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女王陛下の竜撃将と憤怒の闇龍  作者: 飴丸


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絶海の島、エルゼールカ、闇夜を侵す襲撃者 ◆1-1

 銀月の無い夜。

 雲がかかっているわけでは無く、小さな星は瞬いている。だが、夜の帳の中で、一番に輝いて闇を彩る銀月は、無い。

 三十年前には存在したとされるその天球を、己の目で一度も見たことが無いジェラルドにとって、闇夜は慣れたものだった。腰から下げた小さな明り石だけで、危なげなく城壁の上を歩いていける。

 左側には、大分明りが少なくなった市街。右側には、城壁の遥か真下に広がる黒い海原。彼はその両方を眺めつつ、油断無く視線を空に向け続けていた。

 海岸線に沿って、島全体を覆っているその城壁は、歩いて一周するのに半日はかかる。決して楽ではない見回り作業を、ジェラルドは文句一つ言わず、城壁将という職に就いてから三年、ほぼ毎日行ってきた。

「スターリング将軍! 南東砦、異常ありません!」

 島の八方に建てられている見張り砦から、ジェラルドに気付いた兵士が駆け出してくると、右手を握り左胸を叩いて敬礼した。夜番の兵士達に油断は無さそうなことを確認して、ジェラルドは満足げに頷く。

「御苦労。引き続き頼む」

「はっ!」

 口の端を僅かに持ち上げる事すらない、ぶっきらぼうな声の労いに、兵士はがちがちに緊張していた肩の力を漸く抜く事が出来たようだった。ジェラルドの機嫌を損ねなかったことに、安堵したのだ。

 遥か南の大陸に居並ぶ国々に比べ、このエルゼールカの国土は僅かに島一つ。それでも、約千年もの間、年老いることなく統治を続ける神秘なる女王の辣腕と、地下深くに眠る潤沢な鉱物資源、そしてそれを生かした先進的な設備の開発によって繁栄を続けてきた。

 島の周りを流れる海流は非常に複雑で、エルゼールカ以外の造船・操船技術では乗り越えることも難しく、長年他国から攻め込まれることも無かった。そんなこの国が唯一有している武力が、城壁を守る守備隊と、それを率いる城壁将ジェラルド・スターリングだ。

 僅かな星の輝きを反射して煌めく金髪と、青灰色の瞳を携えた彼の顔には、並みでは無い意志の強さが滲み出ている。黒い外套を羽織り、腰には女王陛下から賜ったサーベルを左に、最近この国で開発された短銃という珍しい武器を右に下げている。

 年の頃は二十に届かないが、長い編み上げ靴の踵を規則正しく鳴らし、部下達を確かめながら見回りを行う姿には、既に貫禄めいたものが感じられた。

 胸に飾られた城壁将の意匠は貴族位の証でもあるが、形ばかりのものであることは国民の誰もが知っている。ジェラルドが元第二市民、現在は廃止された奴隷同然の身分であったことと合わせて、有名な話だった。彼が昇ることの出来る地位の限界であり、如何なる成果を上げてもこれ以上の出世は望めないことも。

 だが、彼がそれに対し不満を漏らしたことは、一度も無い。十三の時に兵士として城に仕え始め、異例の出世により城壁将に抜擢されてからも、女王陛下の為と、己が職務に邁進し続けている。

 否、彼の女王陛下に対する忠誠は、敬愛や心酔という言葉で表せるほど軽くなかった。崇拝、すら生温い。他愛のない冗句だったとしても、女王へ揶揄の言葉をうっかり向けてしまった兵士を、拳どころか剣の柄で殴りつけたことも一度や二度ではない。

 当然部下達から不満の声は上がるものの、身分差による贔屓などを行わず、手柄さえ立てれば相応の報酬を支払ってくれる非常に優秀な上司であること、更に女王陛下への態度さえ改めればそれ以上罰せられる事も無かった為、段々と兵士達の評価は高くなった。下級身分の者達がこぞって城壁勤めに名乗りを挙げ、今や若者に人気の職のひとつだ。

 しかし、この城壁の守備は決して簡単なものではない。

攻め込んでくるのは他国や海賊ではなく、もっと別の――人間に悪意を持つ、生物達だった。

「――……!」

 生温い風に頬を撫でられ、ジェラルドははっと空を見上げる。闇をいくら人工の明りで照らして見ても、何も見えない。

 だが一瞬、星が瞬いた。それだけならば無視するところだが、瞬く星が一つまた一つと連なり、それが段々と真上へ近づいてくる。――闇に紛れた何者かが、空を飛んで星光を遮り、今まさに落ちてこようとしていた。

「敵襲ッ!!」

 それに気付いた瞬間、ジェラルドは叫ぶ。鋭い声は、兵士達の間に緊張を走らせる。伝令が慌てて鐘楼に登り、鐘を思い切り叩いて鳴らした。

 肉眼で見える位置にある北側の城壁から、どぉんという衝突音と共に、兵士達の怒号や悲鳴が届く。ジェラルドはそちらへ向かって駆け出しながら叫んだ。

「明りを増やせ! 各々、持ち場を死守! 油断するな!」

 全力で駆ける彼の眦はきりきりと釣り上がり、堪えようも無い苛立ちと怒りを口の端から漏らす。

「忌々しい蜥蜴共が……ッ」

 ぎりぃ、と歯が砕けるのではないかと言う程奥歯に力を込め、絞り出すように呟く台詞を聞く者はいなかった。

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