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◆冬休み編③ 聖夜祭の後で

翌朝。


俺は自分の部屋の扉を開けた瞬間、硬直した。


「……え?」


廊下の先から、なにかが見える。

正確には「昨日見たはずの雪樹ツリー」の周りが、やたら盛り上がっている。


盛り上がっているというか、埋まっている。


箱。箱。箱。

大小さまざまな贈り箱が、雪樹の足元に雪崩みたいに積まれていた。


「増えた……ほんとに増えた……」


俺が呟いた瞬間、背後から元気な声が飛んだ。


「ね!今年は特にすごいよ! 増えるやつ!」


リーンが、廊下の天井近くでくるんくるん回っている。

朝からテンションが祭りの最終形態だ。


「いや、増えすぎだろ!!」


「聖夜祭だもん!

 祝福もサービスも大盛りなんだよ!」


「大盛りにも限度ってもんが……!!」


そこへ、テオが足音を立てずに現れた。

安定のいつもの距離感。

俺の半歩後ろから雪樹の方を見据える。


「ミナト様。……これは、危険です」


「だよな!?」


「箱が崩れた場合、足を取られますので、お気をつけください。

 それと、魔晶石が混ざっている可能性もありますので、魔力の安定に努めていただければと。」


……真顔で言われると急に怖くなるからやめて欲しい。

こんなお祭り騒ぎの中、例の“アレ”が起こったら

俺、それこそ痴女みたいじゃないか。


「っていうか、誰の仕業だよこれ!」


腕を組んで憤慨する俺の前でリーンが堂々と胸を張る。


「雪樹の下に置くと、贈り箱が勝手に増える魔王陛下の魔法!」


「これ魔法なの?!雑に万能すぎるだろ!」


「雑なのは陛下だよ!」


(それはそう)


