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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-27 射貫くもの


 気を失ったアダマセイン嬢を横たえ、ふわふわと戻って来るメフィスト。

 フィルはそんな相棒へ向け、オロバスの膜の中で右手の親指を立て、グッドなサインを送っていた。


「メフィちゃん。ナイスゥ」

「んな義理ねぇんだけどな。全く、世話が焼けるぜ」

「そんな優しいメフィちゃんには、グッドウッドロッド特別部門賞を進呈しよう」

「いらねぇよ。そんなけったいな賞」


 戻って来たメフィストを迎え入れようと、フィルは竪琴を鳴らそうと――(かす)かに聞こえた物音に反応し、フィルの動きが止まった。

 その瞬間、フィルの後方から二本のナイフが飛翔し、オロバスの膜に衝突した。


 弾かれたナイフは、破壊し尽くされた舞台の上へと転がる。

 オロバスを維持したまま、ナイフが飛んで来た方向へと向き直るフィル。

 そこには、執事の青年ユーリーがおり、感情のない瞳でフィルを見つめていた。


 舞台裏から出て来たであろうユーリーの右手には、一本の直剣が握られ、反対の左手には、二本のナイフが指の間に挟まれていた。

 先に投擲(とうてき)されたナイフといい、穏便に事を済ませる気などないと主張している。


「お嬢様を貴女(あなた)に渡す訳にはいきません」


 淡々とそう言うユーリーへ向け、フィルは(わざ)とらしく溜息を吐く。

 大儀そうにしながらもフィルは、オロバスの外でフィルを守ろうと浮かぶ相棒と脳内(お忍び)会話(モード)で相談を始めていた。


『やっぱり来たよ……もう魔力ないってば』

『けど、やるしかねぇだろ、相棒』

『だよねー』


 そして徒手空拳の構えを取りながら、フィルは『だよねー』の続きを口に出す。


「ちゃっちゃと片付けるよ、メフィちゃん」

「おうよ」


 その時、メフィストの声を()き消すように、ホール入口から轟音が響いた。


~~~~


 時は少し(さかのぼ)り、アイヴィがロビーへ辿り着いた頃。

 大金庫室から駆けつけたアイヴィは、ロビーで薄紫色の何かを殴る一人の女性を見つけ、驚きで目を丸くしていた。


 状況が飲み込めぬアイヴィと、ホールへ続く扉を覆う膜を手甲(てっこう)を付けた手で殴りつけながら、金の縦ロールを揺らす女性。


 彼女が灰色の制服を着ている事から、魔都警ら隊の人である事はアイヴィにも理解出来ていたし、彼女が先程すれ違った警ら隊の人達の仲間である事ぐらい理解していた……が、なぜ独り残り、膜を殴りつけているのか、アイヴィには理解出来なかった。


 思考停止していたアイヴィと違い、警ら隊の女性は殴るのを止め、薄紫色の膜の前で己が細い腰に手を当て、息を払っていた。


「ふむ! やはり硬いな!」

「あのぉ……何をしているんですか?」


 恐る恐る声を掛けたアイヴィへ、縦ロールの女性が首だけ曲げ、横を向いた。

 威圧的にも思える鋭い顔をした美女の表情が、アイヴィの愛らしき顔を見たとたん、人好きしそうな笑みへと変わる。


「おぉ、アイリス嬢! 無事で結構。ハッハッハッハッ!」

「どうも……じゃなくて、なぜ殴って壊そうと?」

「うむ! この先に大物の気配がするのだが、この通り謎の魔法に邪魔されて入れんのだ。どうしたものかと、こうして――フンッ! 殴っているのだがな」


 答えにならぬ答えを返しながら、縦ロールの女性が腰の入った拳を叩き込む。だが、扉を覆う膜は多少へこむだけで、すぐに元の形状へと戻ってしまった。

 困ったものだと、縦ロールの女性が鼻から息を吐く。


 アイヴィも『そりゃ魔法障壁を殴ってもね』と少々(あき)れ気味に彼女を見ていた。

 だがそもそも、ただの拳でオロバスの膜がへこむ事が異常なのだが、縦ロールの女性もアイヴィもそれを知らない。


 彼女に任せていては(らち)が明かないと思ったアイヴィは、その場でしゃがみ、右手をスカートの内側に潜らせると、隠した右膝下のホルダーから一本の魔法の銃を抜いた。


