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第31話 教育者

 翌朝目を覚ますと部屋の中は暖かかった。天気はどうかと思い窓の外をみると、びっしりと結露した窓のむこうに星が輝いているのが見えた。女子大の講義で、大聖女様が天気の良い朝は冷え込むとお話されたのを思い出す。地面の熱が空の向こうへ出ていってしまうとのことだ。きっと外は寒いだろう。


 朝食は大きな食堂に案内された。普通なら午後の正餐か夕食でホストの領主一家とゲストの大聖女様や私たちが始めて食事をともにする。メイドの話では、大聖女様が朝食から皆でと強くご希望されたとのことだ。

「おはようございます、領主様、奥様」

 私の挨拶に、レオパルド様のご両親はにこやかに挨拶を返される。もちろんレオパルド様もだ。着席するとすぐ、大聖女様達も姿を現した。部屋の中が急に明るくなったような気がする。

「みなさん、おはようございます。お待たせしてしまったかしら」

 後ろにいるフローラ先生が渋い顔をしている。ヘレン先生とネリス先生が視線を泳がしているところを見ると、大聖女様の支度が遅くなったのはこのお二人のせいかもしれない。この人たちは一緒に入浴し、よくふざけているらしい。

 簡単に挨拶が交わされ全員が着席し、食事が運ばれ始めた。


 パン、肉・野菜・卵の焼き物が立て続けに出される。量は多い。日頃食べ慣れた女子大の寮の朝食と大差ない。ノルトラントの朝はしっかりと食べるのかと思ったが、思い出すと昨日の宿の朝食よりかなり多い。視線をあげるとレオパルド様のお皿はともかく、お母様のフェオドラ様やお姉様のブランカ様のお皿の量はかなり少ない。

「フェオドラ様、もしかして女子大関係者にはたくさんご用意いただいたのでしょうか」

と聞いてみると、

「ええ、ご満足いただけたでしょうか」

とのお返事。するとネリス先生が、

「はい、ありがとうございます」

と元気に言った。食卓の雰囲気がさらになごやかになった。


 朝食後、さっそく街に出る。雪に覆われた建物の屋根や道路が陽光を反射し、目に眩しい。最初は港、漁船の水揚げをみせてくれるとの話だ。領主館から漁港まではほどちかいとのことなので、徒歩で行く。大聖女様は護衛なしで移動できないから大行列になってしまう。私は大聖女様のすぐ横を歩かされ、大聖女様には領主のマンフレート様、私にはレオパルド様がエスコートとしてついてくれた。

「日が昇りましたので、漁船が次々と入港してくると思います」

 マンフレート様の説明に大聖女様は、

「太陽が昇って海風が吹き始めるということですか?」

と質問された。

「聖女様、よくご存知ですね。海は詳しいのですか」

「いえ、マンフレート様。陽光により地面が温められ、上昇気流が発生しますから。もしかして積雪がなければ海風はもっとつよいですか?」

「おっしゃるとおりです、聖女様。夏場のほうが昼間の海風は強いです」

「やっぱりそうなるのですね」

「もしかして聖女様は、陸風・海風が吹く理由をご存知なのですか?」

「ええ、基本的には水はお鍋の中であたためられたときお鍋の中でぐるぐるまわりますよね。あれと同じ現象です」

「そうなのですか」

「そうです、自然現象です。神の御業ではないのです」

 大聖女様はそう仰って、いたずらっぽく笑った。


「陸風が神の御業ではなく、自然現象であること、オクタヴィア姫殿下はご存知でしたか?」

 小声でレオパルド様が話しかけてきた。私は正直に答える。

「ええ、私は女子大で理学部におりますから存じております。でも、ノルトラントの王立女学校では低学年のうちに教えているそうですよ」

「そうなのですか? 私は中等教育学校は卒業したのですが、そんなことは教わりませんでした」

 聞くところによるとノルトラントでは、男子の中等教育学校と女子の女学校が同等の学校である。しかし大聖女様の影響で、女学校では中等教育学校よりも科学教育が格段に進んでいるそうだ。

「別ににね、中等教育学校が科学教育の導入に後ろ向きなわけじゃないんだよ。たださ、聖女様が思いついたことをすぐ女学校で実践しちゃうからさ、どうしても中等教育学校が遅れをとっちゃうんだよね」

 口をはさんできたのはフィリップ先生である。するとステファン殿下が応じた。

「フィリップ、その分中等教育学校は法律・歴史については優れているよ」

 すると大聖女様は、

「ステファン、だから女子大では法学部を設けているのよ」

と不満そうに仰った。ステファン殿下は、

「わかってるわかってるって。僕としては男子の高等教育に、どうやって科学教育を導入するか、それを考えているんだよ」

と答えた。大聖女様は、

「そうよね、男子にも理学部とか工学部は必要よね。陛下にも言うわ。ステファン、協力してね」

と仰った。


 もしかしたら大聖女様の本質は聖職者でも研究者でもなく、教育者なのかもしれない。私はそう思った。

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