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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第四話「ソロモンの遺産と後継者」

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4-3 小さな花


 ここは魔都の中央特区にある、とある研究施設の一室。

 広い室内を囲う四方の壁、床、天井には、魔法による特殊な障壁が張り巡らされていた。


 その中に(たたず)む小柄な少女が一人。


 天井近くに浮かぶ魔法の光に照らされ、明るく輝く短い髪。

 その下に(たた)えるのは、バッチリと(だいだい)の瞳を宿す愛らしい小顔。

 スレンダーでやや小柄な体を包むのは、洒落(しゃれ)た洋装。だが、その所々をなめし革で補強している格好を見れば、誰も普通の少女とは思わぬだろう。


 そして、ただの少女ではない点がもう一つ。

 彼女の右手には、この世界では普及していない火薬を用いた短銃にも似た、銃型の魔法の道具が握られていた。


 硬質な外装に(ほどこ)された流麗な細工。

 本来、銃として発射物が放たれるべき銃口に鎮座する、透明な宝石。


 どこか儀式用の祭具めいた魔法の銃『射貫くもの(スティンガー)』を持つこの少女の名は、アイリス・ブラッド。

 魔法研究の名家ブラッド伯爵家の三女である。


 アイリスは、集中する為に一つ深呼吸をし、右手に持つ魔法の銃を前に突き出した。同時に胸の前で横たえた左前腕の上に右腕が乗り、クロスする構えとなる。


「第一封印解除」


 アイリスの(りん)とした声に呼応し、銃先端の空間に白く輝く円形の模様が浮かび上がった――瞬間、アイリスの視線の先に、六十センチほどの正八面体の結晶が突如として出現した。


