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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-23 フィルメイルの夢と現実


 フィルは、夢を見ていた。


 幼き頃に走った田舎村の道を、自身の体長よりも倍ほど長い杖を抱え、必死に、必死に走っていた。

 幼き体は素早く動けず、木製の長い杖もまた重そうに揺れている。


 だが、フィルの心にはキラキラが生まれていた。

 もうすぐ、みんなに認めて貰える。仲間に入れて貰える。

 もうみんなに嘘つきだなんて呼ばれない。誰も自分を馬鹿にしたりしない。


 そんなキラキラを抱きながら走るフィルの視界に、村の子供達の姿が映った。


「みんなー。みてー。みてー」

「なんだよ。嘘つきが何の用だ」

「おい、きょうはどんなうそつくんだ? つくならおもしろいうそつけよー」


 ケタケタと笑う子供達に、小さな小さなフィルの頬がぷくぅと膨れる。


「うそなんてつかないもん。おうちでこれ、みつけたんだよ。しゃべるつえさん」


 ギュッと抱き締めていた杖を小さな両手で持ち、前へ突き出すフィル。

 よろけそうになる体を、地につけた杖を支えに立て直す。

 大人の男程の長さがある木製杖を見る子供達の眼は、懐疑的であった。


「木の杖ね」

「なーんだ、ただのつえじゃねーか」

「また嘘つきがなんか言ってるぜ」


「うー。ねぇメフィちゃん。もういっかいしゃべって」

「そう言われてもなぁ……多分こいつらには、俺様の声は聞こえねぇぜ嬢ちゃん」


 フィルは『どうだ!』と言わんばかりに、幼い顔に自信を満ち(あふ)れさせた。

 対し、周りの子供達の顔は、虚を突かれキョトンとしている。

 そして子供達は周囲を見回し、もう一度木製の杖を見上げた。


「今の声……まさか、本当に?」

「おれらいがい、だれもいないしな……」

「あぁ? 俺様の声、お前らにも聞こえてんのか?」

「すげぇぇ。しゃべるつえだぁぁ」


 子供達の中に居た村長の息子の目が輝き、大声を上げた。

 その声に同調するように、周囲の子供達も称賛の声を上げ始める。


「なんだよそれ、いいなぁ」

「すげぇ杖だ。格好良いな」

「おれにももたせてくれよ」

「嘘つきって決めつけてごめん」


 次々と上がる声に、フィルは――相棒たる杖を振り回し、目の前に来ていた村長の息子の横面を殴り飛ばした。

 吹き飛ぶ村長の息子と、周囲から上がる短い悲鳴。


 フィルはよろける小さな体を制御し、メフィストを前へ構える。

 その本来小さく愛らしいはずの幼きフィルの顔には、怒りの色が浮かんでいた。


「こんなゆめ……こんなクソみたいな夢、許してたまるかぁぁぁ」


 そう叫ぶのに合わせ、フィルはメフィストを振り回し、一人、また一人と子供達をなぎ倒していく。

 突然の暴力に、なすすべもなく倒れて行く子供達。


 全員をメフィストで殴り飛ばしたフィルは、地に伏せる皆の前でメフィストを地面に突き立て、大きく息を吐いた。


「ふぅ。ちょっとすっきりしたぁ。全く、何が幸せな夢よ」


 幼き声、幼き体でそうハキハキと喋るフィル。

 地面に倒れたままフィルを見上げる子供の一人が、ボソリと呟いた。


「なぜ、こんなことを……」

「なぜって? 当然でしょ。この記憶は、こうあって欲しい、こうあって欲しかったって思う……小さいけど、今でも痛くて苦しい記憶よ。けどねぇ。同時に私にとってはメフィちゃんと出会った、何よりも大切な記憶なの。それを書き換えて、貴女(あなた)幸せでしょう? って、ふっざけんじゃなぁぁい」


