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◆第3話 騎士団長テオバルト(後半)


テオの城内案内は更に続く。

手を引かれて歩くことにも少し慣れてしまった自分が怖い。


「こちらが魔法戦に特化した訓練区です」


魔法陣が円状に刻まれた石畳が広がっている。


「ミナト様の魔力は規格外です。

 アリア殿の検査が済むまで、本来は触れさせたくない場所なのですが……」


「案内してくれるの嬉しいよ。ありがとう、テオ」


何気なく笑顔をテオに向けて見る。


「ッ……」


テオは一瞬だけ言葉を失った。

その姿に俺の方が思わず

ビクッと肩を震わせて動揺してしまう。


(笑顔一つで、なんて破壊力なんだ今の俺……!)


「……こちらこそ。

 ミナト様が快適に過ごせるのであれば、

 私は何でも致します」


次の瞬間にはすぐに真顔に戻っていたが

何でもするって、もはや護衛の域を超えているような…


「ここでは主に魔法戦の訓練で使用しますが、

 私たち魔法剣士の訓練も行います。」


続くテオの説明に俺の思考は

完全にそっちに興味が向いてしまった。


だって魔法って、異世界で一番気になるやつだろ!


興味丸出しで乗り出してしまう。


「テオって、魔法も使えるんだ?」


「ええ。得意ではありませんが、最低限。

 ……お見せしましょうか?」


「み、見たい!」


テンションが上がり、つい近づきすぎた。

その瞬間――胸が“ぽよん”とテオの腕に触れる。


「~~~ッ!」


(ちょ、ちょっと待て俺!? これ完全に触れ――)


テオは石像のように固まっている。


しばらく沈黙。


沈黙。


沈黙。


「……ミナト様。危険ですので、これ以上は近づかれませぬよう」


「ご、ごめんっ!」


(俺が悪い。100%俺が悪い。

 距離感……距離感ッ……!)


テオは咳払いをし、いつもの落ち着きを取り戻す。


「では、少しだけ」


彼が右手をかざすと、魔法陣が「キィィン……」と金色に光った。


風が巻き起こり、砂が舞う。

そして剣がまるで意思を持ったように

軽やかに浮き上がった。


「……すげぇ……」


俺の虹色の瞳に、その光が反射する。


「私はこのように補助的に使用することが多いのですが、アリア殿は魔力をそのまま攻撃に転じさせて…」


「団長は魔法剣士の中でもトップクラスだぞ!」


「団長が剣を振るう姿は惚れる!」


テオがこちらを振り返って説明している途中

魔法戦の訓練区にいた騎士団員たちが横から口々に叫ぶ。


「おい、お前ら……!」


テオは照れたのか、団員たちへ低く唸った。

それに応じるように、その場から散っていく団員たちはめっちゃ良い笑顔だ。


(魔族の騎士団って、もっとモンスターな感じかと思ってたけど、結構普通なんだな…。)


団員とテオの距離感には既視感があった。

学校でもよく見る…

そうか、野球部とかの運動部のノリだ!!


知ってるものに例えると急に親近感がわいてくる。

俺は妙に嬉しくなってテオの背中をバンバンと叩いた。


「テオ、みんなに好かれてるんだな!運動部の部長って感じ!」


「お恥ずかしいところをお見せしました。

 …運動部?というのが、体を動かす部署という意味なら…正しいですね。」


テオが団員たちを眺めながら肩をすくめる。

しかし口元は少し口角が上がってるように見えた。

その姿に俺も「そういえばこの人、騎士団長だった」と思い出す。


「…ミナト様、少々失礼します。」


テオは俺に向き直ると、ふと気づいた顔になり、さっきの魔法で乱れた俺の髪の毛を整えてくれる。

行動や言動が、ちょいちょい護衛の枠からはみ出ているような気がするけど

本人が真面目な顔で世話を焼いてくるから

俺もされるがままだ。


「あちらで少し休みましょう」


団員たちが行う魔法戦の訓練に興味の尽きない俺は、髪を直される間もキョロキョロと周りを見渡してしまう。

テオはそんな俺に目を細めると

訓練場の端にあるベンチに案内してくれた。


テオは俺が座るのを確認してから、横に立つ。


「座りなよ、テオ」


「私は護衛ですので」


「でも疲れるだろ?」


「ミナト様の前では疲れは感じません」


(……そんな口説き文句みたいなことを)


