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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-5 夜の護衛任務と襲撃者


 オーク祭りの後。夜も深まり、トット村の宿にも静けさが戻っていた。

 多くの者が眠りに付く間も、護衛兵達が代わる代わる見張りを続けており、宿の出入り口や商隊の馬車へ近づく者達を警戒していた。


 宿の正面に立つ護衛兵の男も、同僚と共に眠気を(こら)えながら闇を(にら)み、虫の音に耳を(そばだ)てている真っ最中であった。

 そこに、宿の方から足音が近づいて来た。


「交代の時間っすよ」

「お前ら、時間通りとは感心だな。少しは腹へこんだか?」

「ははは……無謀な勝負だったっす」


 そう言って頭を()く若手の男。

 交代要員として共にやってきた男も、その隣で強く(うなず)いていた。


「いやぁ、凄かったっすねぇ」

「魔法と大食い。どっちがだ?」


 にやつく護衛兵の男の問いに、美女の大食いを思い出した若手の男の胃から、もわっと何かが込み上げてしまう。


「うぇっぷ……どっちもっすよ。遠くでちゃんと見えなかったっすけど、魔法一つで首が四つポンッと飛ぶなんて……俺達には縁遠いっすけど、あれが魔術師って奴っすかねぇ」


「だろうな。そもそも一日中空を飛んでる時点で、普通の魔法使いじゃないしな」

「そういえば……空飛んでる魔法使いなんて、見たことないっすね」


 呑気(のんき)に首を(ひね)る若手の男と、会話をしながらも警戒を続ける護衛兵の男。

 護衛兵の男と共に警戒していた同僚は、既に先程来た者と交代し、独り宿へと向かっていた。


「出来ないからやらないんだろう。出来れば誰でも空を飛んでるさ」

「そうっすよね、鳥みたいに自由に空を飛ぶなんて、ちょっと憧れるっすよね」

「だな。あんな人、どこで雇ったんだろうな……で? お前はいつまで俺をここに立たせておくつもりだ? それとも俺に気でもあんのか?」


 いつまでも番を代わらぬ後輩へ、護衛兵の男が軽口交じりで苦情を言う。

 それを若手の男は、鼻で笑い一蹴(いっしゅう)した。


「ハッ。ないっす。俺は黒髪ロングな女性が好みっすから」

「……おいお前。変な気起こして彼女の機嫌を損ねるなよ。もし損なったら……」

「……損なったら?」


 護衛兵の男は、立てた親指で自分の首の前を横切らせた。

 自分がオークと同じ運命を辿る可能性を知り、若手の男の顔が引き()る。


「ヤバいっすね」

「二重の意味で飛ぶぞ。仕事サボってるお前は特にな」

「後はお任せください……っす」


 若手の男の肩をポンッと叩き、護衛兵の男は宿の入口へと歩きだした。

 その時、男は夜の闇に小さく響くカッという音を耳にする。

 瞬間、護衛兵の男は腰の剣に手を伸ばし、周囲を調べ始めた……だが彼は、飛び立つ蝙蝠(こうもり)を見て『なんだ』と安堵(あんど)の息を吐いた。


 緊張を解いた護衛兵の男は知らない。

 既に、賊が侵入を試みていたことに。


~~~~


 真っ暗闇の中、宿の壁に張り付く二つの人影があった。

 黒にも見える濃い紫色の装束で身を包む彼らは、完全に闇に(まぎ)れており、灯りのある出入り口を警備する護衛兵達に彼らを見つけることは出来ない。


 ゆっくりと、ゆっくりと壁に張り付いた四肢を動かし、彼らは音もなく、一歩一歩、上へ上へと進んでいく。

 彼らは、音なく壁を歩く魔法の道具(レリック)蜘蛛の足(スパイダー)』を両手両足に身につけていた。


 交易路として栄えるトット村の中で一番大きな宿。その宿の中で彼らの目指す場所は、最も(ぜい)の尽くされた一室。

 彼らの見つめる先、部屋の窓やバルコニーから漏れる光はない。


 室内にいるカーリア夫妻は既に寝静まっているであろうと判断した彼らは、それでも音なく、ゆっくりゆっくりと壁を()う。

 一人は窓へ、一人はバルコニーへ。


 先行し、バルコニーに辿り着いた賊が、室内へ続くガラス戸をそっと引く。

 事前に破壊しておいた鍵は当然掛かっておらず、よく手入れされた戸は音なく開いた。


 賊の男は、月明かりのある外よりも暗い室内へ、音なく足を踏み入れ――瞬間、強烈な一振りが賊の顔面に叩き込まれた。

 強打の勢いのまま、賊の男が室外へと吹き飛ぶ。


 賊の男は声を上げる事すら出来ずにバルコニーの手すりへ衝突し、そのまま意識を失った。

 落下しなかったのは、ただの幸運でしかない。


 窓から飛び込んだもう一人の賊が、仲間を打ち据えた謎の人影を睨みつけた。

 その時、パッと部屋の明かりが灯り、賊と謎の人影の姿が(あら)わとなる。


 広い室内で対峙する二人。

