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さあ、ダンジョンに向けて出発だ。
俺はクレラの魔法で革靴を出してもらった。
彼女が「フッ!」と力を込めると手の平から金の粉が飛び出し、それが茶色の革靴に姿を変えたのだ。
「それなら武器も魔法で出せるんじゃないの?」
正直人間離れした魔法の力に感服していないわけでもなかった。
これがこの世界の魔女の力……!
元の世界に帰るまでにクレラから魔法を習うのもアリかもしれない。
ってそれは図々しいか。
何にせよ俺は大剣使いとして行く方向で既に大方固まっていた。
「木の棍棒くらいなら出せるけど……」
やはり大剣ソーイアロを手に入れるのは必須かもしんねぇな。
だが丸腰だと心配なので木の棍棒を一応出してもらう。
長さ五十センチ程の硬めの木で出来た、特に変哲のない棍棒だった。
だが感謝していないわけではない。
何より今から自分のためにダンジョンに寄り道してくれるなんて、出会ったばかりの男に普通する事ではない。
もしかしたら彼女も俺に特別な何かを感じたのかもしれない。
何にせよ十七歳にして俺の恋は本格的に動き始めていた。
優しさと美貌を兼ね備えた彼女は、明らかに自分の中で恋愛対象に値した。
でも焦る事ないさ。
そんなガツガツいったら引くかもしんないし。
徐々に絆を深めていったらいい。
俺達はクレラの木の家を跡にし森を進んでいった。
仮にこの世界ですべき事を果たしたらクレラとは二度と会えなくなんのかな。
当然なんだろうけどそれは凄く寂しいな。
俺の通ってる高校の女子は不良とつるんでばっかだ。
そんな事を考えながら俺達は森を抜け、小さな山への緩やかな上り坂に差し掛かった。
道には草が生えていたが、靴無しだったら今頃足の裏を怪我していただろう。
(ん?何だコレは)
見れば緑色の皮膚をしたゴブリンの死体だった。
道のド真ん中に何故……?
もしかしたら、もしかしたらだけど、これから行くダンジョンには先客が?
「サーベルに刺し殺されてる。返り血はダンジョンの方向に続いてるね」
サーベルとは武器の一種だろう。
先に英雄の剣を取られるのは避けたい。
なんてったって伝説の三人のうちの一人の遺した武器だぜ?
「どうする……?」
俺はクレラの整った顔を見つめた。
正直彼女を危険に晒したくない。
武器を扱った先客は人間である可能性が高いわけだが、クレラを見て犯罪を企てる可能性も無視できないのだ。
踊り子の衣装刺激が強いよー。
もう魔女らしくローブにでも着替えたら?
俺は彼女の次の言葉を待った。
「異世界からの訪問者はこの世界アルテマでの救い主だというソーイアロの遺した予言があるの。やっぱりその言葉無視できない。先客と話し合ってみる価値もきっとある!」
英雄の遺した予言か……。
俺が救い主に値するとは今のところ思えないけど、ゲームの主人公的立ち位置って事か。
ゲームの王道パターンでは魔王が復活って可能性も無視できないし、怪我が酷かったらこの世界でも俺は死を体験する仕組みになっているだろう。
この血まみれのゴブリンの死体がその事を鮮烈に物語る。
もしかしたら異世界人だからクレラは俺に手を貸したのか?
そうだとしても俺の恋、諦めないもんね。
もし救い主なのだとしたら俺のこの世界での伸び代は計り知れないわけだし、そんな肩書きなくったっていい。
現に俺は彼女と二人っきりで行動できてるわけだし、ゴブリンの死くらいでビビる事ねえ。
ゴブリンと言えばゲームでも最弱クラスなわけだが、舐めてかかると痛い目見そうなのは確かだった。
この世界アルテマは二次元じゃねぇ。
明らか痛みや熱を伴うリアル極まりない場所だ。
「ソラって異世界では何してたの?」
「バンド。ボーカルとして歌ってたんだ。まあでも歌い始めて一年半だからそこまで上手くはねーけど」
「この世界にも吟遊詩人といった職は存在する。アーディスに行けば会えるかもね」
「なるほど……」
「ダンジョン、行くよね?」
「おう!この棍棒で出来るだけの事はするよ」
俺達は道を再び歩き始めた。
あのゴブリンの死体は恐らく最近のものだ。
緊張しない訳がない。
それでもクレラは立派な魔女で、覚悟を決めて彼女を棍棒でサポートするしかなかった。
平和な日本での生活に比べ、此処は死と隣り合わせだ。
ラグビーでの経験が役に立ちそうなのは言うまでもないが、ハッキリ言って俺の歌が例えばモンスターを眠らせるみたいな事は出来そうもない。
まあ自分で自分の可能性も狭める事もアレだけど。
そんなこんなで俺達はダンジョンの入り口に到着した。
山にできた洞穴って感じだ。
入り口の左右に篝火が灯してあり、この先にゴブリンを殺した先客はいるようだった。
でもゴブリンって普通敵だよな?
敵の敵は味方ってならなくない?
下り階段はずっと奥まで続いていたが、今の今まで英雄の大剣が盗まれずに残っているのもおかしな話だった。
もしかしたらだけど、強力なモンスターが護っているとか……。
有りがちな設定だった。
だが、もう来るとこまで来たんだから仕方がない。
クレラは賢そうな子だ。
大剣を手に入れられる勝算があるから来たに決まってる。
俺達は立派な石の階段を降りていった。
所々蜘蛛の巣が張ってて不気味だ。
何だよビビる事ねえー!
確かにラグビー時代の前半はビビり散らかしてたけど、女の子を護る為なら話は別だ。
異世界人について予言を遺した英雄ソーイアロの大剣。
俺と縁があるに決まってる!
階段を降りきった広い空間に、先客はいた。




