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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-25 決闘は舞台で踊る~金剛石の魔術~


「さて、決闘を始める前に……舞台の上に立って良いのは、わたくしとフィルメイルさんだけ。ユーリー。そこの邪魔な犬どもを退()かしなさい」

(かしこ)まりました、お嬢様」


 聞こえた若い男性の声に驚き、フィルは咄嗟(とっさ)に舞台脇へ視線を向ける。

 そこに居たのは、アダマセイン嬢へ(うやうや)しく頭を下げるシュッとした執事風の青年であった。


 青い頭を上げた眉目秀麗な青年は、舞台端で眠りこけている特務隊を雑に引き()り、舞台の下へと放り投げ始めた。

 足音なく、そして(よど)みなく動く執事風の青年に、フィルは『あれも中々やる人ですなぁ』と感想を抱いた。


「にしても他に人いたんだ。バルディアス家の執事さん?」

「いいえ。わたくしの執事でしてよ」

「それにしても、意外と優しいねぇ。アダマセインさん」


「ただでさえわたくしの勝ちは決まっているようなものですもの。あんな犬の命一つ気にして貴女(あなた)が全力を出せないなんて、それこそつまらないわ」

「決闘するなら壁出来るから、大丈夫じゃなぁい?」


 フィルの疑問に、アダマセイン嬢は微笑(ほほえ)み返すだけである。

 だがその返答は、フィルに危機感を覚えさせるには充分なものであった。


「まっ、気にしても仕方いよねぇ。決闘するって事は、何か賭けるでしょ? 取りあえずこっちは、大人しく捕まってちょーだい、かな?」

(うけたまわ)りましたわ。ではわたくしが勝ったなら、貴女にはわたくしの従者になって頂きますわ。バルディアス家でもオールド・オーダーでもない、わたくしだけの従者に」


 アダマセイン嬢は恍惚(こうこつ)の笑みを浮かべながら、その場でくるりと回り始めた。

 優雅に舞うその姿は、まるで既に勝利し、フィルを己が従者にしたかのように喜びを表現している。


 そんなアダマセイン嬢を見るフィルの顔には、困惑の色が濃く浮かんでいた。


「ハァ……みんなして私のこと買いかぶるなぁ」

「おいおい、相棒。それじゃ釣り合い取れねぇだろ?」

「分かってるよ、メフィちゃん。その条件を飲むなら、こっちから追加で一つ。そのオロバスを賭けてちょーだいな」


 キュと床を鳴らし回転を止めたアダマセイン嬢は、銀の長し目でフィルを見抜きながら、右手を差し伸べた。


「構いませんわ。決闘を受けて頂けるかしら?」

「うけたまわり」


 フィルの了承の声に合わせ、二人は互いに距離を離した。

 フィルは跳ねるように。アダマセイン嬢は舞うように。


 今、舞台の上には、杖メフィストを持つ右手を前に構えたフィルと、竪琴オロバスを左腕に抱え右手を前に突き出したアダマセイン嬢、そして薄紫色の膜に守られた胸像にて輝く天使の花冠(エンジェル)、その三つだけが残っていた。

 そこに執事ユーリーの姿はない。

 

「さぁ、始めましょう、フィルメイルさん」

「ええ、始めましょ、アダマセインさん」


 二人は同時に微笑(ほほえ)み、そして続けて同時に瞳を閉じる。

 フィルの右腕で腕輪が赤く輝きだすと、応える様にアダマセイン嬢の右腕の腕輪もまた白き輝きを放ち始めた。 

 そして動き出す、二つの口。

 流れる言葉が二人の間で混ざり、紡がれる。


「「ここに築くは聖なる戦場。何人(なんぴと)たりとも(けが)す事なかれ、何人たりとも(おか)す事なかれ、(われ)()ファザムに誓う。勝利は我が力により決し、血によって決さず、敗北は我が言葉により決し、()が意思によって決さず。友たる竜よ、盟約に従い我らが戦いを見守り(たま)え。≪決闘(デュエル)≫」」


