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流星の魔女  作者: ごこち 一
第二話「魔女見習いの日常」

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21/42

2-11 帰路へ


 夕暮れの中、ポルナの町に戻って来た二人は、別行動を始めた。

 アイヴィは、ゴブリンの耳が入った袋を片手に、狩人ギルド支部へと報告に。


 一方フィルは、鳴る腹を(しず)める為に再び『金色(こんじき)牡鹿亭(おじかてい)』を訪れ、八分目まで腹を満たした。苦笑いする店員に見送られ、続けて昼と同じ道を歩く。


 そしてフィルは、がっくりと肩を落とした。

 目の前には『材料切れ』と書かれた張り紙が一枚。


「閉まってる……チョコ君……バナナ君……ごめん。(かたき)を取れなかったよぉぉ」

「むしろ昼に食った相棒が仇なんじゃぁ……」


 右手に納まるメフィストから飛ぶツッコミに、フィルは言葉を返す気力もない。

 フィルはトボトボと歩き出し、クレープ屋の前から西門へと向かう。


 夕暮れの通りにはまだ人通りがあり、家路につく人や夕食へと向かう人達が落ち着いた街並みを(いろど)っていた。

 どんよりとした雰囲気を放つフィルの姿は、その中でも異質に見える。


「まっ、次来た時の楽しみにしとこうぜ、相棒」

「そだね。次は全種類いただいちゃおう。おー」


 先程までとは打って変わり、背筋をしゃんと伸ばしたフィルがキビキビと歩みを速めた。

 その変わり身の速さに、メフィストが笑う。


「ハハッ。流石相棒、切り替え早いな」

「へこんでても余計にお腹空くだけだし」


 軽快に西門へと向かうフィルとメフィストは、途中「待った?」「今来た所」と定番のやり取りをしながら、アイヴィと合流した。


 黄昏(たそがれ)の時間。門の外へと向かう人の流れは少なく、フィルとアイヴィは並んで流れに逆らっていた。


「まさか、帰りも乗せてってくれるなんてね」

「フッフッフッ。言ったっしょ。お泊りなしで町へ戻れるって」

「夜の空の旅かぁ……ちょっと夢だったのよ」


「ハハッ、そりゃよかったな、嬢ちゃん」

「安心安全、快適な空の旅をお約束いたしますよ、お客様」

「なら運賃はこれで」


 歩きながら器用に一礼するフィルへ、左隣を歩くアイヴィが一つの小さな袋を差し出した。

 フィルは、言葉通りその中にお金が入っているのだろうと、首を横に振る。


「別にいらないよ。私が帰るついでだし」

「違うってば。これはゴブリン拠点を潰した報酬。あの気持ち悪いオブジェも耳と一緒に提出しといたから……正直、労力に見合うかと言われれば全然安い報酬だけど、ただ働きよりは良いでしょ。魔女さん」


「……うん。やっぱり良い子だなぁ」


 赤い夕陽が、にへらと笑うフィルの顔色を隠す。

 そんなゆるい笑みを向けられたアイヴィはというと、愛らしい顔に小さな怒りを浮かべていた。


「あのねぇ、子ども扱いしないでくれる。同い年よ、同い年ぃ」

「いいからいいから。よーしよしよし」

「やめなさいって。もぅ。何か調子狂うわね……」

「諦めな。嬢ちゃん」


『まぁ色々助けてもらったし、今日は許すか』と、アイヴィはさわさわと無遠慮に撫でるフィルの手を受け入れた。

 それに甘えるフィルは、実に楽し気である。


 そんなこんなで西門へと辿り着いた二人は、所属を証明する魔法の道具(レリック)である薄く小さな金属板『認識票』を門番に見せ「おっつかれさまでーす」と、防壁の外へと出た。


 二人の目の前には、西へと続く街道と、その脇に広がる広大な農地。

 栄養の富んだ土も青々と伸びる葉も、今は夕日の赤に染まっていた。


「おぉー」と広がる景色に声を上げながらも、フィルは浮かぶメフィストにヒョイと乗り、アイヴィへ手を差し伸べた。

 

「さぁ乗って乗って」

「ありがとう。よし、お願い」

「それじゃぁ、しゅっぱーつぅ。風よ(ウィンド)守護の力(シールド)

「えっ! この魔法って!」


 聞き覚えのある呪文にアイヴィは声を荒げ、フィルにギュッとしがみついた。

 黄昏の中、フィルの腕輪が赤く輝き出す。


飛行(フライ)加速(アクセル)増幅(ブースト)。メフィちゃん」

「超高速でいくぜぇ」

「魔都までごあんなぁーい」「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 農地に(とどろ)く叫びと共に、恐るべき速さで夕日に消えゆく二人と一杖。

 その姿を、門番達はしかと目撃した。

「なにあれ……こわっ」という(つぶや)きを漏らした同僚を、笑う者はいなかった。


~~~~


 夜空に輝く星々と、地上で輝く魔都の輝き。その間を飛ぶ杖が一本。

 その杖の上に座る少女が、明るい声で愚痴を(こぼ)していた。


「うー。酷い目に遭った」

「生きてるだけ良かったと思うしかねぇぜ、相棒」


 そう。苦悶(くもん)の表情を浮かべ、メフィストの上に座っているのはフィルであり、既に、アイヴィとは別れた後であった。


 数刻前、魔都に戻ったフィル達は、放心状態のアイヴィを狩人ギルドまで送り届け、ポルナの町で回収した不調部品を届ける為に、そのまま魔術師協会ヴァルミオン支部第三研究室を訪れていたのだ。


 そして、そこで悲劇が起こった。


 その際、黙ってフィルを見守っていたメフィストが、悲劇から脱した今、その内容を口にする。


「しっかしクレアもよぉ、訓練とはいえ一万の矢はやり過ぎだよな」

「それをシールドの魔法一つで(しの)ぎきれとか、もぅ、先生にグラントさんとの戦いなんて話すんじゃなかった……リアル(からだ)いたい」


「治療済みとはいえ、グサグサ刺さってたからな」

「お気にのローブが穴だらけだよぉ……ううぅ」


 (なげ)きの声を夜空へ吐き捨てながら、フィルは訓練を思い出していた。

 数え切れぬ程の数で視界一面を埋め尽くす多属性の魔法の矢。それを背に堂々と立ち「フハハ。怖かろう」と愉悦の笑みを浮かべていたクレア先生の姿を。


 果たしてあれは訓練だったのか? ストレス発散だったのか?

 それともただの暇つぶしだったのか?

 フィルには分からない。


 だが、いずれにせよフィルにとって有難(ありがた)い訓練だった事には変わりなかった。

 腕や足にグサグサと容赦なく刺さる矢が、どれほど痛かろうとも。


 事実、短い訓練の中でフィルは、威力の高い属性矢を単純な無属性魔法の防御で防ぐ技術を身につけていたのだから……本能的危機感が生むストレスと四肢の痛みを代償に。


「今日は寄り道せずに帰ろうぜ」

「だねぇ。お腹空いたし」

「いや、飯はポルナで食っただろ。着替えだ着替え」

「分かってるって。今のはじょーだんじょーだん。アハハハハ」


 魔都の夜空に笑い声を響かせながら、魔女見習いは帰路へついた。

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