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第17話 食堂にて

 日に日に昼間が短くなってきた。気温はぐっと低くなり、秋が深まると同時に冬が近づいてくるのがわかる。日々の学習に追われ、父に託された任務はなかなか進んでいなかった。それを思うとつい、ため息が出てしまう。

「殿下、だめですよ、そんなふうにため息をついちゃ」

 そう声をかけてきたのは、私と同郷かつ同じ理学部所属のシルヴィー嬢である。

「そうですね、と言いたいところですが、例の件がまったく進んでいませんから」

 私は女子大の校舎の外に設置されたベンチに腰掛け、かなり西に傾いた太陽を見上げながら返事した。足元を落ち葉が通り過ぎていく。

「なにかいい手はないものですかね……」

 シルヴィー嬢にしても妙案は無いらしい。


 しばらくシルヴィー嬢も無言でいたが、私に質問してきた。

「殿下、大変失礼なこととは存じますが、王室でのお食事、充実されていましたか?」

「子どものころは豪華な食事でしたが、不作が続くようになってからは質素になっていましたね。幸い発育に充分なだけの質と量は確保していただいておりましたが、味に関してはおそらく市井のかたがたとあまり変わらなかったかと思いますよ」

「やはりそうでしたか。大聖女様をお迎えするには不十分ですわね」

「おそらく大聖女様ですから、ご不満は一切口にされないでしょう。ですが我が国としては心苦しいところですね」

「ええ、では殿下、せめて料理の技術だけでもノルトラントから導入できないでしょうか」

「それはいいですが、料理人を修行のためにノルトラントに行かせないといけませんね」

「予算はつきそうですか?」

「正直言って、難しいでしょう。こちらの料理人にヴァルトラントに行ってもらう手もありますが、充分な報酬を払えるかどうか」

「そうですか、では殿下、私達自身で学ぶしかないのではないでしょうか」

「う~ん、そうですね……」

「そもそも日頃の勉強に追われているのに、大変だとは思いますけれど……」

 少なくともシルヴィー嬢は前向きに考えてくれている。ただその口調は、時間の確保を案じていた。


 カラカラと音を立てて落ち葉が足元を転がっていく。だんだんと体が冷えてきてしまった。


「殿下、食堂へ参りましょう。冷えてきましたから」

「ええ、そうですね」


 食堂に入ると夕食の支度が始まっているらしく、いい匂いがたちこめていた。私のお腹が音を立てた。私はどういうふうに料理がつくられているか見てみたくて、席につかずに料理の出されるカウンターの方に歩いていった。厨房内では料理人たちが忙しそうに働いている。包丁が野菜を刻むトントンと言う音が心地よい。

「あらオクタヴィア殿下、なにか?」

 料理をしていたヘルガさんが声をかけてきた。恰幅の良い中年の女性で、私達学生たちに気軽に話しかけてくる。

「ええ、私もみなさんのように美味しい料理が作れないかと思いまして」

「あら、殿下はご実家ではおいしいものを食べてらっしゃるのではないの?」

 これは普通の反応である。ふつうのノルトラントの人たちは、ヴァルトラントが食料にくるしんできたことを知らないし、王宮も極力質素な食事をとってきたことなど知るはずもない。

「王宮と言えども、お客様をお招きしたとき以外は普通の方たちと変わりませんよ」

とだけ答えておく。

「そんなもんですかね」

 ヘルガさんはあまり納得していないようだ。

「まあ、私達の料理も結局、ヘレンさんが教えてくれたものばかりだよ。教わるならヘレンさんに直接教わったほうがいいんじゃないのかね」

「やっぱりそうなりますよね、ですがヘレン先生はお忙しそうで」

「それはそうだね、ま、私達の仕事を見てくれている分には問題ないよ」

「ありがとうございます」


 しばらく見学していると、後ろから声をかけられた。

「なんじゃ、オクタヴィア姫殿下ではないですか。どうされましたか」

 振り返るとネリス先生だった。

「ええ、料理を覚えたくて」

「ほう、それはよい心がけですな、ワシはてっきり、聖女様のようにお腹がすきすぎて厨房に圧力をかけていたのかと思いましたぞ」

「ネリス! 私そんなことしない!」

 大聖女様もやってきていた。ヘレン先生、フローラ先生も来ていた。ふたりとも笑っている。

「聖女様さ、ネリスは嘘言ってないよ。空腹を我慢してるつもりでも、目がやばくなってるの、自分で気づいてないでしょ」

 ヘレン先輩がひどいことを言う。

「そんな事無いもん、私ステファンにそんなこと言われたこと無い!」

「殿下はそんな事言うわけ無いじゃん」

「うるさい!」

 私は割り込むことにした。

「大聖女様、夕食まではまだお時間があるようですが……」

「あ、いやね、お腹すいたから、もしかしたら早くできてないかと思ってね」

 フローラ先生が笑い出した。そしてヘルガさんは、

「がんばって作りますが、あまり急ぐと味がおちますから、ゆっくり待っていてください」

「は~い」

 気の抜けた返事をしたのは大聖女様だった。

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