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流星の魔女  作者: ごこち 一
第三話「蠍の尾と小さな悪意」

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34/42

3-12 交戦開始


「ふむ……何も無いな」


 コルレオーネは、見たままの素直な感想を口にした。

 そう。フィルが到着と言った場所には、茂る森と緑が所々に生える土の急斜面があるだけで、もう一つの入口なんて見当たらない。


 コルレオーネは信頼を(もっ)て、フィルへ視線を投げかける。

 既にフィルは、上から落下したら危険な急斜面を指差し、答えを示していた。


「そこだよ、そこそこ。いい魔法だねぇ」

「偽装か。腕のいい魔法使いがいるのかもしれんな」

「それでコルちゃん。追い立てられて出て来るのを待つ? それとも……」


 フィルはコルレオーネの答えが分かっていて、そこで言葉を止めた。

 鋭い顔をニヤリと歪め、コルレオーネが命令を下す。


「突入! そして殲滅だ! お前達、行くぞ!」

「「「「はい。班長」」」」


 フィルの返事を待たず、先程フィルが指差していた方向へコルレオーネが歩き出した。彼女の背に続く警ら隊遊撃班の十名。

 皆、気合いに満ちた顔をしていた。


 通り過ぎる皆を見送り、フィルは最後尾を歩く。


 魔法で偽装された土の斜面を素通りすると、中は土壁を木々で補強した坑道であった。騎士団の突入した入口と違い、偽装された入口の先には、所々に魔法を動力とするランタンが吊るされており、中をほんのりと照らしている。


 闇に隠れる場所などないが、警ら隊遊撃班は、警戒を厳に進む。

 無言で歩く警ら隊に合わせ、フィルもお忍びモードで相棒へ語りかけた。


『メフィちゃん。あっちが普通の出入り口で、こっちが非常口って感じかな』

『いつでも逃げられるよう、常に明るくしてる訳だな』


『魔法で隠していたのも、万が一の逃走経路を悟らせない為だろうねぇ』

『ケッケッケッ、仲間がゲロっちまったけどな。元々の作戦通りとは言え、騎士団に突っつかれればこっちに逃げて来る訳だ。前行くか? 相棒』


 右手に掴む杖メフィストにそう問われ、フィルは考える。

 特に罠も無ければ、魔物が湧いている訳でもない。

 こちらが非常口ならば、賊に背後から奇襲される危険性も少ない。


 今現在、殿を務めているフィルであるが、あまり意味はなさそうであった。


『いや。コルちゃんに任せちゃおっ』

『了解。今日の仕事はもう終わってっし、まったり行こうぜ』

『だねー』


 最後尾を歩く優雅な散歩は、突如終わりを迎えた。


 人工的というよりは自然に出来たであろう空洞が、先頭を歩くコルレオーネの前に広がっていた。土の壁には幾つかの大穴があいており、魔鉱石が採掘されていたであろう頃は、この場を中心に掘り進めていたのであろう。


 コルレオーネが空洞へ足を踏み入れた瞬間、彼女の左右から口元をぼろ布で隠した男が足音一つなく飛びかかった。

 右に一人。左にも一人。

 男の逆手に持った短刀が、土壁に飾られた魔法のランタンに照らされ、(きら)めく。


 右から(のど)、左から腹へと進む二本の短刀。

 だが、(またた)く間もなく、二本の短刀が一瞬にして砕け散った。

 コルレオーネの両手にはまる手甲(てっこう)が、迫る剣閃を殴り飛ばしたのだ。


 完全に決まった(はず)の奇襲が無に()され、襲撃者二人の目が大きく見開く。

 次の瞬間にはもう、左の襲撃者の顔に拳が突き刺さり、吹き飛んでいた。男はそのまま土壁に衝突し、動かなくなってしまう。


 右の襲撃者も既に始末されていた。

 コルレオーネの後ろを歩いていた部下が抜刀と共に、右の襲撃者の腹を突き刺していたのだ。蹴り飛ばされると同時に直剣が抜かれ、襲撃者の死体がドサッと土に横たわる。


 開けた空間へと次々に飛び出した警ら隊遊撃班が、コルレオーネを守るように布陣する。

 すると奥にある横穴から、ぞろぞろと賊達が姿を現した。


 賊の数は、見える範囲で二十六人。

 対しフィル達は、フィル、コルレオーネ、そして遊撃班十名。計十二名。

 人数差を見て、賊のリーダーらしきギザギザ頭の男が鼻で笑う。


「ハッ。その数、別動隊か。てか騎士でもねぇな。てめぇら何もんだ?」

「聞かれれば、答えねばならぬな! 我らヴァルミオン警ら隊。貴様らスコーピオン・テイルを捕えに来た者だ。大人しく縄につくならそれもよし。もし抗うのならば、そこの二人と同じ末路を辿って貰おう」