 そうフィルが叫ぶと、次の瞬間には、フィルの体は大きく変化していた。

 普通の村民町民と変わらぬ服を着た、年の頃十二程の少女の姿に。

 そしてフィルの目の前には、同い年に見える少年が一人。


 少年は利発そうな顔に笑みを浮かべ、フィルへ手を伸ばす。

 フィルは、少年の手へ視線を移し――グッと歯を食いしばりながら、右手に握ったメフィストで少年を頭部をぶん殴った。


 吹き飛ぶ事すらせず、フィルの目の前で姿を消す少年。

 誰もいない空間へ向け、フィルは怒気の籠った息を長く、長く吐き出した。


「もしあの時、私が手を伸ばしてたら訪れてた未来だとでも言いたいの? ねぇ、次は何を見せてくれる? 魔物に皆殺しにされたあの村の人達の元気な姿でも見せてくれるの? 旅の途中で見た戦争で焼けた町が無事な光景でも見せてくれるの? 一緒に戦って、死んでいった皆が生きてる所を見せてくれるの? それとも……」


 十二の少女の姿から今の大きな姿に戻ったフィルの目の前に、二つの人影が生まれた。


 一つは、黒髪美しい女性。

 泣き黒子(ぼくろ)のあるその女性は、今のフィルと同じく濃紺のローブを(まと)っており、その姿もフィルにとても酷似していた。


 そしてもう一つの人影は、短い茶の髪をサラリと風に揺らす、爽やかさを漂わせた男性であった。

 男性の澄んだ青い瞳が、フィルを見つめている。


 口を開きかけた目の前の二人を、フィルは容赦なくメフィストで殴り飛ばす。

 掻き消えた二つの人影を睨みながら、フィルが叫ぶ。


「両親が居たら幸せ? な訳あるかぁぁぁぁぁ。私の幸せはね、苦しくても、痛くても、私が歩いた先にしかないの。美味(おい)しい料理も、楽しいひと時も、可愛い女の子の笑顔も、明日に待ってるから意味があるの。過去をどんなに(いじく)り回したって意味なんてないのよ」


 そう啖呵(たんか)を切り、フィルはメフィストの先端で地面を強く突いた。

 この世界を破壊するかのように。

 すると、どこからともなく響く聞きなれた声が、フィルの耳に届いた。


「今、起こしてやるからな、相棒」

「うん。メフィちゃん。さぁ、この夢の世界、外からメフィちゃんに壊されるか、今ここで私に壊されるか、選びなさい。天使の花冠(エンジェル)……あなたが何を見せたって、私が全部ぶっ壊してあげる」


 フィルの声に応えるように、世界がボロボロと崩れ始めた。

 フィルは大きく息を吸うと、崩れいく青空を見上げ、そっと瞳を閉じた。


~~~~


 フィルが目を開けると、そこには自分の顔目掛けて突撃を仕掛ける長い杖の姿があった。


「みぎゃぁぁぁ」


 フィルは叫びながら顔を横にずらし、飛び込んで来た杖メフィストを寸での所で回避した。

 顔の横。床に突き刺さった木製の杖を横目に見るフィル。


 寝起きに襲われた彼女の歯が、ガタガタと震えてしまっているのも無理はない。

 恐怖と驚きが冷めぬフィルに反し、子供のような高い声が呑気(のんき)に響いた。


「おっ! 珍しく自分で起きたな、相棒」

「おはよ、メフィちゃん……死ぬかと思ったぁ……」

「悪い悪い。ペチペチ叩いても起きなかったからな。ガツンとやるしかなかったんだよ」

「ガツンって勢いじゃなかったよぉ。永眠したらどうすんのさ、もぅ」


 そう苦情を言いながら体を起こしたフィルを待っていたのは、高らかに響く拍手であった。

 奏でるのは、舞台の上に独り立つ女性。

 竪琴を左腕に抱えたアダマセイン嬢である。


 フィルは素早く立ち上がると、床に刺さった相棒を抜き、前へ構えた。

 フィルの青い瞳が見つめる先で、アダマセイン嬢の赤い唇が嬉しそうに、そして雄弁に(うごめ)く。


「幸せな夢から自分で抜け出すだなんて……やはり、あなたは素晴らしいわ」

「私にとっては、ちょいと悪夢だったけどね」

「あら? ソロモンの遺産も存外稚拙(ちせつ)なのかしら……まぁどうでもいい事ね。さぁフィルメイルさん。貴女(あなた)もこちらにいらっしゃい」


 右手を『おいで、おいで』と動かすアダマセイン嬢の誘いに乗り、フィルはゆっくりと舞台へ向け歩き出す。

 そして舞台側まで来たフィルは、跳躍一つで舞台上へ飛び乗り、アダマセイン嬢と対峙した。

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