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◆冬休み編④ 雪だるま大作戦

翌日も雪は残っていた。

朝の中庭は白くて、静かで、空気がきゅっと冷たい。


昨日の“増える贈り箱事件”で、

城の人たちはちょっとだけ疲れているはずなのに。

なぜか全員、いつもより元気そうに見える。


……いや、違う。

元気なんじゃない。

祭りが終わった翌日=後始末=仕事で、みんなのスイッチが入ってるだけだ。


俺は中庭の端で、雪を握ってみた。

ぎゅっと固めると、手袋の中でしゅわっと鳴る。冷たい。気持ちいい。


「……雪だるま、作りたい」


ぽろっと口から出た。

隣にいたテオが、即座に反応する。


「承知しました」


「え、なにが?」


「雪だるま製作ですね」


「なんでそんな即答できるんだよ」


「ミナト様の“やりたい”は私の優先事項ですので」


からかうような笑みのまま、テオが肩をすくめる。

俺は顔に血が上りそうになるのを誤魔化すように咳払いして、雪をもう一回握った。


「言っておくけど、普通の雪だるまでいいからな。

 普通。小さいやつ。かわいいやつ」


ピッとテオの顔を指差して忠告する。

テオは神妙に頷いた。


「承知しました。

 ……ですが、滑りますので足元にはご注意を」


「分かった分かった、転ばないって」


そう言った瞬間、背中の方からひゅいっと羽音。


「雪だるま!? ボクもやるやる!!」


リーンが飛んできた。

目がきらきら。悪い予感がきらきら。


「ミナトちゃん、雪だるまはね、芸術だよ」


「芸術でいいけど、破壊力は要らないからな?」


「破壊力も芸術!爆発する!」


「要らないって言ってんだろ!」


ぎゃーぎゃー言ってたら、声に気づいたアリアが顔を出す。

手には温かいホットワイン。

既に何杯か飲んでるのかほんのり顔も赤い気がする。

完全に観客の顔。


「いいわね。“雪だるま作り”って聞こえは可愛いのに、絶対事件になる予感がする」


「事件になる要素ないから!!」



◇◇◇




まず俺は、雪を丸め始めた。

両手でころころ。ころころ。

ちょうどいい大きさの球体ができる。


(よし。これが下。次は上の小さいやつ)


俺が次の雪玉に取りかかった、その時。


「団長!!」


遠くから声が飛んだ。


「遅い!」


テオが反射で返事する。騎士団長の声だ。


中庭の入口に、見習い騎士たちが何人も立っていた。

昨日の聖夜祭の片付けをしていた人たちっぽい。

でも今の目は、仕事じゃない。戦の目だ。


「団長、雪だるま製作と聞きました!」


……は?


「俺は聞いてないけど!?!?」


俺が叫んでも、見習い騎士たちは止まらない。


「我々も参加を!」

「皇女殿下の雪だるま、全力で支援いたします!」


「雪だるまの支援ってなに!?」


テオが一歩前に出て、俺の前に恭しく跪く。

こいつ、絶対ちょっと楽しんでるだろ……!


「……ミナト様。

 どうやら“皇女殿下が雪だるまを作る”という情報が、騎士団に伝播したようです」


「“ようです”じゃねぇだろ!絶対テオが指示したんだろ!!?」


アリアがすぐ横で吹き出す。


「伝播で合ってるかもね?

 “団長が動く=重大案件”って皆わかってるのよ」


きらきらと金の粒を振り撒きながらリーンが両手を広げて叫ぶ。


「雪だるま大作戦、開始ー!」


「勝手に作戦にすんな!!」



◇◇◇



気づけば、雪だるま作りが“作戦会議”になっていた。


騎士たちが整列し、真面目な顔で報告し始める。


「雪質は湿り気あり。固形化に適します!」

「中庭中央部は踏み固められており、転倒リスク低!」

「雪玉転がしルート、確保可能!」


「雪だるま一つでそんなにデータいる?!」


テオが団員たちを視線で静かにさせてから、咳払いをひとつする。


「……報告ご苦労。

 だが、皇女殿下の作業を邪魔するな。基本は見守り。必要時のみ支援を。」


「了解!!」


返事が軍隊すぎる。


俺は手元の小さな雪玉を見た。

かわいい雪だるまを作りたいのに、周囲の空気は完全に要塞建築だ。


(俺、雪だるま作りたいだけなんだけど……)


リーンが俺の肩にちょこんと乗って、耳元で囁く。


「ミナトちゃん、騎士団って“かわいい”が分からないんだよ」


「分からないのに全力出すな」


俺は諦めて、宣言した。


「いいか!

 雪だるまは“かわいい”が正義だ!

