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◆第8話 妖精リーン(後半)


お互いの魔力をあげたりもらったりする

魔力遊びなどというカオスな遊びは

唐突にその終わりを迎えた。


魔力が身体を出たり入ったりしたせいなのか

胸の奥で、コゥ……と低い振動が続いている。

まるで心臓とは別に“魔力源になる心臓”が生まれたみたいだ。


不意に、俺の胸元にしがみついていたリーンの羽が――

“バチバチバチッッ”と、火花のように魔力を散らす。


「や、やばい……ミナトちゃんの魔力、おいしすぎて……

 ボク……ボク、鼻血が……鼻血が出るっ……!」


「出すなッ!? 魔力で鼻血出す妖精って何!?」


俺は慌ててリーンの両頬をむにっと掴むと顔を上げさせる。

そこに、すっと影が落ちた。


「……リーン。もう離れろ。」


溜息混じりの低い声。

振り返るまでもなく誰かわかる。


テオだ。

やけに距離が近い。というか近づいてきている。

いつになく殺気……までいかないけど、

振り向くのに勇気がいる気配だ。


「……ミナト様に触れ過ぎだ。」


「ボクの自由でしょ!! 保護者か!!」


「保護者……ではなく護衛だ。」


「変わらないじゃん!!」


「変わる。」


「ひ、ひぃっ!? テオ顔怖い!!」


俺の位置からは見えないテオの顔を見て

リーンが俺の胸の上でぷるぷる震える。

俺は思わず振り返って目を丸くした。


うお、やべぇ!

思ったよりすげー怖い顔してる!


「テ、テオ!リーンちゃんは悪気ないんだって!

 俺は大丈夫だから…っ」


「……ですが」


テオはいつも通り完璧な無表情に戻るが、

俺からみても、怒りのオーラがまだ出てる。


リーンが小声でミナトの耳元に寄る。


「もー、でもテオだってさぁ、さっき――」


瞬間、テオが素早くリーンの口を塞いだ。


「……余計なことは言わない。妖精。」


「んんんーっ!?」


リーンはもがもがしているが、誰にも同情されない。

無理やりテオの手から逃れたリーンが叫ぶ。


「とにかくね!! ミナトちゃんの魔力が、こう……

ボクの魔力感知能力の“許容量”からはみ出してきてて……」


「許容量??」


ピンとこない俺は首を傾げる。

リーンは自分の小さな胸を押さえ、眉を下げる。


「えっと!もっとわかりやすく説明すると──」


リーンが俺の目の前で両手を横に広げた。


「例えばこのくらいの魔力だったのが……」


手で“りんご大”を示す。


「今はこれくらい……」


“スイカ”くらいになった。


「いやいやいや!! 増えすぎじゃない!?!?」


「ボクもそう思う!!!」


リーンは頭を抱えて叫んだあと、

ふらふらと俺の胸の上に倒れ込んだ。


「ミナトちゃん……なんでそんなに強いの……?

 ボク、ミナトちゃんの“匂いと魔力”が混ざると酔うんだよ……」


「俺って酒なの!?」

 

「それでね、ミナトちゃん……」


リーンは胸に顔を埋めたまま呟く。


「……今回の魔力の膨張だけど……

 原因、たぶんボク……」


「お前かよおおおおお!!!??」


「ちがうの!! いや、ちがわないけど!!

 ミナトちゃんの魔力を貰った時に……

 ボクの魔力感知の能力が勝手に同期しちゃったの!!」


「同期!?」


「ミナトちゃんの魔力が強すぎて……ボクの中で合図みたいに反応しちゃって……

 それでミナトちゃんの魔力を増幅させちゃったみたいで……」


「なにやってんだよおおおお!!!」


「自然現象だもん!! ボク、悪くないもん!!!

 ただのかわいい妖精だもん!!!!」


「かわいいけど! いや、かわいいけども!!

 責任ゼロで押し通すのやめろ!!」


「……リーン。」


テオの声が更に低くなる。

わぁ……

本気で怒ってる声だ……。


「勝手にミナト様と魔力を同期させるのは非常に危険だとわかっていただろう。

 魔力の系統が絶対に違う者同士の同期は──」


「うん……わかってる……

 でも、ミナトちゃんの魔力が……綺麗だったんだ……

 光と闇が混ざってるのに、まったく濁ってなくて……

 あんな魔力、ボク初めて見たの……」


しゅん……

と、リーンの羽が下がり、流石に怒れない空気になる。

テオは短く溜息をつくと俺に向き直った。


「ミナト様、少し手首をお借りしてよろしいですか?」


「え?いいけど?」


俺が左手を差し出すと

テオが手首をそっと取り、脈を確かめる。


「……少し早いですが、異常ではありませんね。ただ……」


「ただ?」


「ミナト様……魔力が成長している……というより──」


テオは一度言葉を切り、眉をわずかに寄せた。


「生きているように脈動しています。」


「は?????」


一番困惑したの俺本人だ。


「え。魔力が生きてるってこと?