だがテオの表情は真剣そのものだ。

俺も負けじとジッと見つめて座るように訴える。


「はぁ……わかりました。失礼します。」


そっと、隣に腰を下ろした。


ベンチが沈み、テオの体温が近い。

条件反射のように俺の心臓が勝手に跳ねる。


「ミナト様、城内で不安なことはありませんか」


「不安っていうか……まだ色々慣れなくて。身体とか、環境とか……」


「……身体、ですか」


その言葉の意味を考えた瞬間、テオがわずかに表情を曇らせる。


「不快な思いをされているなら、何でもお申し付けください。痛み、動きづらさ、魔力の違和感……」


「違う違う違う! そういうことじゃなくて!

 なんか……その……胸とか……さ……揺れるし……」


言った瞬間、テオの瞳が一瞬だけ泳いだ。


「……あ、ああ!そ、そうですよね……」


耳の先まで赤くなっている。


(しまった…正直に言い過ぎた…!)


俺は俺で顔の熱が一気に上がる。


「そ、その……慣れれば問題ありません……多分。ええ……その……重心が変わっただけで……」


「今日一で、めっちゃ動揺するじゃん!」


「い、いえ、私は……護衛として冷静です……!」



と言いつつこちらは絶対に見ない。

真正面しか見ていない。

逆にそれが意識してる感丸出しだ。


(テオって……表情は分かりにくいけど、分かりやすい奴だな……)


気まずさを誤魔化すようにしばらく雑談で時を過ごす。

ふと、メイドさんが訓練区に入ってきたと思ったら

こちらに駆け寄ってきた。


「テオバルト様、失礼いたします。」


何事かをテオに耳打ちをして、俺にお辞儀をすると早々に去っていく。

テオは顎に手をあて少しだけ考え込むと、ふいに姿勢を正した。


「ミナト様。今日の案内はそろそろ終わりですが……一つ、伝えねばならぬことがあります」


「え、なに?」


「――今しがたアリアドネ殿から連絡がありました。ミナト様の“魔力検査”を早く行いたいとのことで」


「あ、アリアが……?」


魔法師団長アリアドネ・フィロメナ。

最初に会った時から、なんか色気の塊みたいな女性だ。

胸はデカいし、良い匂いはするし、目が合うと全身を覗かれている感じがする。


(絶対、何かされる……!)


「もちろん嫌なら私が断ります。ただ、あの方の鑑定魔法は帝国一でして……」


「……別に、嫌じゃないよ。ちょっと怖いけど」


アリアは好奇心なのか、俺の身体の謎にめっちゃ興味を持ってるのが丸わかりだったし。

それでも…わからないことだらけのままは気持ちが悪い。


「俺も、ちゃんと話したいかも。俺の魔力のこととか……」


昨日から色んな人に「魔力が高い!」と感嘆されているのに

俺自身が何も感じてないのだ。

部屋で一人になった時には、物を動かせるように念じてみたりしたが特に何も起こらなかった。


(異世界ものにありがちな、ステータス画面も出てこなかったしな。)



「そうですか。ならば……」


テオは微笑んだ。

柔らかく、どこか安心できる笑み。


「ミナト様の判断を尊重します。明日にでもアリア殿のところへご案内しましょう」


「うん……ありがとう、テオ」


「……いえ。ミナト様の力になれることが、私の何よりの喜びです」


その言葉は、忠誠心に包まれているはずなのに――

どこか、優しい。


胸が少しだけ熱くなる。



「ではミナト様、本日はこのくらいにして、明日は共にアリア殿の魔法研究棟へ向かいましょう」


立ち上がったテオが、俺に手を差し出す。

その大きな手は、迷いなく俺を支えてくれるように見えた。


(……頼り甲斐のあるイケメンってのも、破壊力すごいな。)


手を取る瞬間、胸がドキッと跳ねる。


テオの掌はあたたかい。

指は長くて、俺の手を包み込むように優しい。


歩き出した俺たちの影が、訓練場の石畳の上で並んだ。



こうして、俺の異世界生活2日目は

無事に終わりを告げた……かのようにみえた。




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