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流星の魔女  作者: ごこち 一
第二話「魔女見習いの日常」

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2-6 ゴブリン討伐


 ポルナの町を出た二人と一杖は、南へ続く街道沿いに空を飛んでいた。


 進行方向へ杖の先端を向け飛ぶメフィストの上に、二人は横から腰掛けている。

 前方に座るフィルへと、アイヴィの呆れを含む視線が伸びていた。


「まさか、空を飛びながらクレープを食べる奴がいるなんて……」


 アイヴィの言葉の通り、フィルは最後のチョコクレープ頬張(ほおば)っている。


 甘い皮に包まれた甘い甘いチョコソースが、フィルの口の中を支配していた。噛めば甘さが混じり合い、チョコの豊かな香りがフィルの鼻を通り抜ける。

 フィルはごくりと口内を(から)にし、食べかけのクレープをアイヴィへ差し出した。


「んー? 食べる?」

「いい。よっぽどお腹が()いてたのね、フィルメイル」

「相棒なら昼飯食った後だぞ」

「嘘でしょ……食べた分はどこに……」


 アイヴィは、隣に座るフィルの全身を舐める様に観察し――濃紺のローブに隠れているが、内側から自己主張している胸元で止まった。


「そこか……クッ」

「アイヴィちゃんのエッチ」


 ボソリと呟くフィルの声は、己のスレンダーな体を見て落胆するアイヴィの耳には届いていない。

 反応がないのをつまらなそうにしながら、フィルはクレープへと戻った。


~~~~


 空を駆け、目的地である森に最も近いココ村の上を通り過ぎ、フィル達は木々の深まる森の中にある一軒の小屋の前に降り立った。

 フィルとアイヴィは、狩人ギルドに寄せられた情報を頼りにゴブリンの痕跡(こんせき)を探す――(はず)であった。


「おっ! キアリケ草発見! 回収回収」


 フィルはそう言うと、木の側に生えた一見なんの変哲もない緑の草をむしり、腰の(かばん)へと放り込む。

 初めは『そんな素材良く見つけられるなぁ』とアイヴィも感心していたのだが、あれもこれもと鞄へ放り込むフィルを見て、若干呆れ気味になっていた。


 森をつぶさに見るフィルの目が、真っ赤なキノコを捉え、キラリと輝く。


「おぉお! カエンヨリヤバイタケだ……袋よし! 防具よし! 手袋よし!」

「フィルメイル。貴女(あなた)何しに来たのよ……」

「危ないから下がってろよ。嬢ちゃん」


 浮かぶメフィストの忠告に従い、アイヴィはメフィストと共に後ろへ下がる。


 一方、完全防備のフィルメイルは、アイヴィの(つぶや)きを無視しながら慎重に慎重を重ね、赤いキノコに触れ。根元から手折(たお)った。

 それを専用の袋へと入れる動きは、純白純真たる幼子に触れるが(ごと)く柔らかで、()つ、生き馬の目を射抜く射手の如く精密であった。


「……ふぅー。回収完了。いやぁ折角森に来たんだから、薬の材料はゲットしとかないと。ねっ」

「手伝ってもらってるんだから、別にいいけどね」

「よいしょ……じゃあ、先へ行こう。レッツゴー」


 フィルは、キノコ対策の防具を外すと、森の奥へと勝手に歩き出した。

 慌てて追うアイヴィと、ふわりとフィルに寄り添うメフィスト。


「ちょっと、どっち行けば良いか――わかってそうよね。貴女なら」

「んー。まぁねぇ」


 ものの五分と歩かぬうちに、その言葉の正しさを証明する痕跡が見つかった。


 不自然に砕けた茂み、柔らかな土に残る真新しい四本指の足跡の数々、食い散らかされた牡鹿の死骸、そして残る緑色の血。

 痕跡からどちらへ向かったのか調べたアイヴィは、声を出さずにフィルへ手で合図を送る。


 音を立てぬよう慎重に歩を進めた二人は、視界の先に屯す緑の小鬼を発見した。

 その数、二十。

 気付かれぬよう木々で身を隠しながら、二人はゴブリンを覗き込む。


 群れるゴブリンの姿は、醜いものであった。


 縦に長い耳、前に突き出した長い鼻、ギョロリと突き出した目、それだけならばまだましであるが、ゴブリンは常に下卑(げひ)た笑みを顔に張り付けており、見るものに醜悪を煮詰めたような嫌悪感を与える。


