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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
番外編「アイヴィ、ギルドに加入する」

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4.5-4 アイヴィ、討伐隊に参加する~討伐対象~


 本当に肉を食べただけで帰ったロックとサンド。

 残るメンバーは、リーダーであるマイトから仕事の話を聞きながら、食後の一服を楽しんでいた。


「今回の標的はレッドフードボア。アイヴィ、討伐の経験はあるか?」

「はい。王都近郊で二度ほど」


 アイヴィの答えに、マイトは満足げに(うなず)き、黒色に揺れるコーヒーで渋い顔をより渋くさせる。

 マイトと違ってアイヴィは、甘い乳白色のコーヒーを一口飲みながら、王都の狩人ギルドで先輩から教えてもらった情報を思い出していた。


 レッドフードボア。

 それは、体高一メートル四十から二メートル、体長二メートル半から三メートル二十程の巨大な猪型の魔物である。


 顔の上部から背にかけ流れる真っ赤な剛毛が特徴的であり、正面から見た姿がまるで赤いフードを被っているかのように見える事から、その名がついた。

 その真っ赤な毛は硬くしなやかであり、矢や刃を通さない。


 猪突猛進とはよく言ったもので、その突進力は恐ろしく、魔法で強化した石の壁である町の防壁に穴を空ける程であり、村々を守る木の柵や石造りの家などひとたまりもない。

 正面から戦うなら鼻か目を、側面から戦うなら背ではなく首下か足を狙うのが効果的である。


『牙も毛皮も肉も高く売れるんだから、吹き飛ばすんじゃないわよ。アイリス』


 そんな王都で世話になった先輩の声がアイヴィの脳裏で再生されるが、残念ながら吹き飛ばす為の魔法の銃『射貫くもの(スティンガー)』を、今のアイヴィは持っていない。

 現在、射貫くものはトルシオン卿の元で再度調整中である。


 カップを置き、意識を現実に戻したアイヴィを待っていたのは、隣で笑うミィミンの殴打であった。


「それは頼もしいね。援護は任せたよ」

「は、はい」

「で、おっさん。目撃情報はあるのか?」


 殴打で揺れるアイヴィに代わって放たれたビルザーの問いに、渋い顔のままマイトが答える。


「依頼には、北の村パラパの近くで目撃されたと書いてあったな」

「近いな、出来るだけ急いだ方が良さそうだ……ん? ちょっと待てよ。あの辺りは草原ばっかで、森ってないよな?」

「ええ。ですので増えた個体ではなく、()いた個体でしょう」


 ビルザーの聞きたい事を、独り紅茶を飲むモノスが答えた。

 その落ち着き払った言葉に、ビルザーはカップへ短く息を吹きかけ、冷ました淡いコーヒーを口に含んだ。

 口を塞いだビルザーの横で、二の腕をピクピクさせたダグが(つぶや)く。


「うむ。最近は一層増えたな。俺の右上腕二頭筋も早く戦えと(ささや)いているぅ」

「……ふぅ。ダグの筋肉は()(かく)、被害が出る前に片付けようぜ」

「おぉ? 珍しくビルザーがやる気だねぇ。ロックやサンドの(くせ)が移ったかい?」


「おいミィミン、あいつ()と一緒にするな。俺は、被害が出てからだと面倒が増えるだけって言いたいだけだ。さっさと行ってさっさと片付ける。それが一番楽……だろ?」


 ニヒルに吐き捨てたビルザーの言葉に、マイト、ダグ、ミィミンは静かに頷く。

 独り、どこを見ているか分からぬ糸目のモノスは、特に関心なさ気に紅茶を口へ運んでいた。


 アイヴィはというと、納得半分、そんなのでいいのか半分であったが、後者半分を甘いコーヒーと共に飲み込み、皆に(なら)い頷いていた。

 案外、流されやすい少女である。


「おっさん。足の用意は?」

「ギルドの馬が丁度空いていた。今、ホッグ爺に荷馬車を準備して貰っている」

「爺ちゃんも朝っぱらから大変だな。じゃ、さっさと行って手伝うとするか」


「こいつ、そういう所はまめなんだよね」

「うるせえよ」


 茶々を入れるミィミンを(にら)むビルザー。

 頬に傷持つ厳つい男に睨まれようが、ミィミンは笑って流すだけである。


「ケッ」と吐き捨てているビルザーであるが、周りにいる全員ビルザーの言葉に異議はなく、既に全てのカップは(から)になっていた。

 ドッシリと構えていたマイトが、渋みの効いた声で号令を発する。


「五分後、各々(おのおの)得物を持ち正面に集合だ。遅れるなよ」

