プロローグ
俺の名前は空。
高校の軽音部に所属している十七歳だ。
何で軽音部に入ったかって?
そりゃヘビーメタルに憧れたからだよ。
あのサウンドカッケ〜って感じかな。
初めはドラム志望だったんだけど、友達と被っちゃって。
ボーカルとして作詞の練習なんかもしている。
何だよどうせモテる為だろとか思ったのか?
俺は今まで彼女が出来た事がない。
気になる子はいたけどイマイチピンと来なかったって言うか……。
話を元に戻そう。
俺はヘビメタに憧れて結局ボーカルになったんだけど、一応ロックとメタル両方の要素を取り入れたバンドに仕上がりつつある。
俺は高校二年生だ。
今年からコンビニでバイトも始めたし、髪の毛も金髪に染めた。
俺の学校規則緩いんだ。
それなりに不良もいて中学時代のラグビーでの身体作りが俺を護るに至っている。
ラグビー。
走るのが速かった俺はウィングとフルバック(?)ってポジションをプレーできたんだけど、細い人のやるスポーツじゃないね、アレは。
中三の頃の俺の体重は五十キロ前後。
ハッキリ言って恐ろしかったぞ。
向かってくる選手が自分の一点五倍のサイズだったとしても身体をぶつけに行かねばならない。
今思えば罰ゲームだね。
それにしても皆は俺みたいに学校と関係無いもの持ってきちゃいけねーぜ?
ああ、そうそうコレの事。
「借りたゲーム三年になるまでに返すわ。じゃあな」
「おつかれ〜」
俺はバンドメンバーと別れ校舎を跡にした。
冬。外では珍しく雪が降っていた。
今日はコンビニのバイトは休みだ。
さっそく帰って借りたコンピューターゲームを楽しもう。
水面下で人気のファンタジー作品だ。
(寒いな……マフラー必須だ)
学校のバルコニーを歩いていると不良たちと鉢合わせした。
凄い形相で睨んでくるが結局何も言ってこなかった。
不良達の身長は百八十センチ前後。
俺よりも五センチも高い。
殴られなかったのは運が良かった。
だがもし彼女がいたら俺はその子を護れるだろうか。
不良達の気に障りやすい存在と言えばカップルである。
そんなこんなで俺は手を擦り合わせながら校門を出た。
赤と紺のマフラーは既に巻いてあった。
不良たちにビビってないでそろそろ彼女作るべきなんかな。
まあでも焦る事なくね?
めちゃくちゃ魅力的な人でもない限り、告白する気にはなれないかな。
それにアレだぜ?
海外では告白とかしないらしいぜ。
はぁ……この話はよそう。
それより作詞だ。
人間的に成長すれば完成度は上がる。
作曲は大学に入ってからでいいかなと思っててギター隊に任せてる。
なんかパソコンのマックとかで作るやつなんだけど、まあシンプルだわな。
1年の時は特にコピバンって言って他のアーティストのコピーばかりしていた。
それにしても人間性か……女子との関わりがそれを底上げするような気もしないでもない。
(何だよ、ボッチで帰っちゃ悪いかよ)
車道を挟んで向かい側をカップルが通っていった。
悔しいわけではない。
他人は他人、自分は自分だった。
まあでも来年の学園祭こそはオリジナル曲で出たい。
ってアレ?俺モテ意識してる??
と、とにかく!
彼女を作るなら作るで精神的にも肉体的にも強くなきゃ駄目だ、この学校の生徒ならな。
良い人きっといるよ。
あんだけ生徒いるんだもん。
俺の学校は男女合わせて千人以上の生徒が在籍している。
まだ諦めるのは早い。
それに同学年だけじゃなくて後輩に目を向けてみるのもアリだ。
そんな事を考えているうちに自宅のマンションに着いた。
俺ん家のマンションはまあデカい方だ。
ベージュ色の外装で十階まである。
鍵でオートロックを解除し、郵便受けのチラシを受け取った。
両親はまだ帰っていないようだ。
俺の家は三人家族で、両親は共働きだった。
ご苦労様なこった。
俺のコンビニバイトは週二日四時間しか入れてない。
トントン、トントントン!
とエレベーターを待っている間に足踏みする。
一種のリズム力を鍛える練習だった。
残念ながらメタルバンドのドラマーには高校ではなれなかったが、ボーカルとしてもリズム力は大事ではある。
それに俺は音楽そのものが好きなんだ。
メタルバンドなので多少シャウトも練習した。
一般人には毛嫌いされがちだが、学園祭で大盛り上がりさせられる自信はある。
エレベーターの五階を押した。
冬なので日の入りが早い。
もう外は真っ暗だ。
日本の四季って凄いよな。
でも出来れば常夏に住みたい。
海外旅行行った事ないよ。
さあ、帰宅した。
はぁ……「恋人」か……。
もし彼女がいれば家に招待とかすんのかな?
家の中は暗く、カーテンが開いたままになっていた。
しょうがない、ゲームでもするか。
開き直った俺はカーテンを手早く閉め、自分の部屋に閉じこもった。
部屋の大きさは六畳ほどで、そこまで細かく整理整頓されてるわけでもなかった。
要らないプリント後で捨てとこう……。
俺は鞄からゲームのパッケージの中のコンパクトディスクを取り出し、起動したパソコンに投入した。
それにしてもここまで俺の話を聞いてもらったら分かる通り俺は恋人に飢えてる。
恋心に芽生えた小学校高学年から今まで女子とハグすらせずに過ごしてきて若干メンヘラ化している。
だって良い人いねーんだもん!
言い訳にしてるのかもしれない。
でも…………いや今日はこのパソコンゲームをするんだ。
(楽しみだったんだよな~やっとだぜ)
ワクワクしながら画面に喰らいついていると
「十人目のユーザーを確認……ワープ効果起動」
との文字が出てきた。
十人目……?
確かに友達同士の又貸し等で俺はこのゲームをプレイする十人目にあたるかもしれない。
だがそれよりもワープ効果って何だ?と首を傾げていると、画面が白く光りだした。
(ちょ、何だよコレ……!?)
【ようこそアルテマへ。選ばれしユーザーよ】
機械の声がスピーカーから流れ、俺は眩しい光に導かれるままパソコンの中に吸い込まれていった。




