第30話 レオパルド様のご家族
アルターハーフェンに到着した私たちは、すぐにレオパルド様により領主館内へと案内された。館内ではたくさんの人が跪いて待っていた。大聖女様は、
「お世話になります。みなさまどうかお楽に」
と言って一同を立ち上がらせた。そしてステファン殿下はにこやかに、
「レオパルド、オクタヴィア妃殿下にご家族を紹介してもらえないか」
と仰った。
「殿下、我が父にしてアルターハーフェン領主マンフレートを紹介いたします」
マンフレート様はグレーの豊かな髪に日焼けした肌、深く刻まれたしわ、そして立派なあごひげを生やした優しそうな方だった。背がお低く、私と目線の高さが変わらないのだが、かえって親しみを持てそうに感じる。
「お初にお目にかかります。マンフレートでございます」
「オクタヴィアです。お世話になります」
「マンフレートの妻、レオパルドの母、フェオドラでございます」
フェオドラ様はマンフレート様より背が高い。レオパルド様はお母様のおかげでお父様より背がお高いのだろう。
「お世話になります。お目にかかれて嬉しいです」
「こちらこそ光栄でございます」
そのあと、ご長男のシルヴェスター様、お姉様のブランカ様も紹介していただいた。ご次男のホルスト様は、海上でお仕事中とのことだ。
挨拶が終わったところで、ようやく私は館内に目をやることができた。
領主館内は白を基調とした壁面にタペストリーがかけられ、シャンデリアで明るかった。タペストリーは王宮にもあったが、そちらは森の中に昔の王様が描かれていた。つまり王家の歴史を語ったものである。眼の前のタペストリーは荒れた海に乗り出した船とそれに乗る男たちである。領主の先祖の物語だろう。ということはアルターハーフェン領主家はノルトラント王からこの地に送られた貴族でなく、もともとこの地に根付いた豪族の家系なのかと想像した。
「オクタヴィア妃殿下、我が祖先の物語、ご興味お有りですか」
レオパルド様の優しい声が聞こえた。
「ええ、ぜひお聞かせいただきたいです」
本心からそう言った。同時に王室の生まれでありながら、調べれば簡単にわかるであろうアルターハーフェン領主家の歴史を調べていなかった己の迂闊さを恥じた。いいわけもできずにいると、大聖女様が助けてくれた。
「レオパルド様、私が女子大でたくさん宿題を出しているのです。おそらく勉強して寝るだけの生活を妃殿下はなさっているのです。ごめんなさいね」
レオパルド様は、
「聖女様も妃殿下もお忙しいのに遠方までお越しいただき、申し訳ありません」
と言ってくれた。私としては、
「レオパルド様の故郷を、ぜひ一度お訪ねしたかったですから」
ということができた。
その夜は時間も遅かったので、夕食は各自が通された部屋で、ということになった。通された部屋で湯浴みして着替える。どんどん時間が過ぎていってしまい、頭がボーッとしてくる。すると部屋のドアがノックされた。
「はい」
返事すると、
「妃殿下、当館のメイドでございます。領主様とレオパルド様が、夕食をご一緒にと申しております」
と言われた。旅の疲れもあったので慎重に少しだけ考えて、
「はい、よろこんで伺います」
と返事した。やっぱりきちんとした対面は早いほうがいい。というよりもレオパルド様との時間をより多く持ちたい。
「あの、お名前は?」
「ゲルダでございます、妃殿下」
「そう、よろしくね、ゲルダ」
ゲルダの案内で廊下を歩く。調度品は多くはないが、品のよいものが置かれている。一つ一つ、時間をかけて眺めたいほど丁寧な彫刻が施されている。寒い土地では冬場家にこもる時間が長く、家具に凝る人が多いと聞いていた。
通されたのは小さな食堂だった。レオパルド様の後ろにはご両親・ご家族がにこやかに待っていらっしゃる。きちんとした歓迎の宴は明日にし、今夜のうちにご家族の様子を知ってもらおうということだろう。
「お、お招きいただきありがとうございます」
私は嬉しさ半分、緊張半分で噛んでしまった。いずれ家族になるかもしれない人々なのだ。
「妃殿下、こちらこそお訪ねいただき感謝しております」
「どうかお掛けになってください。お疲れでしょう」
ご両親はレオパルド様の隣の席に私を座らせた。
「お口に合うといいのですが」
最初に出されたのは貝の入ったクリームスープだった。さっそくいただくと柔らかな味の中にしっかりと海の香りがする。
「おいしいです。こちらではよく食べられるスープですか?」
「ええ、街の者もよく食べています」
レオパルド様が教えてくれた。貧しい民衆はこれだけで食事になっているかもしれないとも思う。明日時間があれば、街の様子も見てみたいと思い、それを口にする。
「レオパルド、ご案内してさしあげなさい」
「はい、父上」
「お気遣い、ありがとうございます」
その晩の食事は豪華ではなかったが、ご家族の様子が伺えおいしかった。明日はレオパルド様とアルターハーフェンの街を見る。楽しみでなかなか眠れなかった。