「うむ」「OKだ」「承知致しました」「了解」「はい」


 各々の声が重なり、六人は同時に立ち上がった。

 朝のひと時は終わりを迎え、狩人達の仕事の時間が始まる。


~~~~


 二頭引きの馬車をトコトコ走らせ、昼前にパラパの村に到着した一行は、レッドフードボアを単眼鏡にて確認した領兵から聞き出した情報を頼りに、再び馬車を北へと走らせた。


 街道の凹凸に合わせガタガタと容赦なく揺れる荷馬車の中、スライムの死体とオークの胃袋を利用したクッションを尻に敷き、己が出番を待つアイヴィ達。

 御者台(ぎょしゃだい)に座るビルザーから声が上がるまで、そう時間は掛からなかった。


「発見発見。あれだけデカいと、見つけるのは簡単だな」


 その声と共に、馬車が土の街道から横に()れ、荷馬車の中をガタンと揺らした。

 尻を守られたアイヴィは、スライムクッションを用意してくれた好々爺(こうこうや)ホッグに心の中で感謝をしつつ、次は自分で用意しようと硬く心に誓った。


 止まった馬車の後方から、次々と下りる討伐隊の五人。


 黒革の鎧をまとい、身の丈程の細長い剣を背に抱えたマイト。

 特に特別な防具を身につけず、拳に金属製のナックルガードを付けたダグ。


 金属加工した胸当て胴当てで美しい肉体を包み、一メートル半ほどの長い柄を持つ大斧を軽々しく持ち歩くミィミン。

 灰色のローブを(まと)い、緑色の大粒な発動体(スターター)が輝く杖を持ったモノス。


 そして、細身の体を洒落(しゃれ)た洋装で包み、それを戦闘用になめし革で補強した狩人用の仕事服を着たアイヴィ。

 今日のアイヴィは、左腰に白杭を放つ魔法の銃『レイ』を携え、右腰には刃渡り四十センチ程の短刀を下げていた。


 草原に降り立った五人に、御者台のビルザーから声がかかる。


「北西方向。数は一。距離八百ってところだ。俺も行くか?」

「いや。ビルザー、お前は馬車を頼む」

「OK。こっちに連れて来るなよ」

「そこは気を付けろじゃないのかい?」

「はいはい。気を付けてな」


 ミィミンに言葉で突かれ、嫌々と見送りの言葉を贈るビルザー。


 それを聞き歩き出した四人の顔には、微笑(びしょう)が浮かんでいた。

 そして彼らは、草原を北西へ少し歩くと、後方に居るビルザーへ向け軽く手を振り、先の見送りの返事とした。


 アイヴィは。モノスの後ろ、最後尾を歩きながら『この人達はこんな感じなんだなぁ』と心で呟き、彼らに動きを合わせ手を振った。

 そんなアイヴィの背に、口を押さえたビルザーの笑い声が届く。


 自分が笑われたのだと気づくも、アイヴィの大きな瞳に(かげ)りは生まれていなかった。アイヴィにとっては、生まれた小さな一体感の方が強く、笑い声すらもどこか心地良いものであった。


 緩みそうな心を引き締め直し、アイヴィは耳と目の感覚を研ぎ澄ます。


 (すね)が分ける草が擦れる音。地を踏む(かす)かな足音。低く響く獣の声。

 一面に広がる緑色。そしてまだ遠くに見える、日に照らされた真っ赤な毛。


 周囲に敵対的な生物はレッドフードボア以外見当たらず、感じられもしない。

 遠くに見える巨体が草原に居る為に、他の生物だけでなく魔物すら姿を隠しているのかもしれないと、アイヴィは状況を考察する。


 徐々に近づくにつれ、レッドフードボアの姿が浮き彫りとなっていく。

 それは成人男性よりも体高たかく、でっぷりと肉のついた大きな(いのしし)であった。

 巨大猪は今、南東へ頭を向け、頻りに地面へ向けて口を動かしている。


 隠れる場所のない開けた平原の中を進む一行は、マイトの手指示に従い、可能な限り見つからぬようにレッドフードボアの側面へ回る様に動いた。


 そこへ西から東へと風が吹いた。

 アイヴィは、自分達が風下に居る幸運に感謝しつつも、風に乗って流れて来た死臭に、(わず)に顔を(しか)めてしまう。

 今、標的は何かを喰らっている。


 その隙をつき、そろり、そろりと接近を試みるアイヴィ達。

 だが、魔物の勘か、生物に備わる直感か、将又(はたまた)ただの不運か。地面へ向いていたレッドフードボアの顔が、むくりと持ち上がってしまった。


 頭部の赤毛よりも暗い赤で汚した口元を半開きにしたレッドフードボアが、辺りを見回し……一行を真っ赤な瞳で捉えた。

 瞬間、地を蹴り、散開する狩人達。


 (けが)れた口から放たれた獣の雄叫びが空気を震わせ、草原と青空に(とどろ)いた。

 まるで、開戦を告げるかのように。

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