 フィルとアダマセイン嬢。

 二人から放たれた赤と白の球体が、二人の真ん中で重なり合い、瞬時に弾けた。

 すると、舞台を囲う様に半透明の障壁が生まれ、決闘の場が生まれた。


 逃れる事の許されぬ戦場にて、瞼を開いた二人が視線を絡め合う。

 先に動いたのはフィルであった。


「様子見なんて無し。風よ(ウインド)穿て(スピア)


 フィルは自分の左右に風の槍を生み出し、片方の槍を、動かぬアダマセイン嬢へと放った。

 先刻胸像へと撃ち込んだ一撃よりも、勢い鋭く飛ぶ風の槍。

 だが、突如として現れた薄紫色をした膜、オロバスの守りに阻まれ、槍はアダマセイン嬢の目の前で止まってしまった。


 その静止した風の槍が壊れるよりも早く、寸分違わぬ位置へもう一本の風の槍が飛んだ。

 風の槍を破壊し、再び風の槍がオロバスへと突き刺さる。


 一本目よりも深く突き刺さったものの、膜を突破する事が出来ず、風の槍は砕け散ってしまった。

 損傷したオロバスの膜は、(またた)く間に修復してしまう。


「うーん、駄目かぁ」

「第二階層魔法でこの威力。フフッ、怖いわね。でも、出し惜しみは死を招きますわよ」


 己を守る膜の中、アダマセイン嬢が右手を上げる。

 フィルは相手の中で高まる魔力を感じ、即座に守りの魔法を構築した。

 内なる魔力を行使せんと魔女見習いと魔術師の口が動き出す。


地よ(アース)――駄目だこれ!」「≪ダイヤモンドダスト≫」


 守りの魔法を放棄し、大袈裟すぎるほどに横へと跳ぶフィル。

 対し、呪文を唱え終えたアダマセイン嬢は、光を浴び輝く右手を振り下ろした。

 すると、振り下ろした手の軌跡、その前方の空間が突如として輝きを放った。


 輝きが空間を侵食し、先程フィルが立っていた場所を輝きが駆け抜ける。

 床をズタズタに破壊しながら進む輝きは、決闘の障壁を破壊し、そのまま舞台脇の壁面を蹂躙した。


 砕けた舞台の木床。

 魔力によって修復される決闘の障壁。

 その奥で、ボロボロと崩れ始める壁面。


 魔法の行方を追っていたフィルの目は、驚きで点となってしまう。

 フィルは驚愕を(あら)わにしながらも、床や障壁、そして障壁の奥にある壁その全てが、小さな小さな硬質な輝く何かの群れに裂かれ、破壊され尽くした事を一目で見抜いた。


「何このエグイ魔法……」

「フフッ。酔狂で金剛石と名乗っている訳ではなくてよ」


 そう告げるとアダマセイン嬢は、まるで楽団の指揮者のように、輝く右手をリズミカルに振り始めた。

 その一振り、一振りにより輝きの群れが生まれ、フィルへと襲い掛かる。


 フィルは「ひぃぃ! うぎゃぁ! にゃぁぁ!」と叫びながら跳び、屈み、転がり、輝きの群れに触れぬよう必死に回避した。

 必死の回避の甲斐(かい)あり、アダマセイン嬢の放つ魔法は、舞台と壁面を破壊するだけに留まっている。


 無様に逃げ(まど)うフィルを見てか、もしくは傷一つないフィルの姿を見てか、アダマセイン嬢は、オロバスの膜の中で嬉しそう口元を歪めていた。


「さぁ、もっと踊りなさい。わたくしが満足するまで、ずっと、ずっとぉ、ずぅっとぉぉ」


 高揚する声に合わせ右手を振り、フィルへと輝きをけしかけるアダマセイン嬢。

 空間諸共に蹂躙する彼女の魔法に、フィルは回避に専念するしかなかった。


「うぎゃぁ。洒落(しゃれ)になんないよ! これ!」

「思ったよりやべぇ奴だ。速攻仕掛けるか?」

「考えちゅ――にょわぁぁ」

「考えがあるなら、それをわたくしに魅せて頂戴。けど休む暇は与えなくてよ」


 上機嫌なアダマセイン嬢は、休まず右手を振り、輝く魔法を放ち続ける。

 既に舞台の床は、見るも無残な姿になっていた。

 己が目と身体能力のみで回避を続けるフィルは、段々と空間を走る輝きの群れの速さや幅に慣れつつあった。


 フィルは慣れた分を、魔法の行使へ思考を回す。


「なら一つ。大地よ(アース)捕えよ(バインド)


