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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-28 友達の為に


 決闘の決着。現れた執事の青年。迎え撃たんと構えるフィル。

 突如、ホール入口から放たれた白く極太な光。その光に貫かれ、破壊される舞台奥の壁。


 響く轟音に『新手!?』と動揺したフィルが見たのは、空いた大穴から飛び込んで来たアイヴィの姿であった。


 天使の花冠(エンジェル)の力が満ちる中を平然と入って来たアイヴィへ、執事の青年はフィルを見つめながら虚言を吐いた。

 フィルが事件の首謀者であると。


 その言葉にアイヴィが銃を構えたのを見て、フィルはズタズタな舞台上を、執事の青年へ向け駆け出した。

 青年の敵意を自分へ向かせる為に。


 フィルの予想通り、青年はナイフを二本投げ、フィルを迎撃せんとする。

 即座に立ち止まり竪琴を鳴らしたフィルは、己をオロバスの膜で(おお)い、飛翔する二本のナイフを弾き飛ばす。

 同時にフィルは、白い杭が青年の剣持つ右腕を貫く瞬間を目撃した。


 剣を落とし、流血した右腕を左手で押さえる青年。その表情は何一つ変わらず、発する声もまた感情の乗らぬものであった。


「お気は確かですか? アイリス様」

「私は正気よ。他所(よそ)の執事と友達。どっちを信じるかなんて決まってるでしょ。少しでも動いたら、次は頭を撃ち抜くわよ」


「てめぇの頭を狙ってんのがアイヴィだけだと思うなよ。ザクロ頭になりたくなけりゃ、両手を頭の上に挙げ、膝を床につけろや」


 正面から迫るフィルの陽動。アイヴィの正確無比な射撃。

 その二つに乗じて空中から接近していたメフィストが、青年の真上から最後通告を出した。


 執事の青年も観念したのか、メフィストの指示に従う。


 無抵抗を示す青年を見たフィルは、オロバスの膜を消すと、腰の(かばん)に竪琴を押し込み、代わりに一本の縄を取り出した。

 そして、青年の拘束を始めるフィル


 青年の腕を取り後ろへ回すフィルの耳が、青年の呟きを捉えた。


「御嬢様は、こんな所で終わって良い御方ではない」

「大切な人の為になりふり構わないのは、嫌いじゃないけどねぇ……」


 明るく話すフィルはそこで言葉を止めると、青年の背に回した彼の両腕を縛る縄を、きつく、きつく縛り付けた。

 そして、怒気を乗せた言葉を青年の耳元で(ささや)いた。


「私は許さないよ。私と真正面から決闘したアダマセインさんの名誉を踏みにじったあなたを。勝者として、絶対に」


 先程の怒気をかき消すように「ほらよっとぉ」とお道化(どけ)たフィルは、腕を縛った青年を横に倒し、その両足をも縄で縛り付けた。

 ついでとばかりに鞄から一本の薬を取り出すと、アイヴィが貫いた彼の右腕へとそれを少量垂らし、出血を止める。


 雑な治癒を済ませると、フィルは青年に興味を失ったかのように移動を始めた。

 ぴょん、ぴょんと、破壊された舞台の安全な場所を飛び移りながらフィルは、反対側で倒れているアダマセイン嬢の元へと向かう。


 舞台を横切るフィルへ、舞台の側まで来たアイヴィが問う。


「で? フィルメイル。これ、どんな状況?」

「フッフッフッ。特別に教えて進ぜよう。かくかくしかじか」

「ん? かくかくしかじか? 何の言葉?」


 舞台に上がったアイヴィからフィルの背へ伸びる視線は、冷たい。

 そんな視線を気にせぬフィルと、ケタケタと笑うメフィスト。


「ちぇー伝わらないか。残念。えっと、そこの胸像と、たぶん会場全体もかな? アダマセインさんが仕掛けてた罠が発動して、みんなの魔力が吸収されちゃったんだぁ。で、その魔力で動き出した天使の花冠(エンジェル)に、みんなまとめて眠らされちゃったって感じ」


 フィルは状況説明をしながら、倒れるアダマセイン嬢へ薬を()らし始めた。

 八割程残っていた乳白色の薬は、少しずつ、少しずつアダマセイン嬢の体へ吸い込まれて行き、傷ついた彼女の体を癒す。


「その後、なんやかんやで私、夢から覚めてね」

「なんやかんや?」

「そう。なんやかんや」


 目覚めた(けん)を適当にはぐらかし、フィルは(から)になった薬を鞄へしまう。

 そしてフィルは、アダマセイン嬢を観察をしながら、アイヴィへ説明を続けた。


「目を覚ましたらあら大変。なぜかアダマセインさんと決闘する流れになっちゃってね。んで、(つよ)(つよ)アダマセインさんを、私とメフィちゃんとのさいきょーコンビネーションでバシッと倒したんだけど、そしたらいきなりその人が襲い掛かって来たんだ。そこへ颯爽(さっそう)とアイヴィちゃんが現れ……今に至る」


