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◆第13話 異形なるモノ②



(やばい。やばいやばいやばい――)


目の前で、異形のモノが巨大な影になって迫ってくる。

テオの腕の中から、その光景がスローモーションみたいに見えた。


それと同時に、胸の奥の“熱”が一気に暴れ出す。


(なに、これ……!)


心臓の位置から、白と黒の何かが同時に広がっていく感覚。

痛い、というより、熱い。

でも嫌じゃない。

なんなら、ちょっと気持ちいい。危険な意味で。


「ミナト様! 意識を保ってください!」


テオの声が遠くなる。


アリアが何か叫んでいる。


リーンが、俺の耳元で急に真剣な声を出す。


「ミナトちゃん、吸い込まれないで。

 それ、キミの魔力だから!」



吸い込まれる?


そう思った瞬間――視界が、真っ白と真っ黒に染まった。









(……ここ、どこだ)


足元は何もない。

空も地面もなくて、ただ、白と黒の粒が漂っている空間。


その中心に、光の柱と、闇の柱が向かい合うように立っていた。


(おお……ファンタジーRPGのラスボス前みたいな景色……)


自分で自分にツッコミを入れながらも、どこか冷静なのが我ながら怖い。


光の柱からは、懐かしい匂いがした。

シャンプーの匂い。

洗濯洗剤の匂い。

夕飯の匂い。


(……母さん)


闇の柱からは、あの魔王の、妙に甘い魔力の匂いがした。

威圧感と、どこか子どもっぽい甘さの混ざった、不思議な気配。


(父さん、か)


二つの柱が、少しずつ近づいていく。

じりじりと、互いの境界を溶かしあうように。


(これが、俺の――)


光と闇、どっちも“俺の一部”なんだってことを、

頭じゃなくて感覚で理解する。


ここで逃げたら、たぶん一生、なにも掴めない。


「……こっちに来いよ」


自分でも驚くくらい自然に言葉が出た。


光の柱から、誰かの笑い声が聞こえた気がした。

闇の柱から、誰かのため息が聞こえた気がした。


次の瞬間――二つは一気に俺の胸の中へ流れ込んできた。








「――っ!」


息を吸い込んだ瞬間、現実に引き戻される。


視界いっぱいに、異形なるモノの腕があった。

テオが俺を抱えたまま咄嗟に後退して攻撃を避ける。

直後、異形の腕が地面を抉り、衝撃で土埃が舞うと

一気に視界が悪くなる。


でも、その向こうに見える世界が、

さっきと違って見える。



色が、やたら鮮明だった。



テオの魔力の揺らぎ。

アリアの創り出す光の粒。

リーンの小さな羽の軌跡。


それから――


異形なるモノの“核”。


あのぐちゃぐちゃの中に、一滴だけ、別の色が紛れている。


(あれだ)


理由はない。

でも、分かる。


胸の奥の光と闇が、同時にざわりと動いた。


「ミナト様?」


テオの腕の中で、俺はそっと手を伸ばす。


「テオ……俺、ちょっと、やってみていい?」


「――本気でおっしゃってますか」


めちゃくちゃ真面目な確認だった。

でも、拒絶ではない。


アリアが横から口を挟む。


「ミナトちゃんの魔力、もう動き出してる。

 止めようとしても、たぶんどこかで暴発するわ」


「暴発ってさらっと言うなよ!」


「だからこそ、制御しながら撃つ練習だと思えばいいのよ」


テオが、苦い顔をしながらも俺を見る。


「……ミナト様。

 本当に、やるのですね」


「うん。怖いけど……

 何もできないまま守られてるだけってのも、なんか嫌だし」


俺の答えに、テオはほんの少しだけ目を細めた。

それから、ゆっくり腕を緩めて俺を降ろす。


でも、完全には離れない。

背中を支える形で、すぐ後ろに立ってくれていた。


「危険を感じたら、即座に私が前に出ます。

 それまでは、ミナト様の選択を尊重しましょう」


その言い方が、なんかすごく大人で。

胸の奥が、別の意味でも熱くなる。


(こういうとこ、ずるいんだよなテオ……)


リーンが頭上でくるくる回る。


「ミナトちゃん、魔力の流れ、ボクも見るから。

 変に暴れたら、ボクも手伝うね」


「アタシも、最悪のときは結界で押さえるから。

 さ、やってみなさい?」


アリアが、いたずらっぽく笑う。


(……なんだこれ。

 怖いのに、不思議と心細くはない)


深呼吸をひとつ。

胸の奥の光と闇に、そっと意識を向ける。


(俺は、どっちでもない。

 聖女でも、魔王でも、こいつらみたいな、

 ただのモンスターでもない)



(俺は――「一ノ瀬 湊」だ)


右手を前に突き出す。


指先に、じわじわと白い光が集まり始めた。

同時に、黒い影がそれを包むようにまとわりつく。


「……うわ、なにこれ、ちょっと気持ちいい……」


「ミナト様、実況しなくていいです」


すかさずテオのツッコミが入る。

アリアが、興味津々といった顔で見つめている。

リーンは真剣な眼差しで魔力の渦を追っていた。


異形のモノが、またこちらに向かってくる。

今度は、さっきよりも速い。


(間に合え――!)


意識を、核に向ける。

あの、混ざった色の一点へ。


「――届けっ!!」


叫んだ瞬間、光と闇が弾けた。


白と黒が渦を巻き、一つの“矢”になる。

それは一直線に異形の核へと飛び込み――


ドンッ、と鈍い手応え。


異形が、ギギギ、とよくわからない悲鳴をあげた。

体の一部が、砂のように崩れ落ちる。


「やった……?」


そう思ったのも束の間だった。


異形は、崩れかけた体を無理やり再構成しながら、

さっきよりもさらに歪んだ形になって立ち上がる。


「……しぶといわね」


アリアが小さく舌打ちする。


リーンが眉をひそめる。


「核、ひび入ったけど、“別のとこ”と繋がりかけてる……!」


「別のとこ?」


「どこか、もっと遠くて暗いとこ。

 多分、向こう側の“巣”」


向こう側。巣。

その単語が、背筋を冷やす。


(ちょっと待て。これ、初戦闘にしてボス戦レベルじゃない?)


テオが、剣を構え直す。


「ミナト様。今の一撃で、奴はこちらを完全に敵認定したようです。

 以後の攻撃は、すべてミナト様優先で来るでしょう」


「優先されてもうれしくねぇよ!!」


叫んだ俺を置いて、異形の影が再びこちらへ飛びかかってきた。


今度は、真正面から。


(来る――!)


胸の奥の光と闇が、再び動き出す。


さっきよりも、もっと大きく。

もっと、俺の全身を巻き込む勢いで。


「ミナト様、下がって――!」


テオの叫びと、

アリアの詠唱と、

リーンの羽音と。


異形の絶叫と、世界の軋む音が、

一瞬にしてぐちゃぐちゃに混ざる。






その中心で、俺は――



自分の中の“なにか”が、完全に臨界点を越えていくのを感じていた。




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