 体長一メートルほどの細く小さな体は緑色の肌に包まれており、そこら辺の植物で適当に作ったであろう腰巻でしか肌を隠していない。

 骨ばった細い手には思い思いの武器を持っており、その多くがそこらの木で作った棍棒か、先のとがった槍めいた木の棒であった。


 人間の武器を持つゴブリンは、一匹だけ。

 木こりが捨ておいたであろう歯の欠けた斧を持つぐらいだ。


 ゴブリン達が剣や弓や槍、そしてレリックを身につけていない事に、二人は安堵(あんど)する。武器が人から奪われていない事実は、このゴブリン集団が村や商隊をまだ襲っていない事を示しており、被害が拡大していない事を示していた。


 敵の位置全てを把握したフィルが、ゴブリンを指差し『一緒に蹴散らす?』と無言でアイヴィへ問う。

 首を横に振り協力を拒否するアイヴィへ、フィルはニコリと笑い返し、親指を立て『頑張れ』の合図を送った。


 その合図に合わせ、アイヴィが身を隠す木から横へ飛び出す。同時に腰に携えた魔法の銃を左手で抜き、迫る危機に気付かぬゴブリンへ向けた。


 騒動の夜にアイヴィが持っていた魔法の銃スティンガーとは違い、質素な造りの銃から放たれたのは、薄白い細い棒状の物体であった。


 素直に真っ直ぐ飛ぶ魔法の力は、ゴブリンの側頭部に突き刺さり、一匹のゴブリンを死に至らしめる。

 (かん)(はつ)を入れず三つ四つと飛ぶ白は、状況を掴めていないゴブリン達の頭へ正確無比に突き刺さり、その数を減らしていく。


 その様子を観察していたフィルは、魔法の矢を飛ばすレリック――いや、魔法の(くい)を飛ばすレリックだなと理解した。そして、スティンガーに比べれば弱いレリックであると。


「フィルメイルは自衛だけしてて」

「りょーかーい。メフィちゃんお願いね」

「相棒に近づく奴は死ぬぜぇ」

 

 そう喋る間もアイヴィの左手一本の速射は続き、不意打ちの初撃で仕留めたものを含め計八つの死体を土に並べた。


 だが、知能の低いゴブリンと言えど、無抵抗なままではいない。

「ギィィィィィ」と深いな鳴き声を上げながら、残り十二のゴブリンが森に身を隠し始める。


 しかしアイヴィは動かず、こちらへ近づかんと身を(さら)したゴブリン達を素早く、そして冷静に(しょ)し続ける。


 あるゴブリンは(しわ)の寄る眉間を貫かれ、あるゴブリンは()せこけた胴をザクリザクリと撃ち抜かれ、あるゴブリンは喉元を(えぐ)られて……緑色の体液をまき散らしながら、次々とゴブリンが動かなくなった。


「おぉ、的確的確」

「まっ、ゴブリンぐらいにゃ当ててくんねぇとな」

「メフィスト、うるさい」


 残り五体となった所で、ゴブリン達が姿を見せなくなる。

 アイヴィは『射撃だけで事が済めば楽だったのに』と溜息を吐き、右腰の短刀を逆手で抜いた。


「姑息ね。時間稼ぎしても意味ないのに」

「いってらっしゃーい」


 跳ねる様に前へと駆け出したアイヴィは、最も接近していたゴブリンへ近づき――短刀が一閃走り、ゴブリンの首を飛ばした。


 仲間の死に感化されたのか、ただの生物としての本能か、三体のゴブリン達が隠れるのを止め、アイヴィへと一直線に飛びかかる。


 だが俊敏なアイヴィにとって、突撃するゴブリンの動きは鈍いものであった。


 一体は、近づくことすら出来ず胴に射撃を二発受け、前のめりに倒れた。

 一体は、振り上げた棍棒を振り下ろすよりも早く、短刀により腕を切断され、よろめきと共に蹴り飛ばされ、追撃の銃に胴を貫かれた。


 最も接近に成功した一体は、アイヴィの胴を突かんと尖った棒を前へ突き出し――アイヴィが、軽やかにゴブリンの右横を通り抜けた。


「ギギャァ」


 裂けた腹から緑色の血が噴き出し、森を汚す。

 聞き苦しい声に自然と振り返るアイヴィ。その左手に持つ魔法の銃の銃口がゴブリンの頭部へ向けられ、一射を(もっ)てその声を止めた。


「おっつかれさまぁ。アイヴィちゃん……んー、ナイス」


 気の抜けたフィルの声を聞き、アイヴィは残る最後の一体の末路を知った。

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