二人の出会い
半年ほど前、今年の夏の最後の台風が過ぎ去り、久しぶりの晴天で私はジョギングしていた。
いつものルートで橋の下をくぐろうとすると、男の人が首をくくろうとしていた。
その人が頭部を輪っかに通す前だったので、体当たりで止めることができたが、彼は倒れた時に頭を打ったせいで混乱しているのか、私を襲い掛かってきた。
私は親が見放すくらいに性に自由奔放だった。大学に入ってからは、何人ものオトモダチと関係した。さすがに相手のいる人にはご遠慮いただいたが。
あ、一度だけ妻帯者とヤったことがあったな・・・。そいつは独身だと嘯いていたから奥さんとタッグ組んで、社会的にボコボコにしてやったけど・・・。
なので、彼に襲われても特に嫌悪感はなかった。「ちょっと老けてるけど許容範囲かな?」「汗臭いけど気にならないかな?」「アフターピルって効果あるのかな?」くらいにしか思わなかった。
「あ・・・ぼ、僕は・・・なんて事を・・・」
彼が正気に戻った様なので、とりあえず「私の誘いに乗ってくれてありがとう」と言って、にっこり微笑んでおいた。
白いモノを川の水で流しながら事情を聴いてみた。
私の方の処置が済む頃にやっと彼は口を開いた。
彼曰く・・・
2か月前に銀婚式を迎えたばかりだという。
当初、子供がなかなか授からず、義両親からも子供はまだかとせっつかれていた。
錫婚式を迎える少し前に娘の花蓮を授かった。目に入れても痛くない・・・というか、実際に入れようとして親戚勢を呆れさせたことがある。娘からも2~3週間避けられて、枕が涙でびしょ濡れになった。
1週間前に献血に行った。それまで自分の血液型を知らなかったので、調べてもらった。
その結果に僕は絶望した。
それをきっかけに調べてみると、自分は花蓮の父でないことが判明した。
気がつくとここに来ており、ちょうど縄が棄てられていたので、自殺を試みた。
「それで正気に戻ると、私の誘いで私とヤったわけね」
「え・・・いや・・・それは・・・」
「そうよね。そうだよね。そうですよね」
「・・・はい、そうです・・・」
そういうことだと強引に推し進めた。
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「・・・以上が私たちの出会いです」
「あぁ、そうですか、そうですか。それは、それは。素敵な出会いでしたのねぇ・・・」
席に戻った美香さんの語りに、妻はこめかみに青筋を立てながら、そう返した。
娘も怒りに手を震わせていたが、私は彼女の話途中から、ある2点が気になり、冷や汗が止まらなかった。
雄一君が自殺を図った点と・・・。
妻と娘はまだ気づかない。