない。

 同胞同士と言ったが、セシルにとってはたった一年住んだだけのイーズデイルより、シュルクの方に思い入れがあるはずだ。他国人の力を借りて同胞を殺す。そんな気持ちかもしれなかった。

 優しさというより、哀しみだ。

 セシルはきっと、哀しんでいる。

「たしかにお辛い立場なのはわかります。しかし時には犠牲を覚悟してでも決断せねばならないものです。あの方に必要なのは、その覚悟と勇気です」

「何のための犠牲ですか。大勢の命を犠牲にするというのならば、それに見合うだけの目的が必要なはずです」

「あの方に本来の権利を、王位を取り戻していただくという目的が、見合わぬとおっしゃるか?」

「……個人的な目的でしょう。民の血を流させるのならば、彼らすべてに関わる大きな目的でなければなりません」

 ファラーは嘲笑の混じる息を吐いた。

「王位をめぐる問題が、個人的とは……まあ、うら若い令嬢にこのような話は申し訳ありませんでしたな」

 メロディは視線を落として不服をこらえた。たしかに父親のような歳の相手に、それも政治や軍事の問題で、メロディが一人前に議論できるものではない。言いたいことはいろいろあるが、何もわかっていない女子供の主張だと言われてしまえばそれまでだ。

「あなたにとっては、見たこともない遠い異国の王妃になるよりも、この国で公爵夫人になりたいことでしょう。ご賛同いただけないのは当然でしたな」

「わ、わたしは……」

「ああ、失礼。まだお披露目もなさっていない非公式な話でしたな。先日の舞踏会以来けっこうな噂になっておりますが、いつごろ発表なさるご予定で?」

「いえ……あの、それは……」

 発表どころかほとんど破談を言い渡されたも同然だ。なんと答えればいいのだろうとメロディは口ごもる。それをどう受け取ったのか、ファラーはまた嘲笑を浮かべた。

「あの方の置かれている状況を知って、気が変わりましたか? まあ、無理もありませんな。ご婦人にとっては恐ろしい話でしょう。しかしお父君はすべて承知でいらしたはず。彼はどう言っておられます? やはり戦は避けたいとお考えかな。武勇で名を馳せたアラディン卿も、この平和な時代にあっては穏便に日和見を決め込みますか」

 ファラーに名乗った覚えはないが、メロディの素性については先刻承知らしかった。やはりこの顔や髪で、すぐにわかるのだろう。

「……女王陛下のご下命があれば、父も兄たちも勇敢に戦うでしょう」

「そうでしょうとも」

 軽く頷いて、ファラーはきびすを返す。

 小娘ごときにいつまでもかまってはいられない。そう言わんばかりの背中を、メロディは複雑な思いで見送った。

 彼に付き添われて王太子が帰る際、セシルはその場でメロディにも、エイヴォリー伯爵邸へ移るよう言い渡した。


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