初めての戦闘
敵は見上げるような巨体。
動きはそこまで速くなさそうだが、鉞の攻撃を一度でも喰らうと即死だろう。
ゴーレムは鉞を持つ右手を高々と持ち上げ、俺に向かって振り下ろしてきた。
ドカッ!
あっぶね〜地面が割れるほどの威力。
俺は右側のフォックスのいる方向に前転してかわしていた。
言いそびれていたが俺の持つ大剣ソーイアロは俺の背中に吸い付く魔力がある。
異世界人だからだろうか。
何にせよ英雄ソーイアロが俺に敵対してる感じはしなかった。
このゴーレムとの闘いも何らかの意図があって……!
鉞の横向きの攻撃。
俺とフォックス二人同時に攻撃対象としてきた。
だが攻撃が完了するまでにクレラの黒魔法が対象を襲う。
火炎弾。
俺が頭の中で思い浮かべたまんまの黒魔法を、クレラは放った。
オレンジ色に燃え盛るそれは、クレラの手元で直径一メートルにまで育ち、グツグツと煮えるマグマのようだった。
発射された火炎弾はゴーレムの厚い装甲に向けて一直線に飛んでいく。
ぶつかった時には敵は鉞の攻撃をキャンセルせざるを得ないほどのダメージを受けていた。
(あのゴーレムを怯ませるほどの魔力……流石だぜ)
俺は大剣を持って駆け出していた。
闘う覚悟はもう決めてらぁー!
喩えどんなにゴーレムの装甲が厚くてもこっちは英雄の剣なんだ。
その時、俺の身体に力が漲るのを感じた。
これは……能力上昇の緑魔法!?
フォックス……アンタ……攻撃力アップの魔法を俺に?
亜人フォックスの魔法、鬼人化だった。
紅いオーラが俺を覆う。
「無事脱出する為だ」
と彼は言っていたが、連携の取れるのは素直に嬉しかった。
クレラ、そしてフォックスとの連携。
今日会ったばかりの二人で絆が深いとは言い難いが、それでも高さ三メートルのゴーレムを相手に協力は必須だった。
「ようし大剣ソーイアロの一撃喰らいやがれ!」
俺は対象の左脚に向けて斬撃を放った。
この大剣には魔力が宿っているのか。
ソーイアロの思念体が宿っているかは定かではないが、硬い煉瓦の足に、確実なダメージを与えるに至ったのである。
それとも鬼人化のおかげかな?
いやきっと両方だ。
何れにせよ、火炎弾と斬撃で、ゴーレムは明らかに怯んでいた。
(やっぱりクレラちゃん強いぜー。それにフォックスも極悪人ってわけじゃないのかも?)
俺が次の攻撃に移ろうとした時、
ゴーレムが体から煙を放った。
至近距離にいた俺が吹き飛ばされたのは言うまでもない。
何だコイツ機械だってのか?
でもフォックスはモンスターの匂いだって言ってた。
よく分からねーが俺は尻餅をつくに至っている。
クレラが二発目の火炎弾を放つ動きを見せていたが、フォックスは自分で攻撃しようとしていない。
彼のサーベルではゴーレム相手に分が悪いとでも言うのか。
それとも俺達に戦わせて自分だけ無傷で此処を出ようとしているのか。
ゴーレムがクレラの方向に歩き始めていた。
この世界アルテマに来て初めての相手にしては巨大だが、四の五の言ってられねぇー!
クレラを護る!
「喰らえ!火炎弾!」
ぶつかった衝撃は此方の方まで届いていた。
そして俺はノロいゴーレムより先にクレラの前に立ち塞がる。
この魔力を帯びた大剣で護ってみせらぁ!
その時、オレンジのオーラが俺を覆った。
再び、フォックスの補助魔法。
今度は防御力アップだろうか。
この闘いではフォックスは完全に補助に回っていたが、ピンポイントでサポートを施してくれる。
クレラは賢い印象だが、フォックスも中々賢そうだ。
何よりこの緊迫した戦闘の場での冷静な状況判断は流石とも言える。
バチッ!
敵の鉞の縦の攻撃を大剣ソーイアロで受け止める。
因みに防御アップの補助魔法は硬質化と言うそうだ。
俺は見事英雄の大剣で敵の攻撃を受けきってみせた。
手が痺れるような感覚。
取り敢えずクレラを護ることには成功だ。
壁画のあった部屋は円形の空間だった。
無理に相手を倒さないでも先へ進めるか?
いや、ここまできたら敵を倒そう。
今、この瞬間にフォックスは自分だけ逃げようと思えば逃げられたはずだった。
何だよ、やっぱり良心あるじゃねえかよ。
俺は大剣を振り翳し再び敵の左脚に攻撃をヒットさせてみせた。
まだ鬼人化の効果は残っている。
敵はバランスを崩して倒れだし、これでジ・エンドだった。
「ソラ、ありがと」
可愛いなクレラお前は。
取り敢えずこの部屋から脱出だ。
壁画の下部にある扉を開け、其処には眩しい光が差した。
ダンジョンを無事脱出した俺達は砂漠らしき場所に出たのだった。
気温にすると三十度くらいはある……。
先程の森とは打って変わってサボテンも見受けられた。
ゲームの世界だから何でもアリってか。
「大剣ソーイアロを寄越せ」
とフォックスは無理矢理剣の柄を触ってきたが、その瞬間バチバチッと火花が飛んだ。
どうやら英雄の剣は俺を選んだようだ。
異世界人だからだろうがな。
「チィ……英雄ソーイアロの大剣が俺様を認めるまで同行してやる。貴様らの目的地は何処だ?」
「アーディス……」
この大剣に思念体みたいなものが宿っているかは確かではないが、フォックスは納得いかなかったようだ。
「そうかフォックス様がアーディスまで案内してくれよう。どうせクレラは女だから方向音痴だろう」
確かにこの砂漠からアーディスに辿り着くには彼のサポートが必要かもしれない。
「行くぞ」
相変わらず主人公気取りだけど……。
「行こクレラちゃん。仲間は多いに越したことないって」
クレラはまだフォックスを信頼しているわけではなさそうだったが、取り敢えず俺達の旅がまだまだ続きそうなのは明白だった。
行けるさ、どこまでも。
アーディスが旅のゴールになるとは思えない。
ゲームで言うと主要都市に着いてからが本格的なスタートという見方もある。
俺達はダンジョンの出口を離れ、砂漠の中へと歩き出した。