 そうコルレオーネが啖呵(たんか)を切ると、賊達が(にわ)かにいきり立った。

 特に怒りを露わにしているギザギザ頭の男が「チッ」と舌を鳴らす。


「何が『捕えに』だ。てめぇら全員生きて帰れると思うなよ。フレディ!」

「≪ブラックアウト≫」


 ギザギザ頭の男の横に立つ黒ローブの男。その左手に填めた発動体が紫の光を放ち、そこから闇が広がった。

 空洞内へとあっという間に広がった闇は、賊たちだけでなくフィル達をも包み込み、その視界を黒に染めた。


「おぉ、闇魔法だ。珍しい」


 そんな呑気なフィルと違い、コルレオーネは部下達に素早く指示を出していた。


「散開! その後は迂闊(うかつ)に動くな。目の前に来た敵だけを潰せ。リック、ガーランド、パニャ、牽制を頼む。他は守りに備えろ」

「「「≪ウインドアロー≫」」」


 闇で視界を潰された中、警ら隊遊撃班の三人が風の矢を生み出し、先程まで賊が居た場所へと次々と放つ。

 発動体の光も、闇に()まれて本人にすら見えない。


 放たれた矢も、当然の如く見えない。

 暗闇の中進む矢は、賊を貫くとこなく、土の壁に穴を空けただけに終わった。


「ハッハッハッ。この闇の中で当たる訳がねぇだろうが。闇の中に慣れた俺達とお前ら、どっちが有利か分かりきってるよなぁ」

「んー。その様子だと、そっちも見えてないんだねぇ。盾よ(シールド)


 フィルが呪文を唱えると、彼女の前方に透明にも見える白色の力場が生まれる。

 するとそこに矢とナイフが飛翔し、力場に突き刺さった。


 暗闇の中で攻撃を受けようとも、フィルは平然としていた。


「おぉ危ない危ない。音を頼りに位置を特定してるんだね。乱戦時に使われたら危なかったかも」

「あぁ!? 何も問題ねぇってか? 先に死にてぇのか、お喋り女」


「いやぁ、見えちゃうんだから仕方ないよねぇ。風よ(ウインド)矢となれ(アロー)。コルちゃん」

「よし! 全員突撃だ!」


 真っ暗闇の中、警ら隊遊撃班全員がコルレオーネの声に従い前へと駆け出す。

 当然の如く先陣を切るのは、発破をかけたコルレオーネである。


 そのコルレオーネの横を、フィルが生み出した三十本の矢の群れが追い越した。

 その矢は暗い闇の中を走り、その全てが一人の男へと突き刺さる。


「ギャッ」


 その短い悲鳴と同時に、男が左手に填めていた発動体が砕ける音が響いた。

 すると、空洞一帯を覆っていた闇が突如として消滅した。


 壁に飾られた魔法のランタンの灯りが空洞内を照らし、三十の矢に貫かれた黒いローブの男の末路を露わにする。


「な……にぃ。フィレディ!」

「術者は、ちゃーんと隠れないと駄目だよ」


 呑気にも思えるフィルの忠告を聞く余裕など、賊たちにはなかった。

 暗闇の中での突然の突撃命令。闇の中、音を立てず動いていたにも関わらず魔法で狙撃された魔法使い。そして迫る警ら隊。


 自らの音を消し、闇の中で一方的に狩る。

 本来地の利を得て有利だった筈の蠍の尾の面々は、突然の出来事と現状に、焦りと動揺を隠せなかった。


 リーダーであるギザギザ頭の男も同様であった。

 (ゆえ)に、その隙を突かれてしまう。


「「「≪ウインドアロー≫」」」


 接近しながら放たれた風の矢に、賊たちは対処出来ず、矢に貫かれた賊四人が痛手を負い、武器を落とした。

 その段になってようやく賊のリーダーから声が上がった。


「クソがっ。まだこっちの方が多い。お前ら、やっちまえ!」


「おう」という統率の取れた返事に続き、賊全員が得物片手に駆け出した。

 警ら隊十一人と賊二十一人がぶつかり合い、戦いは乱戦と化す。


 遅れて渦中へ向かうフィルは、この乱戦をどちらが制すか、とうに知っていた。

 フィル自身が魔都で捕縛した者達は、ただの強盗犯としか感じぬ程度の実力しかなかった。その練度の低さは、他の構成員とてそう変わりはしないであろう。


 そんな蠍の尾(スコーピオン・テイル)が戦わねばならぬ相手、警ら隊遊撃班。

 彼らは人数こそ少ないが、その全員が日頃からコルレオーネの訓練に付き合う強者達である。

 真正面から衝突すれば、どちらが勝つかなど自明の理。


 コルレオーネの拳が賊を吹き飛ばし、部下達の放つ剣技が賊の胴を裂き、鉄鞭の如き魔法の道具が賊を打ち据え、痺れさせる。

 一人、また一人と賊が倒され動かなくなる中、警ら隊に一太刀入れる者が居た。


 それはギザギザ頭の男。蠍の尾のリーダーであるザムザ。

 斬りかかった警ら隊の青年の剣が、ザムザが右手に持つ曲剣によって打ち上げられ、宙を舞う。

 間を置く事なく放たれた左手の曲剣が、青年の胴へ赤い線を引いた。


 素早く回避行動を取っていた青年は、胴を軽く裂かれただけで済む。だが、傷を負い武器を持たぬ青年の不利は必定であった。 


「双剣のザムザを舐めるからだぜ。死になぁ――「切り裂け(スラッシュ)」――チッ」


 手負いの警ら隊へ追撃せんとしていたザムザは、声と共に飛んで来た魔法の斬撃三つを、両手の曲剣でいとも簡単に切り裂いた。


「邪魔すんじゃねぇ、お喋り女ぁ」


 ザムザの睨む先には、長い杖を右手に持ち、濃紺のローブを揺らす女性、先の魔法を放った声の主であるフィルが立っていた。

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