第24話 夜会後の会談
「なんか私の噂ですか?」
夜会の会場で私はレオパルド様と会話していたとき、大聖女様から声をかけられた。ちょうど先の戦争の処理において、大聖女様がヴァルトラントに課せられる賠償金を抑えたことを話題にしていた。
「大聖女様、賠償金についてヴァルトラントが受けた御恩について説明しておりました」
「ああそのことですか。そもそもヴァルトラントが賭けに出たのは食糧問題で行き詰まっていたからでしょう。無理な額を要求しても、ヴァルトラントの民衆の負担が増えるだけですから」
するとレオパルド様が発言した。
「聖女様、失礼ながら聞き及ぶところによりますと、その賠償額では我が国が負った戦費は補い切れないそうですが」
「それはわかっております。ですが私には、飢えるヴァルトラントの民からさらに賠償金を搾り取る気にはどうしてもなれないのです。それよりも少しでも早くヴァルトラントの民が潤い、ノルトラントと友好的な関係を深め、結局両国が得をするようになればと……」
「なるほど、単純な損得計算ではないと……」
「ええ、とにかくヴァルトラントに崩壊してもらうわけにはいきませんから」
私としては感謝してただただ頭を下げることしかできない。すると大聖女様からお言葉があった。
「オクタヴィア殿下」
「はい」
「なかなか思うようにはいかないけれど、あなたの努力、かならず報われ、ヴァルトラントに平和が訪れますから」
「ありがとうございます。大聖女様が毎日そのようにお祈りされていること、存じております」
「オクタヴィア殿下」
「はい」
「私は職務柄お祈りはしております。ですがお祈りでは両国に和平は訪れません」
「え、そ、それは」
「神様に祈るだけでは、私達の希望に応えてはいただけません」
「はい」
「祈ることよりも行動すること、これが大事です」
「はい、行動ですね」
「そうです。どちらかと言えばお祈りはどうでもいいのです」
大聖女様はニヤッとしながらそう言って、去っていかれた。
私もテオパルド様もしばらく言葉を失っていた。一国の宗教界の頂点に君臨する方が、こともなげに「お祈りはどうでもいい」と断言されたのだ。希望の実現には神に祈るよりも、自身の行動が大事だと。
「私、聖女様のお言葉、お考え、始めて直接伺いました」
「はい」
「祈ることよりも行動すること、それが結局祈りにつながるのだということですね」
「そう、私も思います」
「殿下、あなたは幸運な方ですね」
「はい」
「あ、いえ、その幸運は殿下が自ら手に入れられたのですね」
「いえ、そんな」
「いえいえ、殿下、王族でありながらかつての敵国に留学生としていらっしゃる、これは勇気がなければできないことです」
「私はなすべきことをなしているだけです」
「それが難しいのではないでしょうか」
「そうかも知れません」
「私にそのお手伝い、できないものでしょうか」
「え、あ、はい」
「ぜひ殿下、お声がけください」
「はい、お願い致します」
テオパルド様との会話は、残念ながらここで時間切れとなった。夜会がお開きとなったのである。別れ際、テオパルド様は仰った。
「私はまた、故郷へ戻らねばなりません。お手紙、差し上げてもよろしいでしょうか。宛先は女子大の寮ですか」
「ええ、お待ちしております」
夜会のあと、私はミハエル殿下、ヴェローニカ妃殿下と面会した。我が国もそうだが、王宮内にはこうした面会に適した小部屋がいくつも用意されている。華美な装飾こそ無いが、現国王陛下、第一王子殿下、第二王子殿下がそれぞれのお妃をお連れで一枚の絵に入り微笑んでいらっしゃる。
「殿下、妃殿下、お時間をいただき、ありがとうございます」
「母はオクタヴィア殿下、あなたこそ勉学に忙しいのでしょう。聖女様にしごかれているのではないですか」
「しごかれているだなんて、お答えは控えさせていただきます。それよりも、素敵な絵ですね」
それにはミハエル殿下がお答えになった。
「お恥ずかしいことですが、以前我が王室内には確執がありましてね、ステファンや聖女様には無駄な負担をかけてしまいました。私としては二度とそのようなことの無いよう、この絵を提案したのですよ」
「なるほど、ノルトラント王室は今や、一枚岩なわけですね」
「そうなのです、ですからステファンは差し上げるわけにはいきませんよ」
ミハエル殿下はいきなり本題に切り込んでいらした。