 それは、アイヴィが左手に握る簡素な造りの魔法の銃『レイ』と違い、まるで儀式にでも使うかのように美しく飾り立てられた魔法の銃であった。

 立ち上がったアイヴィは、金髪縦ロールの女性の元へと進み、右手に持つ美しい銃をホールへ続く扉へと向け、構えた。


退()いて。私が、この『射貫くもの(スティンガー)』で壊すから」

「ほう。やれるのか?」

「知らないわよ。だからやるの。やってみせるの」


 その少々子供っぽいアイヴィの返答に、縦ロールの女性は快活な笑みを浮かべ、アイヴィの肩を上から叩き始めた。


「痛っ、何するのよ」

「ハッハッハッ。破壊は任せたぞ、アイリス嬢。中の制圧は私に任せろ!」

「それも止めた方がいいわよ。中は、天使の花冠(エンジェル)の力が満ちているらしいから」


「君なら大丈夫だと?」

「ええ。子供の頃に実証済み。第一封印解放」


 アイヴィの言葉に従い、扉へ向けられたスティンガーの銃口よりやや前方の空間に、白く輝く円形の文様が浮かび上がる。

 続けてアイヴィが口にした「発射」の声と共に、銃先端にある透明な宝石から白い光が放たれた。


 宝石から伸びた光の線は、薄紫色の膜に命中し――まるで吸収されたかの様に、白い光は消えてしまう。

 破壊の失敗を前にしながらも、アイヴィは落ち着いていた。


 今の一射で、冷静に膜の強度を計ったアイヴィは、どっしりと床に腰を下ろし、スティンガーを構え直した。


「支えよう!」

「ありがとう。第二封印解放……」


 アイヴィがスティンガーに命ずると、第一封印解放時に生まれた白き円のさらに前方に、より大きな白き円が展開された。

 背に熱を感じながら、アイヴィは少しだけ照準を上向かせ、言葉を続ける。


「第三封印解放……最終封印解除」


 一つ、また一つと複雑怪奇な白き紋様が生まれ、銃の正面を彩り、飾る。

 最終封印解除に伴い、銃口に位置する透明な宝石が(まばゆ)き白に変わり、銃全体が(きし)み始めた。

 アイヴィは、白き紋様の奥に居る獲物、薄紫色の膜を見据えながら、軋むスティンガーのグリップを強く握り締め、己を鼓舞する様に威勢よく声を放った。


「七割で充分! その名の通り射貫(いつらぬ)きなさい。スティンガー!」


 名を呼ばれた銃から放たれたのは、人程度ならば簡単に飲み込んでしまえる程に極太な白い光であった。


 アイヴィは後ろへと吹き飛びそうな体を縦ロールの女性に預けながら、暴れるスティンガーを制御し、標的へと向け続ける。

 薄紫色の膜に命中した極太の光は、秒の拮抗を破り、その名の通り標的を射貫き、その奥にあった扉を消滅させた。


 アイヴィは、力を失ったスティンガーを右膝下のホルダーへ戻すと、破壊により響く轟音を無視し、大穴の空いたメインホールへと突入した。

 素早く周囲を見回し、アイヴィは状況の把握に(つと)める。


 客席には、眠ったままの貴族達。

 そこにはヘリクス・トルシオンの姿もある。


 そして、ズタズタに破壊され尽くされた舞台の上には、先程破壊した薄紫色の膜が包むものが二つ。

 一つは、輝く天使の花冠(エンジェル)を冠した胸像。

 もう一つは、アイヴィの見知った人物、フィルメイルであった。


 フィルの無事に安堵(あんど)するアイヴィの耳が、感情の(こも)らぬ青年の声を捉えた。


「アイリス様。よい所に現れて下さいました」


 アイヴィが声の方向へ視線を向けると、舞台の端に立つ青髪の執事の姿を見つけた。剣とナイフを持ちフィルから視線を外さぬ執事の姿に、アイヴィは、今にもフィルと戦いを始めようという青年の意気を感じた。

 警戒しながら舞台へ近づくアイヴィへ、執事の青年が言葉を続ける。


「そこの女。フィルメイル・クリスタこそが此度(こたび)の元凶。会場を封じていた力を今も(まと)っている事こそ、その確たる証拠で御座います」

「あぁ? 何言ってんだ? こいつ」「あー、そうくるかぁ……」


 杖メフィストとフィルの声が舞台から届く中、アイヴィは足を止め、左手に持つ銃『レイ』を舞台へ向け、構えた。

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