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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-8 警ら隊本部にて


 ヴァルミオン警ら隊本部は、魔都の南門から中央にある広場へと続く大通りに面した場所に仰々しく立っていた。

 白く、そして大きく(そび)え立つ警ら隊本部の前を通る者は、捕まる身に覚えがなくとも緊張の色を浮かべてしまうことだろう。


 だが、フィルにとっては勝手知ったる場所であり、彼女は正面から大手を振って警ら隊本部へと突入した。


 警ら隊の皆から飛ぶ「お疲れ様です」の(ねぎら)いに、フィルは「お疲れー」と軽く返しながらずかずかと中へ進み『警ら隊遊撃班』のプレートが張られた扉を、ノックもせずに開けた。


「おっじゃまっしまーす」

「あっ。フィルメイルさん」


 不躾(ぶしつけ)に侵入したフィルにいち早く反応したのは、先日行われた『蠍の尾(スコーピオン・テイル)』掃討作戦において、リーダーザムザに手傷を負わされた青年ホップであった。


 机についたままの他の遊撃班の面々も、フィルへ手を振っている。

 フィルはそれに笑みと手ぶりを返しながら、側に来たホップへ用事を伝えた。


「ハロハロ、ホップさん。コルちゃんに呼ばれて来たんだけど……居ないねぇ」

「班長でしたら今、資料室に。そちらへ直接どうぞ」


 真顔でそう言うホップへ、フィルは当然の疑問を返す。


「んー? 資料室みたいな場所って、部外者立ち入り禁止じゃないの? いいのっかなぁ~、ホップさんの一存で勝手に通しちゃってぇ」

「……それもそうですね。入るのはこっそりでお願いします」


「あっ。入るのはいいんだ。じゃあ、行ってきまーす」

「相棒。もし問題になったら『ホップに許可取った』って言おうぜ」


 メフィストの発言に「ちょっ、待って」と焦るホップを尻目に、フィルは遊撃班の元を後にし、地下資料室へと堂々と向かった。


 道中、見知った顔に挨拶をしながら歩く姿は『こっそり』とはかけ離れていた。

 それは、地下の資料室に入ってからも同じであった。


「おねーさーん、おじゃましまーす。遊撃班班長います?」

「あら~フィルちゃ~ん、かび臭いところへよ~こそ~。姫様なら~奥に居ますよぉ~。お静かにね~」

「はーい」


 琥珀眼鏡のおっとりとしたお姉さんが指し示す方向へ進むフィル。


 広い部屋にずらりと並ぶ棚々には、本や紙の束がみっしりと並べられており、それをやや薄暗い魔法の灯りが照らしている。

 先程、資料室の(ぬし)は『かび臭い』と言っていたが、特にかび臭くはなく、薄暗さに反してよく掃除の行き届いた部屋であった。


 フィルが棚を一つ二つと数えて歩いていると、目的の人物はすぐに見つかった。

 彼女は棚の方を向いたまま、何やら資料を読んでいる。


 金の縦ロールがその横顔を隠しているが、暗い室内であってもフィルが彼女を見間違う訳がない。

 背が高く、女性らしい曲線を描く美しい立ち姿も、灰色の警ら隊制服も、彼女がヴァルミオン警ら隊遊撃班班長コルレオーネである事を示していた。

 

「やっほー。コルちゃん、来たよ」

「うむ! 先程の声、聞こえていたぞ、フィル君!」


 快活な声と共に、コルレオーネの目が資料から離れ、フィルへと向いた。

 その圧すら感じる鋭い視線を受けても、フィルは平然と微笑み返す。

 そんなフィルの笑みに釣られ、コルレオーネの顔にも柔らかさが浮かんだ。


「よっ。コル」

「メフィスト君もよく来てくれた。しかし、ララ君に聞いたよりも早い帰りだな」

「本当は夜まで掛かる予定だったんだけどね。押し寄せる悪党どもの所為(せい)で急いで帰ってきちゃった」


 ぐったりと肩を落とすフィルに、コルレオーネが己が肩を揺らす。


「ハッハッハッ! 各支部から情報は届いているさ。ここ数日でいくつもの盗賊団が壊滅したと……フィルメイル・クリスタが通った後には、悪党の毛一本すら残らんとな」


「なにそれもぉー。町に着く度に悪党を詰め所に運ばなきゃいけなかったこっちの身にもなってよぉ」

「あいつら、売られた家畜みたいな顔してたよな。ケッケッケッ」

 

