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異世界で魔王の娘になった件 〜俺が皇女ってマジですか〜  作者: 比木


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◆第4話 魔法師アリアドネ(前半)おまけエピソード


約束の後日。

アリアの魔力分析が終わり、ようやく解放された俺は、

研究室を出た瞬間、ふらふらと壁に手をついた。


「……つ、疲れた……精神的に……」


「ミナト様」


低い声が耳に届く。

顔を上げると、テオが壁にもたれるように待っていたのか

組んだ腕を解きながらこちらに近寄ってくる。


「……テオ。待っててくれたんだ」


「当然です。護衛ですから。

……しかし、顔色が良くないように見えますが?」


「いや、大丈夫、大丈夫……アリアに、ちょっと……いろいろ……」


(近い……。

 いや、距離が……近いって……!)


テオが覗き込んでくるたび、

胸が変なふうに跳ねるのは、きっと、疲れのせいだ。

うん、絶対そう。


「いろいろ、とは?」


「なんでもない!!」


即答した俺に、テオの眉がピクリと動いた気がした。

人狼族の血のせいなのか騎士だからなのか、反応がやたらと鋭い。


「……ミナト様」


「な、なに?」


「アリア殿に……何かされたのですか?」


言葉は丁寧だが、語尾にほんのり殺気が混ざっている気がする。


おい。

やめてくれ。

本気で心配なのは分かるけど、近すぎて息が当たってるんだって!


「あ、あの、その……魔力測るために……ちょっと……胸とか……触られたり……」


言った瞬間、

テオの影が一瞬だけ揺れた。


(えっ、怒った!?)


「……胸を?」


(繰り返した!?)


「い、いや、研究だから!魔力の流れを……!」


「そうですか。……問題がなかったのなら良いのですが」


声は穏やかなのに、空気は微妙にひんやりしている。

怖くはない。けど……なんか、あれだ。

犬が尻尾ブンブン振りながら、しかし他の犬には絶対近づくなよ?って言ってる時の空気に似てる。


そこへタイミングよく、

研究室の扉がぱたんと開いた。


「あら〜、まだいたの? ミナトちゃん、さっきの続き──」


出てきたアリアが俺の腕を軽く抱き寄せた瞬間。


無表情のテオの瞳が細くなる。


(うわ、修羅場の空気……!?)


アリアはまったく気にした様子もなく、

俺の髪を指先でつまんでクルンと遊ばせる。


「本当に綺麗ね〜この髪。魔力が反射して、光り方が毎秒違うのよ。

 ねぇ、もう少し解析したいんだけど──」


「アリア殿、解析は本日の分で十分でしょう。ミナト様はお疲れです」


「あら、じゃあアナタが癒やしてあげるってわけ?」


「もちろんです。護衛ですので」


「へぇ〜?護衛って、髪を撫でたり抱きしめたりする仕事だったかしら?」


「……」


(いや、俺からは絶対に言わないけど……多分、お願いしたらするよね、この人)


気まずい空気が流れる二人の間で、

俺はただ、両腕をつかまれたまま固まっていた。


「あ、あの! 二人とも、その……」


俺の言葉を待たずにアリアが俺の腋に手を回し、ひょいっと引き寄せた。


「ミナトはアタシの研究対象で、

 いちばん最初にこの身体のことを教えてあげたのもアタシよ?

 ねぇ、ミナト?」


耳元で囁かれて、身体がビクっと跳ねた。


「ひゃっ……!」


(やだ……声が変な……!)


それを見たテオの眉がピクリと動く。


「アリアドネ殿」


「なあに?」


「──ミナト様は繊細なお方です。無闇に触れないでいただきたい」


「“無闇に”? へぇ、どの口が言うのかしらね?」


「……」


「だって、ミナトに触れたいのはアナタのほうじゃない?」


「ッ……」


(えっ……!?)


その一瞬、テオの耳の先が赤くなっている気がした。


アリアはにんまり笑って、

俺の腕から手を離しながら言った。


「まぁいいわ。

 ミナト、今日はもう休みなさい。

 明日は、もっと“深い解析”をしましょうね」


深い解析──

その言葉の意味が分かっていそうで、分かりたくない俺は、

ただ曖昧に笑った。


テオはそんな俺の肩にそっと手を添え、距離を作るように護る。


「ミナト様。……行きましょう」


「う、うん」


歩き出す俺の背後で、アリアが小さく吹き出した。


「ふふ……。

 二人とも、ほんと可愛いわねぇ」



不安と期待を胸に抱えながら、

俺の“魔力の秘密”は、まだまだ明かされそうにないのだった。

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