第21話 夜会と勉強
お料理研究会は毎回大盛況であり、大聖女様もほぼ毎回出席されたので見た目上は成功していた。しかし導入を目指したノルトラントの料理、正確にはヘレン先生の料理は大聖女様もできるようになってしまっていた。レシピの価値が減る訳では無いが、もとはと言えば大聖女様をヴァルトラントにお迎えするために始めた研究会である。もう趣旨がブレブレになってしまった。
雪の中大学から寮へ帰ると、今夜の当直騎士のハンナさんが待っていた。
「オクタヴィア殿下、お手紙が2通届いております」
「ありがとうございます」
手紙の一通は父上からだった。家族の近況はごく簡単に皆元気だとだけあり、本題は私の配偶者探しだった。マクシミリアン大使に頼んであるから、大使の指定する夜会にはすべて出席せよとあった。
もう一通はマクシミリアン大使からで、3日後にある王宮での夜会への出席要請だった。父上は私へ手紙を寄越すより前に大使に私が出席すべき夜会を選ぶように頼んでいたことがわかる。ため息が出た。
私は同郷のシルヴィー嬢の部屋を訪ねた。大使は友人を何人か連れてくるようにも伝えてきていたのだ。
「はい、どうぞ」
ノックするとシルヴィー嬢は幸い在室だった。
「どうされましたか、殿下」
「ええ、明々後日、王宮で夜会に出なければいけなくなりまして、ご一緒に行っていただければと思いまして」
「はい、わかりました。私だけでよろしいのですか」
「できれば他の方にもご一緒していただきたいのですが」
「では皆さんを呼んできますね」
「お勉強中ではなかったのですか?」
「殿下、このお話、勉強どころではないですよ。ちょっと待っていてください」
シルヴィー嬢は笑顔を見せて自室を出ていった。
しばらくしたら、シルヴィー嬢がもどってきた。
「殿下、ご足労ですがここは狭いです。談話室ではどうですか?」
「そうですね、参りましょう」
女子大の寮には何箇所か談話室が設けられている。大騒ぎさえしなければ基本的に自由に使え、友人とお茶を飲みながらの会話に使われていることが多い。時々深夜に資料をひろげて必死に宿題をこなしている学生の姿も見る。私の私室の近くの談話室へ赴くと、マルティナ嬢、シュテフィ嬢、カレン嬢、グリセルダ嬢が私を待っていた。つまりヴァルトラントからの留学生が勢揃いしていた。寮の建物の角にある談話室は大きめの窓が設けてあるが、冬のノルトラントは日没が早い。夕食までかなりの時間があるにもかかわらずま窓の外は真っ暗だった。もうカーテンをひいたほうがいいだろう。
「夜会にご出席なのですね、殿下」
「ええ、グリセルダ嬢、大使は何人か私と一緒に出席してほしいと伝えてきたのですが、どなたかご一緒いたしませんか」
するとグリセルダ嬢は少し声を落として、
「実は私、実家からは良い方がノルトラントにいらしたらお付き合いせよと言われているんです。今までそれどころではありませんでしたから、実家からは手紙が来るたびに文句を言われているんです」
「ではあなたはご出席ですね」
「はい、勉強は前倒しでやらなければいけませんが、父からの命令ですから」
「そうですね、私も今気が付きました。明後日の分のお勉強は明日のうちにやってしまわないといけませんね」
明日だけですむわけもなく、今夜から勉強量を増やさねばならないことに気づき、ちょっとゾッとした。皆私と同じ考えに至ったらしく、先程までの明るい顔をしている者はいなくなった。
みんなでどよんとしていると、
「オクタヴィア姫殿下、どうしました。他のみなさんも若いのにどうしたのじゃ?」
と声をかけられた。ネリス先生だった。ネリス先生の見た目も実年齢も私達も少し若いのに、先程の発言に違和感がない。思わず笑ってしまう。
「殿下、私を見て笑うのはなんか失礼ですな」
「すみません、先生のお声で少し元気が出てきました」
「なにかありましたか」
「実は私達、明後日王宮の夜会に出席させていただくことになりまして……」
「なんじゃそんなことですか、マナーならヘレン、おしゃれならフローラに相談すればすべて解決ですな、ワシはなんの役にも立ちませんが、ハッハッハ!」
「先生、そういうことではないのです。夜会に出るということはその晩勉強できません、これから勉強を始めなければいけないと、ちょっとうんざりしていたところです」
「ワハハ、お気持ちはわかります。お気持ちは」
するとネリス先輩と一緒にいたレイコ先生が言ってくれた。
「先輩、そんなこと言っちゃいけないですよ。なんでしたら私、今からお手伝いいたしましょうか?」
私が返事するより前に、マルティナとシュテフィが喜んだ。
「え、ありがとうございます! 算術の宿題が難しくて」
確か二人は神学部、算術の担当は大聖女様だった気がする。
「ではお勉強なさる方は、道具をこちらにお持ちになってください」
私達は自室に勉強道具をとりにもどり、レイコ先生やネリス先生のもとで勉強をした。かなり遅くまでお二人はつきあってくれた。