 …っていうか、魔力ってそんな勝手に育つもの??」


自分で言ってて何を言ってるのかわからなくなってきた。

普通、魔力…魔法とかって

努力してレベルアップしたら強くなってーーとか

そういうやつじゃないの?

俺の中で生きものみたいに勝手に育つとか

怖過ぎない???


「普通は勝手には育ちません。」


即答するテオにリーンも小さく頷く。


「ミナトちゃんの魔力、

 たぶん“聖女と魔王の子”の条件を同時に満たしてるせいで……

 勝手に強化されていってるって感じだと思う……」


「え……俺の身体ってそんなフリーダムなの?」


「うん。

 しかも“女体化した直後”だから安定するまで暴れやすい。」


「それは父さんのせいだよね!?!?」

 

俺がツッコミを入れた瞬間だった。


ぱちっ──!!


空気が弾け、俺の髪がふわりと逆立つ。


「えっ」


次の瞬間、

虹色の瞳がふっと強く発光した。


「──あ。」


リーンの顔が真っ青になる。


「ミナトちゃん!! 魔力が、魔力が溢れる!!

 テオ!! ミナトちゃん押さえて!!」


「押さえる!?」


「抱きしめて!!」


「「はぁっ!?!?!?」」


俺とテオの声が完全にハモった。


「いいから!!!

 魔力暴走の基本は“物理的な安定”!!

 ミナトちゃんの場合!!

 今は!!

 絶対に!!

 テオが抱きしめるのが一番効果ある!!」


「なっ……なんで俺だけそんな羞恥コース!!?」


「だってミナトちゃん、テオの匂い落ち着くでしょ!!??」


「なんで知ってんだよ!!!!」


「知ってる!! ボクは妖精!! 全部見てる!!」


テオが一瞬息を呑んだ。


(……ちょ、待って。今のは本当に聞かれてはいけないやつ……)


しかしリーンは構わず叫んだ。


「早く抱け!!!!」


「言い方ぁぁぁぁ!!!!」

 

テオがこちらを見る。


テオの金にも見える茶の瞳に

俺が映っている。


虹色の瞳が潤み、頬が赤く、呼吸の乱れている俺が。


テオの喉が、

ごくりと鳴った。



「……ミナト様。失礼します。」


がし──。


テオの腕が俺の身体を抱き寄せた。


「ひゃっ……ちょ……!!」


胸のすぐ下にテオの腕が入り、

背中に大きな手が回る。


(うわあああああああああ!!!!

 近い!! 近すぎる!!!

 心臓が死ぬ!!)


テオの胸板が触れて、

体温が伝わって、

耳元で低い声がする。


「……大丈夫です。私が抑えます。」


「どんな意味で!!?」


「どちらでも。」


「どちらでもって何!?!?!」


「はいはいはい落ち着いて二人とも!!!

 そこイチャつくとこじゃない!!!」


いやイチャついてねえよ!!

というかその指摘が一番恥ずかしい!!

 

俺を抱えたまま、テオはぐっと強めに抱きしめた。


その瞬間、

暴れようとした魔力がすっと静まる。


テオの魔力が、俺を包むように流れ込んでくるのが感覚的に分かった。


温かくて、落ち着いて、

安心する匂いがして。


胸の奥がゆっくり静まる。

 

リーンは安堵のため息をついた。


「はぁぁ……よかった……!!

 致死量の魔力暴走じゃなくて……

 ちょっとヤバい程度の暴走で済んだ……!!」


「ちょっとでもダメだろ!!!!!」


「でもミナトちゃんがテオの腕の中が好きなのは知ってたから安心!!」


「言い方ぁぁぁぁ!!!」


テオは沈黙したままだ。

しかし──

耳まで真っ赤になっていた。


(バレてる……完全にバレてる……あぁあ、もうーー)