 デカさじゃない! 強さじゃない! かわいさだ!」


騎士たちが一斉に直立する。


「かわいさ……了解!」


「了解すんな!」


返事と共に綺麗に揃った足踏みと敬礼が返ってきて、ついツッコんでしまう。

テオが真剣な顔で頷いた。


「承知しました。“かわいさ”を最優先に」


(テオまで軍議(?)に参加するなよ……)


でも、テオがその後細かく指示してくれたせいか、場の空気が少しだけ落ち着いた。

俺が作るのを見守る方向に、ちゃんと寄ってくれる。


俺はまず、下の雪玉を転がして大きくした。

ころころ。ころころ。

雪がまとわりついて、太っていく。


(おお……雪だるまっぽい)


次に上の雪玉。小さめに作って、持ち上げて――


「重っ」


腕がぷるぷるする。

Gカップの前に、雪玉が重い。いや、胸も邪魔。

女の身体、こんなところにも弊害があるとは……


「ミナト様」


テオの手がすっと伸びた。

上の雪玉を、俺が落とさないように支える。

支え方がやたら丁寧で、俺の指先に触れる。


(……いま触った?触ったよな?)


「……自分でやる」


「承知しました。ですが、落下すると危険ですので」


「危険って雪だるまに言う?」


「頭部の落下は危険です」


雪だるまの頭部って言葉。シュールだな。

結局そのままテオにも支えてもらいつつも、

俺も踏ん張って、上の雪玉を乗せた――


「成功!!」


固唾をのんで見守っていた騎士たちが一斉に小さく拍手した。

拍手が規律正しい。怖い。


リーンが嬉しそうに俺の頬に抱き着いて歓声を上げる。


「ミナトちゃん、かわいい形できてる!」


「よーーし! 次は顔!」


俺は得意になると小枝を拾って、目と口を作ろうとした。

その瞬間――


「団長!皇女殿下!!」


見習い騎士が駆け寄ってきて、敬礼。


「“顔素材”を確保しました!」


そう言って差し出してきたのは――


魔晶石(青)と魔晶石(赤)と魔晶石(黄)。


「顔が光るやつじゃん!!」


アリアが腹を抱えて笑っている。


「やばい、雪だるまがイルミネーションになる」


リーンが両手を組んできらきらと目を輝かせる。


「いいね! 雪だるま、進化する!」


「進化って言うな!!」


俺は慌てて拒否した。


「ダメ! 目は普通のでいい!

石とか入れない! 光らせない!」


騎士が困った顔をする。


「しかし皇女殿下、夜間の視認性が――」


「視認性要らない!!」


テオが淡々と補足する。


「視認性を上げる必要はない。皇女殿下の趣味が最優先だ」


騎士達が一斉に背筋を伸ばす。


「了解! かわいさ優先!」


「ほんとに軍隊だな……」


◇◇◇


結局、顔は俺が作った。


目は小石。

鼻はニンジン……みたいなもの(城の厨房から拝借)。

口は小枝でにっこり。


「……できた」


小ぶりで、ころんとして、ちゃんとかわいい雪だるまだ。

俺は満足して息を吐いた。


その瞬間、騎士団がなぜか整列した。


「皇女殿下の雪だるま、完成! 祝砲準備――」


「祝砲すんな!!!」


アリアが笑いすぎて地面に座り込んだ。ぐにゃぐにゃだ。


「祝砲って……ヒィ……雪だるまに……!」


リーンが羽を瞬かせながら興奮気味に拍手する。


「いいね! 雪だるま、国家事業だ!」


「国家事業じゃねーし!!」


テオが咳払いを一つして、騎士たちを睨む。


「余計なことをするな。

 ……ただし、完成祝いの“写真”は必要だ」


俺は目を丸くした。写真って、カメラで撮る、あの写真??


「写真ってあるの?」


「ええ、魔導具で“記録画”を残せます。

 ……ミナト様の“日常の記録”は重要ですので」


真剣な面持ちで言われると、こっちまで照れるからやめてほしい。

が、テオの後ろで騎士団員たちが一斉にうんうんと頷いていたのが目に入り冷静になる。


騎士たちが一斉に「記録画、了解!」と叫び、どこからともなく魔導具が出てくる。


(どこから出てきた!?)


俺は雪だるまの横に立たされ、リーンが頭の上でピースして、アリアが後ろで爆笑して、テオが一歩後ろできっちり立つ。


「はい、撮ります!」


ピカッ。


光が瞬いて、記録が残った。


◇◇◇


撮影が終わると、騎士たちは満足したように散っていった。

中庭に残ったのは、雪だるまと、俺たちだけ。


雪だるまのにっこり顔を見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなる。


「……ま、こういうのもアリか。」


俺が呟くと、テオが静かに頷いた。


「はい。

 “何でもないこと”の積み重ねは、良いと思います」


「……それ、なんかずるい」


「ずるくありません。事実です」


リーンが俺の肩に頭をこすりつけてきた。


「ミナトちゃん、かわいい雪だるま作れてえらい!」


アリアが笑いながら言う。


「騎士団の“かわいさ”の定義が破壊されてないことを祈るわ」


その瞬間、遠くから――


「我が娘よーー! 雪だるまを作ったと聞いた!!」


魔王の、父さんのでかい声。


俺は空を仰いだ。


「……なんで情報回るの早いんだよ」


テオが淡々と答える。


「伝播したのだと思います」


「やめろその言い方!!」


雪だるまが、にっこり笑っていた。

まるでこの城の混沌を、最初から知っていたみたいに。






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