その時その場にいた全員が同じ表情だったことは

言うまでも無い。




◇◇◇



大広間に到着すると、すでに人だかりができていた。

給仕たちが大慌てで箱を整理し、騎士が崩れないように支え、文官が台帳を広げている。


「皇女殿下、おはようございます!」

「こちら、贈り箱が一晩で……その……増えまして……」

「誰も止められず……!」


いや止めてくれ。誰か。


そして、当の犯人(確信)もいた。


「おお! 我が娘よ! 見たか! 増えたな!」


父さんが、満足げに腕を組んで立っていた。

目が完全に“成功した親ばかイベント主催者”のそれだ。


「いや、増えすぎ!!わざわざ見なくても目に入ってくるって相当な量だぞ!」


「良いではないか。聖夜祭とはそういうものだ!」


「“こっち(異世界)”の聖夜祭、怖いよ!!」


アリアが遅れて入ってきて、状況を見た瞬間、腹を押さえた。


「ちょ、なにこれ。笑う。城が雪樹に食われてる」


「笑ってる場合か!」


「笑うでしょ。誰が片付けるのよこれ」


「え……まさか俺、なの?」


大量の箱を前に俺は思わず両手で頬を押さえる。

横のテオが静かに首を横に張り、俺の肩に手を置く。


「ミナト様。まずは、誰宛てか確認しましょう。

危険物が混じっていないか、私が検査します」


「科捜研みたいなこと言うな」


「騎士団長です」


即答しないでくれ、おまえ“科捜研”知らないだろ。


リーンは箱の山に飛び込もうとして、テオに襟元をつままれた。


「リーン。勝手に開けるな」


「えー! だって増えたやつ! 開けたい!」


「危険がある」


「危険はロマンだよ!」


「危険は危険以外何物でもない。」


正論パンチが重い。



◇◇◇



とりあえず、みんなで箱を仕分けることになった。


「俺宛て」

「テオ宛て」

「アリア宛て」

「リーン宛て」

そして最後に、なぜか「陛下宛て」が数個。


「父さん宛てもあるの!?」


「当然だ。民の感謝は我に集う」


「絶対違う。絶対“増える魔法”の巻き込みだろ」


アリアが箱を一つ持ち上げて、ラベルを読む。


「“陛下へ:娘のご機嫌を取るための心得集(上巻)”……何これ」


長い耳がピクと動く。

魔王の顔が、すっと真剣になった。


「……上巻?」


「そこ気にする?」


「下巻もあるのか」


「あるわね、確実に」


俺は二人を放って、更に箱を仕分けていく。

なんだかんだで俺宛ての箱も、やたら多い。

しかもラベルがカオス。


「皇女殿下へ:雪でも転ばない靴」

「皇女殿下へ:絵本『一人でドレス着れるもん』」

「皇女殿下へ:ふわもこ外套」

「皇女殿下へ:甘味引換券(無期限)」

「皇女殿下へ:心を強くする本」

「皇女殿下へ:なぜか巨大な魚干物」


「最後なに!?」


リーンが即答した。


「陛下の好み!」


「俺宛てなのに!?」


隣で黙々と仕分けていたテオが箱の一つを手に取り、慎重に振る。


「……中身が動きます。硬い音。金属系の可能性」


「え、武器!?」


急な展開に俺の顔から血の気が引く。

テオが俺を箱から遠ざける。


「贈り雪で武器渡すやついる!?」


アリアがにやにやする。


「この城ならいる」


テオが箱を開ける。

……中から出てきたのは、金属の棒……ではなく。


「……体温計の魔導具」


「どこが武器だよ!」


「いえ、使い方によっては」


「どんな使い方するつもり!?」


リーンが爆笑しながら叫ぶ。


「お母さんなテオにぴったり!」


「騎士団長です」


「はいはい、テオお母さん!」


「……」


テオが一瞬だけ無言になった。無言の圧が強い。

リーンはその圧で逆に元気になった。


「うわ! 怒ってる! 最高!」


「最高じゃない!」


俺がリーンを諌める、その視界の隅では

ちゃんと体温計を自分の荷物にしているテオと

腹を抱えて爆笑するアリアがいた。



◇◇◇


そして事件は、リーン宛ての箱を開けた瞬間に起きた。


ラベルにはこう書かれていた。


「リーン殿へ:妖精の夢を叶える“なんでも変身セット”」


「わきゃぁぁぁぁぁ!!」


リーンの瞳が星になった。


「ミナトちゃん! 見て! ボク宛て! 公式に“なんでも”って書いてある!!」


「やめろ! その単語は危険だ!」


「開ける!!」


「ダメだ!開けるな!!」


俺とテオが止めるより早く、リーンは封を破った。


中から飛び出したのは、キラキラ光る粉。

謎のリボン。

謎の仮面。

謎の小瓶。

そして極めつけに、でっかい布。


「布! いいね! 変身に布は必須!」


リーンは両手を広げて布をぶわっと広げた。

布が空気を含んで、まるで生き物みたいにふくらむ。


次の瞬間。


「へんしーん!」


リーンが粉をぶちまけた。


キラァン、と音がした気がした。

広間に光が弾けた。


そしてそこに現れたのは。


「……テオ?」


俺は反射で言ってしまった。


目の前に、小さなテオがいた。

正確には“リーンがテオに変身した姿”。

髪も顔もそっくりなのに、サイズはリーンのまま。二十センチの騎士団長。致命的に可愛い。


「ミナト様。お寒くないですか」


声まで寄せてきた。


「やめろォ!!」


俺が叫ぶと、横にいた本物のテオが静かに拳を握った。

地を這うような低い声が広間に響く。


「リーン」


「なに? ボク、完璧?」


「完璧に不敬です」


「不敬ってなに?」


「今から教える」


「え、怖い」


アリアが腹を抱えて笑っている。


「ちょ、やばい。ミニテオやばい。売れる」


「売るな!」


焦る俺の後方では父さんが腕を組んだまま頷く。


「む。テオが増えたな。良いことだ」


「良くない!!」


リーンテオが、ちょこちょこ歩いて俺の肩へよじ登ろうとする。


「ミナト様。護衛として、肩に乗ります」


「ーーーっっぶ!」


どれだけ可愛い仕草をしようと、

テオの名誉のためには笑ってはいけない、と

絶対に笑わないと思えば思うほど我慢できない!


本物のテオが、さらに低い声で言った。


「リーン。解除しろ」


「えー? かわいいのに」


「解除しろ」


「……こわ」


リーンはしぶしぶ小瓶を開け、キラキラ粉を自分にかけた。


ぽん、と小さく弾けて、元のリーンに戻る。


「ちぇー」


テオは即座に粉と布と仮面を回収し、箱に戻した。

箱に戻して、さらに封をし、箱の上に封印札みたいに紙を貼った。


「封印まで!?」


「再発防止です」


アリアが目を細める。


「徹底してるわね、お母さん」


「騎士団長です」


「はいはい」



◇◇◇



騒動の後、ようやく俺は自分宛ての箱を一つ開けた。


中に入っていたのは、

飾りのついた細い銀鎖の懐中時計。

雪の結晶の形で、中央に青い魔晶石が埋め込まれている。


ラベルには短く。


「皇女殿下へ:来年の冬も、同じ灯の下で」


俺は、言葉が出なかった。


隣でテオが気づいたように視線を寄せる。


「……ミナト様?」


「いや、なんでもない」


誤魔化そうとしたのに、リーンがすかさず飛んできた。


「それ、きゅんってやつ?」


「黙れ!」


アリアが笑いながら肩を叩いてくる。


「いいじゃない。聖夜祭ってそういう日でしょ」


魔王も満足そうに頷いた。


「良い贈り物だ。我が娘にふさわしい!」


「父さんは箱の増殖を反省して!」


「反省はしている。……次は増えすぎぬよう、倍にする」


「増やす方向やめろ!!」


大広間に笑い声が広がる。

雪樹の魔晶石が、朝の光の中できらきらしていた。


そして俺は確信した。


この城の聖夜祭は、ロマンと混沌が同じ鍋で煮込まれている。

来年も同じことが起きたら、俺はたぶん、今日よりももっと、笑っているんだろう。


……俺専属の護衛騎士の横で。







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