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暫く砂漠を歩いていると動くサボテンに囲まれている人影が見えた。
動くサボテンとは当然モンスターの事で、小さいながらも七、八匹はいる。
この砂漠を進むにあたって度々目にしてきた通称「サボテンマン」と呼ばれる奴らだが、あれだけの数に囲まれては命の危険すらある。
「助けよう」
俺はフォックスらを説得し、旅人の元へと向かった。
最悪水に困ってるならクレラの水魔法がある。
旅人はなんと虹色の派手髪で、手にはハープのような物を持っていた。
吟遊詩人なのだろうか。
だとしたら音楽の先輩にあたる可能性が高い。
何にせよ、困っている人は助けないと。
威圧感のあるフォックスを先頭に現れた俺達を見て、サボテンマン達は逃げていった。
飛び跳ねながら移動する彼らは一見可愛いのだが、優先すべきは同じ人型の旅人だった。
「いやー助かったでなーありがとー!」
何だか明るい人だな。
どういう遺伝子を継いだらそういう髪色になるか分からないが、まあゲームの世界だからな此処は……。
金髪をベースに赤、青、緑の線がある。
身長は俺より少し低めで、服装は薄手の青の上下だった。
「俺達アーディスに向かう途中なんだ。君、名前は?」
「レインだよー。私の家もアーディスにあるでなー」
主語は私だが、れっきとした男性だった。
自己紹介を済ませ、俺達は一緒に主要都市に向かう事になった。
それにしても眠い。
俺の体内時計はとっくの前に寝る時間を迎えているはずだ。
「ちょっと岩陰で休んでいいか?クレラ、俺とレインに水魔法をぶっかけてくれ」
レインは九割方飲み物を欲しているはずだった。
つーか眠さ故に言動が雑になる。
俺はレインの了承を得ないまま彼の横に立った。
「え、大丈夫?まあ、私はいいけど……水魔法、水激流!」
消防車のホースから出るような激流が俺とレインの顔面に直撃した。
「うぉっ、タイムタイム!ちょっ……止めて!」
俺の学生服はビショビショになった。
だが、かけてほしいと言ったのは俺だ。
クレラの水魔法を舐めてた。
よく考えれば火炎弾の水版だろ?
対象の命を削るような魔術の一種だ。
「ゲッホゲホ」
レインも水を口に含んでしまったようだ。
歳は二十二、三と言ったところか。
「ごめんよレイン。ところでハープの演奏出来るの?」
「まあ一応ねー。吟遊詩人の端くれとして飯食ってるよ」
とレインはハープを演奏してくれた。
綺麗な音色だ。
端くれとはかなり謙遜してるな。
何処か気力すら漲ってくる。
「馬鹿な事してないでとっとと行くぞ。まあそのハープの音はエネルギーを生み出すようだが?」
と腕を組むフォックス。
俺が眠いのには気づいているようだが甘やかしくてくれない。
いやアーディスに着けばフカフカのベッドで寝られる可能性も高いわけか……。
それにしてもレインとは音楽の話が出来そうだ。
音楽を高校から始めた俺にとって、彼は先輩的立ち位置である事は確実だろう。
それだけポロンポロン……と鳴らすハープは心を打った。
「アーディスと言えば心当たりのある友人が一人いる。入れ墨のクロウという男だ。もしかしたら旅に同行してくれるかもな」
フォックスの友人クロウ。
入れ墨と聞いて良いイメージはあまり浮かばなかったが、先入観に囚われるべきではないかもしれない。
「私は実は幼馴染のアスカちゃんと再会するためにアーディスを目指してて、今ならアスカちゃんのお姉ちゃんもいるかも」
アスカか……。
なんか日本人みたいな名前だな。
そもそも元の世界に帰る為の旅なのにこれじゃあ一層帰りづらくなる……ん、な、何だ?
震度三くらいの地震のような揺れ。
それになんか嫌な感じだ……。
空が一瞬紫色になった気すらした。
「先を急ぐぞ、ソラ、クレラ、レイン!魔王復活の時が近づいているのかもしれん」
「まさか」
顔色を変えたのはクレラだった。
クレラの父が命と引き換えに倒した敵。
それの復活が近づいているとなると、当然心に刺さるものがあるだろう。
「此処からアーディスまでそれほど距離があるわけではないでなー」
「ふわぁ……分かった。早く行こうぜ」
欠伸をした俺はフォックス達に続いた。
魔王の復活……ゲームとしては有りがちな展開だった。
「アスカちゃんってどんな人?」
「え、気になるの?そうだなぁ……普段はツンツンしててお金が大好きなんだけど、本当は情に厚いって言えばいいのかな」
ツンデレか。
アルテマの女の子はポテンシャルが高い。
それにアスカのお姉ちゃんもいるわけだろーって俺のクレラへの恋心どうした!
俺だって年頃の高校生。
いや高校生だからこそ一途なのが普通なのかもしれない。
図書館で見かけた恋愛本で彼女が出来るまでは複数にアプローチしろって書いてたけど、それと同じ事しようとしてたわけだ俺は。
つまり心に余裕を持たせろと。
まあ俺も人の子ですよ、と。
砂に若干足を取られながらトボトボ歩く。
正確に測った訳では無いが、もう二十時間以上起きっぱなしだ。
俺ロングスリーパーなんだよな。
それに今日は色々あり過ぎた。
「日が完全に暮れるまでにアーディスに着きたいね」
とクレラ。
先程のレインのハープの演奏がなければ俺達は今頃座り込んでいただろう。
「おんぶしようか?」
「え、いいよいいよ。ソラ眠いんでしょ?」
「バレてたか……」
「当たり前。欠伸大き過ぎ」
「ハハッ」
アスカとやらを気にかけた代償。
二人だけの想い出をとも思ったのだが、今回は都市への到着を優先だ。
俺達四人は砂漠を越え、アーディスが見えてきた。
何やらデカい門があるようだ。
モンスター達から民を守る為か。
ゲートの左右に立つ重装備の門番にはレインが説明し、俺達は主要都市アーディスへ足を踏み入れる事となった。