 紫色の正八面体へ向け、アイリスが狙いを微調整する。


「発射」


 その言葉と共に、銃口に位置する透明な宝石に力が満ち、そこから白き一条の光が放たれた。

 (またた)く間に正八面体の中心を貫いた白い光は、そのまま壁へと命中する。


 伝わる破壊の力を示すように、貫いた光の線よりも大きな大穴が正八面体の結晶にポッカリと空いていた。

 一拍置き、正八面体が崩れ落ちると、そのまま床へ溶ける様に消えていった。


 一つが消え、そしてアイリスの前に紫の正八面体が再び現れる。

 位置を変え、高さを変え、再出現する標的。

 それをアイヴィは、間を置かず白い光にて貫く。


 幾度も、幾度も現れる標的。その全てを白い光が射貫いていく。

 それは五十の標的を破壊し尽くすまで一射も外れることはなく、そして寸分違わず正八面体の中心に命中していた。


 標的が再出現しなくなったのを見計(みはか)らい、アイリスが集中の疲れを息と共に吐き出した。

 すると、部屋の四方上下を(おお)っていた特殊な障壁が消え、アイリスの後方にある扉が開いた。


「どうだい、スティンガーの調子は?」

「バッチリ。流石はおじさま」


 ニコリと振り向いたアイリスの目に『おじさま』と呼ばれた男性の姿が映る。

 三十半ば程に見えるその男性は、室内であるにも関わらず華美な赤いマントを(まと)い、一目で地位が高いと分かる豪華で瀟洒(しょうしゃ)な装いをしていた。


 燃える様な赤い髪。男盛りを見せる引き締まった顔立ち。

 彼の名は、ヘリクス・トルシオン。

螺旋(らせん)(きみ)』という別称を持つ、魔都の主として(ささや)かれし男である。


 そんな彼は、柔和な表情を浮かべアイリスに近づくと、彼女からスティンガーを受け取り、そのまま観察を始めた。

 真剣な眼差しで魔法の銃を調べ、トルシオン卿は表情に笑みを戻す。


「確かに問題ない。よかった」

「おじさまが調整してくれたんだもの、当然でしょう」

「ハハハ、そう言って貰えると嬉しいよ」


 全幅の信頼を表情に浮かべるアイリスと、顔を穏やかに崩すトルシオン卿。

 トルシオン卿はスティンガーを返却しながら、調整内容を口にした。


「不調の原因だった魔力伝達回路を全て新しいものに変えておいたから、もう同じ不調に(おちい)る事はないはずだよ。ただし、解除するのは第二封印までにした方がいい」

「最大出力で撃つと?」

「不調どころか一発で伝達回路が焼き切れてしまうよ……昔作った物とはいえ、こんな体たらくでは御師様(おしさま)に笑われてしまうかな」


 端正な顔を(かす)かに歪めるトルシオン卿。

 そんな彼を、アイリスは「フフッ」と軽く笑い飛ばす。


「そんなことないわ。それだけおじさまの作ったスティンガーが強いってことなんだから。けど、お爺様なら笑って改善点を指摘していたかも」

「あはは……御師様は手厳しかったからね」


 苦笑いを浮かべながらも、昔を懐かしみ、トルシオン卿は瞳を閉じた。

 浮かぶ過去の情景。

 尊敬する師の姿と、その隣にいる小さな少女の姿。


 目を開けたトルシオン卿は、今目の前にいるアイリスと、小さな小さなアイリスの姿を重ね、少し悲し気に眉尻を下げた。


「アイリス……狩人を辞める気はないのかい?」


 首を横に振るアイリスの姿が、トルシオン卿の瞳に映る。

 きっと首を縦には振らない。そう分かっていてもトルシオン卿は説得を続けた。


「態々危険な仕事をしなくても、君の生き方は無数にあるはずだ。あの時の僕は……御師様が亡くなった時、僕は君に何もしてあげられなかった。けど今の僕ならば君を守ることも、君の居場所を作ることも、君が進む道を照らすことも出来る。あの時出来なかった事を――」

「おじさま、過保護。私は私なりに生きてるから」


『過保護』と拒絶され、トルシオン卿は少々身を引く。

 美丈夫(びじょうふ)狼狽(うろた)える姿に、アイリスはクスッと笑った。

 少々気後れしたトルシオン卿であったが、アイリスへの説得をやめない。


「だが君に何かあれば、僕は御師様に顔見せ出来ないよ」

「御免なさい、おじさま。それでも狩人は辞めないわ。狩人は、魔法が使えない私が、この特技を活かせる数少ない仕事なの」


 そう言い、アイリスは『この特技』たる魔法の銃を、腰のホルダーに納めた。

 そして、愛らしい顔を子供のように輝かせながら、彼女は言葉を続ける。


「そして誰かの役に立てる数少ない方法なの。お爺様の孫として、恥ずかしくないように生きないといけないでしょう。ねっ、おじさま」

「……嗚呼(ああ)、そうだね」


 小さく息を(こぼ)し、トルシオン卿の目尻が下がる。

 穏やかな納得を表情に浮かべたのも束の間、トルシオン卿の顔が心配の色に染まってしまった。


「だが心配なものは心配なのさ。僕にとっては今でも、アイリスは小さな小さな花のままなんだよ」

「もぅ。それはそれで失礼よ、おじさま」


 腰に手を当て「フンッ」と怒りの息を吐くアイリスに、美丈夫たるトルシオン卿は「あはは……」と、再び苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 目の前で不機嫌を(あら)わにするアイリスの姿は、トルシオン卿にとって小さな花に変わりなかったのだから。

 

~~~~


 フィルがギルドマスターから依頼を受けて、数日後。

 フィルはすぃーと空を飛び、王国南部に位置するカーリア領を訪れていた。


 領主であるカーリア子爵の屋敷へ通されたフィルは、さっそく子爵本人と対面する事となった。

 使用人の開けた扉を潜り応接室に入ったフィルを、ちょび髭の男性が両手を広げて待ち構えていた。


 男性としてはやや低めの身長に、程よく肥えた丸っこい体。

 体形に合わせて広めに仕立てられた茶の上下。内に見える白シャツを首元で留める赤い蝶ネクタイがキラリと光っていた。


 貴族よりも商人と呼ぶ方がしっくりとくる四十五の男性カーリア子爵が、フィルを見て「ホッホッホッ」と腹の肉を揺らす。


 歓迎の微笑(ほほえ)みを受けたフィルは、左手でとんがり帽子を外し、折り目正しく頭を下げた。


「お初にお目にかかります、子爵様。私はギルド銀水晶所属の魔女見習い、フィルメイル・クリスタと申します。以後、お見知りおきを」


 そう硬い挨拶をしたフィルは、頭を上げると同時に「テヘッ」と笑った。


「ちなみに魔都で息子さんをぶっ飛ばした張本人でーす」

「ホッホッホッ。存じておりますぞ。その節はうちのバカ息子か御迷惑をおかけしました」


「いえいえ、こちらこそ。息子さんの顔面をめきょっとして申し訳御座いませんでした」

「いえいえ。初めて出来た息子ゆえ甘やかし過ぎました。あいつにとっても良い薬になったでしょう。ホッホッホッ」

「アハッハッハッ」


 謝罪し合っていた(はず)なのに、なぜか応接室には二つの笑い声が木霊(こだま)していた。

 同時に笑うのを止めた二人は、ガシッと右手で握手を交わす。

 フィルに放り出され、フワフワと浮かんだ杖メフィストが、ボソリと(つぶや)く。


「何だこれ?」と。


 (いぶか)し気なメフィストを他所(よそ)に、フィルとカーリア子爵は握手をしたままニヤリと口を歪め、頷き合っていた。

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