気づいてしまった、本当の戦犯
妻と娘が美香さんと雄一君に罵詈雑言を浴びせているようだが、私は思考がまとまらず、それが耳に入らない。
師走だというのに、汗が頬を伝い、顎先から落ちてはテーブルの上に小さな溜まりを作る。
「雄一君は・・・自殺を図った、んだね?」
やっとの思いで絞り出した声に、美香さんではなく、千恵子さん―――雄一君のお母さまが「そうですよ」と、静かで、怒りを含んだ声で答えた。
「はっ、そのまま死んでいれば良かったのにね!」
「そうよ、助けるなんて余計な事をしなければ浮気することも・・・」
「黙れ!!」
夫人の答えに反応する妻と娘に静止の恫喝をあげた。
此度の件は、雄一君の浮気による、慰謝料の受け渡し、それで間違っていないはず。だが・・・
「美香さん・・・先ほど、雄一君の自殺の原因は・・・献血だと・・・」
「そうです」
「雄一君・・・君の・・・血液型は・・・」
B型またはAB型だと、そう答えてくれると私は愚かにもまだ期待していた。
産まれて間もない頃に行った検査では、正確な結果が出にくいと聞いたことがある。
が、春菜は数年前に献血をしており、花蓮は小学生の頃に大怪我を負い、輸血を受けている。
二人の型が誤っていることはまずありえない・・・。
頼む・・・BかABであってくれ!
しかし、その願いもむなしく・・・。
「先に言っておきますが」
私の問いに答えたのは美香さんだった。
「雄一さんは、私と出会う前に、病院で血液型検査を受けています。
そして、出会った後にセカンドオピニオンを受けています。
ですので、検査ミスはまずありえません」
美香さんは、私がアレに気づいた事に気づいたようだ。
彼女は私たちを追い詰めるように話を続けていく。
「花蓮ちゃんは、AB型。
Aの抗体とBの抗体を持っています。
母親の春菜さんはA型でしたね?となれば、父親の雄一さんが、Bの抗体を持っていなければ、花蓮ちゃんの血液型はあり得ないんです」
ここに来て、妻は問題に気づいたようで、顔色を変えた。
娘はまだ気づかない。
「雄一さんは・・・」
次の一言で、私と妻は、娘への信頼が地に落ちた。
「A型です。」