 絶望顔で連行される賊を思い出し笑うメフィストと、逆にげんなりするフィル。

 コルレオーネは、メフィスト側の人間であった。


「ハッハッハッ! 愉快愉快。私も共に行けば良かったな。実に楽しい旅であっただろうに」

「仕事だよ、お仕事」


「ふむ。フィル君、仕事ではないが、その調子でもう一人捕まえてみないか?」

「どんな調子さ……一人?」


 フィルが『何の事件を追っているのだろう?』と首を(かし)げると、コルレオーネは手のひら大の一枚のカードをサッと取り出し、フィルへ差し出した。

 カードに書かれた文字を口にして読むフィルの目が、終わりに近づくにつれ(いぶか)し気に細く変化する。


「予告状。魔の満ちる都にてバルディアス卿の持つソロモンの遺産『天使の花冠(エンジェル)』を頂きに参上する。怪盗ヴァラファール……怪盗?」

「ああ、怪盗だ! 心躍るだろう。ハッハッハッハッ」 

「なんつーか本当に居んだな、怪盗」


 笑うコルレオーネの裏で、メフィストがボソリと(つぶや)く。

 普段と変わらぬメフィストの声であるのだが、フィルは『おや?』と感じた。

 だがその違和を相棒に問うことなく、フィルはコルレオーネへ向け、口を開く。


「えっと。怪盗は横に置いておくとして、この天使の花冠(エンジェル)って今度のオークションに出品されるやつ?」

「ああ。セルゲイ・ブラッド氏の死後、バルディアス辺境伯の息子の手に渡った物でな。そもそも今回のオークションが、このレリックの為に開かれると言っても過言ではないな」


 フィルは「へぇー」と気のない返事をしながら、盗まれたセルゲイ氏の遺産がどこをどう渡って辺境伯の息子の元へと行ったのだろう、と考えていた。が、当然わかる訳もなく、代わりに別の疑問が()いた。


「そんな高そうなレリック、辺境伯もよく手放す気になったね」

「先月、その息子が賊に襲われ亡くなってしまったのさ。レリック収集家であり浪費家であった息子と違い、バルディアス卿は現実主義であり質素堅実を絵に描いた御方でな、自分が持っていても無意味だと思ったのかもしれん」


「形見として残したいとは思わないんだ……ふむ。親心は分からないねぇ」

「俺様も分かんねぇぜ」


 本気で分からないことを思案気な顔で示すフィルに、コルレオーネは「フフン」と愉快そうに笑みを(こぼ)した。


「人の心などそんなものさ。魔物退治や国土防衛に使えるものならまだしも、天使の花冠(エンジェル)はそういった(たぐい)のレリックではないからな。バルディアス卿からすれば、無駄遣いにしか思えんかったのだろう」


「形見っつうか、家の資産って感じだな」

「貴族らしいねぇ。んー、戦いに役立たないレリックっぽいけど、どんなん?」


 そもそもフィルは、セルゲイ氏の作り上げた魔法の道具の事を知らなかった。

 フィルの疑問に、コルレオーネはハキハキと答えを返す。


「何やら望む夢を見る為のレリックらしいが、詳しい事は知らん!」

「知らないものは仕方ないねぇ」

「へぇ。結構平和なレリックなんだな」


 右手に握る杖メフィストへ向け、フィルが左手の人差し指をチッチッチッと揺らした。


「メフィちゃん、そうでもないよぉ。自分にしか使えないなら平和な面白レリックだけど、他の人にも使えるなら結構危険じゃない?」

「なるほど! 夢を見るという事は眠るという事。他者を強制的に眠りに(いざな)う訳だな。戦いにおいて眠りとは死と同義……流石フィル君! 恐ろしい事を考える」

「もぅ、人を非道外道みたいに言っちゃって。普通の考えだよ」


 わざとらしく口を膨らませるフィルと、分かっているとばかりに豪快に笑うコルレオーネ。

 すると、フィルの後方の棚の陰から、琥珀眼鏡のお姉さんがにゅっと上半身を出した。


「姫様ぁ~、フィルちゃ~ん。お静かにね~」

「すまん! 許せ!」「あっ、すみません」


 全く声量を下げないコルレオーネと、平謝りのフィル。

 お姉さんがにゅっと消えたあと、フィルは無言で『場所を変えよう』と上を指差した。

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