 フィルは相手の魔法を避けながらアダマセイン嬢の足元を狙い、土の魔法を放った。だが、彼女の足元には何も生まれず、綺麗にオロバスの膜の外に魔法の土が広がった。


「あら? 下から攻めれば良いと思って? 甘いわね」

「ここからぁ」


 フィルは迫る輝きの群れを転がり回避し、しゃがんだまま、杖持つ右手をグッと上に持ち上げた。

 それに呼応するかのように盛り上がった魔法の土が、オロバスの膜へと下から襲い掛かり、オロバスの膜ごと持ち上げんとする。

 巨漢四、五人程度ならば軽く飲み込むであろう魔法の力は、オロバスの膜どころかただ立ち尽くすアダマセイン嬢すら動かす事が出来なかった。

 アダマセイン嬢は攻撃の手を止め、呟いた。


「守りが硬いなら、守りごと天高く打ち上げ、地に叩きつける……ええ。考えは悪くないわね。ですけど――」

「駄目だぜ相棒。オロバスは空間を守ってんだ。動かせねぇよ」


 アダマセイン嬢の言葉の遮り、メフィストが悲報を告げる。

 右手から聞こえる遅すぎる忠告に、フィルの目がクワッと大きく見開いた。


「メフィちゃーん! それ先に言ってぇぇ!」

「ウフフ、失敗にはお仕置きを」

「ぎゃぁぁぁ!」


 再開したアダマセイン嬢の攻撃は、休んだ分もとばかりに苛烈にフィルを攻め、失敗の(とが)を責め立てる。

 空間を走る輝きが、床を砕き、障壁を砕き、舞台奥の壁を砕く。


 客席側へと行かぬ様に回避を続けるフィル。

 そんなフィルへと飛ぶ、輝く魔法の渦の所為(せい)で、既に舞台の半分以上が廃墟の(ごと)く荒れ果ててしまっていた。


 幸い、フィルには魔法の輝き一つも命中していない為、傷一つ負ってはいない。

 だが、どんどんと床が破壊され、足の踏み場がなくなっていく状況に、フィルは焦りを覚えていた。


「しょーがない、まずはこいつをっ。水よ(ウォーター)散り(スプレッド)幻惑の(イリュージョン)霧と化せ(ミスト)


 回避と詠唱。

 その両方を何とかこなしたフィルに応え、舞台の上を薄い霧が包み込んだ。


 その薄い霧は視界を遮るほど濃くはなく、青い視線と銀の視線が交わるのを邪魔しない。

 守りの為の魔法を唱えたフィルへ向く、銀の視線は冷たい。


「そんな余裕があるのかしら?」

「これも――よっと。次の一手の――ほいっと。準備だよぉ――あらよっと」


 フィルが軽快に跳びはねると、その度にフィルの実像が舞台の上に増え始めた。一が二に。二が四に。四が八にと。

 本物も偽物も分からぬ、八人のフィル。


 アダマセイン嬢は適当に右手を払い、輝きの群れを放った。

 すると、宙を走る輝きの群れがフィルへと命中し、その体をズタズタに切り刻んだ――かと思いきや、ズタズタに切り刻まれ全身から血を噴き出したフィルは、そのまま霧の中に溶ける様に消えていってしまった。


 アダマセイン嬢は、自分を半円を描く様に囲むフィル達の数を数え、一体始末したはずなのに既に八人に戻っている事に気が付いた。

 そして同時に、その全てが別々の動きを取っている事にも気付く。


「あら? 厄介な魔法ね」

「はてさて、本物がどれか、わっかるかなぁ~?」


 重なり聞こえるフィルの声に、アダマセイン嬢はクスッと嬉しそうに笑った。

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