いくつも言い訳を考えるが、

どれも逆効果な気がして言葉にならない。


しばらく俺は頭を抱えたが

身体が落ち着けば心も段々と落ち着いてくる。


俺が落ち着いたのを確認した後、

リーンがスッとテオの肩に乗り、ぽつりと言った。


「……ねぇ、二人とも。

 ミナトちゃんの魔力の増幅……

 ボクのせいだけじゃなかったかも。」


リーンは真顔で告げる。


「原因……別にある。

 ボク、さっき気づいた。」


「……別?」


リーンはひゅっと空中に浮き、

淡緑色の瞳を細めた。


「ミナトちゃん……誰かに見られてるよ。

 魔力を刺激する外部の干渉の痕跡があった。」


空気が一瞬、凍る。

テオの瞳が獣の金色に変わった。


「……誰だ。」


「まだ、わかんない。けど……

 ミナトちゃんの魔力を“呼んでるナニカ”がいる。」


俺の背筋に冷たいものが走る。


「それって……」


リーンは、震える声で続けた。


「──“ミナトちゃんの力”を覚醒させたいモノがいるってことだよ。世界のどこかで。」


きらきらと金の粒が舞う妖精の間に

静寂に包まれる。


俺はぎゅっと唇を噛み締めるしかできなかった。





◇◇◇ 



妖精の間を後にした俺たちは、

その足でアリアの元へ向かった。


念のための魔力検査だったが、

そのころにはすっかり身体は落ち着いており

4人でそのまま夕飯へと向かうこととなった。


アリアの研究室を出て石畳の廊下に入ると、急に空気がひんやりしたのを感じる。


「ふぅ……なんか、今日いろいろありすぎた気がする」


俺がそう言った瞬間――

頭の上に、ふわっと小さな重みが乗る。


「ありすぎたのは、ミナトちゃんの胸の存在感かな!」


「リーンちゃん!?」


羽をぱたぱた鳴らしながら、リーンが俺の頭に腰を下ろす。

俺の頭が定位置になってしまいそうだが、体重が軽いので降ろすタイミングもわからない。

そんな俺たちを横から眺めて、アリアがふっと笑った。


「ミナトちゃん。あなたは今日だけで身体の進化も、リーンの大暴走も、全部こなしたんだし。もっと胸張って良いと思うよ?」


「ミナトちゃんの胸はもう張ってるよ!」


「おい!!」


俺とリーンの攻防の横でアリアが緩く微笑む。

途端に空気が柔らかくなる。

やっぱり大人のお姉さんは反則級だ。


そんな俺の横で、テオが歩幅を少し落とし、俺に合わせた。


「……ミナト様。本日はお疲れさまでした。」


声が、低くて、包み込むように落ち着いていて――

無駄に心臓に悪い。


「お、おう……」


……いや、でも、あのとき確かにテオが助けてくれなかったら今頃どうなっていたか。

自分で想像しただけでゾワッと背筋が冷える。


それに腕の中にがっちり抱え込まれたのは――

正直、ほんのちょっとだけ安心した。


(ほんのちょっとだけな!!)


テオはちらりと視線を落とし、俺が気付かないように息をひそめる。


「……怪我がなかったのは、何よりです」


耳が赤い。

何を思い出したのか、こっちが動揺する前にテオが動揺している。


その光景を見て、アリアが口元を押さえてくすりと笑い――

リーンが俺の頭の上で転げ回った。


「テオ、わかりやす〜い!」


「リーン、あまり調子に乗るな。」


「騎士団長サマ、こわーい!

 ボクはいつでも乗ってるよ? ミナトちゃんの頭に!」


「だから降りろお前ぇぇぇ!!」


ぎゃーぎゃーと追いかけ回しながら歩く俺たちの後ろで、

テオとアリアが同時にため息をつく。


しばらくして、

リーンを捕まえて俺の頭から引き剝がし、

ようやく廊下の先の皇族用の食堂が見えてきた頃――

アリアが軽く手を叩く。


「よし。ひとまずごはんにしましょ、ミナトちゃん。

 それで夕食後にちょっと魔力の経路だけ再確認したいんだ」


「ええ!? まだやんの!?」


「だって気になるじゃん。あの進化した感じ」


その声は、完全に研究者のそれだった。

そして横から、やれやれと肩を落としたテオが付け加える。


「……私も付き添います。

 ミナト様がまた暴走させたら、大事故ですので」


「お前絶対また抱きしめる気だろ!? やめろ恥ずかしい!!」


「必要なら」


「必要でも恥ずかしいんだよ!!」


アリアがにやりと笑い、リーンは「やったー実験だ!」と喜び、

テオは落ち着いた笑みを浮かべていた。


俺は俺で、

自然と口角が上がってるのが自分でもわかった。


俺の日常は段々と

この騒がしくもあたたかい時間へと変わっていくのだったーーー。






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