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女王陛下の竜撃将と憤怒の闇龍  作者: 飴丸


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神とは、竜とは、魔とは、人とは、その問こそが無意味也 ◆8-1

「――闇竜ラトゥ接近!」

「馬鹿な、何故昼日中に!」

 飛行船の操舵室で、神官達の悲鳴が上がる。猛然と追い縋ってくる黒き鱗の闇竜は、金陽の光に体を焼かれることもなく空飛ぶ船へ肉薄してくる。そこで丁度、クレーエを腕にしがみつかせたジュラーヴリが入ってきた。

「来たか、ジュラーヴリ。敬虔なるお前の目にあれはどう見える?」

 一人冷徹な声を上げるペルランに、周りの動揺が少しだけ抑えられた時。ジュラーヴリは灰色の瞳で外を見詰め、低い声で淡々と告げる。

「闇竜ラトゥは既に肉の体を得ている。人間――ジェラルド・スターリング将軍と血肉の共有をし、物質の界に堕ちてきた」

「馬鹿な。原初の七竜が、其処まで堕ちたとでもいうのか?」

 流石のペルランも俄かに信じられず、全ての真実を見通すはずのジュラーヴリを見返した。不満気にクレーエが睨むのをそっと抑え、ジュラーヴリは尚も続ける。

「そうでなければ、銀月女神様を助けられぬと思ったのだろう」

「助けるですって!? ずっとリチア様を捕えていたのはそちらでしょうに……!」

 憤懣やるかたない、という風にイエインが金切り声を上げる。

「やむを得ぬ。イエイン、今一度銀月女神様へ祈りを――」

「駄目よ!! これ以上あの方のお心を乱すなんて! あの方はわたくしがお守りいたします!!」

 ペルランの命令にイエインは激しく首を横に振り、部屋を飛び出していく。ペルランは深々と溜息を吐き、周りの神官達に命じた。

「祈りを捧げ、結界を張れ。如何にその身が物質の肉になろうと、金陽の中では闇炎の吐息の威力は落ちる筈。貴様達の敬虔なる祈りは忌まわしき恨みも跳ね返すであろう」

「「ははっ!!」」

 神官達は次々と膝を折り、己が信じる神に祈りを捧げた。全てのはじまり始原神イヴヌス、闇を打ち払う金陽神アユルス、海と風を統べる海原神ルァヌ。祝詞と共に、彼らの体は少しずつ透き通って結晶化していく。神従になれぬ者達が不相応な祈りを捧げれば、その体は神に捧げられる。不快そうに眉を顰めたクレーエの肩をジュラーヴリが抱き寄せ――もう一度外を見て、違和感に気づく。彼の目にも、捕らえられないものがあった。

「……スターリング将軍は何処だ?」



 ×××



 美しい光の帯に包まれてゆく飛行船を黒瞳で見下し、闇竜は嗤った。

【無様也。人の血肉や魂など、神の爪先一片にも及ばぬ。神に縋らねば生きてすらおれぬ哀れな者達よ、貴様と同じようにな】

「一緒にするな。女王陛下に縋らずとも私は生きていける。ただ、かの方にすべてを捧げたいだけだ」

【何が違うのだか。彼奴らは魂の一部を神に捧げる代わりに権能を賜った。愛しき我が妻ならば、人を惑わし癒す銀光を。戦神ならば、誰にも負けぬ膂力を。誤って使えば、運命は神に囚われる】

 嘲り笑いながら捩るその体の何処にも、ジェラルドは跨っていない。しかし声ははっきりと届く。

「私は、あの方の力など欲しない。最早十二分に、私とかの国の民は賜った。ならばせめて、返すのみだ」

【そも、神の教えなど人が嘗て好き勝手に決めたものにすぎぬ。神は人を導かぬ、守らぬ。ただそこに在る理というだけだ。――最も、智慧女神だけはそうならなかったようだがな】