 片や、全身暗い紫色一色に染まり、顔を隠した体格の良い男。

 対するは、長い杖を右手に持ち、顔に怒りを浮かべた濃紺のローブの少女。

 当然、その少女はフィルであった。


「誰だてめぇ。子爵と宝杖(ほうじょう)何処(どこ)だ?」


 そう言いながら素早く短刀を抜き、賊の男がフィルへ構える。


「別の場所。壁をレリックで移動してたら、バレるに決まってるでしょ」

「チッ。(かん)(かん)の良い魔術師を雇ってやがったか」

「そんな事どーでもいい。私はね、今怒ってんの」


「あぁん?」と疑問符を口にする賊を無視し、フィルが一歩踏み出した。

 舌打ちと共に短刀を振る男。

 だがまだ離れた位置に居るフィルに、その刃が届くはずはない。


 しかし、その斬撃の軌跡に合わせ、暗い緑色の刃がフィルへ向け放たれた。

 迫る刃へ無造作に杖を振り、叩き壊すフィル。

 また一歩踏み出し、フィルが怒りを声に乗せ吐き出す。


「私はねぇ……」


 賊の男は、フィルを近づけまいと再び飛ぶ斬撃を放つが、雑に振られた杖にかき消されてしまう。


「クソッ。何なんだこいつ!」


 幾度も放たれる飛ぶ斬撃を、まるで蚊でも払うかのように破壊しながら一歩一歩迫る女に対し、賊の男は目と声に焦りを浮かべていた。

 男は休まず短刀を振りながらも、撤退を視野に入れ、開け放たれた窓を見る。


 だが男は、怒気を強めゆっくり近づくフィルに視線を戻してしまった。

 

「安眠を妨げる奴が……」

「チッ。引くしか――」

盾よ(シールド)


 フィルの撃破を諦め、窓から逃走を(はか)る賊の男。だが彼は、透明にも見える白色の力場に真正面から衝突してしまった。

 倒れはしなかったが、男は突然の衝撃に隙を晒してしまう。


 そんな男のすぐ側に、既にフィルは立っていた。

 そこはもう、杖の射程圏内だ。


「大っ嫌いなの!」


 横へコンパクトに振られた杖が男の横面へとめり込み、再び男を魔法の障壁へと(いざな)った。

 魔法の障壁に衝突し「ギャッ」と短い悲鳴をあげる男。

 フィルが魔法を解除すると同時に、気絶し脱力した男が床へと倒れ込んだ。


「ギリ生きてんな、こいつ」

「どうでもいいよメフィちゃん。次は廊下」

「おぉ(こわ)っ」


 階下で眠る商隊の人々への気遣いを忘れ、のしのしと廊下へ向かうフィル。

 フィルが廊下へ出た時、丁度護衛兵の二人が階段を上って来たところであった。


「何事ですか」「賊はどこへ?」


 廊下を駆け、近づく若い男女の護衛兵二人。

 特に特徴のない顔つきの青年と、純朴さの抜けきれない茶髪の女性。


 護衛兵全員と顔合わせしていたフィルは、当然ながら二人の顔を知っていた。

 そんな彼と彼女に対し、フィルは魔法で出迎える。


地よ(アース)縛り上げろ(バインド)


 護衛兵二人の足元に突如として生まれた土が、走る二人の足を捕まえた。

 魔法はそこで終わらない。

 二人の両足を捕えた土が更に廊下に広がり、そこから巨大な手が二つ生まれた。

 土で出来た巨大な手が、動けぬ二人の胴を両腕ごと(わし)掴みにする。


「なっ、なにを!」「やめて下さい」


 フィルへ懇願の眼差しを向けながら、二人はそう叫んだ。

 だがフィルは、その返事として拘束を強める。


 護衛兵の男女がもがき、巨大な手から脱出しようとするも、腕ごと掴まれているため抵抗一つ許されない。

 どんどんと力を増す締め付けが、二人の体をミシミシと(きし)ませる。


「そんなレリックで騙せるほど、魔女見習いは甘くないの、よっ」

「「ぎゃぁぁあぁぁああぁ」」


 強まる拘束が、男と女の全身に痛みを走らせる。

 男女の叫びが響く中、二人の胸の辺りでパリンと何かが割れる音がした。

 瞬間、二人の顔と髪が全く別物へと変化した。


 男は平々凡々な顔立ちから、荒々しい顔とぼさぼさの髪に。

 女は純朴清楚な顔から、化粧の濃い顔と派手な髪色に。


 フィルは逃げ出さぬ程度に拘束を緩め、二人へ近づく。


「さーて。(じん)も――げふんげふん。お話合いはどっちとした方がいいかなぁ? お兄さん♪ お姉さん♪」


 満面の作り笑顔で近づくフィル。

 拘束されたままの二人は、怯えを隠す余裕すらなかった。

 例え美人が笑おうとも、恐ろしいものは恐ろしいのだ。


「お、俺は何も知らねぇ。こいつに聞け!」

「なによ。私を売る気ぃ!」

「んー? 私、片方は要らないって言ってるんだけどなぁ。口は一つで十分だよ、ねっ」


 短い悲鳴を上げる賊の男女へ向け、フィルはニタァと口元を動かし、作り笑顔を怪しく歪めた。

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