第20話 プリンと不安
プリン作りの前の日、私は夕方の聖騎士団の儀式にも出席させていただいた。正確には、ステファン殿下から急遽出席の要請があったのである。シルヴィー嬢をはじめとしたヴァルトラントからの留学組も招かれた。
「戦争は終わったのです。敵も味方もありません」
とステファン殿下はおっしゃった。儀式のあと、私はスピーチを求められた。
「ご出席のみなさま、かつての敵である私をもお招きいただきありがとうございます。はじめ私は出席はご遠慮させていただこうと思っておりました。しかしながら、ステファン殿下は本日の儀式はノルトラントの戦死された方たちのためだけでなく、ヴァルトラントともに未来の平和と繁栄を命を捧げた方たちに誓う儀式であると仰りました。大聖女様も、ヴァルトラントの死者をも悼む式でもあるとも仰りました。皆様のご戦友が亡くなられた恨みはどうか私にお向けください。その代わりと言ってはなんなんですが、ヴァルトラントの戦死者の魂をお許しください」
「それはともかく、先の戦いで亡くなられた方々の霊は、まちがいなくノルトラントを見守っていらっしゃると実感しております。ノルトラントの騎士団員、女子大の職員、学生といった方々は元気いっぱい活動されています。この方々の強いお気持ちに戦死された方々の思いが加わり、ノルトラントの未来が明るいものとなることを私は確信しております」
あまりいいスピーチができたとは思わないが、あの世の方々に元気なノルトラントの人々の様子が伝わって欲しいと思っていた。
儀式にはヴェローニカ妃殿下がいらしていた。戦争当時の第三騎士団団長でもあり、ノルトラント国王の名代としてご出席された。儀式の間、ヴェローニカ妃殿下はやさしい目で大聖女様たちを見ていらした。
儀式があったので、今日の夕食は遅い時間になった。
「ああ腹が減った」
と仰ったのはヴェローニカ妃殿下であった。その口調に目を剥いていると、
「オクタヴィア姫殿下、びっくりしないでください。私は騎士団生活が長いので、本当はこんな口調なのですよ」
と仰せになった。
「はあ」
と返すと、
「私はもともとがガサツなので、王宮での生活は窮屈でしかたがない。姫殿下はお生まれになられたときからずっと王宮での生活でしょうから慣れていらっしゃるでしょうけれど」
と説明された。さらに言葉を続けられた。
「おい、ソニア!」
「はい、妃殿下」
「私は今夜、こっちに泊まるぞ。たまには羽を伸ばさせてくれ」
「はいはい、わかりました妃殿下」
「うむ、ソニアのそういう反応は相変わらずだな。さては聖女様も所詮は騎士団長、私と同じように振る舞っているのだな」
「まあそうですね」
「ソニア! 私そんな事無いわよ!」
横から大聖女様が割り込まれた。
「あのさ、命令とかは結局ヴェローニカ様とかわらないかもしれないけれど、少なくとも口調は淑女にふさわしいものだからね!」
「中身が変わらなければ結局、同じことなんじゃないですか」
「ヴェローニカ様、ひどいです」
「ハハハハハ、イテッ!」
大笑いした人の一人フィリップさんがヘレン先生につねられていた。
「マルス、どうよ、私は淑女らしいよね」
大聖女様は急にマルス先生に話を振った。
「え、あ、ま、少なくともネリス先輩よりはマシです」
「ナヌ! お主、そんなふうにワシのことを思っておったのか!」
マルス先生はダッシュで逃げた。ステファン殿下やケネス先生は笑っていた。
翌日のプリン作りは大盛況だった。女子大の食堂いっぱいに人が入った。女子大の学生の全員だけでなく、聖女庁の職員、騎士団の手空きの方もたくさんいらした。おそらく大聖女様がプリンの美味しさを行く先々でお伝えになったのだろう。ヴェローニカ妃殿下もご出席だ。
「ステラに食べさせてやるのだ」
と仰り、フローラ先生が質問した。
「ミハエル殿下にではないのですか?」
「ああ、殿下にはついでだな」
なんか聞いてはいけないことを聞いてしまった。
夜私は、前夜に続き礼拝堂を訪れた。昼間つくったプリンはとても美味しく、想像していたよりも美味しく、戦争の犠牲者の方々にお供えしたくなったのだ。祈りを捧げて礼拝堂を出ようとしたところで、ネリス先生、マルス先生と出会った。
「こんばんは、礼拝堂をお借りしておりました」
と挨拶するとネリス先生は、
「お借りするだなんて、とんでもない。殿下もマルスと同じお気持ちなのでしょう」
と言う。
「マルスはですね、一兵士として前線で戦っていたんですよ。さっきプリンを戦友にお供えしたいと言い出しまして」
「なるほど、私もお供えしておりました」
安全な王宮で暮らしていた私には理解できないものがあるのだろう。私にはそれ以上言えなかった。去ろうとした私にマルス先生は言った。
「オクタヴィア姫殿下、僕はうれしいです。かつての敵国の王女殿下が、下っ端として戦っていた僕と同じお気持ちでいらっしゃる。殿下のおかげでお国と我が国はきっと、永く平和であり続けると思います」
「ありがとうございます」
ネリス先生はマルス先生の肩を抱いていた。大聖女様が日頃ステファン王子殿下にイチャイチャしているのを見てもあまり羨ましく思えなかった。でも今私は、このように寄り添えるパートナーと将来巡り会えるのか、不安でならなかった。