 既にアダマセイン嬢の体は、折れた右腕以外ほぼ傷のない状態へと治っていた。

 そんなアダマセイン嬢を見下ろしながら、フィルは満足げに「うん、うん」と(うなず)くと、彼女の側にしゃがみ込んだ。


 そしてフィルは、彼女の左手中指から一つの指輪を抜き取り、それを革の鞄へ大事そうにしまった。

 瞬間、胸像を覆っていたオロバスの膜が消え、今も力を放ち輝いている天使の花冠(エンジェル)(あら)わになる。


 だが同時に、(さげす)みの視線がアイヴィからフィルへと飛ぶ。


「そういう追い()ぎみたいなのは感心しないわよ、フィルメイル……」

「追い剥ぎじゃなぁーい! そういう約束で決闘したんだよ、もぅ……アイヴィちゃんってば、私のこと何だと思ってるのさ」


 天使の花冠(エンジェル)の側にいるアイヴィへと振り返り、喋りながら急ぎ戻るフィル。

 待つアイヴィの大きな目は、楽し気に輝いていた。


「信用してるわよ……ただ、そういう事もやるかもなぁって」

「Oh! ショック! なんてこったい……」

「ケッケッケッ。日頃の行いがものを言うんだぜ、相棒」


 アイヴィの元へと合流したフィルは、同じく合流していたメフィストをギロリと睨み、のしのしと詰め寄った。


「おうおうメフィちゃんやい。誰の日頃の行いが悪いってぇ? こんなキュートで正義感に()(あふ)れた美少女、他には居ないよぉ。どこに目ぇつけてんだい?」

「俺様杖だからな。さて、どこについてんだろうな。ケッケッケッ」


 冗談を言い始めた一人と一杖に、アイヴィは生暖かい視線を送りながら、一つ溜息を吐く。


「来てみたものの、私、必要なかったっぽいわね」

「おおぉ? それは違うよぉ。実際ちょっとヤバかったし」

「だぜ、アイヴィ。相棒の魔力、今すっからかんなんだぜ」


「そうなの?」

「だよぉー。それにさ……まだ一番厄介な問題が残ってるからねぇ」


 フィルはそう言いながら、今もまだ輝きを放ち続ける天使の花冠(エンジェル)へ目を向けた。

 そこに貯えられた魔力の量を計りながら。


 同じく天使の花冠(エンジェル)へ向いたアイヴィの目には、若干の(うれ)いの色が浮かんでいた。

 その憂いを隠し、平静を装う声がアイヴィの口から零れる。


天使の花冠(エンジェル)ね。どう見ても普通の状態じゃないわね」

「止め方も分かんないし、どうしたもんかと……そういえば、何でアイヴィちゃんは平気なのぉ? 慣れ?」

「何よ慣れって……私、昔からこういうの効かないの。眠りとか精神支配とか魔法由来の毒とか麻痺とか……当然、この天使の花冠(エンジェル)も、ね」


 唐突な秘密の暴露に、フィルは普通に驚いた。

 それと同時に、そんな人も居るんだなぁと、素直に驚いた。


「おぉ、それはふつーに凄い。地獄の穴に近づいてもなんともなかったの、そういうことだったんだ……あれ? でもこの天使の花冠(エンジェル)って――」

「そう、お爺様が私の為に作ってくれたもの……私に、たとえ夢の中だけでも魔法が使える様にしてあげたいって願いの(こも)った贈り物……結局、この通り駄目だったけどね」


 明るく言葉を締めたアイヴィは、天使の花冠(エンジェル)からフィルへ顔を向け、ニコリと笑みを向ける。

 だが、その笑みに楽しさや嬉しさはなく、小さな苦味の混じった笑みであった。


 フィルの手が、自然とアイヴィの頬へ伸びる。

 ただ触れるだけのフィルの手を受け入れながら、アイヴィは瞳を閉じ、(まぶた)の裏に過去を思い浮かべながら、言葉を続けた。


「忘れないわ。あの時、自分が完成をどれだけ待ちわびていたのかを。毎日毎日、お爺様の研究室に顔を出しては追い返されてたことも……夢が……ただの夢物語で終わった時の悲しみも。その時、お爺様に大っ嫌いだなんて言ってしまった事も……その時のお爺様の……辛そうで、苦しそうな顔も……『すまない』って声も」

「うん」


 フィルは、ただそれだけしか返さなかった。

 その短い言葉を聞いたアイヴィは、フィルの手に頬を(こす)りながら柔らかに笑みを浮かべ、目を開けた。

 そして、頬に振れるフィルの手をポンポンと叩き、離れるように促す。


 離れる手の代わりに、二人の視線が絡みあう。

 それはアダマセイン嬢と交わしていた視線と違い、互いに柔らかで、穏やかな視線であった。


「ねぇ、フィルメイル、メフィスト。天使の花冠(エンジェル)、ぶっ壊しちゃって」

「おい。いいのかよ?」


 側に来たメフィストへ視線を移し、アイヴィは小さく(うなず)く。

 その姿に、迷いは見えない。


「私が来なかったら、そうするつもりだったんでしょ? 私は許せないから。天使の花冠(エンジェル)をこんなことに使われる事が……これからも、使われてしまう事が。メフィスト。貴方(あなた)なら壊せるでしょ」

「出来るぜ……けど、お断りだ」


 断られると予想していなかったアイヴィは「なっ!」と虚を突かれてしまう。

 フィルは、そんな愛らしい姿にクスリと笑い、そして元気に手を挙げハキハキと相棒を援護した。


「はいはーい。私も反対に一票ぉ。やはり暴力はいけませんなぁ」

「どの口が言ってんだろうなぁ」


 そう言いケタケタと笑うメフィストに、フィルの手刀が「セイッ」と飛ぶ。


「お黙りメフィちゃん。という訳で二対一。アイヴィちゃんの案は却下しまぁす。残念っ!」

「なにその卑怯! はぁ。壊さないなら、この状況どう解決するつもり?」

「それをまず考えよう。一緒に、ねっ」


 フィルは、ひまわりの様な笑みを浮かべ、アイヴィへ白い歯を見せた。

 そんな子供っぽい笑顔に、ついアイヴィも釣られてしまう。

 呑気(のんき)に笑う二人の側でふわふわと浮かびながら、杖メフィストは『さてと、どうアイヴィに切り出すかなぁ』と、独り思案していた。

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