 珍しくジェラルドの言を肯定するように呟き、竜はその大顎を広げた。黒曜石の刃のような乱杭歯の間から、ちろちろと黒炎が漏れだす。

【忘れるな。我は竜也、妻は神也。そうあれかしと始原神イヴヌスに創り出されたもの。何も持たず生まれ落ちた哀れなる人よ、貴様は如何に望みを得るか?】

 その、大きく開いた顎の、舌の上。片膝を突き、半ばその身を黒炎に舐められながら、其処にジェラルド・スターリングはいた。

「知れたこと。()のすべては我が女王陛下の為。誰に創られたわけでも、誰に与えられたわけでもない。俺が望んで、俺が選んで、俺が決めた! 哀れと思うならば思え、神ごときに縛られた竜よ!」

【良く吠えた! ならば最早、問答は不要! いざ、いざ行かん、愚物共に鉄槌を与えん!!】

 光の壁に向かって、咆哮と共に黒炎が吐き出されると同時、ジェラルドは竜の顎を蹴り、跳んだ。

「――叫べ、闇竜!」

【行け、地蟲ィッ!!】




 ×××




 吐き出された闇の炎は、光の帯を飴細工の如く焼き融かし尽くした。それだけでは飽き足らず、めらめらと消えずに広がり、船体を舐め焦がしてゆく。

「う、うわあああ!!」

 熱さに耐え切れず、窓に皹が入り砕けた。その勢いのままに飛び込んできた火球に、神官が慄いて逃げ出す。壁面に激突して大穴を開けたそれは、どう見ても焼け焦げた燃え滓にしか見えなかった。恐る恐る近づいた神官の目の前で、黒い帯がぞわりと動く。

「ひい!?」

 それはまるで蛇のようにぐにゃぐにゃと動き、燃え滓を形作るように蠢いて――ひとりの人の形となった。黒い繭が解けると、中から身体の半分を焼け爛らせ、もう半分を黒き鎧の如く鱗に覆われた、金髪の青年がまろび出てきた。

 その左腕は既に、竜の如き鱗と棘に覆われて、巨大な手甲のように成り果てていた。火傷を覆っていく蠢く鎧となる鱗を不愉快そうに見下ろしながらも、彼は手に持ったままのサーベルを天井へと掲げ、叫ぶ。

「――女王陛下! ジェラルド・スターリング、今ここに馳せ参じました! 今暫しご辛抱ください、お助けに参ります!!」

 宣誓と同時にサーベルが薙ぎ払われ、哀れな神官達の首を飛ばした。同時に、闇竜の咆哮と共に船が激しく揺れる。

「チッ、女王陛下に辿り着くまで、この船を沈めることは許さんぞ羽蟲ッ!」

【何処だ――何処に隠した! 我が妻リチアよ、応えを返せ!!】

 こちらの声をまるで聴かない闇竜にもう一度舌を打ち、凄まじく揺れ続ける廊下を駆ける。船の知識などほぼ無いが、大切なものなら中心部に隠すだろうという単純な理由で、片端から廊下の扉を蹴り開けていく。

 その内、奥へ向かうらしい通路を見つけて駆け下りようとした瞬間――左腕が自然と動いて、白い刃を止めた。一瞬後に気づいたジェラルドも舌打ちを一つして、狼藉者を睨み返す。

「邪魔立てをするなッ!」

「行かせない――」

 飛び掛かってきたのは白髪のクレーエだった。鬼気迫る表情で刃を繰り出し、ジェラルドの行く手を阻む。間合いを取るも、どんどんと詰めてくる。先日戦った時よりも余裕が無いが、気迫は有り得ぬほどに強い。油断できぬ相手と、サーベルを構え直す。

 クレーエは酷く悲壮な、今にも泣きそうな顔と声で、それでもジェラルドを睨んで告げた。

「ラーヴの望みは、絶対、あたしが叶えさせるんだから……!」

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